※本稿は、山口慎太郎『「早生まれ」は損なのか』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
■テストの点数だけでなく進路にも影響
生まれ月によって小中学校のテストの点数に差があることはデータによってわかっています。では、その違いは子どもたちの進学先にまで影響するのでしょうか。埼玉県内のある自治体から、2017年に中学を卒業したおよそ1000人分の高校進学先データを得ることができました。
進学先の高校については、進学情報サイト「みんなの高校情報」に掲載されている偏差値を用いて分析しています。このサイトは多くの受験生や保護者の方々に利用されており、他のサイトの情報とも大きな違いはないことがわかっています。
もちろん高校の良し悪しは学力偏差値だけで測られるわけではありません。しかし、実際には学校選びで広く参照される指標であり、進学後の学習環境やその後の進路にも影響するため、多くの生徒や保護者が関心を持つところでしょう。
■偏差値に「5ポイント」もの差が出る
図表1は、その結果を示したものです。縦軸は進学先高校の「偏差値」を表しています。偏差値50がおおよそ平均的な高校水準で、数字が大きいほどより学力水準の高い高校に進学していることを意味します。
グラフには12個の点があり、それぞれが各月に生まれた子どもたちの平均的な進学先の偏差値を表しています。人数は約1000人と限られているため、点ごとにばらつきが大きいですが、理解を助けるために近似曲線を引いて傾向を示しました。
図1の滑らかな曲線を見ると、全体として右に行くほど(=学年で年上になるほど)、進学先高校の偏差値が高くなっていることがはっきりわかります。具体的な数字で言うと、同じ学年でも4月生まれの子どもと3月生まれの子どもでは、進学先高校の偏差値におよそ5ポイントの差がありました。
これは30人クラスに換算すれば、順位が5~6人分も違うことになります。高校進学という将来に直結する局面で、ここまでの差が出るのは決して小さなことではありません。
もちろん、これは埼玉県内の一つの自治体で得られた結果であり、全国どこでも必ず同じ差が出るとまでは言えません。しかし、生まれ月が子どもの進路に影響しうることを示す鮮明な例であることは間違いないでしょう。
■親の努力で「格差」は消せるのか
「生まれ月による成長の違いは、家庭でしっかりとサポートすれば目立たなくなるのではないか」「裕福な家庭なら、塾に通わせたり習い事をさせたりして、生まれ月の影響を小さくできるのではないか」。こんな声を耳にすることは少なくありません。
確かに、子どもの学力の発達には家庭環境が大きな影響を与えることが知られています。
この疑問に答えるため、私たちは家庭にある本の数を手がかりに分析を行いました。本の数は、家庭が教育にどれだけ関心を持ち、学習を支える環境が整っているかを推し量る代表的な指標です。調査票には「家には、自分や家の人が読む本がどれくらいありますか」という質問が含まれていました。
年収や親の学歴といった質問は答えにくかったり回答率が低くなったりしがちですが、本の数であれば比較的答えやすく、しかも教育環境を反映していると考えられるのです。PISAやTIMSSといった国際的な学力調査でも、この質問が広く用いられています。
■本が多いか少ないか、男か女かは関係ない
2016年以降のデータでは「家庭に本が10冊以下」と答えた家庭が全体の約11%を占めていました。そこで本の数が10冊以下の家庭と11冊以上の家庭に分けて、生まれ月による学力差がどう現れるかを調べました。その結果は意外なものでした。家庭に本が多いか少ないかにかかわらず、生まれ月による学力差はほとんど変わらなかったのです。
つまり、家庭環境が豊かであっても、学年内で年下にあたる子どもたちは同じように不利を抱えていることがわかりました。では、性別による違いはどうでしょうか。
そのため、同じ学年の中で年下にあたる男の子のほうが、生まれ月の影響を強く受けやすいのではないかと予想することもできます。ところがデータを確認したところ、男女で生まれ月の影響に大きな違いは見られませんでした。男の子も女の子も、同じように学年内での年齢差の影響を受けていたのです。
そして、成績によって生まれ月の影響に違いはあるのでしょうか。私たちは、成績の全体像を平均だけでなく層ごとに分けて見る方法を用いました。これが「分位点回帰」と呼ばれる分析です。子どもたちをテストの点数順に並べて、下のほう、真ん中あたり、そして上位のほうをそれぞれ取り出して比べます。
■成績が優秀な子ほど、早生まれに泣く
具体的には、下位10%付近、まんなか(50%付近)、上位10%付近という3つの層で、4月生まれと3月生まれにどのくらい差があるのかを調べました。平均では見落とされがちな違いを拾えるのが、この方法の強みです。
小学生の算数では、下位10%付近での差が偏差値にしておよそ2.7ポイント、まんなかで2.6ポイント、上位10%付近で3.5ポイントでした。つまり、下位でもまんなかでも差ははっきりありますが、むしろ上位の子どもたちのほうでやや大きめに出ている、という結果でした。
中学生になると全体に差は小さくなりますが、やはり層ごとの差は残ります。下位%付近で約1.5ポイント、まんなかで1.6ポイント、上位10%付近で2.0ポイントでした。ここでもわずかに上位で大きめという傾向が見られますが、その違いは極端に大きいわけではありません。
この分析からわかるのは、生まれ月の影響が特定の条件のもとでだけ現れるわけではないということです。家庭環境が豊かかどうかにかかわらず、また男女の違いによらず、そして成績の上位層でも下位層でも、同じように生まれ月の影響は見られました。
成績が良い子どもでも、もし早生まれであれば、本来はもっと高い力を発揮できていた可能性がありますし、勉強が苦手な子どもにとっては、その難しさに生まれ月の不利が重なっていることがあります。つまり、この影響は子どもたちの一部に限られるのではなく、学年全体に広く及んでいるのです。
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山口 慎太郎(やまぐち・しんたろう)
東京大学経済学部教授
東京大学大学院経済学研究科教授。専門は労働経済学。子どもの発達や教育、家族と働き方に関する問題を、データを用いて実証的に研究し、その成果を社会への発信や政策提言にいかしている。著書に『「家族の幸せ」の経済学』(サントリー学芸賞受賞)、『子育て支援の経済学』(日経・経済図書文化賞受賞)など。
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(東京大学経済学部教授 山口 慎太郎)

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