物価上昇が続く中、スーパーの市場環境は厳しくなっている。流通アナリストの中井彰人さんは「そのなかで、増収増益かつ営業利益率改善を達成したのが、バローホールディングス、ライフコーポレーション、アークスだ。
バローはドラッグストアなどの複数業態を運営しているため、スーパーの規模で言うと、最大かつ業績好調なスーパーの筆頭はライフということになる」という――。
■スーパーの市場環境は厳しい
毎年2月、3月に大半の上場スーパーの決算発表があり、この時期には主要企業の業績が概ね出そろう。2025年度の各社の業績を並べてみると、イオンを始めとする23社のうち、14社が増収増益だった。と聞くと、市場環境はそこそこよかったように見えると思うのだが、少し細かく見ていくと、どうもそうでもなさそうだ。
前期との比較を一覧にしたのが図表1である。営業総利益率(≒粗利率)が改善したのは12社/23社、販管費率が高くなってしまったのは12社/23社、営業利益率で改善となったのは7社/23社しかなかった(=16社悪化した)と言えば、実は厳しかったことがご理解いただけるだろう。
スーパーは物価の上昇が続く中、なかなか価格転嫁するという訳にもいかず、利幅が薄くなりがちである。それにもかかわらず、人件費上昇、電気代の高騰によって販管費率が上昇に向かっており、営業利益率は悪化する、というのが大きな流れなのである。
■「総合スーパー」の道を選ばなかった
そんな環境下、増収増益かつ営業利益率改善を達成したのが、上位ではバローHD(以下、バロー)、ライフコーポレーション(以下、ライフ)、アークスであった。バローはドラッグストア、ホームセンターなど複数業態を運営しているので、スーパーの規模で言うと最大かつ業績好調なスーパーの筆頭は、ライフということになる。
ライフと言えば、ダイエー中内氏、イトーヨーカ堂伊藤家、イオン岡田家などと並び、業界第一世代の経営者として名高い故清水信次氏が育てたスーパーであったが、清水氏の意向によって現在の筆頭株主は、大手商社三菱商事で、いわゆる商社系のスーパーに位置付けられる。
第一世代のスーパーは総合スーパーがほとんどで、全盛期には、ダイエー、イトーヨーカ堂、西友、ジャスコ(現イオン)、ニチイ(⇒マイカル)、ユニーなどが小売業上位を独占していたような存在だったが、イトーヨーカ堂さえもファンドの傘下となった今、独立経営の大手はイオンくらいしかなくなった。

ライフは古くからこうした総合スーパー各社とは異なる道を選び、大阪そして後には東京と合わせた大都市における食品スーパーとして展開して地道に成長を続け、現時点ではイオングループ、ヨーカ堂が属するヨークHDに次ぐ業界屈指のスーパーとして生き残った。
■大阪・東京の「二刀流」
京阪神、首都圏の住人の方々であればよくご存じの通り、ライフは大都市部の食品スーパーとしてはかなり売場が広い。平均2200m2ほどの売場があり、豊富な品揃えと高い鮮度、品質が、大都市生活者の支持を得て大きく成長した。今でこそ、大都市でも大型のスーパーは増えてきたが、少し前までは、古くから都市化していた大阪や東京には大きめのよろず屋くらいのスーパーが多く、ライフの豊富な品揃えは画期的であった。
このギャップをウリにしていたライフは、空き地がたくさんあり大きな店同士が競争する地方や郊外ロードサイドに店舗網を拡大しなかった。そのため、一極でエリア集中展開(ドミナント展開)するのが一般的な同業他社とは異なり、古くから大阪、東京の2大都市圏中心部で二極集中展開する珍しい存在であった。
最近では首都圏店舗網を軸に、関西にも店舗網を構築しようとするロピアやオーケーといった企業も現れているが、それまでは大阪・東京の「二刀流」は、ライフの特徴だったのである。
■「総合スーパー」の道を歩まなかった
大阪出身のライフは京阪神、首都圏の人口密集地にバランスよく店舗網を育て、その潤沢なマーケットから出なかったことが奏功して、第一世代ライバルたちの興亡を横目に、着実な事業基盤を築くことができた(図表2)。
総合スーパーは食品の安売りで集客し、利幅の取れる非食品(衣料品、家庭用品など)で儲ける、というモデルだったため、コスパの高い専門店チェーンの成長に非食品売上を奪われると、収益源を失い衰退した、と言われている。
そんなライバルを横目に、ライフは、非食品は生活必需品に留め、あくまでも食品中心で稼げる経営を堅持したため、こうした時代の変化の影響を受けなかった。大都市人口密集地で安定的に食品需要を押さえていくという堅実派のライフが勝者として残ったのである。
■スーパー業界を襲う「インフレ」
こうして食品スーパーの実質的な王者となったライフではあるが、これから現在のポジションを守っていくことは簡単ではなさそうだ。
長く続いたデフレ時代が終わり、インフレへと事業環境が転換したことで、スーパー業界の基本構造は劇的に変わろうとしているからだ。
日本のスーパーの生鮮品や惣菜は、これまで鮮度を重視する消費者への対応から、店内バックヤードで小分け、パック詰め、惣菜製造などを行ってきた。それは集中作業を分散する非効率な工程だったのだが、デフレ期には非正規労働力(パート、アルバイト)によって人件費を抑えることができたため、労働集約的な工程を組んでもなんとか成立していた。
しかし、ご存じの通り、人手不足、人件費高騰でそうした工程を維持することはもうできなくなってきた。そのため、業界大手各社は集中加工センター、セントラルキッチンへの投資で、店舗人員を削減してコストダウンし、規模の利益をフル活用することで一気に勝負をかける戦いが始まっている。そして、イオンの「まいばすけっと」といったバックヤードを持たないコンビニ型のミニスーパーが、消費者に受け入れられることを検証した。
■各小売大手の大都市圏強化戦略
それでなくとも、食品需要は人口動態と密接な関係があるため、小売り大手は人口減少する地方から少しずつ手を引いて、3大都市圏に事業基盤を移していこうとしている。
イオンのまいばすけっとが約3000億円企業に成長できたことから、小型スーパーによる大都市圏進出、そうした競争激化を背景としたM&Aによる大都市圏強化を狙い、大手各社の動きが激しくなってきたのだ。それは大都市圏に事業基盤を築いてきたライフへのライバルの挑戦状を意味している。
わかりやすい例を言えば、トライアルによる西友買収は、西友店舗を拠点とした小型サテライト店展開による首都圏中心部攻略作戦である。少し前から始まった首都圏のディスカウントスーパー、オーケーの関西進出は着々と進行し、大阪と兵庫で既に11店舗があり(2026年5月末時点)、これからどんどん増やすと宣言している。それでなくてもオーケーは、首都圏売上でもライフをだいぶ前に追い抜き、その差を拡げつつある宿敵である(図表3)。

■ヤオコーとの競合も避けられない
首都圏では郊外展開の有力スーパー、ヤオコーがブルーゾーンHDを組成して全国の有力地場スーパーを糾合、その直後、都心部の中堅スーパーの買収を発表した。これまで大都市中心部ライフ、郊外部ヤオコーとして棲み分けていて、商品開発で提携関係にあったヤオコーだが、今後は競合する場面が増えることは避けられない。大手コンビニ、ローソンは「Lミニマート」でミニスーパー展開を開始、これも狙いは同じなのである。
東海地区のバローは、既に出店とM&Aで関西進出を強化、2025年度実績で750億円に達している。また首都圏にもM&Aで進出はしていたが、バローによる出店も本格的に開始された。生鮮強化型の新店は業界のストアオブザイヤーに選ばれるほどで、その勢いはかなりのものである。
そして、もっとも警戒すべきは、このバローがホームセンター大手コーナン商事と資本業務提携を組んだことである。コーナン商事の主力店は京阪神と首都圏中心部に大量に配置されている。一方で、バローの店舗は東海地方が中心だ。そして、バローはコーナン店舗の集客連携のため、店舗内の一角に居抜き出店するということも公表している。つまり、バローはコーナン商事が展開するエリアに優先的に出店できる権利を得たのである。コーナンとライフの店舗網が重なっていることは一目瞭然、バローは「一夜城」の如く、ある日ライフに立ちはだかる可能性があるのだ。

■淘汰されるのは中堅・中小スーパー
といったことを書くと、王者ライフに危機到来か、と思われてしまったかもしれないが、そういう趣旨でもない。本稿で名前が挙がっていた大手小売各社は確かに首都圏、京阪神でお互いにガチンコで戦うことは間違いないのだが、ここが小売業界の難しいところで、大手対決の結末はどちらかが負けるのではない。
大手の戦いの狭間で、中堅、中小、地場のスーパー、小売店が大手にシェアを奪われて淘汰されることになるのである。意外と知られていないが首都圏、京阪神は中堅・中小小売業がたくさん生き残っている最後の楽園だった。大都市圏での上位集約が本格化するということであり、今後10年にかつてないほどの再編統合が進行することになるのである。
そうした意味合いからすれば、攻め込まれているようにも見えるライフだが、5年後、10年後は、激戦を勝ち抜いて、さらにシェアアップしている可能性が高いだろう。
ただ、大都市中心部における中小零細スーパーや商店街にとっては厳しい環境変化となろう。マスコミ登場で有名な都内のスーパーアキダイは少し前にロピアの傘下に入ったらしい。業界事情に詳しいアキダイの社長はこうした環境についてすべてお見通しで、先手を打ったのであろう。社員のために後ろ盾を得ておいた、と言っておられたと思うが、こうした難しい判断をせざるを得ない環境変化が首都圏、京阪神に迫っているということなのである。

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中井 彰人(なかい・あきひと)

流通アナリスト

みずほ銀行産業調査部を経て、nakaja lab代表取締役。執筆、講演活動を中心に、ベンチャー支援、地方活性化支援なども手掛ける。
著書『図解即戦力 小売業界』(技術評論社)、共著『小売ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)。東洋経済オンラインアワード2023ニューウエーヴ賞受賞。

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(流通アナリスト 中井 彰人)
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