※本稿は、中尾正一郎『減塩より実は簡単! 週末「無塩・無糖」のすすめ』(青春出版社)の一部を再編集したものです。
■「食塩」と「ナトリウム」は別物
私たち夫婦は2000年頃から「減塩」をはじめたのですが、いつの間にか食塩・砂糖をとらない食事「無塩・無糖」の世界に入り込んでいました。
その恩恵や中身をお伝えする前に、混同しやすい言葉を整理しておきましょう。
まず、食塩の主成分は、塩化ナトリウムです。
私たちが生きていくために必須なのは、食塩ではなくナトリウム。そして、ナトリウムは、自然の食材にも含まれています。
市販の加工食品の裏側を見ると、栄養成分表示のなかに「食塩相当量」という項目が見つかります。「食塩量」ではなく、「食塩相当量」と書かれているのは、ナトリウムの量を表しているからです。
ナトリウムには「食塩由来」のナトリウムと「食材由来」のナトリウムがあります。その合計を食塩に換算した値が、食塩相当量なのです。
具体的には「ナトリウム量(mg)×2.54÷1000=食塩相当量(g)」で計算されます。
例えば、牛乳のパッケージを見てみてください。生乳100%で作られた牛乳にも、100mLあたり0.1~0.2g程度の食塩相当量があります。
でも、牛乳を製造する過程で食塩が添加されるわけではありませんよね。この食塩相当量は、生乳にもともと含まれているナトリウムなのです。
「無塩・無糖」の食事では、食塩は避けますが、ナトリウムを避けるわけではありません。
私自身、食塩は一切口にしていませんが、それでもナトリウムは食塩相当量で1日0.8~1.7gはとっています。食事のメニューによって変わり、平均すると1日1.2gほどです。
食塩をはじめとした調味料からナトリウムをわざわざとらなくても、食材から、必要なナトリウムは十分にとれるのです。
■食塩ゼロでも塩分が出る理由
もう1つ、誤解が生じやすい表現に「塩分」があります。
日常の会話のなかでは食塩とほぼ同じ意味で使われますが、正確には、塩分とはミネラル全般を指します。
高血圧の患者さんで日頃から減塩を心がけている場合、「みそ汁の塩分濃度は何%か?」など、食事を塩分計で測っている方もいるでしょう。塩分計が測定するのは、食塩またはナトリウムの濃度だと思われやすいのですが、実は、ナトリウムだけではなく、マグネシウムやカリウム、カルシウムなども含めたミネラル全体の濃度です。
以前に、食塩ゼロの我が家の無塩鍋を塩分計で測ったところ、0.3%と出ました。食塩をまったく使っていないのに予想以上に高いなと不思議に思い、詳しく分析すると、ナトリウムは0.15%で、カリウムが0.15%ありました。
食塩計ではなく塩分計なので、ナトリウム以外のミネラルにも反応してやや高く出るのは当たり前だったのです。
■腎臓にはナトリウムを「再吸収」する仕組み
体がミネラル不足に陥らないように、私たちの体には、ナトリウムをはじめとしたミネラルの濃度を調節する仕組みが備わっています。それを担うのが腎臓です。
腎臓には大切な役割が2つあります。
1つは、老廃物を出すこと。血液をろ過して、体にとって不要になった老廃物や余分な水分を尿として体の外に排泄します。
老廃物を出す働きを担うのは、数ある臓器のなかでも肝臓と腎臓だけです。肝臓で解毒されるものもあれば、腎臓でしか排泄されない有害物質もあります。だから、肝臓も腎臓も肝腎(肝心)かなめのとても大切な臓器です。腎臓からいらないものを排泄できなければ、血液中に不要なものがたまり、尿毒症という病気になってしまいます。
もう1つの腎臓が担う大事な役割が、体液のコントロールです。体液が増えすぎればむくみ、減りすぎると脱水になります。ちょうどいい塩梅に保つためのコントロールセンターが腎臓なのです。
そして、腎臓がどうやって体液量を一定に保っているのかというと、ナトリウムをはじめとしたミネラルを出し入れすることで調整しています。とりすぎた分は尿に流し、足りない分は再吸収することで、それぞれのミネラルの濃度を調節し、体内の水分量を一定に保っているのです。
ですから、いったん、ろ過したあとで、必要なナトリウムはしっかり再吸収して血液に戻しています。
■体液量を一定に保っている
なお、ミネラルの出し入れ(排泄と再吸収)をコントロールする際に欠かせないのがホルモンの存在です。
具体的には、腎臓から「レニン」という酵素が分泌されると、いくつかの過程を経て「アンジオテンシンⅡ」というホルモンが腎臓の隣にある副腎に働きかけ、「アルドステロン」というホルモンが分泌されます。このアルドステロンは、腎臓でナトリウムと水の再吸収を促すのです。すると、血液量も増えるので、血圧が上がります。
逆に、アルドステロンが働かないと、ナトリウムが再吸収されずに垂れ流されて、体液量は減少します。その結果、血圧も下がります。
腎臓は、レニンや、アンジオテンシン、アルドステロンというホルモンを連動して働かせながら、水分やミネラルの再吸収を指示し、体液量を一定に保っているのです。
■ナトリウムの再吸収を減らす薬
広く使われている高血圧の薬に、「RA系抑制薬」と呼ばれるものがあります。
「RA系」のRはレニン、Aはアンジオテンシンのことです。この薬は、先ほど説明したレニン、アンジオテンシン、アルドステロンという一連の流れのどこかを邪魔することで、最終的にナトリウムの再吸収を減らして、血圧が上がるのを防ごうという薬です。
この薬、私にとっては禁忌なのです。
「無塩・無糖」の食事をしている私の体のなかではアルドステロンがしっかり働くことでナトリウムを再吸収しています。その大事な働きにストップをかけるのがRA系抑制薬なので、私にとっては飲んではいけない薬なのです。
アルドステロンというホルモンは、その人の食生活や体の状態に合わせてほどよく分泌されることが大事です。多すぎても少なすぎても病気になります。
ところが、アルドステロンの働きが先天的に弱い人もなかにはいるのです。その場合、ナトリウムと水を十分に再吸収することができず、低血圧になります。いくら食塩をとっても血圧が上がりきらないという病気で、難病の1つに指定されています。
■無塩食の効果が確認できた半世紀前の研究
逆に、アルドステロンがどんどん出てしまう「原発性アルドステロン症」という病気もあります。レニンが増えれば最終的にアルドステロンも増えるというのが本来の順序ですが、原発性アルドステロン症の人は、レニンに関係なくアルドステロンが勝手にどんどん出てしまうので、ナトリウムを過剰に再吸収して、血圧が高くなってしまうのです。
アルドステロンをどんどん作ってしまう人もいれば、少し多めに作るくらいの人もいて、程度の差はありますが、高血圧の人の10人に1人に原発性アルドステロン症が隠れているといわれています。
では、それ以外の10人中9人の方はというと、ナトリウムのとりすぎで血圧が高くなっている「食塩高血圧」の可能性が高いのです。
そのことを裏づける、とても興味深い論文があります。
終戦から3年後の1948年に、高血圧の患者さん約500人を対象に、アメリカの大学で行われた臨床研究です。当時は高血圧の薬がまだ何もなかったので、高血圧の患者さんを入院させて低ナトリウム食を食べてもらいました。
当然、食塩は使わず、食材のナトリウムだけです。食塩相当量で1日0.4g程度でしたから、かなり厳格な低ナトリウム食でした。
その結果、どうなったと思いますか?
血圧が220mmHgくらいあった人たちが、軒並み120程度にまで下がったのです。
「無塩」食にすることで重症の高血圧がよくなったという事例は、半世紀以上も前にすでに報告されているのです。
■尿中に捨てられている「とりすぎた食塩」
腎臓は、アルドステロンなどのホルモンを駆使しながら、ナトリウムを必要な分だけ再吸収し、必要ない分は尿に捨てています。
私の外来では、高血圧の患者さんに減塩指導を行う際は、尿中に出てくるナトリウムの量を調べます。尿中のナトリウム量を調べることで、1日にどのくらいの食塩をとっているのか、とりすぎているのかがわかるからです。
尿にどのくらいのナトリウムが出ているのか、食塩排泄量を測定する方法は、主に2通りあります。
1つは、スポット尿といって、あるタイミングで一度、尿を採取し、計算式をもとに1日の食塩摂取量を推定する方法です。随意尿とも呼ばれます。
もう1つは、24時間蓄尿です。1日分の尿をすべて集めて、ナトリウム濃度を測定することで、1日の食塩摂取量を調べます。
24時間蓄尿は、排尿のたびに蓄尿器にためなければいけません。一方、スポット尿は、一般的な健康診断と同じで、一度の採取でいいので手軽ですが、正確なデータが得られるのはやっぱり24時間蓄尿のほうです。
以前に、スポット尿と24時間蓄尿で同時に測定し、どのくらいの差が生じるのか実験したことがあります。そうしたら、24時間蓄尿では1日の食塩摂取量は2g台なのに、スポット尿では6gや9gと推定されてしまったり、24時間蓄尿で5g台の人が8g、9gと推定されたり、バラつきがありました。
1日分の尿を採取するのは面倒ですが、正確に知るには24時間蓄尿がいちばんです。
1日にどのくらいの食塩をとっているのか、患者さん自身にちゃんと自覚していただきたいので、私の外来では、ユリンメートPという、採取した尿を正確に50分の1ずつためる携帯用の蓄尿器を使って、1日の食塩摂取量を調べています。
■夏場に「無塩」でも問題ない理由
食塩をとらない生活をしていると話したときに、よく聞かれる質問のトップ3に入る1つが、「夏場はどうしているのですか?」です。
近年は猛暑が続き、熱中症対策のために水分だけではなく、塩分も補給したほうがいい、と一般的にはよくいわれます。そのため、「暑い夏も『無塩』で本当に大丈夫なの?」と不思議に思うのでしょう。
「夏でもゴルフをします。汗もかなりかきますよ」と話すと、「塩飴や塩分タブレット、スポーツドリンクなどはとらないのですか?」とさらに聞かれるので、「一切、とりません」と答えると、「えっ、どうして平気なのですか?」と驚かれます。
結論からいえば、食塩をとっていない私は、汗に塩が出ない体質になっているから大丈夫なのです。
先ほど、とりすぎた食塩(ナトリウム)が尿に出ることを説明しました。汗も同じです。食塩をとりすぎているから汗にも出るのであって、「無塩」食の私の場合、汗にも尿にもナトリウムはほとんど出ません。アルドステロンがしっかり働いて、大事なナトリウムを体の外に出さないようにしてくれているからです。
■それでも不安なら塩ではなくこれを飲む
「無塩・無糖」をはじめる前、食塩を普通にとっていたときには、しょっぱい汗が出ていました。舐めると塩味がして、シャワーで洗い流さなければ汗に含まれる塩で肌がかゆくなりました。
以前は、汗をかくと犬が寄ってきてペロペロと舐めてくれていたのですが、最近では舐めにきてくれなくなりました。おそらく、汗がおいしくないのでしょう。
今の汗は、塩味がせず、汗をかいても肌はサラサラしていてかゆくもなりません。犬が舐めてくれなくなったのはちょっと寂しいのですが、たくさん汗をかいても、ナトリウムは失われないから平気なのです。
ですから、この本ですすめる「無塩・無糖」を取り入れたときに、夏場に汗をかいたとしても、塩飴や塩分タブレット、スポーツドリンクなどで、わざわざ食塩をとって塩分補給する必要はありません。体にとって必要なナトリウムは、ちゃんと体が再吸収して、出さないようにしてくれます。
ただ、これまで汗をかいたら塩分もとることを習慣にしていた人にとっては、本当に大丈夫なのか、不安でしょう。
そういう場合は、塩ではなく、だしを飲むことをおすすめします。
だしには、かつおぶしや昆布、煮干しなどの食材由来のナトリウムが含まれています。ほかにも、カルシウムやマグネシウム、カリウムなどのミネラルも同時にとることができます。
料理で余っただしをボトルに入れて冷蔵庫で保存しておいてもいいですし、最近では、市販の“飲むだし”も出ています。私も取り寄せて飲んでみたところ、かつおぶしや昆布の味がそのまま出ていて、やさしい味わいでした。そうしたものをストックしておいてもいいですね。ただし、食塩が添加されていないものを選びましょう。
夏に汗をかいても、レニンやアルドステロンが普通に働いていれば、尿だけではなく汗にも塩はほとんど出ないので食塩をとる必要はありませんが、お茶代わりにだしを1杯飲むことで、心がほっと落ち着くでしょう。食材由来のナトリウムをとりましょう。
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中尾 正一郎(なかお・しょういちろう)
医師、医学博士
日本循環器学会専門医。日本内科学会認定内科医。1973年、鹿児島大学医学部卒業。米ハーバード大学医学部(循環器内科)、米マウント・サイナイ大学医学部(臨床遺伝学)留学を経て、95年に新しい疾患「心ファブリー病」を医学雑誌「The New England Journal of Medicine」で日本から世界に発信。99年、鹿児島県立鹿屋医療センター院長に就任し、日本初の2箇所主治医制による地域医療「鹿屋方式」を構築し、メディアでも取り上げられる。現在は霧島整形外科病院に「食塩高血圧外来」を開設し、薬に頼らない「無塩・無糖」による食事療法を行っている。
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(医師、医学博士 中尾 正一郎)

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