ファミレスチェーン「サイゼリヤ」は国内外で1600店舗以上を展開し、日本で一番有名なイタリア料理ともいえる。なぜ安さにこだわりながら、業績を拡大できるのか。
日本人投資家の阿部修平さんは「創業者の正垣泰彦さんがもともと理系の研究者だったことが大きい」という。Forbes JAPAN編集長藤吉雅春さんとの対談をお届けする――。
※本稿は、阿部修平、藤吉雅春『コンパウンドグロース投資 世界を牽引する日本の新時代』(リンクタイズ)の一部を再編集したものです。
■白衣の研究者が始めた、本物のイタリア料理
【藤吉】イタリア料理チェーンのサイゼリヤにも1990年代から投資されてますよね。
【阿部】サイゼリヤは、スパークスの最初期から投資してきましたし、創業者の正垣泰彦さん(現・株式会社サイゼリヤ名誉会長)とも何度も会ってます。彼はもともと理系の研究者だったんですが、学者の道を諦めて好きだった料理の腕を生かして、飲食店を始めたんですよね。そこで目をつけたのが1970年代当時、日本ではまだ稀少だったイタリア料理でした。高価なイタリア料理を安く提供するというのが基本コンセプトですが、正垣さんは徹底的に味にもこだわるんですよね。
埼玉県吉川市にある本社に行くと、実験室みたいなキッチンに白衣を着た正垣さんがいて、次々と試作品を作っては食べさせてくれて、感想を聞かれたものです。
【藤吉】やっぱり根が研究者なんですね。
【阿部】そうですね。世界中から厳選した素材を安く仕入れてました。
おいしい料理を誰も気軽に楽しめる値段で出すためにサイゼリヤがやったことは、飲食業界にイノベーションを起こしました。例えばサイゼリヤでは調理はすべて電子レンジや湯煎、オーブンなどでやって、火は使わないんです。
だから、その分、調理場のスペースを小さくできる。普通のレストランの場合、調理場が3分の1ぐらいを占めるのですが、サイゼリヤはせいぜい5分の1ですむ。働く人の数も少なくていい。だから160人のキャパを5人で回せるんです。
■コアフランチャイズ型ビジネスの宿命
【阿部】一方で、コアフランチャイズ型ビジネスの宿命でもあるんですが、ある程度の店舗数まで急拡大すると、売り上げが鈍化し、利益率も悪化するんですね。急成長後の“グリッチ(落ち込み)”にはまって、株価が大幅に下落する。サイゼリヤも一時、そのグリッチに陥りました。
「本当においしいものを安く」というのは正垣さんの信念でもありますが、僕がちょっと懸念しているのは、「安い」のイメージが強くなりすぎたんじゃないか、ということなんです。
本来は「おいしいから行く」と言ってもらえるだけのクオリティがあるのに、「安いから」という理由できているお客さんのほうが多いような気がするんです。
■「ありえない」安さを30年続けた会社
【藤吉】それだと何がよくないんでしょうか。

【阿部】これはサイゼリヤに限りませんが、「安いから行く」「安いから買う」というお客さんばかりだと、企業は値上げがしづらくなる。ちょっと値上げしただけで「そんな値段ならいらない」と猛反発されるから。
けれど今、サイゼリヤでパスタとドリンクバーのランチを頼んでも700円(2026年4月現在)なんです。これって僕が学生だったころの喫茶店の値段と同じなんです。僕はチポトレ(メキシカン)とかアイホップ(パンケーキ)とかのアメリカのチェーン系飲食店の客単価を調べたんですが、サイゼリヤの客単価は、それらの半分以下ですよ。
【藤吉】特に今は“失われた30年”を抜け出して、あらゆる物価が上がり始めている局面ですから、なおさら「ありえない」安さですよね。
【阿部】その「ありえない」ことを30年営々と続けてきた会社なんですよ。「消費者においしいものを安く提供する」という理念と、それを続けてきたことは大きな尊敬に値することは間違いない。
■そろそろ質に見合った値段にすべき
【藤吉】直近(2026年8月期)の決算では、売上高で前年同期比+14.7%で増収増益ではあります。
【阿部】それは企業努力のなせる業で、本当に尊敬に値します。一方で僕は闇雲に「値段を上げろ」と言っているわけではなくて、質に見合った値段にすべきじゃないかと言いたいんです。上場企業の社会的な使命というのは、企業活動を通じて新しい価値を生むことだと思います。
苦しいデフレ下にあっても、これだけ味と質にこだわってきたサイゼリヤであれば、デフレを抜けた今こそ、新たなチャレンジができるはずです。
【藤吉】こうしてお話を伺っていると、阿部さんは未来を予測してユニクロやサイゼリヤに投資したわけじゃないんだな、ということがよくわかります。まずは面白いと思った経営者のもとに足繁く通うから、現場の肌感覚としてソシオエコノミックモデルの変化を感じ取ることができる。さらにそこで大きくベットしたから、その後のスパークスの“コンパウンドグロース”があったのかな、と感じました。
【阿部】それはおっしゃる通りで、僕はよく「マクロはミクロの集積である」という言い方をするんです。つまり、マクロな未来は基本的に予測不可能だけど、ミクロな現場を自分の足で歩き、現地現物を徹底的に調べることで見えてくるものはある。
■経営者のどこを見ているのか?
このボトムアップリサーチが、スパークスの創業以来の投資哲学といえます。だから、ウチのアナリストは一人あたりで年間100回ぐらいは企業を訪問します。経営者に会うことはもちろん大事ですが、例えば受付の対応だったり、ちょっとしたところでどういう会社かわかったりするんですよね。
【藤吉】例えば経営者に会ったとして、具体的にどこを見るんですか。
【阿部】ちょっと抽象的な言い方になってしまいますが、お金というのは最も「心地よい」ところに流れるものなんです。「心地よい」というのは、つまり経営者が自分の商売のことをよくわかっている、という意味ですね。
経営者は自分がやっている商売のことをよくわかってこそ、自分のお金をすべて注ぎ込める。だからお金にとって「心地よい」空気が流れている会社が、我々が投資すべき会社ということになります。
【藤吉】逆に「こういう経営者には投資しない」というポイントはありますか?
■人間性を欠いた経営者とは付き合えない
【阿部】やっぱり経営者って人間性が大事だと思うんですよね。実際に「面白いビジネスアイデアだな」と経営者に会いにいって投資を始めたものの、付き合っているうちにその経営者に違和感を覚えて、投資をやめたことがあります。「とにかく会社が儲かればいい」という価値観の人だったんですよね。儲けることはもちろん大切なんですが、会社には本来、企業活動を通じて社会を豊かにするという社会的使命がある。そこに鈍感な経営者とは付き合えないと思いました。結局、その会社はそれから数年で経営破綻してしまいましたけどね。
【藤吉】その話を聞いて、ヨーゼフ・シュンペーターの「起業家論」を思い出しました。彼は「資本主義とは、内側から旧(ふる)い構造を破壊しつつ新しい構造を創造するプロセスである」として、起業家とは単なる経営者ではなくて、その革新を起こす人なんだと言っています。

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阿部 修平(あべ・しゅうへい)

投資家

1954年札幌生まれ、1978年上智大学経済学部卒業、1980年にバブソンカレッジでMBA取得。帰国後、株式会社野村総合研究所入社。
企業調査アナリストとして日本株の個別企業調査業務に従事。その後、1982年4月にノムラ・セキュリティーズ・インターナショナル(ニューヨーク)に出向し、米国機関投資家向けの日本株のセールス業務に従事。1985年、アベ・キャピタル・リサーチを設立(ニューヨーク)。クウォンタムファンド等欧米資金による日本株の投資運用・助言業務を行うとともに、欧米の個人資産家の資産運用を行う。1989年に帰国後、スパークス投資顧問(現スパークス・グループ株式会社)を設立、代表取締役社長に就任(現任)。2005年ハーバード大学ビジネススクールでAMP修了。2012年6月より株式会社国際協力銀行(JBIC)リスク・アドバイザリー委員会委員を務める。

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藤吉 雅春(ふじよし・まさはる)

Forbes JAPAN編集長

1968年佐賀県生まれ。2019年3月より『Forbes JAPAN』編集長。著書『福井モデル 未来は地方から始まる』(文藝春秋)は2015年、新潮ドキュメント賞最終候補作になった。2016年には韓国語版が発売され、韓国オーマイニュースの書評委員が選ぶ「2016年の本」で1位に。2017年、韓国出版文化振興院が大学生に推薦する20冊に選ばれた。
他に『ビジネス大変身! ポスト資本主義11社の決断』(文藝春秋)や『未来を「編集」する シンクタンクAPIの実験』(実業之日本社)などがある。

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(投資家 阿部 修平、Forbes JAPAN編集長 藤吉 雅春)
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