翌朝すっきり起きるために、食事や入浴で気をつけることは何か。順天堂大学医学部教授の小林弘幸さんは「湯船にゆっくりつかることは1日の疲れを取り去るためにとても効果的だ。
熱い湯だと、体温が急激に上がってかえって体を傷めてしまうので注意が必要だ」という――。(第1回)
※本稿は、小林弘幸『自律神経が整えば体の不調は消える』(ベスト新書)の一部を再編集したものです。
■何を口にするかよりも“食べる時間”が重要
私は、なにか食事制限を必要とする持病などがないのであれば、好きなものを食べたらいいと思っています。
もちろん、細かく言えばいろいろありますが、食事内容については「バランスよく」と「食べすぎない」を考えておけばいいでしょう。つまり、必ず野菜を食べるとか、丼物よりも定食を選ぶとか、腹八分目を心掛けるとか、子どもの頃から言われているような基本を守ることです。
それよりも気をつけてほしいのが「食べる時間帯」です。とくに夕食は、就寝時間との関係が重要。同じ内容だったとしても、就寝3時間前に食べるのと30分前に食べるのとでは、体に与える影響が違ってきます。
お酒を飲んだ勢いで寝しなにラーメンを食べたら、翌朝、胃が重苦しくてまったく食欲がわかなかったという経験があなたにもあるでしょう。だから、寝る直前に食事をするのは「消化に悪い」ということは多くの人が実感としてわかっています。
口から入った食べ物は、食道を通って胃に入り、そこでおおむね消化され、小腸で吸収されて栄養となります。まだ食べ物が胃の中に残っているうちに眠ってしまうと、この一連の流れがうまくいかずに、翌朝の不快感となるのです。

■就寝前の空腹に最適なホットミルク
では、胃での消化にどの程度の時間がかかるのでしょうか。最も短いのが、ジュースのような液体で5分程度。固形物は炭水化物、タンパク質、脂肪などの成分によって違ってきますが、おおむね3時間程度。最長で5時間というところでしょう。
だから、夕食から就寝まで最低3時間は空けることが必要なのです。10時に寝るなら7時までに、11時に寝るなら8時までに夕食は済ませましょう。
この習慣は、いい睡眠のためにも必須です。就寝直前の飲食は「自律神経の働きを乱す」からです。
私たちが食事をすると、ものを噛んだり飲み込んだりといった動きや、食べ物から得る刺激によって交感神経が優位になります。就寝には、副交感神経が優位になっているリラックス状態が必要なのに、それがうまくいかなくなります。
いろいろつまみを食べながらお酒を飲んで、酔っぱらってそのまま眠ってしまうことがありますよね。そのため、「お酒を飲めば眠りやすい」と感じますが、こういう眠りは浅く、質も悪いのです。

もし、就寝前に空腹に襲われたなら、ホットミルクなどを飲むことをおすすめします。ミルクには、快眠につながるアミノ酸の一種「トリプトファン」が多く含まれていますから、寝酒よりもはるかにいいでしょう。
■入浴は効果的だが、熱すぎる湯はNG
日本人はお風呂好きで有名ですね。
元野球選手の松井秀喜氏が大リーグに挑戦するために渡米した際、住まいを決めるのにずいぶん手間取っていたようです。それは、「体を伸ばして入れる湯船のついたバスルーム」を求めていたからでした。
欧米人の多くは、寒い冬でもシャワーだけで済ませてしまうことが多く、日本人のように湯船につかる習慣がないので、高級マンションでもなかなか松井氏の希望に沿わなかったのでしょう。
しかし、松井氏のこだわりは正解で、湯船にゆっくりつかることは1日の疲れを取り去るためにとても効果的なのです。
ただし、入り方は重要です。熱い湯だと、体温が急激に上がってかえって体を傷めてしまうことがわかっています。
どういうことか説明しましょう。
私たちが普通に「熱を測りましょう」と言うとき、体の表面の「皮膚体温」を指しています。もう一つ、外科手術を行うときなどに重視される「深部体温」というものがあり、「直腸温」とも呼ばれます。
以前は直腸で測っていたこの深部体温を、最近、耳で計測することができるようになり、いろいろな研究が可能になってきました。
私もチームを組んで、お風呂に関するある実験をしてみました。ぬるめのお湯と熱めのお湯で、それぞれ体にどのような影響が出るのかを調べたのです。
■お風呂の温度は42度より、39度がいい
具体的には、39度と42度の湯温のお風呂を用意し、それぞれ10分間、被験者に入ってもらいました。そして、深部体温の変化を測定すると同時に、採血をして血液の状態を調べました。
まず深部体温についてですが、39度のお湯に入った場合はゆっくり上がっていきました。一方、42度のお湯では、急激に上がり、あっという間に40度を超えてしまいました。
42度のお湯では汗のかき方も激しかったために、脱水症状が進行していたと思われます。その証拠に血液の流れもどろどろになっていました。
ところが、39度のお湯に入った被験者の血液はさらさらと流れていたのです。
高齢者が自宅で突然に亡くなるとき、その場所は断トツで「お風呂」が多いのです。高齢者ほど熱い湯が好きな傾向にある上、脱水症状に陥っても気づきにくく、血液どろどろ状態で脳梗塞などを起こすことが多いからです。

こうした危険は、高齢者に限ったものではありません。くたくたに疲れ切っていたり、お酒を飲んでいれば同様の状態にあると考えていいでしょう。
■入浴時間は長時間ではなく、15分以内に
では、どんなお風呂の入り方がいいのでしょう。
1日の終わりに副交感神経を優位にし、血流を促進するために、私自身は以下のような方法をとっています。
1 心臓に遠いところ(手足など)からかけ湯をする

2 39~40度のお湯に約5分、首まで全身つかる

3 みぞおちまでの半身浴に変えて約10分つかる

4 計15分であがって、1杯の水を飲む
いくらぬるめのお湯でも、あまり長い時間入れば体に負担がかかります。湯船につかっている時間は15分以内がいいでしょう。
お風呂で失われた水分の補給をし、老廃物の排出をうながすために、1杯の水は必ずとってください。
■「眠りたいのに眠れない」は自律神経の乱れ
睡眠不足を訴える人が増えています。
厚生労働省健康局の調査では、「睡眠での休養」について「あまりとれていない」か「まったくとれていない」と答えた人が、30代で27.5パーセント、40代で32.5パーセントにのぼりました。ビジネスパーソンに限って調べれば、もっと割合が高くなるのではないかと思います。
人々が訴える睡眠不足には2種類あって、1つが「睡眠のための時間がとれない」というパターン。
しかし、6~7時間の睡眠が確保できないほど従業員を働かせる企業は、まずありません。
あったとしても、これからは淘汰されていくはずです。
実は、「睡眠のための時間がとれない」と嘆く人たちの大半は、行く必要もない飲み会に参加したりして睡眠時間を削っているケースが多く、「本当に時間がつくれない」わけではありません。
問題は、もう1つの「眠りたいのに眠れない」という人たちです。現代社会には圧倒的にこちらが多いのです。
「疲れているはずなのに眠れない」

「明日は大事な仕事があるのに眠れない」
こうしたことが起きるのは、ほぼ100パーセント自律神経の乱れが原因です。
■交感神経が優位だとすぐに眠ることはできない
前述したように、私たちの体は日内変動を繰り返しています。
日中は活動的に動くために交感神経が副交感神経よりも優位になっていたのが、夕方から逆転し始め、眠る頃には副交感神経が優位になってリラックスした状態で眠りに入っていくのが、本来の私たちのリズムです。
しかし、現代社会では、このリズムを乱してしまうことが多々あり、そのために、夜になっても交感神経が優位な興奮状態に陥ってしまうことがあるのです。
ベッドに入る前には、副交感神経を優位にする「寝るための準備」があり、その時間を大事にすることこそが休息には必要です。
たとえば、翌朝六時に起きなければならない人が、夜の10時までパソコン作業をしていたとしましょう。「このままベッドに入れば8時間も眠れる」と考えても、そうは問屋が卸しません。
興奮してなかなか寝付けないか、寝付けたとしても質の悪い浅い眠りしか得られません。
あるいは、夜中に覚醒してしまうのがオチでしょう。
それよりも、睡眠時間自体は6時間に減ったとしても、ぬるめのお風呂につかるなど、質の高い睡眠を得られるような2時間を過ごしたほうがいいのです。
■睡眠時間は長い方が良いわけではない
理想は、寝る3時間前までに夕食を済ませ、日記をつけたりして静かな時間を過ごし、寝る1時間前までにお風呂に入ること。この間、パソコンやスマホ、テレビなどは見ないことです。
人間は、睡眠に入るときに体温が下がりますが、お風呂から出て1時間も過ごしていると、ちょうどいい体温低下が起こります。そのときにベッドに入り、静かに目を閉じていれば、気持ちよく眠りにつけるでしょう。
アメリカで、睡眠時間と健康の関係について、約110万人を対象とした大規模な調査が行われたことがあります。その結果、最も死亡率が低かったのが6.5~7.4時間眠る人たちでした。つまり、7時間前後が睡眠時間の理想ということです。
実は、これより小さい規模(約11万人対象)ですが、日本でも同様の調査が行われており、そこでもやはり7時間の睡眠が最適という結果が出ています。
もっとも、あくまでこれは調査における平均的な数字であり、個人差があるでしょう。自分が「ぐっすり眠れた」と感じられればそれでいいのです。
ここで注目しておきたいのが、「睡眠時間は長ければいいものではない」ということです。睡眠不足と同様に、寝すぎも心身の健康を損なうのです。

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小林 弘幸(こばやし・ひろゆき)

順天堂大学医学部特任教授

1960年、埼玉県生まれ。順天堂大学医学部卒業後、同大学大学院医学研究科修了。ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属小児研究センター、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て、順天堂大学医学部小児外科講師・助教授などを歴任。自律神経研究の第一人者として、トップアスリートやアーティスト、文化人のコンディショニング、パフォーマンス向上指導にも携わる。順天堂大学に日本初の便秘外来を開設した“腸のスペシャリスト”としても有名。近著に『結局、自律神経がすべて解決してくれる』(アスコム)、『名医が実践! 心と体の免疫力を高める最強習慣』『腸内環境と自律神経を整えれば病気知らず 免疫力が10割』(ともにプレジデント社)『眠れなくなるほど面白い 図解 自律神経の話』(日本文芸社)。新型コロナウイルス感染症への適切な対応をサポートするために、感染・重症化リスクを判定する検査をエムスリー社と開発。

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(順天堂大学医学部特任教授 小林 弘幸)
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