ソフトバンクグループの時価総額(約487兆円)がトヨタ自動車(約458兆円)を抜いて1位となった。トップ交代は2003年12月以来、22年半ぶりだ。
統計データ分析家の本川裕さんは「AI・半導体関連の盛り上がりで企業ランキングの順位が大きく変動している。世界ランキングも同様だが、その上位ランクに日本企業は見当たらない」という――。
■トヨタを抜いてソフトバンクGが1位に
6月に入っても日経平均株価の過去最高値の更新が続いている。AI・半導体関連株への人気の底堅さが株価水準全体の上昇を支えていると考えられる。この点は、企業の時価総額ランキングの思いがけない大きな変化にも結びついている。今回は、時価総額にもとづく世界や日本の企業ランキングと最近の大きなランキング変化について概観してみよう。
6月1日の東京株式市場で、ソフトバンクグループ(SBG)の株価が上昇し、時価総額でトヨタ自動車を抜いて日本企業トップになったことがニュースとなった。トップ交代は2003年12月以来、22年半ぶりであり、トヨタ自動車こそがわが国を代表するナンバーワン企業だという通念からはおどろきをもって受け止められた。
半年前の企業ランキングと直近の企業ランキングを比較したグラフを図表1に示した。
■世界的なAI・半導体特需によるランキング上昇
ソフトバンクグループについては、完全子会社化している英半導体設計大手アームが好決算だったことで株価が上昇していたのに加え、同グループの投資先で、生成AI「チャットGPT」を手掛ける米オープンAIが上場準備を進めていると報じられ、さらに5月31日、フランスで最大750億ユーロ(約13兆9000億円)を投じ、AI向けデータセンターの建設に乗り出すと発表したことで、株価上昇に拍車が掛かった。こうした動きが、イラン戦争による原油高が重しとなっているトヨタ自動車との逆転にむすびついたとされる。
ソフトバンクグループとトヨタ自動車の首位交代のほか、半年前には48位だったキオクシアホールディングスが一気に3位に浮上しているのも目立っている。
同社は6月3日には一時、時価総額がトヨタ自動車を上回ったとも報じられた。
キオクシアホールディングスは、スマートフォンやデータセンターなどに使われるNAND型フラッシュメモリおよびSSDの開発・製造・販売を主力とする世界有数の半導体メーカーである。
もともとは1987年に世界で初めてNAND型フラッシュメモリを発明した東芝のメモリ事業部門だったが、2017年に東芝メモリとして分社化されたのち、東芝の債務超過を解消するため売却され、2019年に現在の「キオクシア(KIOXIA)」へ社名変更された。
生成AIやデータセンター需要の急増を背景に同社の業績は大幅に拡大しており、株価も大きく上昇し、時価総額が日本市場トップクラスの規模に達するに至っているのである。
半導体製造装置の東京エレクトロンも世界的な半導体メーカーの設備投資拡大で10位から6位にランキングが上昇。村田製作所もAIサーバーやデータセンター関連の投資拡大に伴い、主力製品である「積層セラミックコンデンサー(MLCC)」への需要が急増し、業績の大幅な伸びが期待され、時価総額ランキングも34位から10位へ躍進している。
このようにランキングを目立ってアップさせているのは、AI・半導体特需とでも呼ぶべき世界動向に対応して、投資面や関連需要増で業績好調が見込まれている企業ばかりである。
■「中間財」が日本の躍進企業の特徴
図表1には、トップテン企業の変化を示したが、もう少し俯瞰的な見取り図を得るため、図表2には、最近の時価総額ランキングを50位まで掲げ、社名の横には半年前のランキングも記載した。
ランキングの上昇が目立つのは、上でふれた企業のほか、住友電気工業(44位→27位)やフジクラ(47位→33位)などである。
住友電気工業のランキング上昇の主な理由は、データセンター向けの光デバイスや産業用コネクターの需要が想定以上に伸びており、これに関連する電線株として、市場の強い買いを集めているからである。
フジクラの躍進の主な理由は、生成AIの普及に伴う北米などでの大規模データセンター向け光ファイバーケーブル・光通品部材の需要が急拡大しており、同社が圧倒的な技術力でその高い需要を取り込んでいるためである。
トップテン企業の変化と同様、世界的なAI・半導体特需に対応した動き、それも本体をなすAI事業や半導体そのものではなく、それと関連する設備投資向けの製品需要に応えた動きがメインである点が特徴となっている。

日本の産業構造じたいがそうした中間財の開発、生産に特化してきている結果と言えよう。なお、投資会社として世界動向に対応しているソフトバンクグループはこうした日本的特徴の中ではやや異色である点にも留意が必要である。
■世界の企業ランキングの激変ぶりは日本以上
日本の企業ランキングから世界の時価総額の企業ランキングに目を転じてみよう。
結論から言うと、トップ5企業のリストが不変なので、一見、日本より変動が小さいと誤解しがちであるが、さらに多くの企業の時価総額とその変化を見ると(図表3)、実は、日本以上にランキングに大きな変化が生じている。
世界の企業ランキングの1位は、AIの頭脳となる半導体をつくっているNVIDIA(5兆1140億ドル ※1ドル=約160円で計算すると5兆ドルは約800兆円)。以降、アップル、アルファベット(グーグルの持株会社)、マイクロソフト、アマゾン・ドット・コムと続き、7位のメタ(旧フェースブック)を含む「ITビッグ5」、すなわち米国で起業し、国際的に展開しているIT関連の巨人企業5社で占められている。半年前と順位は多少入れ替わるが5位までの構成メンバーは同じである。
■台湾TSMC、韓国のサムソン電子などが上昇
これら上位陣の牙城が崩れないのは、もともとの事業が安定しているというより、2年ほど前からトップに躍り出たNVIDIAは言わずもがなであるが、ITビッグ各社も生成AI対応の機能強化やデータセンター化を進めており、時代を先取りするような取り組みを果敢に進めているためである。
2026年の6月段階で順位を上昇させている企業として目立つのは、台湾のTSMC(6位)、韓国のサムソン電子(11位)、SKハイニックス(12位)、米国のマイクロン・テクノロジー(13位)、インテル(23位)、英国のARMホールディングス(33位)など半導体関連企業があげられる。
日本のソフトバンクグループが100位以下から48位に躍進しているのも半導体設計のARMホールディングスの親会社だからという側面が無視できない。背景としては、日本同様、AIブームによるデータセンターや高度なカスタム半導体の需要拡大が考えられる。
■この5年で企業ランキング順位の大きな変動
世界の企業ランキングの動きがいかに激しいかを知るために、図表4には、上位100社の中で時価総額の世界ランキングが半年で30位以上上昇した企業のリストを作成した。

2026年の前半と2025年の後半のリストを示したが、2025年の後半には6社だった躍進企業が2026年前半には12社と2倍に増えている。いかに、この半年の動きが急であるかがうかがわれる。
この半年の躍進企業の事業内容を見ると、すべて生成AIの波及に伴う半導体やデータセンターの関連製品の開発、製造、販売、投資企業である。
米国のマイクロン・テクノロジーと韓国のSKハイニックスに至っては、2025年の後半と今年前半の2期連続でそれぞれ30位以上順位を上昇させているというのだから驚く。この2社と韓国のサムスン電子の3社で世界のDRAMメモリー市場の大部分を占めている。
国別では米国企業がほとんどを占めている中で、韓国、日本、英国の企業が入っている点に気がつく。
■世界80社の中に日本企業は3社のみ
こうした世界的な大きな変動の中における1エピソードに過ぎない変化として、日本企業のランキング首位がトヨタ自動車からソフトバンクグループに交代した事態をとらえる必要がある。
日本企業の位置づけを探るため、図表3をもう一度振り返るとITビッグ5に続いて、台湾や韓国の半導体企業が上位に食い込むようになっており、それと比べると日本のソフトバンクグループが躍進したとはいえ、なお、48位に顔を出した程度にすぎない。
逆に、生産台数などで世界トップを誇る自動車企業であるトヨタ自動車は52位から70位へとランキングを低下させてしまっている。
日本におけるランキングの変化が世界経済の中における日本経済のダイナミックさをあらわしているとは到底言えない状況である。
また、なるほど、世界経済を騒がしている程度を測る指標としては時価総額ランキングには大きな意味があろうが、世界経済を実質担っている企業ランキングとしてはかなり問題がある点も忘れてはいけないだろう。
最後に、企業ランキングの指標としての時価総額が持つ意味について、考察して本稿を締めくくろう。

■ランキング指標は従業者数、売上高から時価総額へ
時価総額は企業の株価に発行済み株式数をかけて算出する。市場からの企業の評価を示す指標として投資家などから重視される。しかし、企業ランキングの指標としてこれほど重視されるようになったのはそれほど前からではない。
企業ランキングで重視される指標自体が時代とともに変遷してきている。
企業ランキングの指標として、かつて(私の若い頃など)は従業員数が重視された時代もあった。少人数だが多くの資金を動かす高収益の企業を大企業とは呼べず、全国に立地する工場に多くの従業者を抱えている企業こそが大企業と考えられていた。
生産年齢人口の比率が高かった高度成長の時期には国民経済の屋台骨をなす雇用先としてのスケールが重視されたのである。
一方、経済が成熟し消費生活の重要性に目が向けられるようになると、全国的なスーパーチェーンなど売上高規模が大きな企業ほど国民生活を支える企業として重視されるようになる。それとともに企業ランキングの指標として売上高が取り上げられることが多くなった。
さらに、グローバリゼーションが進み経済が一国内で完結せず、工場の海外移転や資本の海外進出が当たり前となり、同時に、経済の成熟化がさらに進展して、社会保障財源の重要性が増すにつれて、海外投資の収益も含めて、税収の源泉となる企業収益の大きな企業ほど、社会への貢献度が高い企業として大きな評価を得ることになる。
ただし、利益は毎期、毎年の変動が大きいので安定的な指標としては使いにくいという弱点を有し、指標としては難しい面もあった。
■企業ランキングとしての時価総額指標の特殊性
近年、企業の評価指標として定着してきたのは時価総額(発行株式数×株価)である。

高齢化の時代となり老後資金の運用が多くの国民にとって重要視されるにつれて、内外を含め企業価値を時価総額で測る方式への関心が高まったと言えよう。ただし、現状の企業価値より企業の将来価値予想で株価が決まる以上、現状であまり価値を生み出していない企業でも将来性への人気からステータスが高くなる場合がある点に注意が必要である。
そういう意味からは、時価総額トップだからといってソフトバンクグループがわが国を代表する企業とは呼びがたいのである。もっとも古風な企業ランキング指標である従業者数で比べると、企業単体ではソフトバンクグループは300人に満たないのに対して、トヨタ自動車は7万人を超えている。関連会社を含む連結ベースの従業員数でも6倍近い差がある。
なお、今後は、さらに、環境や持続可能性に関する評価、ジェンダー平等に関する評価、地域経済や地域文化への貢献評価などを組み入れた企業評価へと変化していく可能性もあろう。

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本川 裕(ほんかわ・ゆたか)

統計探偵/統計データ分析家

東京大学農学部卒。国民経済研究協会研究部長、常務理事を経て現在、アルファ社会科学主席研究員。暮らしから国際問題まで幅広いデータ満載のサイト「社会実情データ図録」を運営しながらネット連載や書籍を執筆。近著は『統計で問い直す はずれ値だらけの日本人』(星海社新書)。

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(統計探偵/統計データ分析家 本川 裕)
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