シンガポールで開かれたアジア安全保障会議(シャングリラ会合)での、小泉進次郎防衛大臣の対応に海外メディアが注目している。中国が繰り返す「新型軍国主義」批判への切り返しを、「中国への鋭い叱責」などと相次いで報じた。
小泉大臣の「覚醒」に世界も気づいた瞬間だった――。
■中国が仕掛けた「レッテル貼り」
国際的な安保会議の場で、日本の小泉進次郎防衛相の切れ味ある発言が目立った。
ことの発端は、2025年11月にさかのぼる。高市早苗首相が、中国が台湾を武力で奪おうとすれば日本が軍事的に関与しうると示唆した「存立危機事態発言」を機に、日中関係は急速に冷え込んだ。今年5月になると中国外務省は、アジア太平洋諸国に対し、日本の「新型軍国主義の無謀な行動」に警戒し、共同で対抗するよう呼びかける。
この応酬が国際的な舞台へ持ち込まれたのが、5月29日から31日までシンガポールで開かれた第23回アジア安全保障会議、通称シャングリラ会合だった。2002年にIISS(英国際戦略研究所)が創設した、アジア有数の安全保障対話の舞台であり、各国の国防担当の閣僚や高官、専門家が一堂に会して地域の課題を論じる場である。壇上の一言が瞬く間に国際的な注目を集めることも珍しくない。
口火を切ったのは、中国側だった。会合2日目の5月30日、特別分科会「戦略的安定への脅威の管理」に登壇した中国人民解放軍国防大学教授の孟祥青少将が、矛先を日本へ向けた。
孟氏は、連合国が日本の戦争指導者を裁いた極東国際軍事裁判(東京裁判)の開廷から今年で80年が経つと切り出し、「戦争犯罪を公然と美化し」「侵略の判決を覆そうとする」勢力があると指摘。そのうえで、聴衆にこう問いかけた。

「軍国主義の有毒な遺産を徹底的に清算していない国に、国際的な防衛協力を語る資格があるのか。とりわけ、自らが侵略したアジア諸国の信頼を勝ち得ることができるのか。私は深く疑う」
名指しこそしないが、「軍国主義の遺産を清算していない国」や「自らが侵略したアジア諸国」という言い回しから、矛先が日本に向いていることは明白だった。
■海外メディアが注目した「小泉大臣の問いかけ」
これに真っ向から応じたのが、翌31日の小泉氏だった。
最終日のこの日、第5全体会議「グローバル競争下の地域的緊張の管理」の壇上に立った小泉氏は、中国が掲げる「新型軍国主義」のレッテルを正面から否定する。
小泉氏は演説の中ほどで、「『新型軍国主義(new militarism)』という言葉を耳にした方もいるだろう。だが、それは事実とかけ離れている」と切り出した。そのうえで、こう問いかける。
考えてみてほしい。核兵器と戦略爆撃機を大量に抱える国がある。日本はそのどちらも持たない。それなのに日本が「新型軍国主義」と呼ばれる。
おかしくないか、と。ここでも中国を名指しはしないが、矛先がどこへ向いているかは明白だった。
小泉氏はさらに、第二次大戦後の日本が国連憲章をはじめ国際法を一貫して尊重し、自由で開かれた国際秩序を支えてきたと、事実を示しながら努めて論理的に反論。平和国家としての歩みは地域と国際社会から評価されてきたとし、「この事実は、虚偽の主張によって揺らぐことはない。なぜなら、それは事実だからだ」と述べた。
加えて、国家間に摩擦が生じたときに必要なのは「相手のいない場で根拠のない主張を繰り返すこと」ではなく「直接の率直な対話」だと牽制。「日本の対話の扉は常に開かれている」と結んだ。孟氏が前日に投げた問いに、間接的に、しかし明確に答え返した格好となった。
■中国は「歴史カード」を持ち出したが…
だが、中国側は国際社会からの参加者に向けた日本の印象工作を、演説だけで終わらせるつもりはなかった。
続く質疑応答セッションで、中国側は歴史問題を持ち出す。質問に立ったのは、同じく人民解放軍国防大学教授で上級大佐の沈志雄氏だ。
沈氏は、日本のある女性指導者(高市首相を指すとみられる)が先ごろオーストラリア戦争記念館で日本の軍国主義に倒れた豪州兵に哀悼を示した一方、アジアの被害国は日本から謝罪も反省の言葉も受け取っていないと指摘。

中国・韓国・東南アジアの被害国の懸念にも、日本政府は同じく真摯に応じる用意があるのかと問いただし、論点を歴史問題へ引き戻して日本を守勢に立たせようとした。
応じた小泉氏は、「ここからが難しいパートだ」と前置きしたうえで、日本の防衛政策は特定の国を脅威と名指しして対決する発想ではないと説明。
そのまま論点を「十分な透明性を欠いたまま急速に軍事能力を拡大する」中国自身の姿勢へと引き寄せ、それこそが日本と国際社会の懸念なのだと述べた。難しい問題から目を背けず対話を重ねるべきだとし、ここでも「日本の扉は常に開いている」と結ぶ。
■「鮮やかな反撃」と絶賛
小泉氏がここで鋭く突いたのが、中国側の閣僚級人物らが会合に一切姿を見せなかった事実だ。国防相の董軍氏は2年連続で欠席し、代わりに送られたのは孟氏や沈氏ら軍人・学者からなる「格下の代表団」である。閣僚をリスクにさらすことなく、非公式格の代表を送り込んで攻撃役を担わせる。そうやって自国の閣僚に批判が及ぶのを避けながら、日本を非難してみせる中国の手口を、対話の重要性を説くことで暗に槍玉に挙げた。
中国側が用意した直接の謝罪要求という土俵に、小泉氏が深く立ち入ることは最後までなかった。こうして小泉氏は、孟氏が口火を切り、沈氏が質疑で歴史問題を突きつけた中国側の二段構えの批判を、いずれも論点を中国自身の姿勢へと転じてかわしたのである。
中国が突きつけた「新型軍国主義」のレッテルを、逆に問い返してみせた小泉氏。
海外メディアが注目したのは、その切り返しの鋭さと、批判の矛先を中国側に向け返す手際の良さだった。
各紙はこれを、鮮やかな反撃として報じた。
とりわけ強い言葉で評価したのが、米英の主要メディアだった。米ブルームバーグは小泉氏の反論を、「中国への鋭い叱責(a sharp rebuke against Beijing)」と評する。
英BBCも同じく「これまでで最も鋭い部類(some of the most pointed yet from Tokyo)」の発言と位置づけ、日本側がこれまで中国の批判に示してきた反応の中でも、際立って踏み込んだものだと評価した。
■鮮烈な対中姿勢を好意的に報道
切り返しの手腕を、より大きく扱ったのがAP通信だ。小泉氏が「中国がそう非難するとは皮肉だと一蹴した(scoffed at that accusation as ironic, coming from China)」と表現。核兵器も戦略爆撃機も大量に抱える当の中国が、よりによってそのどちらも持たない日本を「軍国主義」と呼ぶとはいかに、というわけだ。
米ニューズウィークの伝えぶりでは、小泉氏の毅然とした構えがさらに際立つ。同誌は、小泉氏が中国の「新型軍国主義」という非難を「軽くいなした(shrugged off)」と報じた。
さらに記事は、中国自身の国防予算(2026年で公称2800億ドル、米国に次ぐ世界第2位)と、その軍拡の意図の不透明さへ話を転じる際、小泉氏は「歯に衣着せなかった(did not mince words)」と評している。守勢に終始することなく、相手の実情へ照準を合わせ直す。その鮮やかな転換を、同誌は的確に捉えた。

ほか、多くのメディアが日本側の鮮烈な対中姿勢を取りあげている。米国防専門のブレーキング・ディフェンスは、小泉氏が中国の非難を「はねつけた(rebuffs)」「押し返した(pushed back)」と報じる。
AFP通信に至っては、見出しで「日本の防衛トップが安保会議で中国に一撃(Japan defense chief takes swipe at China at security meet)」と掲げ、本文でも小泉氏が中国の批判に「反撃した(hit back)」と伝えた。
■小泉大臣に「歴史カード」は通用しなかった
そもそも、中国が質疑で突きつけた批判はある一つの前提に立ったものだ。「日本はアジアの被害国に謝罪していない」との主張だが、はたして事実なのか。
英BBCは、戦時中の行為に関する謝罪の有無は長年、日中関係の火種であったと言及。そのうえで同局が指摘するのは、ほかならぬ小泉氏の父・小泉純一郎元首相が、首相在任中に複数回、謝罪を重ねてきたという経緯である。
とりわけ2005年、ジャカルタで開かれたアジア・アフリカ首脳会議で、純一郎氏は植民地支配と侵略が「多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に多大な損害と苦痛を与えた」と認めた。
米NBCニュースなど海外でも報じられているように、小泉純一郎氏は「痛切な反省」と「心からのお詫び」を表明している。沈氏がシャングリラ会合で槍玉に挙げた「謝罪していない」という前提は、ここですでに崩れている。
そして、アジアの国からは、日本の立場を援護するかのように、中国側の前提のほころびを鋭く突く発言が飛び出した。中国がまさに「被害国」として連帯を呼びかけた相手の一つ、フィリピンである。

■日本を「世界の模範的市民」と呼んだ国防相も
ニューズウィークによると、ギルベルト・テオドロ国防相は記者団を集めた非公開の取材の場で、中国の歴史攻撃を「ばかげている(ludicrous)」と一蹴。それは「ほかの考え方を耳にする自由がない(who don't have the freedom to listen to other points of view)」中国国内の聴衆に向けたものにすぎないと断じた。
そのうえでテオドロ氏は、こう語っている。「日本は、口先だけの言葉よりも、前向きな行動と善意によって、より多くの謝罪を行ってきた」。テオドロ氏は、日本を「世界の模範的市民(a model citizen of the world)」とまで呼んだ。中国が連帯を期待した当の国が、逆に日本の弁護に回ったのである。
専門家の見立ても、これと同調する。同誌に対し、シャングリラ会合を主催するIISSにおいて日本部長を務めるロバート・ウォード氏は、日本が中国を警戒する周辺国とうまく共通の地盤を見いだしていると分析。中国を警戒する近隣国には、日本の主張を受け入れる素地がすでにあると読み解いている。
■対照的な中国国営メディアの報道
一方で中国メディアは、同じ質疑応答をまったく逆向きのストーリーとして報じた。世界の主要メディアがこぞって小泉氏の切り返しを称賛するなか、中国国営メディアの論調は独特だ。
その筆頭が、国営放送のCGTNだ。特別コメンテーターによる寄稿を通じ、戦時中の侵略をめぐる責任を問われた小泉氏は、明確な答えを示さないまま、議論を中国の「軍事的透明性の欠如」へとすり替えた、と論じた。
同局は、5月31日の演説にも独自の視点を持ち込む。小泉氏はいわゆる「自由で開かれたインド太平洋」の改訂版を打ち出し、地域の防衛で日本が「新たな役割」を担うと宣言した。同局はそれを、あくまで日本の防衛面での役割の拡大を前面に押し出す文脈で報じたのだ。
中国共産党系のグローバル・タイムズは、軍事専門家の張軍社氏にコメントを頼った。「日本はアジアの被害者にいつ謝罪するのか?」と見出しを打った同記事で張氏は、日本が謝罪を拒み深い反省を欠いてきたことがアジア諸国の人々を怒らせてきたとの見解を表明。近年では目立って軍事力を増強しており、軍国主義が復活するのではないかと近隣諸国は脅威を感じている、と主張した。
だが、こうして日本が逃げたと報じたのは、中国国営メディアにほぼ限られる。国際的には孤立した論調となっており、小泉氏の発言が中国の急所を突いたことを、かえって浮き彫りにしている。
■海外メディアが“覚醒”に気付いた
一連の応酬により、国内では小泉氏への評価が急上昇している。
昨年10月の自民党総裁選では、「まだ早い」とも言われた小泉氏。結果は2位に終わった。だが、注目度の高い防衛相のポストに起用されたことで、小泉氏は一夜にしてその人物像を塗り替えた、と米外交専門誌ディプロマットは伝える。
記事の見出しはズバリ、「小泉進次郎の覚醒(The Awakening of Koizumi Shinjiro)」。かつて小泉氏を批判していた政敵でさえ、とりわけネット世論に敏感な層を中心に、この空気の変化を鋭く感じ取っていると同誌は読み解く。
国民民主党幹事長の榛葉賀津也氏も、小泉氏の成長を感じ取った人物の一人だ。連日の記者会見がネットで人気を呼ぶ中、彼も小泉氏を「覚醒した男」だと感じたと語り、海上自衛隊についての知見もあわせて称賛した。
保守系言論人の櫻井よしこ氏も自身の番組で、小泉氏が防衛相就任以来「覚醒」し別人になったと評し、本人も「そう言われることが多い」と認めている。
同誌は小泉氏について、米ワシントンのシンクタンクの研究員としてキャリアを踏み出したと紹介。しかも出身の選挙区には、海上自衛隊だけでなく、在日米海軍の中でも中核的な存在である米第7艦隊が存在する、と続ける。
こうして小泉氏は、地元での活動を通じて安全保障の実情を肌で感じ取ることで、防衛相に求められる言葉遣いと立ち居振る舞いを早くから身に付けていた。「覚醒」と呼ばれる今よりはるか前に、その下地を身につけていたのである。
防衛政策を前面に掲げる高市政権の方針と、ネット世論が国政を左右する新たなメディア環境。小泉氏は、この2つに後押しされる形で、新たな評価を定着させつつある。
■日米同盟をより強固にした“立ち回り”
小泉氏の鋭い切り返しが国内のネットで喝采を浴びたのには、もう一つ理由がある。会合で見せた、日米の結束を可視化する立ち回りだ。
小泉氏自身が登壇する前日の、5月30日。ヘグセス米国防長官がシャングリラ会合本会議での演説を終えると、小泉氏は質疑で挙手し、会場から問いを投げた。
米海軍協会系のUSNIニュースによれば、小泉氏は「インド太平洋へのアメリカの関与は揺るがないと感じている」としつつ、一部の国はそれを過小評価していると指摘し、同地域の各国が安心できるようなメッセージをヘグセス氏に求めた。
これにヘグセス氏は、アメリカの国家防衛戦略の柱には本土防衛だけでなく「インド太平洋における対中抑止」「同盟国との負担分担」「防衛産業の強化」が含まれていると応じ、アメリカがこの地域に背を向けることはないと請け合った。
国内のネットでも、この公開質問は、日米の固い結束を世界にアピールした好手として受け止められた。中国が日本を「孤立した軍国主義国家」に仕立てようとしたまさにその場で、日本は同盟国アメリカとの一体ぶりを自然に演出した形だ。
中国が貼ろうとした「新型軍国主義」のレッテルとは裏腹に、日本は日米同盟の頼れるパートナーとして、アメリカとともに地域の安定を支える立場にある。小泉氏はシャングリラ会合を通じて、その事実を世界に示してみせた。

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青葉 やまと(あおば・やまと)

フリーライター・翻訳者

1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。

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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)
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