後悔のない人生を送るにはどうすればいいのか。ホスピス医の小澤竹俊さんは「富や名誉、お金をたくさん手に入れても、死の直前に後悔する人はたくさんいる。
本当の幸せは、弱く不完全な自分を認めることでしか手に入らないのだろう」という――。
※本稿は、小澤竹俊『自分を否定しない習慣』(アスコム)の一部を再編集したものです。
■「自分を否定する気持ち」を手放す方法
解決できない苦しみを抱え、自分を否定する気持ちにとらわれているとき、その気持ちを手放すためにまず必要なのは、弱い自分、何もできない自分を認め、そんな自分を支えてくれている存在に気づくことです。
自分を支えてくれている存在とは、自分のことを「Good Enough」(それで良い)と言ってくれる存在のことである、といってもいいかもしれません。
支えてくれている存在に気づくことができて初めて、人は自分がかけがえのない存在であることを知り、自分を肯定し、心の穏やかさを得られるようになります。
そして人は、自分が解決できない苦しみを抱えていること、何もできない弱い人間であることを認めることができて初めて、支えてくれている存在に気づくことができるのです。

■末期がんになった40代女性の苦悩
以前、40代の女性の患者さんに関わらせていただいたことがあります。
末期のがんであったその女性は、最初のうち、常に「結婚し、子どもが生まれ、これからどんどん幸せになろうと思っていたのに、なぜ私だけが病気にならなければいけないのか」「私が、どんな悪いことをしたのか」という思いに、非常に苦しんでいました。
私たちは、反復と沈黙を繰り返し、そうした彼女の言葉を否定せず、徹底的に聴きました。
そして、あるタイミングで、「初めて病気をしたときに、どんなことを感じましたか」「どんなつらいこと、苦しいことがありましたか」と尋ねたのです。
彼女からは「抗がん剤で副作用がひどく、口内炎で食事がとれなかったり、体がだるく、手足がしびれて家事ができなかったことがつらかったです」という答えが返ってきました。
そこで私が、「苦しかったときに、あなたが頑張れたのはなぜですか」と尋ねると、彼女は「家族がいたからです」と答えました。

■支えてくれている存在に気づいたとき、人は変わり始める
彼女が変わり始めたのは、その瞬間からでした。
抗がん剤の副作用の苦しみを乗り越えることができたのは、夫や子どもがいてくれたからであり、今までの人生も、家族や周りの人たちに支えられていたからこそ、自分は生きてこられたのだということに気づいたのです。
「どんなお子さんですか?」という私の問いに「どんなに私がつらくても応援してくれる、とてもかわいくて優しい子どもたちなんです」と答える彼女の顔は、それまで見たことがないくらい、明るく輝いていました。
この患者さんは、私たちに苦しみを伝え続ける中で、「もうすぐ、家族を残してこの世を去らなければいけない」という、自分ではどうにもならない苦しみを抱えていることを、少しずつ受け入れていきました。
そのうえで、家族や周りの人が自分を支えてくれているということに気づき、そんな自分自身を肯定し、心の穏やかさを取り戻していったのです。
■過去の苦しかった経験を思い出してみよう
同じように、私は、多くの患者さんが自分の支えに気づき、自分を否定する気持ちを手放していくのを目の当たりにしてきました。

今、健康や仕事、お金、人間関係などで何らかの苦しみを抱え、自分を否定してしまっている人は、つらいかもしれませんが、過去の苦しかった経験を思い出してみてください。
そして、なぜあなたがその苦しみを乗り越えることができたのか、なぜ今まで生きてこられたのかを考えてみてください。
身のまわりの人、すでに亡くなった人、ペット、映画や音楽などの創作物など、何かしらあなたの支えになってくれた存在があったのではないでしょうか?
そうした存在に気がついたとき、あなたも解決できない苦しみから生まれる、自分を否定する気持ちを乗り越えるきっかけがつかめるかもしれません。
■不完全なありのままの自分を受け入れる勇気
前項で、解決できない苦しみを抱え、自分を否定する気持ちを手放すためには、自分を支えてくれる存在に気づくことが大事であり、そのためには、弱い自分を認めることが大事であるとお話ししました。
苦しみを抱えたとき、自分や他者をいたずらに責めるのではなく、頑張ったけれど失敗してしまった自分、本当は完全ではない自分、弱さを抱えている自分を、まずは認めてあげる。
それは、自分を支えてくれる存在に気づく第一歩であり、ありのままの自分の姿で生きられるようになるための第一歩であり、どんなときでも穏やかにしなやかに、前を向いて生きられるようになるための第一歩であると、私は思います。

ただ、多くの人にとって、弱く不完全な自分を認め、受け入れるのは、勇気がいることです。特に弱いとき、苦しみを抱えているときほど、人はなかなか自分の弱さを受け入れることができません。
それによって自分の価値を自分で信じられなくなり、「自分は社会の役に立たない人間だ」という思いに苛さいなまれることを、心のどこかで恐れているからです。
■強いところも、弱いところも自分自身
今の社会では、至るところで競争が行われ、「競争に勝つこと」「強いこと」「富や名誉、お金など、たくさんのものを所有すること」を幸せだと思っている人は少なくありません。
あるいは、「社会のために働き、社会の役に立ってこそ、生きる意味、存在する意味がある」と思っている人もたくさんいるでしょう。
そんな社会の中で、人が自分の弱さを認めること、弱さを得た人が自己肯定感を保つことは、非常に困難です。

でも、先ほど述べたような恐れは、本当は必要ありません。不完全でも、たとえ何もできなくても、人は存在しているだけで十分に価値があり、生きている意味があるのです。
勇気を出して自分の弱さを認め、受け入れ、そんな自分を支えてくれている存在に気づくことができれば、あるがままの自分に価値があり、生きている意味があることを実感できるはずです。
強いところも弱いところもみんなひっくるめて、あなた自身であり、それらすべてがあなたらしさを形づくっています。
弱いところもきちんと認め、受け入れて初めて、あなたは誰かの真似ではない、社会の価値観をただなぞっただけではない、真にあなたらしい人生、本来の自分の人生を生きられるようになるのです。
■ありのままの自分で生きることは、欠点を放置することではない
もっとも、一口に「弱さ」といっても、さまざまな種類があります。

お金や地位、名誉、才能などの、目に見えるわかりやすい強さや力を持ち合わせていないこと、老いや病気などによって、それまで持っていた強さを失い、自分一人でできることが少なくなっていくことも弱さですが、たとえば「すぐ人のせいにしてしまう」「嫌なことから逃げてしまう」「ミスを指摘されると怒ってしまう」「自分より立場の弱い相手にきつくあたってしまう」「人の話を聞かない」「自分のわがままを優先してしまう」など、私たち一人ひとりが持つ狡(ずる)さ、自分勝手さなどの欠点も、弱さだといえます。
近年、「あなたはあなたのままでいい」という言葉を、よく耳にします。
この言葉は間違いではないのですが、「欠点という弱さを、ただ放置してもいい」ということではないと、私は思っています。
欠点という弱さについて、まずは勇気を出してしっかりと見つめ、「自分には、こうした狡さや自分勝手さがある」と認めることは必要です。決して自分を責めるのではなく、ただ自分が完全な人間ではないこと、あるいは苦しみの原因が他者ではなく、自分の弱さにあることを静かに受け入れる。
それができれば、きっと心が穏やかになり、苦しみも和らぐでしょう。しかし、そのうえで、変えられるものは変えていく向上心を持つことが大事だと、私は思います。
■克服した弱さは、いつか自分らしさと自信に変わる
先ほど、「強いところも弱いところもみんなひっくるめて、あなた自身であり、それらすべてがあなたらしさを形づくっています」と書きましたが、もし弱さのうち、変えられるものを変えていったらどうなるのか。
それもまた、「あなたらしさ」の非常に重要なパーツになりますし、あなたに自信と自己肯定感を与えてくれるのではないかと思います。
みなさん、ぜひ一度、過去を振り返って考えてみてください。今までに、努力して克服してきた弱さはありませんか? どんなささいなことでもかまいません。
たとえば、朝起きるのが苦手だったけれど、「このままじゃいけない」と一念発起して自分なりに努力し、今では早起きが気持ちいいと感じられるようになった。人見知りで、人とのコミュニケーションが苦手だったけれど、今では初対面の人とも以前より気軽に話せるようになった。怒りっぽい性格だったけれど、信頼できる相手からのアドバイスなどを参考に、今では以前より感情をコントロールできるようになった。
こんな具合に、自分の弱さに向き合い、克服してきた経験が、多かれ少なかれ誰にでもあるのではないかと思います。
過去に克服してきた弱さは、今、あなたの中でどうなっていますか? それは、自信をもって「私です」と言えるような、あなたという人間の大事な一部分になっていませんか?
ですから、まずはきちんと自分の弱さを認め、受け入れること。

人の手なども借りながら、変えられる部分は変えていくこと。
それが、あなたらしさと自信を、あなたに与えてくれるはずです。
■自分の弱さを認めることが「スタート地点」
ここでもう一つお伝えしておきたいのが、「他人にはあなたを変えられない」ということです。人が、他人を変えるのは大変難しいことです。
人はそれぞれ、異なる性格や価値観、独立した意思を持っているからです。あなたを変えることができるのは、あなただけなのです。いくら人から欠点を指摘されても、注意されても、あなた自身が自分の弱さに気づき、きちんと認めていなければ、とても変えようとは思わないでしょう。
一方で、人には生まれながらにして、「昨日よりも今日、今日よりも明日はより良い自分になりたい」という希望があると、私は思っています。
もちろん、ときにはその希望が現実との開きを生み、苦しみを生むことにもなります。「すべての弱さを克服しなければ」「絶対により良い自分にならなければ」と考えると、それはそれで、自分自身を必要以上に責めたり、追い詰めたりすることになってしまいますから、どうしても変えられない何かがあるときは、そんな自分を認め、静かに受け入れる必要があります。
しかし、変えることができる弱さがあれば、変えていく。それが、より誠実に、より幸せに、あなたらしい人生を生きていくことにつながると、私は思います。
そして、自分の弱さを認めることこそが、そのスタート地点となるのです。

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小澤 竹俊(おざわ・たけとし)

医師

1963年東京生まれ。87年東京慈恵会医科大学医学部医学科卒業。91年山形大学大学院医学研究科医学専攻博士課程修了。救命救急センター、農村医療に従事した後、94年より横浜甦生病院ホスピス病棟に務め、病棟長となる。2006年めぐみ在宅クリニックを開院。これまでに3800人以上の患者さんを看取ってきた。医療者や介護士の人材育成のために、15年に一般社団法人エンドオブライフ・ケア協会を設立。著書に『今日が人生最後の日だと思って生きなさい』(アスコム)がある。

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(医師 小澤 竹俊)