※本稿は、小山浩子『「賢い脳」は脂が9割』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■やる気も、幸福感も「タンパク質」から
タンパク質は体内でアミノ酸に分解され、脳内で働く神経伝達物質の素になります。神経伝達物質には、やる気を出す「ドーパミン」や幸せを感じる「セロトニン」など、私たちの感情に関わってくるものがたくさんあります。
つまり、私たちの感情はある程度、食べたものに影響を受けているということ。タンパク源である魚や肉や卵、神経伝達物質をつくる過程で必要なミネラルやビタミンが不足すると、心が不安定になるのは必然といえます。
実際に、魚や乳製品、野菜や果物など健康的な食品を摂取する程度が低く、スナックやファストフードなど不健康な食事の程度が高いほど、うつ病のリスクが高まるといった研究結果について、国内外で複数の報告が出ています。
■「感情コントロール」の舵を握る細菌
また、食べ物が心に影響することを示す理由として、「腸脳相関」があります。腸と脳には密接な関わりがあり、互いに強く影響し合っていることを示す言葉。「緊張するとおなかがいたくなる」というのが、まさに、それにあたります。
腸にも脳と同じようにさまざまな種類の神経細胞が存在しており、脳と情報を密にやりとりしているのです。
最近の研究では、子どもの腸の状態が感情のコントロールと関係していることも分かってきました。
同時に、感情制御が困難な子どもの腸内細菌叢には、体の炎症に関係する腸内細菌が多いことも分かりました。成人の研究では、炎症に関係する腸内細菌の多さは、うつや不安障害と関連することも指摘されています。食べ物は体だけでなく、心もつくっているということが、よく分かりますね。
■14年で14倍…急増する発達障害児
いつもぼんやりしている。落ち着きがなくて、机に座っていられない。すぐにかんしゃくを起こす……。
今、そんな気になる行動を起こす子どもが増えているといいます。文部科学省の調査によれば、2006年には7000人弱だった発達障害児が、2020年には9万人を超えたことが分かりました。つまり、14年間で14倍に急増したということです。
しかし、本書の監修者である小児科医の成田奈緒子先生は「そのうちの多くの子どもは発達障害ではなく、“発達障害もどき”かもしれない」と指摘されています。臨床の現場でそうした疑いのある子どもたちを診ると、発達障害の診断が付かない例がたくさんあるのだとか。
生まれてすぐは、まず昼行性の動物として生きる基盤となる脳を育てるために、寝て、起きて、ごはんを食べるといった毎日の生活こそが一番大切です。この「からだの脳」が育つことではじめて、その後の理性や思考を司る「おりこうさんの脳」が育つ。つまり、「からだの脳」が未熟だと、感情コントロールも勉強をするための集中力も育たないというのです。
■脳はいつでも成長できる
しっかり寝て起きないと健全な食欲が起こらない。また、睡眠不足のときに怒りっぽくなったりぼんやりしてしまうこともよくあります。小さな子どもなら、なおさらでしょう。「子どもがどうも不安定だな?」と感じたときは、まずは基本的な生活を見直すことが、解決の早道となるかもしれません。
私がPTA主催の講演会などでこうしたお話をすると、「これまで忙しくて子どもに栄養価の高い食事を食べさせてこなかった」「なかなか成績が上がらないのは私のせいでは」と泣き出すお母さまがいました。そして「今からでも間に合いますか」と尋ねてこられます。
私はいつも、「大丈夫です! 脳はいつでも成長できる。これからしっかり勉強できる脳に育ちます」とお答えしています。
成長過程にある子どもの脳は悪い影響も受け止めやすいですが、よい影響もしっかり受けてくれるもの。よく寝て、起きて、食事をしっかりとれば、子どもの脳は、明日からみるみるよい方向へ変わってくれるはずです。
■とり過ぎると「脳が不安定」になる食べ物
「過剰にとり過ぎると子どもの精神が不安定になる」ある食べ物について、具体的にお伝えしていきましょう。
それは、お砂糖です。特に、ブドウ糖に近い純粋な白砂糖をとり過ぎることは、育脳の大きな障害となってしまうのです。その理由は、主にふたつあります。
ひとつは、血糖値を急激に上げてしまうこと。脳を動かすためには、ブドウ糖が安定してゆっくりと送り込まれるのが理想です。一気に大量に送り込まれると血液中にあふれ返り、血糖値が急激に上がってしまうからです。すると、血糖値を下げるためのホルモン「インシュリン」が一気に放出され、今度は血糖値が急降下することに。この血糖値の急降下が起こることで、集中力や記憶力は低下し、子どもは勉強どころではなくなってしまうのです。
もうひとつは、ビタミン、ミネラルを無駄に失ってしまうこと。
きび砂糖やてんさい糖、オリゴ糖などは、どれも吸収に時間がかかる甘味料なので、血糖値の上昇を緩やかにしてくれます。
■「カロリーゼロ」なら問題ないのか
市販のおやつには、びっくりするほど大量の砂糖が使われているものがたくさんあります。板チョコ1枚で約20g、ショートケーキ1個には約30gの砂糖が含まれています。なかでも、注意すべきは清涼飲料水。
図表2にどれぐらいの砂糖の量が含まれているのか調べる方法を紹介しました。いつも飲んでいるジュースにどれぐらいの砂糖が入っているか、お子さんと一緒に計算してみてください。
最近よく目にする「カロリーゼロ」商品は、砂糖を使っていないのにしっかり甘味があります。それは何かというと、科学的な調味料。体内で吸収されずに排出されるタイプの甘味料は、他の栄養素の吸収を遮断するともいわれています。
また、一部の国ではすでに添加が禁止されているアスパルテームやアセスルファムKといった甘味料が、日本ではまだたくさん使われています。
やはり、成長過程にある子どもの口に入れるのは、避けたほうが無難でしょう。
■「添加物」をなるべく避けてほしい理由
実際に、子どもに添加物を与えるとどうなるのか――イギリスのサウサンプトン大学が2007年に発表した研究があります。
3歳および8~9歳の子ども計297人を対象に行った研究によれば、合成着色料と保存料を含んだジュースを飲むグループと、添加物フリーのジュースを飲むグループに分け6週間後に調査、分析したところ、前者のグループの子どもは、後者のグループに比べ注意が散漫になるなどの多動の症状が発生することが確認されたのです。
この研究は医学雑誌『ランセット』に掲載され、大きな話題となりました。添加物と多動性行動の関連性が疑われるのだとしたら、やはり、脳への影響が心配されます。口にしたものの影響を受けやすい、発達途上の子どもの脳のためにも、添加物はなるべく避けていきましょう。
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小山 浩子(こやま・ひろこ)
料理研究家
大手食品メーカー勤務を経て2003年フリーに。これまでに指導した生徒は7万人以上に及ぶ。子どもの脳の成長をサポートする「育脳ごはん」を提唱。NHKをはじめ多くのメディアや講演会、著書で、簡単かつ時短の工夫をこらしたレシピとともに、脳のために重要な栄養について伝える活動も展開中。『頭のいい子に育つ育脳レシピ』(日東書院本社)、『子どもの脳は、「朝ごはん」で決まる!』(小学館)、『目からウロコのおいしい減塩 乳和食』(社会保険出版社・2014年グルマン世界料理本大賞イノベイティブ部門世界第2位)、『やさしい、おいしい はじめよう乳和食』(日本実業出版社・2019年同大賞チーズ&ミルク部門世界第2位)など、著書多数。
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(料理研究家 小山 浩子)