※本稿は、アルテイシア『だったら、あなたもフェミニストじゃない?』(講談社)の一部を再編集したものです。
■話し合うのは苦手だった
【アルテイシア(以下、アル)】夫さんとはなんでも話し合う関係ですか?
【渡辺満里奈(以下、渡辺)】もともと私は意見を表明することも話し合うことも苦手だったんですよ。
嫌なことがあると溜めてしまって、「気づいてよ」と不機嫌な態度になってたんです。
でも結婚当初に夫が「何を考えてるかわからないのは気持ち悪いし、話し合わないと何も解決しない。もし意見が合わなくてケンカしても、たとえ時間がかかっても、ちゃんと話をしよう。でも次の日まで持ち越さないように夜は『おやすみ』と言って寝ようね」と言ってくれて。
それから「何かあるなら言ってよ」と言われながら、話す訓練をしてきました。今は私も図太くなって主張できるようになったけど、その土台は夫が作ってくれたものです。
■パートナーは「病める時」ベースで考えた方がいい
【アル】うちも結婚当初に夫が「お互い人類なんだからちゃんと言語でコミュニケーションしよう」と言ってきて、こんな男もいるんだ、ラピュタは本当にあったんだ……とパズー顔になりました(笑)。それから「察して禁止令」を発布して、なんでも話し合うようにしてます。
ただ双方に話し合う姿勢がないと対話はできないですよね。夫と話し合おうとしても無視されるとか、逆切れされるとか、野生のゴリラより話が通じないとか、女友達からよく聞きます。
これからパートナーを見つけたい人は対話できるかどうか、耳が痛い話についても話し合えるかを確かめてほしい。それと「病める時」ベースで考えた方がいいと思う。健やかな時は仲良くて当たり前なので、調子が悪い時に支え合えるかを重視した方がいい。満里奈さんは2019年に夫さんが体調不良で一度休業されてますよね。
■まさかうちの夫が、と驚いた
【渡辺】まさかうちの夫が、と驚きました。「仕事なんかやめていいよ」と伝えたけど、夫は「俺はがんばりたい」と。「身体を壊してまでする仕事なんかないし、家だって売ればいい、なんとか生きていけるから」と声をかけました。
でも、最初は不安でしかたなかったです。もし夫がまったく仕事できなくなって、私が看病しながら働くことになったらどうなるんだろう……と怖くて涙を流す日々でした。その後、友達やスタッフに自分の状況や本音を泣きながら話したら「よし! がんばらなきゃ」という気持ちが湧いてきたんです。
また、その時に夫の幼少期の経験とか、つらかったことや悲しかったこととか、今まで聞いたことなかったこともたくさん話しました。夫は「泣いちゃいけない」「弱音を吐いちゃいけない」というタイプだったけど、あの時に肩の荷が降りたんじゃないかと。
【アル】私も夫の調子が悪かった時「仕事やめたら?」と言ったら「そうはいかない」と返されてびっくりしました。意外と普通の人なんやなって(笑)。でもやめてもいいと思ったら気が楽になったらしく「クソ上司の体中の関節をバラバラにしてやる」「ええぞええぞ」とか言うてるうち元気になりました。異動になって給料は減ったみたいだけど、夫の健康の方がずっと大切ですから。
■もっと「自分ファースト」に生きた方がいい
【渡辺】夫はいつも家族最優先で自分のことは二の次だったので「まずは自分を大切にしてあげた方がいいよ」と話したんです。でも夫は「自分を大切にするってどういうこと? 家族が幸せなら俺も幸せだよ」と言ってて……。
自分を大切にすることがどういうことか、夫にわかってほしいし、私の人生のテーマでもあります。子どもたちも自分を大切にできる人になってほしい。自分自身を心から大切にできれば、誰かを大切にすることができると思うから。
【アル】自分のことを、自分の大切な家族や友人のように扱ってほしいですよね。
日本人は今の20倍ワガママになるぐらいがちょうどいいと思う。
それは自分勝手って意味じゃなく、自分の感情や欲望を理解して大切にするってこと。あと自分の船の船長は自分、自分の人生の舵は自分で握るって覚悟を持つこと。他人のことばかり気にしてたら船は沈んでしまうから。
■“弱さ”を開示してつながる
【渡辺】自分自身と向き合うのが苦手な人は多いかもしれませんね。
【アル】男性は特に自分の感情を言語化するのが苦手ですよね。愚痴や弱音を吐いちゃダメ、自分で解決しなきゃって抱え込んでしまう男性も多い。もっと“弱さ”を開示してつながることを学んでほしいです。
夫も昔は「男は涙を見せぬもの」的な感じだったけど、今はのびのびと泣くようになりました。加齢による涙腺ガバガバ現象か、フェミニストと暮らすうちに呪いが解けたのかわからないけど、最近はぬいぐるみと寝ていて夫がどんどん可愛くなってます(笑)。
【渡辺】うちの夫もどんどん柔らかくなっていて、逆に私はどんどん強くなっていて、ちょうどいいバランスなのかも(笑)。
■今もある「何も知らない芸能人のくせに」
【アル】日本では芸能人が「投票に行きました」と投稿するだけでクソリプが湧いて、民主主義の意味すら知らないマンが多すぎますよ。
【渡辺】私も政治や社会問題について投稿すると「スポンサーがいるからそんな発言しない方がいいですよ」と余計なお世話的なアドバイスもらうんですけど、内心「あなたにそんなこと言われたくないよ」と思ってます(笑)。
【アル】お前マネージャーかよっていう(笑)。
【渡辺】あと「何も知らない芸能人のくせに」とか言われて「女は黙ってればいい」と言われてた若い頃と変わらないなって。世の中が進んでる部分もある一方、まだそういう風潮があるのは残念だなと思います。
■私ってフェミニストなのかも
【アル】都知事選挙で蓮舫さんが「怖い」「攻撃的」とかバッシングされてたのも、はっきりものを言う女が気に食わないだけですよね。「大年増の厚化粧」発言の石原慎太郎氏や「バカヤロウ」発言の二階俊博氏とかの方がよっぽど攻撃的なのに、「○○節」「さすが」と持ち上げるのがまさにヘルジャパン。
【渡辺】一方で、アルテイシアさんの本や色々な人の発信を見て「こうやって考えてるなら私ってフェミニストなのかも」と思って、いろんな問題に気づいて話せるようになった今は世界が広がっていく感覚で楽しいです。
アルテイシアさんと田嶋陽子さんの対談本(『田嶋先生に人生救われた私がフェミニズムを語っていいですか⁉』KADOKAWA)は核心をつく内容で、かつ笑いながら読めました。同世代の友達に勧めたら、その方の20代の娘さんが読んで「私の生きづらさってこういうことだったんだ!」って言ってくれたのがすごく嬉しかったです。
【アル】嬉しくてギャン泣きしそう。田嶋先生も草葉の陰で泣いていますよ、まだ全然お元気ですけど(笑)。
朝ドラ『虎に翼』はフェミニズム要素が盛りだくさんですが、エンタメとしてもおもしろくて、フェミニズムの本を読まない人にも届いてるだろうなって。
■「政治を持ち込むな」の方がナンセンス
【渡辺】私も『虎に翼』は大好きで、差別のことなども含め、踏み込んで描いていることに感動してます。
日本では「音楽に政治を持ち込むな」という意見も聞こえてきますが、私が20代の頃に聞いてたブラックミュージックは政治のことを歌ってました。「○○に政治を持ち込むな」と言う方がナンセンスだと思います。
【アル】そもそも「政治の話をするな」という主張がすごく政治的じゃないですか、権力を批判するなってことなんだから。みんなが政治に意見を言って話し合うのが民主主義なのに、ほんと都合のいい奴隷にされてますよね。
政治批判やデモをすると逮捕されて拷問されるような時代があったわけで、それに比べたらマシな世の中になってますよね。それは先人たちが怒りの声を上げて、体を張って闘ってきたおかげだから、私も怖れずに発信してバトンをつないでいきたいです。
【渡辺】私は政治や社会について、近しい人と熱く語ることがよくあります。手の届く範囲の人から一人ずつ伝えていって、政治に関心を持つ人を増やしていきたいですね。
【アル】何もかもはできないけど、何かはできる。それぞれが自分の場所で自分にできることをやれば、社会は変わりますよね!
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アルテイシア(あるていしあ)
作家
神戸生まれ。
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渡辺 満里奈(わたなべ・まりな)
タレント
1970年11月18日生まれ。東京都出身。1986年、テレビ番組の「夕やけニャンニャン」から誕生したアイドルグループ「おニャン子クラブ」にて芸能活動を開始。解散後は清潔感あふれる明るいキャラクターを活かしてテレビ・CM・雑誌などで活躍。2005年、お笑いトリオ「ネプチューン」の名倉潤氏と結婚。2007年・長男出産、2010年・長女を出産し現在は2児の母。
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(作家 アルテイシア、タレント 渡辺 満里奈)