頭のいい子が育つ家庭と、普通の家庭の違いは何なのか。学習塾塾長の建部洋平さんは「厳しい言葉で発破をかけるのはむしろ逆効果になる。
子どものやる気を引き出すには適切に『ほめる』ことが大切だ」という――。
※本稿は、建部洋平『第一志望合格率96.8%の塾講師が教える 中学生の成績は「親の声かけ」で9割決まる!』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。
■「ほめる親」になるのは難しい
教育業界で仕事をするようになって、かれこれ20年以上になりますが、やはり子どもの心を動かすのにいちばん響くのは「ほめること」だと思います。
でも、おべんちゃらを言うとか、相手をコントロールするためにとりあえずほめるとか。そんな感じで子どもをほめても、子どもは本能的に見抜いてくるので、なかなかうまくいかないのです。
また、親が「ほめる」ことで子どもをコントロールしようとするケースもあるようです。
たとえば、
「お母さん(お父さん)のアドバイスをちゃんと聞いたから、成績が上がったね。これからもちゃんと聞いてね!」

「あなたは努力家でエラいね。でも、もっとがんばれば100点取れるよね?」

「○○ちゃんはやさしい子だから、家の手伝いもちゃんとできるよね?」

「あなたはいい子なんだから、変な友だちとはつき合わないよね?」
といった感じに。
これは、相手をほめているようで、自分の思うように相手をコントロールしているに過ぎません。
■ビジネス界でも「ほめる」は大注目
また、今挙げた例のようにあからさまな表現だとさすがにわかるでしょうが、「これってちゃんとほめられているのかな?」それとも、「ほめることで子どもをコントロールしようとしているのかな?」と、その判断に悩む場合もあるでしょう。「ほめる」ことが難しいと感じている大人は意外に多いのです。

そこで、私はもっと「ほめる」について知りたいと思い、「一般社団法人日本ほめる達人協会(通称・ほめ達!)」で、「ほめる」について真剣に学びました。
同協会には「ほめ達!」検定というものがあり、私は特別認定講師の資格をもっています。「なんだそれ?」と思われるかもしれませんが、実は今ビジネス界でも「ほめる」ことはとても重視されていて、名だたる大企業がこの「ほめ達!」の研修を取り入れているのです。
大人でもそうなら、子どもが勉強をがんばるためにも、親が「ほめる」ことを学ぶのは、とても大事ではないでしょうか?
■「5万円の財布を落とした夫」をほめる
「ほめ達!」が定義する「ほめる」は、「人・モノ・出来事の価値を発見して伝える」というもの。「ほめる」と言うと、相手のよい部分にスポットを当て、そこをほめるイメージがありますが、「ほめ達!」が考える「ほめる」は、相手がどんなによい状況でも、どんなに悪い状況でも相手の存在価値を認めることで、ピンチをチャンスに変えていきます。
たとえば、夫が酔っ払って、5万円が入った財布を落としてしまったとします。「ほめ達!」検定3級では、次のような問題が出されます。
次の出来事の価値を発見して、伝えてください。
5万円の財布を落とした!
「えっ⁉」と思うかもしれませんが、がんばって考えてみてください。
ムリやりではあるけれど……、「財布を買い替えるいい機会になった」
めちゃくちゃくやしいけれど……、「5万円で済んでよかった!」
など、絞り出せば、意外とポジティブな言葉が出てきます。
■「ちゃんと勉強しなさい」は逆効果
では、もし「子どもがテストですごく悪い点を取ってしまった」としたら?
たとえば、悪いテストの点でも、
「今回は思うようにいかなかったね。でも、苦手なところがわかったから次につなげられるね!」

「この分野はしっかりできてるね! あとはここを強化すればもっとよくなるよ!」
など、実は、これも立派なほめ言葉。
いやむしろ、ただ「よくできたね!」とほめるよりも、ずっと効果的な「ほめる」なのです。
「ほめる」を意識しない場合、親としてつい言ってしまう言葉は何でしょうか?
「なんでこんな点数なの⁉」

「もっとちゃんと勉強しなさい!」
こんなふうに言われたら、子どもはどう感じるでしょう?
「私はダメな人間だ」「どうせやってもムダだ」と思い、やる気や自信を失ってしまうかもしれません。
思春期の中学生の場合は、自信喪失が反抗の形で現れるかもしれません。
でも、大人がポジティブな声かけをしてくれれば、子どもは「そっか、そういう考え方もあるね!」と前向きにとらえ、自分から勉強する気持ちになれるのです。
■「大げさにほめるのは苦手」と思ったら“こそ練”
「でも、私は大げさにほめるのが苦手で……」と言う親御さんもいます。ムリに大げさにする必要はありませんが、お子さんに気持ちが伝わるような表現を意識してみるのは大切なことです。
よい効果が生まれる、表現力豊かな「ほめる達人」になるには「こそ練」が必要です。「こっそり練習」です。
「苦手だな」と思う方はまずは誰もいない部屋で、1人で練習をしてみましょう。
はじめは「私、こういうキャラじゃないんだよなぁ~」と違和感があるかもしれませんが、それもくり返していけば自然に出るようになります。
ちなみに、「数学のときはこう言って……英語のときはこうして」といった教科別の声かけは必要ありません。
この声かけの考え方ひとつで、すべての勉強に対して子どものやる気はしっかり引き出せます。

ここからは、具体的な声かけをお伝えします。
【テストの順位が下がった】
×つぶす言い方

「友だちの○○くんはもっとできたんだから、あなたももっとがんばってみなさい」

「がんばると言ってたのに点数低いね!」
○ほめてやる気にさせる言い方

「今回は下がっちゃったけど、この教科は点数が上がっているね。あと少しだね」
子どものテスト結果が思うより悪かったとき、親はどう声かけしたらよいでしょうか。
「ほめる親」の基本は、子どもがどんな状態であっても、それをポジティブにとらえ、次へとつなげること。そのベースには「私はいつでもあなたの味方だよ」という気持ちがあります。
■「また60点」ではなく、「前より成長したね」
子どものテストの結果が悪かったときに、よくやってしまいがちなのが、他の人と比べてしまうこと。
「○○ちゃんはいつも学年10番以内なのに、なんで同じ塾に通っているのにこうも違うのかなぁ~」

「お兄ちゃんはもっとできたのになぁ~。あなたももっとがんばりなさい」
親御さんはちょっと発破をかけるつもりなのかもしれませんが、これを言われた子どもは、絶対にいい気はしません。むしろ、やる気がガタ落ちです。
こうしたあまりよくない状況のときは、横にいる誰かと比べるのではなく、子ども本人を縦軸で見る、つまり本人の昔と比べてほめるのです。
たとえば、前回の中間テストで数学が60点だったとします。そのときに子どもが「次の期末テストでは点数上げるようにがんばるよ」と言っていたにもかかわらず、今回も60点だったらどうしますか?
親は「前回、次はがんばるって言っていたのにまた60点! ちっともがんばっていない!」と怒りたくなるかもしれません。

でも、「ほめる達人」は、その子を縦軸で見るので、結果だけではなく、その子の変化や努力に目を向けます。
■点数が下がっても、絶対に「ほめポイント」はある
たとえば、テストの点数自体は同じ60点でも、前回のテストはクラス平均点が70点だったのに対し、今回のテストはクラス平均点が50点だったら、「平均点より高いね」と大きなほめポイントになります。
また、点数が下がったとしても、前回多かった漢字のミスが今回減っていたら、「漢字のミスが減ったね」とそこもほめポイント。
その他、5教科の総合点は下がってしまったけれど、英語が前回の点数よりも上がっていたなど、どれか1つでも点数が上がっていたら、「英語は上がったね」とそこもほめポイント。
見方を変えればいくらだってほめポイントは見つかるのです。
それでも、ど~しても見つからない場合は、「前回のテストよりも、当然内容が難しくなっているんだから、よくがんばったよ」という言い方もできます。
まずは、お子さん自身の過去と今を比べて、できるようになったことを探し、そこにスポットを当ててほめる。
すると、子どもは「あれ? そんなことを覚えていてくれたんだ」とうれしい気持ちになり、次は「もっとがんばろう」と、よりがんばりはじめます。
■子どもの過去をどれだけ覚えているか
実は、大人が子どもの過去をどれだけ覚えているかは重要で、私の塾でも人気のある先生ほど生徒たちの過去をよく覚えています。
そういう先生は、「半年前に○○くんはこんなことがあって、こんなことを言っていたよな」と、まるでそのシーンを再現するかのように鮮明に覚えているのです。それを聞いた本人は100%うれしそうな顔をします。
誰だって自分のことを覚えていてくれるのはうれしいものです。
それがささいなことであれば、なおさら。
いつもそばにいる親御さんだったら、もっともっとたくさんいろいろ覚えていると思います。なんなら、うんと小さいときにさかのぼってもいいので、うまくいかなかったときは、過去のお子さんと今のお子さんを比べて、その子なりの成長をほめてください。
たとえば、
「あなたが3歳のころに家の車のナンバーを覚えてたから『天才か!』とおどろいたよ。今では難しい計算もできるからすごいな」
「小学校の授業参観のとき、私が行ったらうれしそうにしながらも、発言するのが恥ずかしくて結局1回も手を挙げなかったよね。そんなあなたが、今は授業での発言もしっかりとして、通知表の意欲の欄にいい評価がついてるね。勇気をもって発言できるようになって、本当にすごいと思うよ」
など、過去を振り返れば成長したエピソードは山のようにあるものです。
すると、子どもは、自分には絶対的な味方がいる、安心安全な場所にいるんだと感じられて、勉強をはじめ、いろんなことに積極的に向かえるようになっていくのです。

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建部 洋平(たてべ・ようへい)

学習塾Ability 塾長

1977年生まれ、愛知県育ち。大学卒業後、大手学習塾に就職し、歴代最速で本部長に就任。独立後、小学生~高校生を対象にした学習塾Abilityを2校舎経営し、のべ約1万人の生徒を指導。高校受験の第一志望合格率は96.8%(2024年度)、95.2%(2025年度)。
また、「ほめる教育」の重要性を伝えるため、日本ほめる達人協会の特別認定講師資格を取得。企業研修や講演活動も行い、2023年認定講師コンテストでは準優勝。

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(学習塾Ability 塾長 建部 洋平)
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