2025年6月に、プレジデントオンラインで反響の大きかった人気記事ベスト3をお送りします。マネー部門の第2位は――。

▼第1位 マイホームでも高級車でも腕時計でもない…ひろゆきが「アホの極み」とこき下ろす最悪のお金の使い道

▼第2位 家族3人が月10万円以下で生活できる…森永卓郎が最期にたどり着いた「お金の心配がすーっと消える方法」

▼第3位 「4万円vs.4000円の扇風機」違いは一目瞭然だった…格安ニトリにあって、バルミューダにないありがたい機能

お金に苦労せず、幸せに生きるにはどうしたらいいか。今年1月に亡くなった森永卓郎さんは「大都市での生活をやめることで、生活コストが下げられる。カネのために働くという呪縛から解放され、悠々自適な生活を送れるようになる」という。著書『保身の経済学』(三五館シンシャ)より、その一部を紹介する――。
■経済社会の構造変化が起こるという予言
最近、とても気になっていることがある。
それは2025年が「グレート・リセット」の入り口になると主張する有識者がとても多いということだ。
これまでの歴史とは非連続となるような大きな構造転換が起き、経済社会の仕組みが根本から変わってしまう。それは経済の専門家だけでなく、安全保障、環境、災害、国際政治など、あらゆる分野の専門家が言い始めた予言なのだ。
私自身も、経済・社会のグレート・リセットは起きると考えている。
これまでの保身による問題先送りはすでに限界に達し、社会全体がいつ音を立てて崩れるかわからないところまで追い込まれているからだ。
経済分野でいえば、これまで半世紀にわたって世界を支配してきたグローバル資本主義が終焉を迎えるだろう。
そのきっかけが、自然災害によるものなのか、戦争によるものなのか、トランプ大統領が主導する新しい国際秩序によるものなのか、バブルの崩壊によるものなのかは断定できない。
ただ、現状のシステムがこの先、長く続かないことだけは確実だと思う。
そして、そうなる以上、私は現状を守ることよりも、むしろ崩壊を促進して、グレート・リセット後の経済社会の基盤を作る行動に出るべきだと考えるようになった。
ここでは、われわれが今後どう行動すべきなのかを整理していこう。
■方針①「テレビを見ない、新聞を読まない」
本書で繰り返し述べてきたように、すでに大手テレビや大手新聞は、権力の監視という本来の役割をかなぐり捨てて、財務省や大手スポンサーに忖度するコンテンツを垂れ流し続けている。
であるなら、テレビの報道・情報番組を見ても意味はないし、それを視聴し続けることは誤った事実認識を植え付けられるという意味でむしろ有害だ。
新聞も同様で、大手新聞の論評はすでに権力への忖度の塊になっている。
もちろん、東京新聞の望月衣塑子(いそこ)記者や産経新聞の田村秀男記者など、ジャーナリスト本来の活躍をしている記者もいる。彼ら彼女らの記事は読む価値があるが、大手新聞にはそうした記事がほとんどなくなってきている。
では、われわれはどこに情報源を求めればよいのか?
私が一番期待しているのは、ラジオだ。
私は『ザイム真理教』と『書いてはいけない』という2冊の書籍の出版を大きな原因として、テレビの報道・情報番組から完全に干されてしまったが、幸いにも5本あるラジオのレギュラー番組はすべて継続している。ラジオでは、それだけ言論の自由が守られているということだ。
ラジオが私の言論を支持するような形に偏っているわけではない。
私と正反対の意見を持つコメンテーターもたくさん登場して、多様な見立てを紹介している。多様な論点を提供するのは、放送メディアの本来のあり方であり、放送法にもそうすべきと規定されている。
テレビやラジオにくらべて、書籍やネットメディアもケタ違いの自由度がある。ただ、それらのメディアは玉石混淆だ。どれが正しい主張をしているのかを見分けるには、それなりの目利きが必要になる点は注意してほしい。
■方針②「価格弾力性を高める」
「消費者」としてやるべきことは、価格弾力性を高めることだ。
流行やCMに惑わされず、自分の目で商品の価値を見極め、同じモノやサービスなら、1円でも安い商品を、一番安い店で買うのだ。
企業の浮利(ふり)追求を押しとどめ、実質的な労働者の所得を増やすもっとも確実な手段は、われわれが厳しく、賢い消費者になることなのだ。
価格弾力性を高めるための必要条件は、大都市を捨てることだろう。
すでに大都市中心部からは、「安い店」が消滅しかかっている。
われわれが価格弾力性を高めることは、お手頃な価格で庶民の生活を懸命に支えている企業を守ることにもつながるのだ。
■方針③「働かない」
われわれが「労働者」としてやるべきことは、「働かない」ことだ。

勤労そのものを放棄せよというのではない。資本家を利するブルシット・ジョブに巻き込まれるのはやめようということだ。
いま、人口減少社会のなかで、政府や資本家は国家総動員といってもいいほど、国民全員を低賃金・マニュアル労働に誘導しようとしている。そこから逃れるのだ。
まず、年収の壁が引き上げられたからといって、安易にパートやアルバイトの労働時間を増やしてはいけない。
労働時間を増やすと、税金は取られなくても、年収の30%というとてつもない社会保険料を取られることになってしまい、それを取り返すためにさらに労働時間を増やす羽目になるからだ。
正社員として働くサラリーマンが取るべき戦略は「面従腹背(めんじゅうふくはい)」だ。
上司から理不尽な命令をされても、「承知いたしました」と表面的にはすべて受け止め、実際は何もせずに、形式的な要件だけを満たした成果をアウトプットする。すでに多くの公務員がやっていることだから難しいことではないだろう。
さらに高齢の労働者は、60歳の定年と同時に会社をさっさと辞め、悠々自適の老後生活に入ろう。まだ体力が十分残されているから、人生の終末期を謳歌できること請け合いだ。
■生活コストを下げる方法
私は、究極の目標は「住民税非課税世帯」を目指すことだと思う。

単身者の場合、年収100万円以下、65歳以上の年金生活者は年収155万円以下なら、所得税・住民税がゼロになる。社会保険料もゼロか低額になる。
一方、医療や介護のサービスを受ける際の自己負担は低率になり、さまざまな給付制度や臨時給が受けられる。
もともと「所得がない」ことが住民税非課税の条件なのだから、いくら財務省が強欲でも、ここに増税や増負担をすることは極めて困難なのだ。
住民税非課税で暮らすには、重要な必要条件がある。
それは、大都市以外に生活基盤を作ることだ。そうすれば、暮らしを守るために無理をして働くという選択の代わりに、生活コストを下げるという選択肢を得ることができる。
私がずっと推奨している大都市中心部から90~120分ほど離れた地域で暮らせば、生活コストは激減する。
コロナ禍以降に私が行なった一人社会実験によると、30坪の農地で畑作をして、電気は太陽光パネルで自給するようにすれば、家族3人の生活費は月10万円を下回る。
そうすれば、カネのために働くという呪縛から解放されるのだ。
■方針④「投資をしない」
われわれが「貯蓄者」としてやるべきことは、少なくともいまは絶対に投資をしないということだ。
政府やメディアや“金融村”が旗を振る「貯蓄から投資へ」という掛け声にだまされ、いま毎月1兆円のペースで、新NISAを活用した投資が進んでいる。

しかし、現在、世界で起きていることは、人類史上最大のバブルであり、そう遠くない将来にそのバブルは崩壊する。バブルが崩壊すれば、投資資金の価値は10分の1以下に下落するだろう。老後のためにと営々と貯めてきた資金が溶けてなくなるのだ。
いまはコンピュータの指示にもとづく取引が主流になっているから、バブル崩壊が始まると、それこそ秒単位でプロの資金は逃げていく。最終的にババを引くのは、フットワークの悪い一般投資家になるのだ。
■株価が戻らない可能性がある
そのことをこの数年私はずっと警告し続け、『投資依存症』(三五館シンシャ)という書籍も出版した。
しかし、私の警告はいま猛烈な非難にさらされている。
「長期、分散、積立という原則を守れば、株式時価総額は短期的なアップダウンがあっても、必ず右肩上がりで成長していくのだから、投資をしない手はない」
これが金融村の主張だ。
だが、グレート・リセットは、資本主義が終わるということだ。
株価は、未来永劫戻らない可能性も高い。
それでも、この点の理解を得ることは難しいと最近、強く実感している。
2024年に大流行したSNS型投資詐欺で、もっとも多く名前を悪用されたのが私だった。

だから、私は300人以上の詐欺被害者と事後処理のためにコンタクトしてきた。
私がやりとりした被害者の人たちの態度や言動は、いま投資で生活を豊かにしようと考えている人たちのそれと瓜二つなのだ。
だまされている人に「あなたはだまされていますよ」と説得するのはとても難しい。
ただ、私にはほかに方法がない。いま新NISAを使って投資をしている人に何度でも声を大にして繰り返し伝えたい。
「あなたはだまされていますよ」
■方針⑤「『面従腹背』で、選挙で鉄槌」
日本経済を30年にわたって、自らの保身のために低迷させた政治家と財務省に鉄槌を下す唯一の方法は、国民一人一人が持つ選挙権の行使だ。
そのために反緊縮の仲間を募って、それを大きな運動に広げていくべきだという意見があちこちで高まっている。
そうしたやり方を否定するわけではないが、私は推奨しない。
まとまればまとまるほど、権力者にとっては一網打尽にするチャンスが増えるからだ。また、一枚岩になろうとすればするほど、内部に亀裂が入って内輪もめが起きる。
私は、強い権力とのもっとも効果的な対決手法は、ゲリラ戦だと考えている。
ふだんはなんの意見も言わず、従順な住民を装って、選挙のときだけ真剣に候補者を選別して、国民生活を最優先させる政治家に投票する。これにより保身を図る政治家を政治の舞台から引きずり下ろすのだ。
■政治家を政党で選んではいけない
その際、候補者の所属する政党で選んではならない。
自民党のなかにも緊縮派と反緊縮の議員がおり、それは野党各党も同じだからだ。
なお、自民党だと、「責任ある積極財政を推進する議員連盟」に所属している議員は反緊縮派だ。野党の場合はわかりにくいのだが、自分の選挙区の候補者について、過去の言動や政策提言を見てみれば、正体はわかるだろう。それでもわかりにくければ、簡単な踏み絵を踏ませればよい。「消費税を下げるべきだと思いますか?」という質問だ。
2024年12月に行なわれた新聞各紙の世論調査の政党支持率では、大手新聞すべてで増税派の立憲民主党を、減税派の国民民主党が上回った。
国民生活の疲弊は、財務省のやってきた増税正当化戦略が通用しなくなるほど、潮目を変えてしまったのだ。
実際、財務省への批判がXの公式アカウントで急増している。リプライ(返信)は、衆議院選挙前とくらべて15倍以上に増え、そのほとんどが「財務省解体」「ザイム真理教」など同省を批判する内容だったという。
潮目が変わったことに、私がどれだけ貢献できたのかはわからない。それでも、ずっと緊縮財政の批判を続けてきた私にとって、世論の変化は喜ばしいことだ。あきらめてはいけないのだ。
その意味で、日本にはびこる保身を、いまこそ徹底的に打ち壊していかなければならないと私は考えている。
■「保身社会」を変えていこう
グレート・リセット後の経済社会に向けて、私はグローバル資本主義の真逆のトレンドが生まれると考えている。
①グローバルからローカルへ

②大規模から小規模へ

③中央集権から分権へ

④大都市一極集中から地方分散へ
この4つの変化だ。
そうした変化の先にある経済社会は、小さなクラスターが無数にできて、そのなかで経済が循環する形になる。インド建国の父であるマホトマ・ガンディーが提唱した「近隣の原理」に沿った経済社会だ。
近くの人が作った食品を食べ、近くの人が作った服を着て、近くの大工さんが作った家に住む。そうした経済社会に転換すれば、貧困や格差は大きく改善し、地球環境を守ることにもつながるだろう。
ただ、それはあくまで私がイメージしているグレート・リセット後の社会だ。いま多くの識者がさまざまなグランドデザインを示して、百家争鳴(ひゃっかそうめい)の状態になっている。
誰も、グレート・リセット後の経済社会を見たことがないので、それは当然のことかもしれない。
そして、新しい経済社会のグランドデザインは、その時代を生きていく若者にまかせればよいのではないかと、いま私は考えている。
それでも、われわれには重要な役割が残されている。それは「保身社会」という遺品を整理し、部屋をきれいにして若者たちに手渡すことだ。
そうしないと、若者たちが新しい経済社会のグランドデザインを自由に描くことができない。
私自身は、そのために戦い続けるし、読者のみなさんも、自分のできる範囲で保身の一掃に向けて歩み始めていただければ、著者としてこれほど嬉しいことはない。
2025年1月 森永 卓郎
(初公開日:2025/06/22 10:00:00)

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森永 卓郎(もりなが・たくろう)

経済アナリスト、獨協大学経済学部教授

1957年生まれ。東京大学経済学部経済学科卒業。専門は労働経済学と計量経済学。著書に『年収300万円時代を生き抜く経済学』『グリコのおもちゃ図鑑』『グローバル資本主義の終わりとガンディーの経済学』『なぜ日本経済は後手に回るのか』などがある。

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(経済アナリスト、獨協大学経済学部教授 森永 卓郎)
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