※本稿は、保坂隆『精神科医が教える 心と体をゆっくり休ませる方法』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■仕事に身が入らないなら、思いきって早退してみる
仕事をしていれば誰しも、自分の不手際で大きなミスをすることがあるでしょう。そんなときは心の平穏が失われ、頭が真っ白になる人、逆に頭に血が上る人も多いと思います。
「なんでこんなミスをするんだろう。自分はこんなにダメな人間だったのか!?」
「ああ、なんということだ……。先が見えない……」
心が動揺して、そのせいなのか、何をやってもミスが続いて、さらに自己嫌悪を強めていく。また上司にこっぴどく叱られて、ひどく落ち込む経験をする人も多いでしょう。
「上司から叱られたぐらいで落ち込んではダメだ」と頭ではわかっていても、叱られるのは気持ちのいいものではありません。とくに、同僚や後輩の面前でやられると、いくら自分に問題があったとしても、「なにも人前で叱らなくたっていいじゃないか」と、上司の思いやりのなさに腹が立つものです。
こんな場合は、いくら集中したくても、悔しさと情けなさが込み上げて、仕事どころではないと思います。そんなモヤモヤを思いきってリセットする方法に、「早退」があります。
荒っぽいかもしれませんが、イライラ状態のまま仕事を続け、なんとなく不機嫌なオーラをまき散らしたり、後輩に八つあたりするよりいいかもしれません。
■日ごろやりたくてもできないことをやってみる
ただし、その際に注意すべきなのが、早退後です。そのまま帰宅して、家でふて寝するのはおすすめできません。一人で家にいれば、悔しい気持ちが思い出され、余計にストレスがたまってしまいます。
こういったときは、日ごろやりたくてもできないことをやってみるのがいいでしょう。
電車を乗り継いで遠くまで足を延ばしたり、普段は降り立つことのない駅で下車し、ぶらついてみるのも気分転換になります。
また、人気の映画も平日なら並ばずに見ることができますし、美術館や博物館など、いつもはなかなか足を運ばない場所があれば、こういったタイミングを利用すると新たな発見があるかもしれません。
どうですか。イライラしていたことからいったん離れてみると、「どうして腹が立ったんだろう?」「上司の立場上、ああいうしかなかったのかな」「ミスは心のゆとりがなかったからかな」などと、冷静に考えられるようになります。これは、自分の気持ちが修復できた証拠なのです。
とはいえ、早退を繰り返すようでは疑われてしまいます。この方法を使うのは、どうしてもイライラから抜け出せないときだけにしておきましょう。
つらいときの逃げ道を、準備しておこう
■プレッシャーからこまめに心を解放しよう
締め切りに追われているのは作家や漫画家だけではありません。誰しも締め切りを抱えながら生きているのではありませんか。
会社で働いているのであれば、「プレゼン用の資料作成、いつ締め切り?」「アンケートの締め切りは今日までだから」といった言葉が始終飛び交っているはず。
それだけでなく、マンションの理事会の議事録の作成、子どもの卒業アルバム作成など、私たちのまわりにはいくつもの締め切りが設定されていきます。おそらく一人で複数の締め切りを抱えている人も少なくないでしょう。
もしかすると、頭の中は「間に合わなかったらどうしよう」「自分には無理かもしれない」などネガティブな考えが駆けめぐり、そのプレッシャーに押しつぶされそうになっているのではありませんか。逃げられるものなら、逃げたい状態です。
そうだとすると、プレッシャーを回避する方法があるといいですね。
おすすめしたいのは、思いきって、一瞬でもいいので締め切りを忘れてしまうこと。
そのことを考える時間、ボーッとする時間をつくらないようにしてください。
そんな時間はそもそもないと思っていても、締め切りが気になっていれば、「まずい、どうしよう」と考えていたり、ボーッとする時間をつくってしまっています。
そこで、プレッシャーを回避するために、ほんの2、3分でいいので、思いきり体を動かしてみてください。
■以前ほど締め切りに追われることが深刻に思えなくなる
ただし、これで永遠に締め切りのプレッシャーから逃れられるわけではないので、またプレッシャーを感じたら、そのたびに2、3分、思いきり体を動かすようにしてください。
1回でもプレッシャーから心が解放された経験があると、以前ほど締め切りに追われることが深刻に思えなくなります。それを繰り返すことで、やがてプレッシャーはあなたの心から消えていくでしょう。
私たちの体と心は、想像を上回るほど密接にリンクしています。
エッセイストとして活躍なさっているある女性は、それを知ってか知らずかわかりませんが、上手に自分をコントロールすることができるようです。
彼女は気分がまったくのらない日は、たとえ締め切りが迫っていても、「いっさい何もしない」と決めているそうです。電話には出ないし、SNSも見なければ、メールも開きません。
メールを読むと、すぐに返事をしなければならない気持ちになるようなので、開かないに越したことはありませんね。そうしてソファに寝ころび、ダラダラと過ごします。
■心身をリラックスさせ活力を取り戻す
冬はコタツにもぐり込んで1日中ゴロゴロ。夏は冷房の効いた部屋で肌がけぶとんをかけ、ベッドで横になるのだとか。
このようにゴロゴロ過ごしたり、ぐっすり眠ったりしているうちに、体力が回復すると、自分でもびっくりするくらい気持ちが前向きになっているといいます。
どうやら、彼女は締め切りに真正面から挑むのではなくて、少しだけ逃げてみて、心身をリラックスさせ活力を取り戻したようです。つまり、自分に無理をさせない方向へスイッチを切り替えたわけです。
この方法は、もしかしたら、あなたにも応用できるかもしれませんね。
たとえば、会社の仕事の締め切りを前に気分的に落ち込んで身動きがとれなくなったときに、「体調が悪い」と連絡して1日だけ休みをもらいます。そして自宅でダラダラ過ごしてみてください。きっと翌日には不思議とやる気が戻っているはずです。
気分がのらないときは、思いきって休むとうまくいく
■休憩時間を惜しんで働いても仕事の質や効率は変わらない
上手な休み方を心得ている人は、ランチタイムの過ごし方にもひと工夫をこらしているものですが、あなたはどうですか。仕事が山ほどたまっているとき、上手にお昼の休みをとっていますか。
コンビニのサンドイッチやおむすびを片手で食べながら仕事、なんてやっていませんか。
あるいは、食べながら仕事、であればまだましなほうで、「仕事をしながらついでに食事」みたいな習慣になっていませんか。
しかし、休憩時間を惜しんで働いても、仕事の質や効率は、しっかり昼休みをとった場合とあまり変わりがないことを知っていますか。
人間の集中力には限界があって、長く仕事を続けても効率が落ちるだけです。つまり、いったん頭をリセットし、体の中にパワーを充電してから午後の仕事にのぞんだほうが、結果的にはよい仕事ができるのです。
ランチタイムは単に食事をとるだけでなく、午後の仕事への英気を養うためのリセットタイムでもあるという点を重視してください。
自分が心地よいと思う時間を過ごすのが大切です。食事を早めに切り上げて、会社の近くの店を見て歩くのもいいと思います。
■ランチは公園で食べるのがおすすめ
あるいはコーヒーショップで本を読んだり音楽を聴くのもリラックス効果があります。近所に図書館があるのでしたら、静かな環境の中で新聞や雑誌に目を通すのもいいものです。
そして、もし会社の近くに噴水のある公園があったら、ぜひ足を延ばしてみましょう。噴水の細かな水の粒には、心身をリラックスさせるマイナスイオンが大量に含まれています。
噴水の近くに行って、深呼吸をしてみてください。ひんやりとした水の感触や香りに、心が落ち着くはずです。
いずれにせよ、日々ストレスにさらされている私たちにとって、気持ちの切り替えと休息ができるランチ休憩は貴重な時間です。その過ごし方をそれぞれ工夫して、しっかり心と体を休めることをおすすめします。
どうしても仕事が立て込んで、オフィスから出られないときのために、デスクの上に、植物を置いておくのも効果的です。
手のひらにのるくらいの観葉植物なら、さほど邪魔にはなりません。植物には噴水と同じくマイナスイオンを出す働きがあるので、それがデスクにあるだけで、大いにリラックス効果が期待できるでしょう。
ランチタイムには、仕事のことを忘れよう
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保坂 隆(ほさか・たかし)
精神科医
1952年山梨県生まれ。保坂サイコオンコロジー・クリニック院長、聖路加国際病院診療教育アドバイザー。慶應義塾大学医学部卒業後、同大学精神神経科入局。1990年より2年間、米国カリフォルニア大学へ留学。東海大学医学部教授(精神医学)、聖路加国際病院リエゾンセンター長・精神腫瘍科部長、聖路加国際大学臨床教授を経て、2017年より現職。また実際に仏門に入るなど仏教に造詣が深い。著書に『精神科医が教える50歳からの人生を楽しむ老後術』『精神科医が教える50歳からのお金がなくても平気な老後術』(大和書房)、『精神科医が教えるちょこっとずぼら老後のすすめ』(海竜社)など多数。
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(精神科医 保坂 隆)