※本稿は、飯田薫子『70歳からの本当の健康を手に入れる すごい栄養学』(宝島社)の一部を再編集したものです。
■体の組織を丈夫にして健康な体を維持するビタミンの力
五大栄養素の一つに数えられている「ビタミン」。全部で13種類あり、水に溶けやすい水溶性ビタミンと油に溶けやすい脂溶性ビタミンに分けられます。
水溶性ビタミンはビタミンB群(ビタミンB1・B2・B6・B12、ナイアシン、葉酸、パントテン酸、ビオチン)とビタミンCの9種類です。脂溶性ビタミンはビタミンA・D・E・Kの4種類。ビタミンD以外は体内ではつくることができないため、食べ物で補給することが必要です。
各ビタミンはそれぞれ異なる役割をもっています。その役割の一つが、エネルギー産生のサポートです。自動車はエンジンでガソリンを燃やし、そのエネルギーで走っています。
エンジンがスムーズに動くためにはエンジンオイル(潤滑油)が欠かせません。人間の場合は、細胞の一つ一つにエネルギーを生み出すクエン酸回路(TCA回路)という仕組みが備わっています。
クエン酸回路は糖質や脂質、ときにはたんぱく質を燃料としてエネルギーをつくり出すために常に回り続けています。
ビタミンには、体の組織を丈夫にして健康な体を維持する役割もあります。
たとえば「骨」の健康維持に関しては、ビタミンDが、骨の材料であるカルシウムが腸で吸収されるのを助け、ビタミンCが、骨の土台となるコラーゲンの合成をサポート。ビタミンKは骨の土台にカルシウムが沈着するのを助けます。
またビタミンAは目や粘膜の機能維持に重要です。
■ミネラルが不足するとさまざまな不調が出現
「ミネラル」も五大栄養素の一つに数えられます。
人の体を構成する元素は主に、酸素、炭素、水素、窒素の4種類。それ以外のすべての元素をミネラル(無機質)といいます。人体に占める割合は約4%とごくわずかですが、生体のさまざまな機能を担い、健康を維持するために重要な役割を果たしています。
人の体に必要なミネラルは16種類。1日に100mg以上必要な多量ミネラルと、100mg以下の微量ミネラルに分けられます。どのミネラルも体内で合成できないため、食事での摂取が必要です。
ミネラルの主な役割は次の4つです。
一つめは体の構成成分になること。カルシウムやリン、マグネシウムは骨や歯の材料になり、鉄は全身に酸素を運搬する赤血球のヘモグロビンの材料になります。亜鉛やマンガン、銅は酵素の構成成分です。
二つめは神経の伝達や筋肉の収縮を正常に保つこと。カルシウムは神経伝達物質による情報伝達を助け、筋肉の収縮と弛緩を調整しています。
三つめは代謝の促進。マグネシウムやリン、マンガンはエネルギー代謝に関わっています。
四つめは体の恒常性を維持すること。恒常性とは、体内を一定の状態に保つ性質です。ナトリウムは体内の水分量を維持して血圧をコントロールしたり、体液のpH(ピーエイチ)を一定に保ったりする働きがあります。
なお日本人に不足しがちなのはカルシウム、鉄、マグネシウムなどです。カルシウム不足は骨や歯が弱くなり、骨粗しょう症や骨折のリスクが高まります。マグネシウムが不足すると心臓疾患のリスクが高まり、鉄不足は鉄欠乏性貧血を起こします。
■昔は“食べ物のカス”でしかなかった食物繊維
腸内環境を整えるために重要な成分とされる「食物繊維」。消化吸収されずにそのまま体から排出されるため、以前は、エネルギーにも体を構成する成分にもならない“食べ物のカス”と考えられ、なめらかな食感を損なう厄介者の扱いでした。
しかし、1930年代になって便秘患者や大腸炎患者への有効性を確認。さらに1970年に「食物繊維の摂取量が少ないと大腸がんになりやすい」という研究が発表されると、急速に注目されるようになりました。
それ以降もさまざまな調査や研究によって、食物繊維の優れた機能や生理作用が明らかになり、便秘や心臓疾患、動脈硬化などの予防効果や、がんのリスクを下げることが報告され、食物繊維への注目はさらに高まりました。
今では五大栄養素に次ぐ、体に不可欠な第六の栄養素と位置づけられています。
食物繊維は、水に溶けやすい水溶性食物繊維と水に溶けにくい不溶性食物繊維に分けられます。
海藻類や果物、いも類などに含まれる水溶性食物繊維はねばねば、ぬるぬるとした粘性と水分保持力が強いことが特徴です。水に溶けてゲル状になり、食べ物を包み込んで胃腸内をゆっくりと移動。
またコレステロールなど余分な脂質を吸着して体外に排泄する働きもあります。大腸内で発酵・分解されるとビフィズス菌などの善玉菌が増えて腸内環境を良好に保ちます。
一方、水に溶けにくい不溶性食物繊維は、胃や腸で水分を吸収してふくらみ、便のかさを増やします。膨張した不溶性食物繊維が大腸の壁を刺激して蠕動(ぜんどう)運動を活発にし、排便をスムーズにしてくれます。
■栄養素ではないが、老化防止によいポリフェノール類
フィトケミカルとは、英語の「phyto(フィト)=植物」と「chemical(ケミカル)=化学成分」を組み合わせた言葉。植物が紫外線や害虫などから身を守るためにつくり出す機能性成分です。
栄養素ではありませんが、数千種類以上あり、人の体の中でさまざまな効果を発揮することがわかってきました。
ポリフェノール類(色素やアク)、カロテノイド類(色素)、イオウ化合物(香りや辛み)、多糖類(食物繊維の一種)、テルペン類(香りや苦み)の5種類があります。
ポリフェノールはフィトケミカルの中でも最も種類が多く、ブルーベリーなど赤紫の色素に含まれるアントシアニンは、抗酸化作用という老化予防に重要な作用があります。動脈硬化や老化防止に効果があり、視力回復や抗炎症作用に関する研究も進められています。
大豆などマメ科の植物に多いイソフラボンは女性ホルモンに似た作用があり、骨粗しょう症や更年期障害、動脈硬化、冷え症などの予防改善効果が期待されます。
紅茶や緑茶に含まれるカテキンは抗酸化作用、抗菌作用、コレステロールを下げる作用などがあるとされ、玉ねぎの皮に豊富なケルセチンは抗炎症作用、脂肪吸収の抑制作用などが報告されています。
赤ワインやブドウの皮、ピーナッツの薄皮に含まれるレスベラトロールには、抗肥満作用や認知症予防効果が期待されています。
■トマトは熟しているほど「リコピン」の抗酸化力が豊富
カロテノイドは赤や黄、橙色を示す色素成分で、緑黄色野菜や果物、魚のサケなどに豊富。
たとえばトマトやスイカ、柿などに含まれるリコピンは赤色を示し、ビタミンEの100倍以上の抗酸化力があるともいわれます。赤みが強く、熟したトマトほどリコピンが豊富です。
また、にんじんなどに含まれるβ-カロテンは体内でビタミンAに変換され、作用を発揮します。
にんにく、ニラ、玉ねぎ、長ねぎに含まれるアリシンは刺激のある香りや辛みが特徴。切る、すりおろすなど細胞が壊されるときに生成されます。血流の改善、殺菌作用による食中毒予防が期待できます。
ブロッコリーに含まれるスルフォラファンは体内で毒素の分解を促す作用があります。
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飯田 薫子(いいだ・かおるこ)
医師
お茶の水女子大学大学院教授。博士(医学)。
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(医師 飯田 薫子)