宮崎県に2つある民放テレビ局のうち、テレビ宮崎はフジテレビ・日本テレビ・テレビ朝日の番組を放送する「3局クロスネット局」だ。この日本唯一のスタイルは得なのか、損なのか。
■日本で唯一の“3局クロスネット局”
「テレビ業界全体が厳しい現状だからこそ、ポジティブな提案を絶対にしないといけないと思っています」
ただし、きれい事だけを言うつもりはない。隠すものは何もないと言った面持ちで語り始めた。
そもそもUMKテレビ宮崎は独自路線を歩み続ける全国でも珍しいローカル局だ。朝は「めざましテレビ」、昼は「ANNニュース」、夕方は「news イット!」、夜は「news zero」が編成されているのは全国津々浦々どこを見渡してもテレビ宮崎だけ。
フジテレビと日本テレビ、テレビ朝日の3つを“親局”にニュース番組の協定を結ぶ。ニュース以外もこの3つの局が制作したドラマやバラエティ番組などが番組表に混在している状態だ。
業界はこれを“3局クロスネット局”と呼ぶ。現存する日本で唯一のスタイルになる。だが、55年前に開局した当初から自らこの道を選んでいるわけではない。選ばざる得なかった事情がある。
■「喜びも3倍、苦労も3倍」
聞けば、宮崎県内のテレビとラジオを合わせた広告市場規模は120億円程度という。
それにしても、テレビ宮崎が“親”に持つのは、東京ではしのぎを削るライバル同士、編成も経営方針もそれぞれ異なる3局。非常に複雑な環境下でも、榎木田社長は動じていない。
「この55年の歴史の中で、おそらくいろんな影響を受けてきたと思いますが、今私が思うにはガラパゴス的な育ちをしてきたかと。色々な味を知り、そこに苦味もあるけれど、最終的にはUMKの色にすることへの思いが強いと感じています。3局クロスネット局は喜びも3倍、苦労も3倍なんですよ」
■スポーツ中継時は“地獄のような編成作業”
特に苦労するのが災害時だ。宮崎は台風が直撃しやすい地域にあるが、そのたびに3局のあらゆる報道番組に映像素材を提供する作業が発生する。そこには宮崎県では放送されていない「報道ステーション」なども含まれる。さらに個別に具体的な素材が求められれば、その都度、独自に取材し、映像素材を渡す必要がある。
3つの系列から応援を受け、それぞれから取材クルーも入る。ただし、テレビ宮崎が1つの応援クルーから受けた素材を他の2つの系列に渡すことはご法度だ。
予測不可能なことはスポーツ中継にも起こる。思わず本音も漏れる。
「オリンピックなどがある時は、何時にどう終わるかわかりませんから編成チームはもう“地獄”のような編成作業をする感じなんです」
人気のスポーツ中継を送り出すことのどこが“地獄”なのかというと、3局が入り組んだ番組表が話をややこしくさせている。
延長になったA局から受けた試合をそのまま放送したくても、放送しようとする枠がB局の生放送のニュース番組というケースが多々ある。すでに3局それぞれと契約した放送枠を守る必要があり、番組表の多くの枠は自由が利かない。自分たちでコントロールできない辛い立場にあるという。
■1日100件以上の苦情が3日間続いた
だが、一番辛いのは視聴できる環境を奪われる県民だ。侍ジャパンがアメリカを下し、3大会ぶり3回目のWBC制覇を果たした2023年3月の決勝試合は、宮崎でテレビ中継されることがなかった。大谷翔平選手のMVP受賞の決め手となった注目の試合にもかかわらずだ。
「県民のためにどうにか放送できないか、3局のうち、どの組み合わせだったら実現できそうなのか、準備は重ねました。でも、結果的に『TVer、ABEMAでご覧ください』とお伝えすることしかできませんでした」
テレビ宮崎に寄せられたのは苦情の電話。
「頂いた電話には丁寧に対応しましょうと社内で声をかけ、もちろん私も電話を取って。私の声に気づかれたのか、『あなたに言うのも何だけど』とおっしゃる方もいて。お一人お一人のお叱りを受け止めさせてもらいました」
その時のことを振り返ると、「本当に申し訳ない気持ちでいっぱい」と後悔の念が募る。「あくまでもこちらの都合です。次は何とか手段がないのか模索したい」と前向きな言葉も続いた。
■待遇は良いはずなのに、社員が辞めていく
では、3局クロスネット局のメリットはいったい何なのか。榎木田社長が真っ先に挙げたのは「人脈」だ。
「3局それぞれの系列の会議や交流、番組販売などを通じて築く人的つながりは、言ったら3倍なんです。ビジネス上の知見も増え、得られるものは多い。喜び3倍は苦しみ3倍を大きく上回る価値があると思っています」
“人”に目を向ける理由はある。
「とにかく人が集まりにくいんです。テレビ局そのものが今は選ばれなくなっていることが大きい。全国的な人材不足も原因にあります。昔は新入社員の内定を多めに出すことなんてあり得なかったのですが、今は違う。もう選ばれなくなっているという体感があります。ウチに限らず、テレビ業界全体で人材確保が厳しい時代です」
離職率も上昇傾向にある。離職者の中で多いのは20代、30代。県内の平均給与額を上回り、安定した収入を得られ、条件は悪くない。しかしだ。
「やっぱり放送業界の将来に対して不安を感じている方が多いということだと思います。
■社長室はミーティングルーム兼用部屋に改装
策はある。足りなかったのは“会話”だ。
「管理職と若手社員が互いに会話を控えていたように思うんです。管理職がパワーハラスメントを意識しすぎて教育指導ができなくなってしまうと、受ける側の権利主張がある日から上回る。そうすると、小さな会社でもガバナンスが効かなくなってしまいます。一方で、若手社員の方が意見を言いやすい環境を丁寧に作る必要もあります。150人ぐらいの規模の会社ですから、会話をしましょうということです」
本社にある社長室を訪れると、前々任の社長が2002年に設置したままの重厚感のある皮のソファーやダーク色のテーブルが並べられていた。これを改装して、今どきのビビットな色を取り入れたミーティングルーム兼用の部屋にアレンジしようというのだ。目指すは社員の誰でも気軽に相談できる場だ。
■榎木田社長自ら“あけみママ”に
狙いはすでに着手した地域のハブ拠点「&Labo」にも通じる。地域住民との接点を増やそうと榎木田社長が取締役に就いていた時から肝煎りで立ち上げたものだ。JR宮崎駅から伸びる高千穂通りにある旧NTT西日本宮崎支店をデザイナー風にリノベーションした建物の一角に構える。
毎日のお天気コーナーはこの場所から中継している。足を運んだこの日の午後も、温度計を差しながら暑い夏日を伝える気象予報士の姿があった。
気軽に利用してもらうことも目指す。榎木田社長のアイデアで室内にはバーカウンターまで設置されている。榎木田社長自ら“あけみママ”となってトークを展開するテレビ宮崎の公式YouTubeチャンネルの企画「スナックあけみ」をイメージするもので、「スナックあけみ」のオリジナルステッカーやライターまで販売されていた。実際に席に座って、のどを潤す地域住民もいるという。面白がってもらうことで接点を増やすとは抜け目ない。
■「街を元気に」はローカルテレビ局の使命
初期投資額は1000万円ほど。採算性が見えないから、スモールサイズの投資に留めているわけではない。意識するのは「未来への投資部門」だ。
「投資できる体力があるうちにチャレンジすることに尻込みしたくない。テレビ広告営業だけでビジネスを完結することなく、今ある貯蓄を運用して『&Labo』のような展開から利益を生み出すことにも目を向けると、新しいビジネスが生まれるはずです。公共事業にお金だけ出す時代も終わっているから、街づくりにも顔が見える向き合い方を選んで&Laboを立ち上げています。街を元気にすることもローカルテレビ局の使命です」
課題も挙げる。その1つがテレビ局の要にあるオリジナル番組の開発にある。かつてテレビ宮崎にはローカルの笑いを届けていた「さんさんサタデー」のような強力番組があった。宮崎県出身の人気漫画家・東村アキコさんが「笑いの原点」と言い切るほどの伝説の番組だ。
テレビ宮崎ではその東村アキコさんが初期に手掛けた自伝的漫画『ひまわりっ 健一レジェンド』を2020年にドラマ化し、これをきっかけにドラマ制作に力も入れるなど道筋は立てている。
■「プロバーから社長を出すべき」という思い
実はこのドラマ「ひまわりっ」は榎木田社長と深い関わりがある。当時、アナウンサー職に徹しながら開局50周年記念プロジェクトの総合プロデューサーとして旗振り役も担い、ドラマ化の実現に大きく貢献したのだ。東村アキコさんに密着取材し、ドキュメンタリーを作ったことをきっかけに自ら直接交渉しに行った。その時の様子を東村アキコさんが後日、漫画にし、榎木田社長は猪突猛進に進む“榎木田アナ”として登場している。
それから5年。前社長の寺村明之相談役から社長の任命を受けて、現在の榎木田社長がいる。寺村相談役はテレビ宮崎の筆頭株主であるカンテレ出身者。「テレビ宮崎の将来を見据えて、今こそテレビ宮崎のことを本気で考えることができるプロパーから社長を出すべき」と考えた末、白羽の矢を立てたのが榎木田社長だった。そんな思いも引き継ぐ。
「若い社員にも自分がUMKだと思ってもらいたいんです。自分こそUMKだと。そう思ってもらえるようなムードを作っていかなければならない。ネガティブな欠片があると、どんどん浸食していってしまうので、全員がポジティブである必要はないのですが、県民とUMKのこれからを思って丁々発止が生まれるような環境を作りたいです」
そう語る社長、榎木田朱美さんにはゆるぎない決意が宿っているように見えた。
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長谷川 朋子(はせがわ・ともこ)
テレビ業界ジャーナリスト
コラムニスト、放送ジャーナル社取締役、Tokyo Docs理事。1975年生まれ。ドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情をテーマに、国内外の映像コンテンツビジネスの仕組みなどの分野で記事を執筆。東洋経済オンラインやForbesなどで連載をもつ。仏カンヌの番組見本市MIP取材を約10年続け、番組審査員や業界セミナー講師、行政支援プロジェクトのファシリテーターも務める。著書に『NETFLIX 戦略と流儀』(中公新書ラクレ)などがある。
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(テレビ業界ジャーナリスト 長谷川 朋子)
榎木田朱美社長にメディアジャーナリスト長谷川朋子さんが取材した――。(第2回/全2回)
■日本で唯一の“3局クロスネット局”
「テレビ業界全体が厳しい現状だからこそ、ポジティブな提案を絶対にしないといけないと思っています」
ただし、きれい事だけを言うつもりはない。隠すものは何もないと言った面持ちで語り始めた。
そもそもUMKテレビ宮崎は独自路線を歩み続ける全国でも珍しいローカル局だ。朝は「めざましテレビ」、昼は「ANNニュース」、夕方は「news イット!」、夜は「news zero」が編成されているのは全国津々浦々どこを見渡してもテレビ宮崎だけ。
フジテレビと日本テレビ、テレビ朝日の3つを“親局”にニュース番組の協定を結ぶ。ニュース以外もこの3つの局が制作したドラマやバラエティ番組などが番組表に混在している状態だ。
業界はこれを“3局クロスネット局”と呼ぶ。現存する日本で唯一のスタイルになる。だが、55年前に開局した当初から自らこの道を選んでいるわけではない。選ばざる得なかった事情がある。
■「喜びも3倍、苦労も3倍」
聞けば、宮崎県内のテレビとラジオを合わせた広告市場規模は120億円程度という。
全国の中で最低水準だ。そのため宮崎県の民放テレビ局の数はTBS系の宮崎放送と複数系列のテレビ宮崎の2つから増えることはなかったというわけだ。
それにしても、テレビ宮崎が“親”に持つのは、東京ではしのぎを削るライバル同士、編成も経営方針もそれぞれ異なる3局。非常に複雑な環境下でも、榎木田社長は動じていない。
「この55年の歴史の中で、おそらくいろんな影響を受けてきたと思いますが、今私が思うにはガラパゴス的な育ちをしてきたかと。色々な味を知り、そこに苦味もあるけれど、最終的にはUMKの色にすることへの思いが強いと感じています。3局クロスネット局は喜びも3倍、苦労も3倍なんですよ」
■スポーツ中継時は“地獄のような編成作業”
特に苦労するのが災害時だ。宮崎は台風が直撃しやすい地域にあるが、そのたびに3局のあらゆる報道番組に映像素材を提供する作業が発生する。そこには宮崎県では放送されていない「報道ステーション」なども含まれる。さらに個別に具体的な素材が求められれば、その都度、独自に取材し、映像素材を渡す必要がある。
3つの系列から応援を受け、それぞれから取材クルーも入る。ただし、テレビ宮崎が1つの応援クルーから受けた素材を他の2つの系列に渡すことはご法度だ。
独自で取材を行うなどきめ細かな配慮とバランス感覚が常に求められる。
予測不可能なことはスポーツ中継にも起こる。思わず本音も漏れる。
「オリンピックなどがある時は、何時にどう終わるかわかりませんから編成チームはもう“地獄”のような編成作業をする感じなんです」
人気のスポーツ中継を送り出すことのどこが“地獄”なのかというと、3局が入り組んだ番組表が話をややこしくさせている。
延長になったA局から受けた試合をそのまま放送したくても、放送しようとする枠がB局の生放送のニュース番組というケースが多々ある。すでに3局それぞれと契約した放送枠を守る必要があり、番組表の多くの枠は自由が利かない。自分たちでコントロールできない辛い立場にあるという。
■1日100件以上の苦情が3日間続いた
だが、一番辛いのは視聴できる環境を奪われる県民だ。侍ジャパンがアメリカを下し、3大会ぶり3回目のWBC制覇を果たした2023年3月の決勝試合は、宮崎でテレビ中継されることがなかった。大谷翔平選手のMVP受賞の決め手となった注目の試合にもかかわらずだ。
「県民のためにどうにか放送できないか、3局のうち、どの組み合わせだったら実現できそうなのか、準備は重ねました。でも、結果的に『TVer、ABEMAでご覧ください』とお伝えすることしかできませんでした」
テレビ宮崎に寄せられたのは苦情の電話。
1日100件以上の電話が3日ほど続いた。当時、局長職に就いていた榎木田社長も自ら電話を受けた。
「頂いた電話には丁寧に対応しましょうと社内で声をかけ、もちろん私も電話を取って。私の声に気づかれたのか、『あなたに言うのも何だけど』とおっしゃる方もいて。お一人お一人のお叱りを受け止めさせてもらいました」
その時のことを振り返ると、「本当に申し訳ない気持ちでいっぱい」と後悔の念が募る。「あくまでもこちらの都合です。次は何とか手段がないのか模索したい」と前向きな言葉も続いた。
■待遇は良いはずなのに、社員が辞めていく
では、3局クロスネット局のメリットはいったい何なのか。榎木田社長が真っ先に挙げたのは「人脈」だ。
「3局それぞれの系列の会議や交流、番組販売などを通じて築く人的つながりは、言ったら3倍なんです。ビジネス上の知見も増え、得られるものは多い。喜び3倍は苦しみ3倍を大きく上回る価値があると思っています」
“人”に目を向ける理由はある。
テレビ宮崎の社員・スタッフを合わせると約170人。中小企業規模のこの人数を現状維持することに今は苦労を伴う。
「とにかく人が集まりにくいんです。テレビ局そのものが今は選ばれなくなっていることが大きい。全国的な人材不足も原因にあります。昔は新入社員の内定を多めに出すことなんてあり得なかったのですが、今は違う。もう選ばれなくなっているという体感があります。ウチに限らず、テレビ業界全体で人材確保が厳しい時代です」
離職率も上昇傾向にある。離職者の中で多いのは20代、30代。県内の平均給与額を上回り、安定した収入を得られ、条件は悪くない。しかしだ。
「やっぱり放送業界の将来に対して不安を感じている方が多いということだと思います。
特に若手社員の方はテレビに対するイメージが下がったことに影響を受けています」
■社長室はミーティングルーム兼用部屋に改装
策はある。足りなかったのは“会話”だ。
「管理職と若手社員が互いに会話を控えていたように思うんです。管理職がパワーハラスメントを意識しすぎて教育指導ができなくなってしまうと、受ける側の権利主張がある日から上回る。そうすると、小さな会社でもガバナンスが効かなくなってしまいます。一方で、若手社員の方が意見を言いやすい環境を丁寧に作る必要もあります。150人ぐらいの規模の会社ですから、会話をしましょうということです」
本社にある社長室を訪れると、前々任の社長が2002年に設置したままの重厚感のある皮のソファーやダーク色のテーブルが並べられていた。これを改装して、今どきのビビットな色を取り入れたミーティングルーム兼用の部屋にアレンジしようというのだ。目指すは社員の誰でも気軽に相談できる場だ。
■榎木田社長自ら“あけみママ”に
狙いはすでに着手した地域のハブ拠点「&Labo」にも通じる。地域住民との接点を増やそうと榎木田社長が取締役に就いていた時から肝煎りで立ち上げたものだ。JR宮崎駅から伸びる高千穂通りにある旧NTT西日本宮崎支店をデザイナー風にリノベーションした建物の一角に構える。
この4月にオープンしたばかりの真新しい空間が広がっていた。
毎日のお天気コーナーはこの場所から中継している。足を運んだこの日の午後も、温度計を差しながら暑い夏日を伝える気象予報士の姿があった。
気軽に利用してもらうことも目指す。榎木田社長のアイデアで室内にはバーカウンターまで設置されている。榎木田社長自ら“あけみママ”となってトークを展開するテレビ宮崎の公式YouTubeチャンネルの企画「スナックあけみ」をイメージするもので、「スナックあけみ」のオリジナルステッカーやライターまで販売されていた。実際に席に座って、のどを潤す地域住民もいるという。面白がってもらうことで接点を増やすとは抜け目ない。
■「街を元気に」はローカルテレビ局の使命
初期投資額は1000万円ほど。採算性が見えないから、スモールサイズの投資に留めているわけではない。意識するのは「未来への投資部門」だ。
「投資できる体力があるうちにチャレンジすることに尻込みしたくない。テレビ広告営業だけでビジネスを完結することなく、今ある貯蓄を運用して『&Labo』のような展開から利益を生み出すことにも目を向けると、新しいビジネスが生まれるはずです。公共事業にお金だけ出す時代も終わっているから、街づくりにも顔が見える向き合い方を選んで&Laboを立ち上げています。街を元気にすることもローカルテレビ局の使命です」
課題も挙げる。その1つがテレビ局の要にあるオリジナル番組の開発にある。かつてテレビ宮崎にはローカルの笑いを届けていた「さんさんサタデー」のような強力番組があった。宮崎県出身の人気漫画家・東村アキコさんが「笑いの原点」と言い切るほどの伝説の番組だ。
テレビ宮崎ではその東村アキコさんが初期に手掛けた自伝的漫画『ひまわりっ 健一レジェンド』を2020年にドラマ化し、これをきっかけにドラマ制作に力も入れるなど道筋は立てている。
■「プロバーから社長を出すべき」という思い
実はこのドラマ「ひまわりっ」は榎木田社長と深い関わりがある。当時、アナウンサー職に徹しながら開局50周年記念プロジェクトの総合プロデューサーとして旗振り役も担い、ドラマ化の実現に大きく貢献したのだ。東村アキコさんに密着取材し、ドキュメンタリーを作ったことをきっかけに自ら直接交渉しに行った。その時の様子を東村アキコさんが後日、漫画にし、榎木田社長は猪突猛進に進む“榎木田アナ”として登場している。
それから5年。前社長の寺村明之相談役から社長の任命を受けて、現在の榎木田社長がいる。寺村相談役はテレビ宮崎の筆頭株主であるカンテレ出身者。「テレビ宮崎の将来を見据えて、今こそテレビ宮崎のことを本気で考えることができるプロパーから社長を出すべき」と考えた末、白羽の矢を立てたのが榎木田社長だった。そんな思いも引き継ぐ。
「若い社員にも自分がUMKだと思ってもらいたいんです。自分こそUMKだと。そう思ってもらえるようなムードを作っていかなければならない。ネガティブな欠片があると、どんどん浸食していってしまうので、全員がポジティブである必要はないのですが、県民とUMKのこれからを思って丁々発止が生まれるような環境を作りたいです」
そう語る社長、榎木田朱美さんにはゆるぎない決意が宿っているように見えた。
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長谷川 朋子(はせがわ・ともこ)
テレビ業界ジャーナリスト
コラムニスト、放送ジャーナル社取締役、Tokyo Docs理事。1975年生まれ。ドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情をテーマに、国内外の映像コンテンツビジネスの仕組みなどの分野で記事を執筆。東洋経済オンラインやForbesなどで連載をもつ。仏カンヌの番組見本市MIP取材を約10年続け、番組審査員や業界セミナー講師、行政支援プロジェクトのファシリテーターも務める。著書に『NETFLIX 戦略と流儀』(中公新書ラクレ)などがある。
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(テレビ業界ジャーナリスト 長谷川 朋子)
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