中華チェーン「日高屋」が好調だ。売上高が直近2年で1.8倍に増加した背景には、男性客が約8割を占める「駅前の町中華」からの転換があった。
運営するハイデイ日高の青野敬成社長に、業績を伸ばしている理由を取材した――。(第1回/全2回)
■安さの理由はコストダウンだけではない
定番の中華そばが420円、人気の野菜たっぷりタンメンが620円。2024年、原料費高騰により、開業以来守ってきた中華そば390円から値上げをせざるを得なくなったが、競合他社と比べるとまだまだ安い。
「セントラルキッチン、そして一定地域に集中するドミナント出店によって、配送効率、調理効率を高め、コストダウンを行っています。さらに近年はDXで人材コストも1~2%減らせるようになりました」
ただ、安さの理由はコストダウンだけではない。薄利多売、つまりブランドの魅力により全店で日に約18万人という、多くの集客が見込めるからこそ、原価が上がっても利益が出て、商品品質にうまく還元できる仕組みだ。
■業績伸長の背景には「店舗戦略の転換」
ハイデイ日高の売上高は2022年264億200万円、2023年381億680万円、2024年487億7200万円と推移。営業利益については、2022年はコロナ禍の影響でマイナスだが、2023年から黒字化し、2025年は55億1400万円まで伸びてきた。
店舗数としては2022年の404店舗から2025年の424店舗(来来軒含む)と増加している(2025年2月期)。
こうした業績の伸びの背景には、実は、コロナ禍を挟んだ店舗戦略の転換があった。以下、順に説明していく。
まずコロナ禍前、2020年の改正健康増進法を睨み全店で全席禁煙化。
男性客中心から、女性客やファミリー層へと客層の幅が広がった。以前は男性が80%ほどだったが、今は65%ほどになっているそうだ。
さらに、駅前に複数店舗を出店するのが従来の戦略だったが、コロナ禍では繁華街の客が減少したため、ロードサイドへの出店を強化。新規出店の割合としては、駅前とロードサイドが半々になっているそうだ。これも老若男女幅広い層の獲得につながっている。
■「利益」より「安さ」の生ビール390円
以前からおつまみになる小皿料理の充実、アルコールの価格を低めに設定する、ビールやハイボールの割引フェアなど「ちょい飲み」需要の取り込みを行ってきた。とくに生ビール(税込み390円)に関しては、原価率が50%を超えるほどに価格を下げている。
一般的には、ビールは高いため値段を上げて、原価の安いサワーに誘導する店が多いが、日高屋では差別化のため、あえてビールの価格を下げているのだそうだ。
実際、客数の増加につながっている。従来の客である平日夜のビジネスパーソンだけではない。
「例えば偶数月の15日に増えるのがシニア層。年金で“ちょっと一杯”の幸せを味わいに来られます。
4~5人で昼飲みを楽しむ主婦層も多いですよ」
結果、アルコール比率は売り上げの約15%となっている。コロナ禍前の17%より下がっているが、全体の売り上げが上がったため、金額としては大きく上がっているそうだ。
■客単価アップに貢献した「タッチパネル」
売り上げ増加の理由として最後に挙げるのがDXだ。コロナ禍を境に、キャッシュレスやタッチパネル、配膳ロボットなどへの移行が進んだ。とくに客単価アップに貢献したのがタッチパネルの導入だ。客が店員を呼ぶ必要がなく追加オーダーがしやすいことから、「ちょい飲み」がついつい本格的な飲みになってしまう。
「大人数で飲みに行くと、『あと一杯』が長くなるもの。タッチパネルだと誰かが全員の分の飲み物を注文するんです。それだけオーダーが増え、客単価が上がるというわけです」
以上のような戦略転換により、店舗あたりの売り上げで見ると、コロナ禍以前に比較して月に平均8万円程度アップしているそうだ。これにより、コロナ禍のアルコール制限や時短といった影響を乗り越えて、V字回復を果たすことができたわけだ。
そんなハイデイ日高でも、物価高騰は打撃になった。キャベツ、米、肉類、卵、豚ガラ・鶏ガラなど、すべての原材料が高騰している。
とくに出汁となる豚ガラ・鶏ガラについては、近年のラーメン店の増加により数量が不足気味。さらに物価高騰の影響によって、価格が高くなってしまっているのがラーメン市場の現状だそうだ。
■競争相手が多い「ラーメン店」
ハイデイ日高では麺など食材のほとんどを自社工場で、スープも提携工場で製造しているため、物価高騰の影響を比較的抑えられている。国内産の鶏ガラの仕入れ先も今のところ確保できている。しかし、大手チェーンの参入や個人店の増加などでラーメン店がこれ以上増えていくと、国内産の鶏ガラで賄えなくなる恐れもあるそうだ。
「ラーメン店を開業するのは簡単ですが、競争相手が多いため営業していくのは至難。ラーメン1本で500店以上のチェーンがないのもそのためです。当社では差別化策として炒め物なども提供しています。そのおかげで昼夜問わず、老若男女が入れる店となっています」
個人店の廃業が増えるなど、ラーメン店がコロナ禍や物価高騰の影響を大きく受けるのは、参入のしやすさという特有の理由も大きかったわけだ。
■ファンは気づいた、値上げ後の変化
日高屋でも、これまで開業時の価格を守ってきたが、2024年には2度にわたり値上げ。客足にも影響が出た。
とくに12月の値上げ時には、1日当たりの全店客数が直近と比べ1万5000人程度減少してしまった。

一方で、値上げした以上の価値を提供したいと、メニューのブラッシュアップも行った。例えば2025年4月、7月には中華そばや野菜たっぷりタンメン等の麺、スープをそれぞれリニューアル。麺は製法を変え、より小麦の香りが感じられるようなものに。またちぢれ麺からストレートに変えて、スープを絡みやすくした。
スープについては、瀬戸内産イワシを漁獲1時間以内に加工し、北海道産ホタテエキスを加えるなど、よりうまみを感じられるようになったという。
食べ比べないとわからないほどの変化のため、大々的に宣伝をしなかったが、ファンには伝わったようだ。
「店で『麺が変わった』という指摘があったのに、現場社員に伝わっていなかったので混乱が起こってしまったんです。7月の改良ではきちんと宣伝するようにしました」
結果、客足は戻りつつあり、値上げ当初の客数減も改善できている。客単価が上がっていたこともあり、値上げによる影響を比較的抑えながら、収益アップも実現できた。
■新規客獲得のきっかけとなった「楽天ポイント」
さらに新規客獲得のきっかけとなったのが、楽天ポイントの導入だ。日高屋では現在、以前からのdポイントと合わせ、2種類使えるようになっている。実はこのポイントについては、青野氏がこだわっている点でもある。

「同じチェーンでしか使えない自社ポイントは囲い込み策だが、当社のように一部の地域に集中しているチェーンでは、お客様にとって不便。それよりは、どこでも貯められる、使える共通ポイントの方がいいと考えた。要は『来店動機になるかどうか』だ」
実際、ポイントを使えることが来店動機になり、新規客が獲得できている。今後使えるポイントの種類をさらに増やしていきたいとも考えており、カード会社と共同で、さまざまな共通ポイントに対応できる機器も開発、導入したそうだ。
ただし、現在契約している会社との兼ね合いもあり、実際にさまざまなポイントが使えるようになるのはまだ先となる。
■ベトナムへの出店の可能性
気になるのが今後の店舗展開だ。駅前好立地とロードサイド両面の強化が同社の大きな戦略だが、直近では国内の他の地域への拡大、やがては海外についても検討しているという。
まず海外についてだが、同社で働いていたベトナム人人材の帰国に伴い、ベトナムへの出店の可能性が開けているという。ただし、食材の違いや法律面の課題があり、目下、対策を検討中だそうだ。
「日本は海外から質の良い小麦を仕入れており、料理に合わせた製粉の技術も発達している。一方ベトナムではどうしても、日本で使っているような小麦が手に入りにくい。試行錯誤してある程度のところまでクリアできたが、共産国で外資が入るのが難しいため、現地企業と連携するなどし、生産手段を考えていく必要がある」
このところ、飲食チェーンの海外への出店がブームになっている一方、日高屋では上記のような事情もあり、むしろ、国内の他の地域への攻勢を強めていく考えだ。

店舗数は400店舗以上と多いが、1都3県がほとんどを占める。今後は北関東や東北、中部、関西などに広げるとする。
5月に秩父に店舗をオープンしたところ、商業施設の掲示板に地域住民から「来てくれてありがとう」「安くておいしいので驚いた」などとメッセージが寄せられたそうだ。
「これからも食のインフラの使命を持って、広げていきたいですね」

----------

圓岡 志麻(まるおか・しま)

フリーライター

東京都立大学人文学部史学科卒業後、トラック・物流の専門誌の業界出版社勤務を経てフリーに。健康・ビジネス関連を両輪に幅広く執筆する中でも、飲食に関わる業界動向・企業戦略の分野で経験を蓄積。保護猫2匹と暮らすことから、保護猫活動にも関心を抱いている。

----------

(フリーライター 圓岡 志麻)
編集部おすすめ