企業にとって、社員の待遇をいかに良くするかは大きな課題だ。中華チェーン「日高屋」を運営するハイデイ日高は毎年賃上げを行い、平均年収は500万円を超える。
独自の人材戦略について、青野敬成社長に取材した――。(第2回/全2回)
■物価上昇率を上回る賃上げを継続
低賃金とされる飲食業の中で、ハイデイ日高は比較的高待遇の企業となっている。例えば店長職では月給35万円以上、ボーナス100万円という例もあるそうだ。
2021年2月末時点で459.6万円だった平均年収は、2025年2月末時点で523万円まで増えた。
2025年4月も、ベースアップと定期昇給を合わせ平均6%強賃上げ。2021年以来5年連続となる。もともと利益率が低い飲食業において、材料費、燃料費などが高騰する中、なぜ賃上げを継続しているのだろうか。
「物価上昇率を超える賃上げをしないといけないと考えています。基本方針としては、営業利益率が10%を超えたら会社が儲かっているので、従業員にお返しするという考え方。例えば利益率が11%の場合は1%を報酬とします」
ハイデイ日高の2025年2月期の売上高は、過去最高の556億円となった。2029年を最終年とする中期経営計画での目標値が600億円。3年前倒しして今年度の目標になるほどに、スピード成長を遂げている。
その恩恵を従業員も受けられるよう、あらかじめ会社の仕組みに組み込まれているのだ。
■年2回のボーナスとは別の「臨時収入」
また同社独自のシステムが「成長分配金」と「予算達成賞」だ。
成長分配金はいわゆる決算賞与で、年2回のボーナスとは別に支給される。現場の頑張りに報いる意味で、店長、地区長、現場で働く社員が主な対象となっている。臨時収入という特別感を失わないため、あえて、採用案内などには記載していないそうだ。 なお、アルバイトに対しては年2回の賞与が支払われている。対象は勤続月数などにより決まっており、全体で8600人ほどとのことだ。
■「現場出身だから店長の苦労が身に染みてわかる」
予算達成賞は、原価や人件費を守りながら売上予算を達成した店長や社員に支給されるもの。
このように店長に対し成果報酬のような制度があるのも、店の魅力が店長にかかっているためだ。大きい店や忙しい店の場合、冒頭に紹介したようにボーナス100万円という例も出てくる。
「現場出身なので、店長の苦労が身に染みてわかるんです。お金で報いるだけでなく、声にも積極的に耳を傾けたいと考えています」
例えば店長になるタイミングで責任者と共に面談し、意見を取り入れるようにしているそうだ。

なお、先般すかいらーくが店長の年収を最大1000万円超とする制度を導入した。これについて青野社長にコメントを求めたところ以下のような返事だった。
「飲食店は給料が低いというイメージが強いが、このように第一線の企業が率先して賃上げを行うことで、飲食業界全体のイメージアップにつながり大変ありがたいと考えます。弊社としてもそのような企業に近づけるよう、日々企業努力を重ねていきたいと思っています」
■コロナ禍、損をしても従業員を守った
「店長の思いによって店は変わる」というのが青野氏の持論。そのことが最も顕著に表れたのが、コロナ禍だったそうだ。売り上げが下がり会社としても経営が厳しくなったが、とにかく「人件費はかさんでも、雇用を守るほうを優先する」との方針を立てたそうだ。
ただ、自らやめていく従業員も少なくなかった。時短営業によって稼げなくなったなど、それぞれ事情もあるので、一概にはいえないが、店長の普段からのマネジメントが、人が残った店、減った店に表れたのではないかという。
またコロナ禍、損をしても従業員を守ったことは、結果、コロナ後の業績回復につながった。人手が足りていたため、時短要請解除の後速やかに、午後9時までだった営業時間を11時までに延長することができたのだ。なお、現在は立地により営業時間を変えている。早朝4時から深夜2時までの店もあれば、午前10時から午後11時までの店もあるという具合だ。
しかし需要のある立地であれば、客の利便性のために営業時間を延ばしていきたいという。
■機械に仕事を任せて、人間は何に注力するか
ここまで報酬面における人材戦略について見てきた。次に労働環境面について解説していく。
同社では厨房内設備の自動化や配膳ロボット、タッチパネル、キャッシュレスといったDXで、効率化と作業負担の軽減を進めている。これらにより人件費を1~2%低減できたという。
しかし、より大きな成果は、生産性の向上をDXに任せて、店長が「人としてのサービス」に注力できるようになったことだそうだ。
「以前は生産性を追いかけることで手いっぱいでした。今は、従業員を1人増やしてどれだけ売り上げを増やせるかを目標にできています。例えば3人お客様を増やせれば、従業員の時給はペイできます。ではどうやって売り上げを増やすか。やはりおいしいものをお客様にお出しする。それから衛生面の管理。
店長にはその2点の教育に集中してもらいたい」
厨房設備の自動化も進めており、現在、ライスの盛り付け、餃子の焼成、麺の茹で上げが自動となっている。
■タッチパネル導入の意外なメリット
一方、人間の腕の見せどころは炒め物など、鍋を使う料理になってくるそうだ。またおいしそうな盛り付けも人の行うサービスとして重要だという。
またホールのロボット導入は2022年からで現在50店舗において61台が稼働。配膳だけでなく下げ膳にも活用しているのが同社での使い方の特徴だ。ロボットに食器を載せた後、ロボットが洗い場へ運んでいる間に人のスタッフがテーブルを拭くという具合にうまく作業分担を行い、店舗の回転率を向上している。
タッチパネル導入やキャッシュレス化の効果も大きい。
とくにキャッシュレスは精算にかかる時間を2分の1以下に低減。現金だと速くても26秒はかかるが、キャッシュレスにかかるのは10秒程度で、もっと速い場合もある。現在、キャッシュレス決済は売り上げの57%に上っているそうだ。
またタッチパネルの思わぬメリットが、外国人人材が増える中で、教育にかける労力を軽減できたことだった。
「アルバイト1万人のおよそ35%が外国人人材。
外国人採用の課題が言葉の問題です。最初はほとんどしゃべれず、伝票も読めません。以前は厨房とホールの双方でその問題がありました。しかしタッチパネルの導入で、ホールに関してはレジをある程度教えれば働けるようになるので、教育の時間が大幅に減りました」
■「外国籍の店長」も誕生している
外国人人材の重要性は近年、高まってきており、ハイデイ日高の2025年入社の新卒約100名のうち約30名が特定技能の枠組みによる外国人人材だ。ベトナム、タイ、ミャンマーが多い。
「特定技能」について簡単に説明しておこう。特定技能は外国人人材受け入れのために2019に開始された資格制度で、産業の種類や技能の程度により、1号と2号に分かれる。飲食業は1号、2号、どちらも受け入れが可能な分野だ。現在の在留者数で言うと1号は29万3008人、2号は1351人となっている(2025年2月末時点)。
1号については外食業では飲食物調理、接客、店舗管理などの業務に従事が可能で、5年まで在留することができる。実務経験と試験によって2号へ昇格すると、在留期間の上限がなくなるほか、家族が帯同できる、永住権の要件も満たせる可能性があるなど、より日本に根付いての労働が可能になるわけだ。
ハイデイ日高では2号を取得し、店長となっている人材もいるという。

■「従業員第一」は飲食チェーンに必須
次なる課題は女性従業員だ。もともと女性の入社自体が2割程度と少なかったが、2025年は45%に増えた。女性の店長は現時点では6%。2029年には女性管理職を10%以上に高める目標を立てている。
以上がハイディ日高における「従業員の幸せを第一に」考えた人材戦略だ。
とくに飲食という業種においては、サービスをする従業員、店の雰囲気、料理の味が価値を決める。いずれにも、従業員のやる気が大きく関わってくる。とすれば、従業員への対策は人材戦略にとどまらずチェーンの全体戦略となる。
これが、第1回で紹介したコスパの維持、ブランドとしての魅力づくりと合わせ、日高屋のスピーディかつ安定した成長を支えているのだ。

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圓岡 志麻(まるおか・しま)

フリーライター

東京都立大学人文学部史学科卒業後、トラック・物流の専門誌の業界出版社勤務を経てフリーに。健康・ビジネス関連を両輪に幅広く執筆する中でも、飲食に関わる業界動向・企業戦略の分野で経験を蓄積。保護猫2匹と暮らすことから、保護猫活動にも関心を抱いている。

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(フリーライター 圓岡 志麻)
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