-モリブデン99の国内供給体制の確立を目指して-

【概 要】
株式会社アクセルレーター(東京都渋谷区、代表取締役 那珂 通雅)は、大学共同利用機関法人高エネルギ-加速器研究機構(以下「KEK」)にモリブデン99の国内供給体制の確立を目指した研究開発を委託し、この度、KEK加速器研究施設(山口誠哉施設長)の応用超伝導加速器センタ-は、エネルギー回収型線形加速器(Energy Recovery Linac: ERL)(※1)の小型実証機であるコンパクトERL(cERL)の超伝導加速器を用いた医療用RI(※2)であるモリブデン99の製造に国内で初めて成功した。
今回の研究成果から、国内で超伝導加速器を使った、十分な量の医療用RI製造が可能になることが期待される。


【本研究成果のポイント】
▶ 超伝導加速器を用いて放射性医薬品の原料となるラジオアイソトープ(放射性同位体、以下「RI」)の一つであるモリブデン99の製造に国内で初めて成功した。
▶ 超伝導加速器の大出力で高安定という特長を活かすことで、ウラニウムを用いず、またウラニウムを用いないことでプルトニウムを発生することなく医療用RI製造が可能となる。
▶ 特に、100%輸入に頼っていたモリブデン-99の国内製造が可能となり、安定供給が期待される。

【背 景】
天然のモリブデンに約10%含まれているモリブデン-100に約14MeVのガンマ線を照射すると、巨大共鳴反応(※3)により原子核の中から中性子1個が放出され、モリブデン-99に変化する。モリブデン-99は半減期66時間で崩壊し、テクネチウム-99となるが、一部が準安定状態留まる。その準安定テクネチウム-99mが半減期約6時間で安定状態(半減期約20万年)に壊変する際に出す141keVの放射線が、核医学検査に使われる。

テクネチウム-99mを薬剤の中に組み込み、患者に投与することで、患部の非破壊イメージングが可能となり、それをシンチグラムと呼ぶ。モリブデン-99は日本で使用されている医療用RIの約80%を占めているが、現在は海外の原子炉で高濃縮ウランの核分裂により製造された輸入品に100%依存しており、長期にわたる原子炉の検査や不測の故障など安定供給に課題がある。そこで、超伝導電子線形加速器(図1)を使った新しいモリブデン-99製造システムを開発し、まずは国内向けに安定供給を目指すというのが本研究の最終目的である。大量のRIを効率的に製造するには、大電流で安定な電子銃および超伝導技術が必須となるが、KEKは長年にわたり、この技術開発を継続して行ってきており、国際リニアコライダー(ILC)計画(※4)と同じ技術が採用されている。

【研究成果】
KEKでは、商用の装置設計のための基礎データの取得のため、2018年8月よりcERLにおいてRI製造ビームライン(図2、3)の建設を開始、2019年4月に施設検査に合格、2019年6月に超伝導加速器部分を用いて実際に約20MeV、10μA(マイクロアンペア)の電子線を天然の金属モリブデンに照射してRI製造実験を行った。実験の目的はモリブデン-99の生成率の電子エネルギー依存性と、同時に生成される他の不要なRIについて調べることであった。
6月の実験の結果(図4)、比較的低いエネルギーの電子加速器を使うことで天然のモリブデンからでも、陽子や重粒子の加速器に比べてモリブデン-99だけを選択的かつ効率的に製造でき、出力を上げた際にも不純物や放射性廃棄物がほとんど発生しない可能性があることが分かった。熱伝導のよい金属ターゲットを超伝導加速器(図3)からの連続ビームと組み合わせることで、今までにない大出力のビーム照射が可能となる。これにより、加速器を用いたモリブデン-99製造では収量と不純物排除の為に必須と言われていた同位体分離された高価な高純度モリブデン-100の使用やその回収工程が必要でなくなる可能性がある。この20MeV、10mA級の超伝導加速器数台で、国内の需要が賄えると推定される。10月に予定されている実験では、天然金属モリブデンを化学的に溶解し、テクネチウム99mを実際に抽出する試験を行う予定である。

【PDF資料】
https://prtimes.jp/a/?f=d45065-20191018-4587.pdf

【お問い合せ先】
 <報道担当>
 株式会社アクセルレーター
  担当:取締役 織田 聡(おだ さとし)
  電話:050-1745-1278
  E-mail:saoda@accelerator-inc.com
 大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
  広報室長 引野 肇
  Tel: 029-879-6047
  Fax: 029-879-6049
  E-mai: press@kek.jp
<研究内容に関すること>
 大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
  加速器研究施設(第六研究系主幹、研究代表)小林 幸則
  Tel: 029-864-5632
  Fax: 029-864-2801
  E-mai:yukinori.kobayashi@kek.jp


【用語解説】
※1.エネルギー回収型線形加速器(Energy Recovery Linac: ERL)
線形加速器において、利用が終わった電子ビームを捨てる前に減速してエネルギーを回収、それを次のビームの加速に利用することで、消費電力や放射線発生を抑制して大電流の連続ビームを可能にした超伝導線形加速器。
今回はエネルギー回収なしで超伝導加速器部分のみを利用して照射実験を行った。通常の常伝導線形加速器が10Hz(1秒間に10回)などと断続的にしかビームを出せないのに対し、超伝導加速器は連続(例えば1.3GHzの周波数)でずっとビームを出し続けることができる。エネルギー回収することで、大電流、高エネルギー時に消費電力が現実的な値まで下がる。

※2.ラジオアイソトープ(RI)
放射性同位体といい、ある元素が持つ同位体のうち、原子核が不安定であるために、原子核が崩壊して何らかの放射線を放出する同位体のこと。半数が崩壊する時間を半減期という。崩壊時に放出される放射線が、医学診断、がん治療など、様々に利用されている。
テクネチウム99mの場合、β線を放出せずγ線のみを放出する特性を活かし、各種リガンド(特定の受容体に特異的に結合する物質等)と標識して、骨・腎臓・肺・甲状腺・肝臓・脾臓などの臓器を描出するシンチグラフィ(放射性同位元素を利用した画像検査)に用いられている。

※3.巨大共鳴反応
 原子核内の多数の陽子と多数の中性子の集団運動で、励起することで核内の陽子や中性を放出させて別の核種や同位体にすることができる。今回の場合、加速した電子使ってモリブデン100の原子核から中性子を1個、間接的に叩き出している。

※4.国際リニアコライダー
 国際リニアコライダー(英: International Linear Collider、略称 ILC)とは、素粒子物理学において超高エネルギーの電子・陽電子の衝突実験をおこなうため、現在、日米欧をはじめ世界の研究者の国際協力によって設計開発が推進されている将来加速器計画。


[画像1: https://prtimes.jp/i/45065/3/resize/d45065-3-324128-0.png ]

図1 cERLの主超伝導加速器。リニアコライダー技術を応用した9セルの空洞が2本設置されている。
(高エネルギー加速器研究機構提供)


[画像2: https://prtimes.jp/i/45065/3/resize/d45065-3-718762-1.png ]

図2 cERL加速器周回部(手前)から照射ビームライン(中央)を望む。(高エネルギー加速器研究機構提供)


[画像3: https://prtimes.jp/i/45065/3/resize/d45065-3-407816-2.png ]

図3 ターゲット照射部(高エネルギー加速器研究機構提供)


[画像4: https://prtimes.jp/i/45065/3/resize/d45065-3-634048-3.png ]

図4 照射実験の結果、モリブデンターゲットの深さ1cm地点(収量最大部分)で生成された核種。Mo91が生成されているが、半減期15分で速やかに崩壊するため問題にならない。35~40MeVにエネルギーを増やすと収量は数倍になるが、Nbがほとんど生成されない20MeV付近が適していると考えられる。(高エネルギー加速器研究機構提供)

企業プレスリリース詳細へ
PR TIMESトップへ