FIFAワールドカップでドイツ、スペインを撃破し、世界を驚かせた男子日本代表。男子の躍動に大きな後押しを受け、来年7月に開催される女子ワールドカップに挑む、なでしこジャパンの活躍にも期待が高まる。

2021年にWEリーグが開幕して日本の女子サッカーはどのように変化し、現在どのような課題を抱えているのか。今年10月に刊行された『心の声についていく 自分らしく生きるための30のヒント』(岡島喜久子著/徳間書店刊)の抜粋を通してWEリーグ初代チェア・岡島喜久子さんとともに考える、女子サッカーの現在地、そして未来――。

(文=岡島喜久子、写真=Getty Images)

テレビ映像になったときに15秒で切り取れる「開幕宣言」

2021年9月12日、日本初の女子プロサッカーリーグ、WEリーグが開幕しました。

11クラブの初めてのホームゲームをすべて開幕戦ととらえ、私がそれぞれのホーム初ゲームで開幕宣言をして、キャプテンが選手宣誓をすることにしました。時系列的には、午前10時、ノエビアスタジアム神戸で、第1試合がキックオフされましたが、同日の午後2時から味の素フィールド西が丘で行われた、三菱重工浦和レッズレディース対日テレ・東京ヴェルディベレーザ戦を、リーグとしての開幕戦とすることにしました。

開幕宣言は、川淵三郎さんの著書『虹を掴む』『「J」の履歴書』を読んで、Jリーグの開幕宣言を研究しました。著書のなかにある、テレビ映像になったときに15秒で切り取れる部分をつくることなどは考えもしないポイントで、実際、川淵さんの開幕宣言の映像を見ると、短い時間で切り取れるようになっていて、私もそれをまねさせていただきました。

開幕宣言の言葉は、以下のとおりです。

 日本の女子スポーツの新しいページが本日開きます。
 ウーマンエンパワーメントという名前で
 日本のジェンダー平等を前にすすめる覚悟のリーグです。
 世界一の女子サッカーと
 世界一の女性コミュニティの実現に向けて、
 そして、多様な生き方と夢が生まれる社会を目指して、
 みんなが主人公になるために
 WEリーグがステージとなります。
 2021年9月12日、WEリーグの開幕を宣言します。

私の開幕宣言のあとに、各チームのキャプテンが選手宣誓を行いました。

その言葉は以下のとおりです。

 私たちWEリーガーは、自覚と責任をもち、サポーター及び社会に対して、
 以下の約束をすることをここに誓います。
 私たちは、自由に夢や憧れを抱ける未来をつくる。
 私たちは、共にワクワクする未来をつくる。
 私たちは、互いを尊重し、愛でつながる未来をつくる。
 みんなが主人公になるためにプレーする。

これは、選手が5カ月かけて、クラブでミーティングし、それを持ち寄ってつくったクレド(行動規範)です。

何度聞いても涙が出てくるWEリーグのアンセム

私は神戸で10時キックオフの試合前の開幕宣言をしてから、キックオフ前にスタジアムを出て、午前11時の飛行機で神戸から羽田、そこから西が丘に行くことになっていました。

飛行機が天候の状況などで遅れるリスクも考えましたが、やはり、最初に開催される神戸の試合で開幕宣言をすることは大切だと思い、神戸に行きました。神戸では、WEリーグのアンセム(応援歌)を新しく作曲してくださった、人気ロックグループ、TUBEのギタリスト春畑道哉さんが、スタジアムで演奏してくださいました。音楽の力を感じたのは、アンセムを何度聞いても涙が出てくるからです。アンセムのあとすぐに開幕宣言をするので、このときは泣かないようにしようと思っていましたが、さすがに春畑さんが目の前で演奏する姿を見ていると、どうしても感動して涙をこらえることができませんでした。

その後、初めての開幕宣言を無事に行い、キックオフを待たずに神戸空港へ向かいました。

フライトは定刻どおりの出発で、西が丘に時間どおりに到着することができました。私が当日、2会場で開幕宣言をしたことを不思議に思い、SNSで取り上げてくださったファンの方もいましたが、何も問題なく間に合ってよかったというのが感想です。

西が丘では皇后杯優勝チームである日テレと、2020年なでしこリーグ優勝チームである浦和の試合でした。会場には、日本サッカー協会名誉総裁であられる高円宮妃久子殿下をはじめ、田嶋幸三会長、川淵さんなど、サッカー界の重要人物にお越しいただくことができました。

プロ化になって初めての試合ということで、メディアの関心は比較的高く、テレビニュースでも取り上げていただきました。次の日のスポーツ新聞でも大きく取り上げられて、一定の露出を確保することができました。

チケットが前売りで完売となっていて、子どもたちが試合前のキックゲームに集まり、試合開始時には、スタジアムに戻ってもらうようにスタッフの方が声をかけなくてはいけなかったほどです。ただ、前売りで完売とはいっても、新型コロナによる入場制限があり、席数の50%が上限。アウェイチームの応援席も販売できない状況ではありました。

達成できた二つのこと。なぜ埼玉県から3クラブがリーグに参加?

達成できたことの一つめは、選手がプロになって、午前中、仕事に行かなくてよくなり、練習、フィットネス、体のケアにかける時間が取れたことです。

もちろん、それは競技力の向上につながりますし、海外のチームとの大きな違いであるフィジカルの部分の強化が可能になります。

なでしこジャパンが2011年に優勝したときは、細かいパスのつなぎや丁寧なトラップなど、テクニカルの部分で他国の選手より優れていました。その後、アメリカやヨーロッパはもともとフィジカル能力が高いうえに、日本のようなテクニックを身につけていったことで、日本の優位性が低くなっていきました。しかし、今まで外国人選手に比べやや足りなかった、体幹の筋力や走力をつけていき、テクニックにパワーやスピードを足していくことで、なでしこジャパンのチーム力向上にも貢献できるのではないかと思います。

二つめは、ほかのスポーツ団体にはない社会活動がリーグの一部になったことです。「WEアクションデー」というのは、選手が主体となって、地元コミュニティのつながりを意識した活動をしたり、SDGsのテーマで社会活動をしたりする「理念推進日」です。

WEリーグは11クラブという奇数で始まったため、1クラブは毎節試合がありません。それをお休みにするのではなく、WEリーグの理念に沿った活動をしてもらうことにしました。1年間でいちばん評価の高かったWEアクションデーは、地元の特別養護施設の子どもたちと選手が運動会のような玉入れゲームをしたり、サッカーをしたりした日でした。子どもたちには、選手がスポンサーを募ったお金で、自分たちでデザインしたオリジナルパーカーを贈りました。 養護施設の先生が、こんなに楽しそうな子どもたちを見たことがないというくらい、喜んでいただけました。

そのWEアクションデーを行ったのは、ちふれASエルフェン埼玉です。実は、埼玉県から3クラブがWEリーグに参加しています。浦和と、大宮アルディージャVENTUS、そして、ちふれAS埼玉です。埼玉県は歴史的に見てもサッカーが盛んな県ですが、それにしても3クラブの参入を1つの県から出すことを認めることには、参入審査委員会で議論がありました。しかし、3クラブとも参入基準を満たしていて、それぞれが魅力あるクラブであることから、このような結果になりました。

嬉しいことに、埼玉県の大野元裕知事が、県庁にWEリーグ気運醸成委員会をつくってくださいました。3クラブのホームタウンであるさいたま市、狭山市、飯能市、日高市、熊谷市の市役所の方がミーティングをして、3クラブのゲームを盛り上げる方策を考えていただいています。その3クラブのホームタウンではないのですが、蕨市も気運醸成委員会に参加していただいています。蕨市は、ワラビーズのホームタウンとして参加してくださいました。ワラビーズというのは、「さよなら私のクラマー」という女子サッカーの漫画、アニメに出てくる蕨市の高校の女子サッカー部のニックネームです。蕨の駅前には、ワラビーズの選手ののぼりが立っているくらい、蕨市は女子サッカーを応援してくださる自治体なので、気運醸成委員会に参加していただき、とても嬉しく思っています。

「夢の職業になるにはまだまだ」。WEリーグ初年度の成果と課題

日本の女子サッカーの未来を考えたときに、課題としては、選手の待遇が子どもたちの「夢の職業」になるにはまだまだ、というところです。

男子のプロサッカーであるJリーグの選手に比べると、WEリーガーは15分の1程度の所得です。プロになったとはいえ、現役生活が終わったあとのセカンドキャリアを考えなければなりません。WEリーグでは、各選手に上から4番目のコーチングライセンスを取ってもらうことをお願いしています。引退してから指導者になりたい場合、あと2段階のライセンスを取れば、アマチュアクラブの監督になれます。

また、クラブのスタッフの50%を女性にすることを参入基準に入れています。引退後、自分のクラブが仕事の受け皿になってほしいと考えているからです。ただ、やはりこれから選手の待遇を良くしていけるように、クラブの収益を増やす努力をしていかなくてはなりません。

集客についても課題があります。平均観客数1560人というのは決して少ない数字ではないものの、各クラブが試合ごとに赤字を出さない観客数には足りず、黒字になる数を確保したいところです。ただ、3000人以上観客を集めた試合が10試合あり、いちばん多かった試合は1万2330人、国立競技場での試合でした。

その試合は、INAC神戸レオネッサの安本卓史社長が、当日、関西で試合会場を確保できなかったことから、国立競技場でやろうと英断し、実現した試合でした。サカママという「サッカージュニアを支えるママのための情報メディア」を通じて、500人ほどの子どもたちが、国立競技場でサッカーゲームやキックターゲットを楽しむことができました。そうしたご家族の存在が、1万人以上の観客動員に大きく貢献しました。国立競技場のコンコースを子どもたちが駆け回って、Yogiboコーナーに置いた大きなクッションに倒れ込んで遊ぶ様子を見て、子どもたちが試合以外に楽しめるイベントをもっと増やしたいと強く思いました。

この国立競技場での成功例から、2シーズン目からは、1年間にクラブが1、2試合、集中的に観客を集めるゲームを企画することを計画しています。ホームゲームで1試合をピックアップゲームとして、リーグや対戦チームも協力し、子どもを集めるイベントを計画することで、5000人を目指せるのではないかと考えています。

100年後のなでしこたちへ。目指すべき欧米の成功事例

2022年7月、UEFA女子ユーロ2022を観戦しました。ユーロというのは、ヨーロッパの各国代表チームで戦うサッカーのヨーロッパ選手権です。今年は女子サッカーのユーロ決勝大会が、イギリス・ロンドンのウェンブリースタジアムというヨーロッパサッカーの聖地で行われ、決勝戦のイングランド対ドイツの試合は、記録的な8万7192人という観客を集めました。前回のオランダ大会(2017年)と比べて、平均観客数が7969人から1万8544人と倍以上になっていて、ヨーロッパで女子サッカーの人気が高まったことが証明された大会となりました。

私は現地で観戦することができたのですが、観客数の多さだけでなく、子ども連れのファミリーの多さと、若い女性グループの多さに圧倒されました。ファミリーのなかには、女の子だけではなく、男の子の姿も目立ちました。ユニフォームを着ている子が多かったので、たぶんサッカーをプレーしているのではないかと思われます。日本とはまったく違う観客層です。日本の女子サッカーの観客は80%が男性、とくに40代から60代の男性が中心です。サッカー人口の94%が男性である日本では、サッカーに興味をもつ層はどうしても男性が多くなります。

WEリーグの新しい観客層を将来、恒常的に増やすには、日本での女子サッカーの普及が不可欠ではないかと思わされました。ただ、イングランドも、チャンピオンズリーグで9万1000人の観客を集めたスペイン女子サッカーも、7、8年前から女子サッカーに投資を始め、その結果が今年になって出てきたとのこと。観客数も人気も、一朝一夕では達成できるものではないと思っています。

決勝の日の午前中に、UEFA(ヨーロッパサッカー連盟)が主催したシンポジウムがありました。今回のような女子サッカー大会の成功がこれからのスタンダードになってほしいという意味を込めた、「Raise The Bar(水準を上げる)」というタイトルで、女子サッカーの今後を見据えるというテーマでした。

UEFAの会長が、女子サッカーは男女を平等にするために投資するものではなく、すでに投資対象としての価値が認められつつある、と話したことは勇気づけられました。アメリカのプロリーグの新規参入クラブであるエンジェル・シティFCの共同設立者の女性が、50億円近くをパートナー企業から集めた話をしました。エンジェル・シティFCは女優のナタリー・ポートマン、プロテニス選手のセリーナ・ウィリアムズなどの著名な女性、また引退したアメリカ女子サッカーのレジェンド、ミア・ハム、アビー・ワンバックらがオーナーとなっているクラブです。パートナー企業は数社ではなく30社以上で、10%を貧困家庭へのサポートやコミュニティの課題解決など、SDGsのテーマに沿った取り組みに使うと約束することで、協賛を募ったとのことでした。

WEリーグはもともとWEアクションデーで、選手主導で地元コミュニティとSDGsに沿った活動をしているので、これをもっと前面に出してパートナーを集めることができると思いました。UEFAの会長は男性でしたが、そのほかサッカー関係の著名登壇者はほとんど女性で、サッカー界における女性の意思決定者を日本でも育てていきたいという思いを強くもちました。

日本では競技人口だけでなく、指導者もクラブの意思決定者も、女性の割合は一桁です。もともと男性のスポーツであるサッカーをプレーしている女性なので、日本の女子サッカー選手はジェンダー問題と自然に向き合うことになり、そのためにWEリーグはジェンダー平等を進めるという社会的意義をもつことになりました。エンジェル・シティFCの例のように、社会的意義のある活動を行っていることはパートナー企業にアピールできるものです。ただ、それは観客動員やチームの人気とは結びつけるものではなく、女子サッカーの人気はプレーの質の高さや、エンターテインメント性で追求していかなくてはならないと思っています。

<了>

[PROFILE]
岡島喜久子(おかじま・きくこ)
1958年5月5日、東京都生まれ。アメリカ合衆国東海岸、メリーランド州ボルチモア在住。公益社団法人日本女子プロサッカーリーグ WE リーグの初代チェア(理事長)。1972年、中学校の男子サッカー部に入部したのち、女子クラブFC ジンナンに所属。1983年、サッカー日本女子代表に選出。早稲田大学商学部在学中に、日本女子サッカー連盟の理事に就任し、1984年から1989年まで同連盟の事務局長を務めた。大学卒業後、ケミカル・バンク(現・JP モルガン・チェース銀行)に入社。国際証券(現・三菱UFJ モルガン・スタンレー証券)などを経て、2004年から2019年までアメリカ・メリルリンチに勤務した。2007年にはアメリカでCFPの資格を取得し、メリルリンチではファイナンシャルプランナーとして、富裕層のウェルスマネジメントに携わった。そのほか、ジョンズ・ホプキンス病院 Women’s Board の理事、メリーランド神奈川姉妹州委員会の委員長、Calvert School の理事など、非営利団体の理事をボランティアで務めた。家族はアメリカ人の夫と、長女、長男。