天安門広場で発生した車両突入事件にて、中国当局は「新疆ウイグル自治区の独立を目指す組織のテロ」と断定した。この事件、中国の一般民衆はどう受け止めているのだろうか。漫画『中国のヤバい正体』(大洋図書)の著書である孫向文氏(杭州市在住の漢族・30)に連絡を取ってみた。
「もちろん、中国だと、普通にテロだという認識ですよ。犯人に対して同情的な声などは上がっていません。僕もテロはテロだと思います。犯人を擁護するような報道が日本で為されていたとしたら、親日の中国人でもドン引きしますよ」
日本では、中国政府によるウイグル族弾圧の報道も為されているが、中国メディアはこの問題をどう扱っているのだろうか。
「ウイグルの領土問題は普段、中国では全く報道されません。中国人(漢族)は、ウイグル自治区で起こった2009年のウイグル騒乱すらも知らない人が多いんです。僕も一年ぐらい前に日本のネットを見て初めて知ったぐらいです。それはチベットも同様です。チベット騒乱のときもろくにメディアで報道されなかったから、中国人はチベット問題を知らないし、関心の持ちようがないんです」
少数民族の問題に関しては、中国メディアではタブーのようだ。そして普段、中国の9割を占める漢族は、かなり偏見を持ってウイグル人と接しているという。
「僕も漫画『中国のヤバい正体』の中で描いたんですけど、一般の中国人の認識をあけすけに言いましょう。ウイグル人は盗みや無許可販売、傷害などやりたい放題。なのに、中国政府は彼らの領土を占領したという引け目があるからか、ろくにその犯罪を取り締まってくれない。道で目が合ったら何をされるか分からないから、目を逸らさなきゃいけない。一人っ子政策が適用されないなど、ウイグル人は法的にも優遇されている…。そんな感じですね。もちろん実際には彼らが犯罪に手を染めているのかどうかは分からない。善良なウイグル人も多いでしょう。でも、中国の一般民衆が、普段そういう偏見に凝り固まった目でウイグル人を見ているのは確かです。ウイグル人に対する差別の根は日本人の想像以上に根深いですよ」
これは驚きである。今回の一件で世界の目がウイグルの領土や弾圧問題に向けられることは避けられないが、これに関して孫氏はどう考えているのだろうか。
「中国人の一部では歓迎する動きもあると思います。というのも、今、中国人は共産党に対して強く不満を抱いている。だから、海外メディアが中国を批判すると、民衆は『そうだ、僕たちの国の政府はこんなにひどいんだ! もっと共産党の悪口を世界に広めてくれ』って同調して喜ぶんですよ。僕らも共産党のせいで不自由な生活を強いられているから。ウイグル人を弾圧する共産党と、僕ら漢族の一般民衆は別モノって認識なんです」
言論統制や環境問題、格差社会、食問題…。中国人にとっては、今回のウイグル問題よりも、自分たちの生活の方がせっぱ詰まっているというのがホンネなのか。
(杉沢樹)
ウイグル人が怖い? 天安門車炎上とウイグル問題に対する中国人のホンネ
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