高橋尚成(35)が成功したのは『コントロール』と『チェンジアップ』だとされている。コントロールについては、昨季のパートナーだったロッド・バラーハスは「球種が豊富なうえに、全てを両サイドにコントロールできる。同じ球種を要求しても変化も軌道も違うボールを投げてくれる」と絶賛していた。そのバラーサス捕手もメッツを退団し、ドジャースに転じた。両者が対決するシーンも見られるかもれない。
もう1つの武器である『チェンジアップ』だが、高橋が投げていたのは普通の『チェンジアップ』ではなかった。メジャーでは『バルカンチェンジ』と呼ばれている“別の変化球”だった。同じチェンジアップ系の変化球ではあるが、まず、スピードが違う。チェンジアップは失速していき、バッターの手元で沈む軌道を描くとされるが、『バルカンチェンジ』はストレートに比較的近いスピードがあり、小さく沈む。『バルカンチェンジ』なる変化球を投げるメジャー投手はほかにもいる。日本でも、巨人のグライシンガーが得意としているという。
近年、ナ・リーグ東部地区にバルカンチェンジを得意とする左投手がいなかったからか、高橋のそれは面白いようにハマった。ア・リーグ西部地区のエンゼルスに転じた今季も、『バルカンチェンジ』は大きな武器になりそうだ。
エンゼルスと言えば、昨季、松井秀喜がそのユニフォームを着た。名将の誉れ高いマイク・ソーシア監督の人柄、走者の進塁を重視する采配などが紹介されたが、高橋の加入によって、ディフェンス面の特徴も日本に報じられるだろう。ソーシア監督は高橋のような投手が「大好き!」なのである。
メジャー1年目の昨季、高橋はロングリリーバーとしてデビューした。その後、故障者などのチーム事情もあって先発の代役を務めたが、初先発のヤンキース戦で6回無失点(5月21日)と好投し、注目を集めた。その後、先発要員が復帰するとセットアッパーを、さらに故障者によるチーム事情でクローザーも務めるなど大車輪の活躍をみせてくれた。10勝6敗8セーブ、防御率3.61(53試合登板)。ソーシア監督は高橋のように、先発、セットアッパー、クローザーと、何でもできる投手を好む。そういう投手を得ると、勝負どころと見たペナントレース終盤の試合ではローテーションを崩してでも投入してくるという。高橋はいい意味で『便利屋』として重宝されるだろう。
今季のエンゼルスのブルペンだが、近年の成績から判断すると、スコット・ダウンズ以外、頼りになりそうなリリーバーがいない。先発はウィーバー、ヘイレン、サンターナ、ピニェロ、キャズミアがいる。ウィーバー、ヘイレンはともかく、故障歴の気になる投手ばかりだが、メンツは揃っている。おそらく、高橋はダウンズに繋ぐセットアッパー役でスタートするものと思われる。クローザータイプにはロドニーもいるが、勝ちゲームを落とす背信投球も多く、高橋を含めた3人でしのいでいくのではないだろうか。
故障者の出そうな先発陣の“筆頭”待機要員も高橋である。
エンゼルスは優勝を狙えるチームだ。古巣の巨人関係者によれば、先発一本で行きたい旨も明かしていたそうだが、「ワールドシリーズのウィニング投手になれる」と解釈すれば、リリーフもやり甲斐のあるポジョニングだと思うのだが…。(スポーツライター・飯山満)
変化球の定理、ネーミングは解説者や野球技術書によって異なる場合もあります。本編は西東社刊『野球 ピッチング』を参考にいたしました。外国人選手名の方仮名表記はベースボール・マガジン社刊『月刊メジャー・リーグ』を参考にいたしました。
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