空港では耳元に人の声が、遠くには飛行機の離陸する轟音が響いていました。飛行機が遠ざかってゆく空を眺めていると、自然とあの紅葉舞い落ちる国と、瞳の中が紅葉のような情熱に満ちた先輩が浮かんできました。
和歌を見ていると、去年の夏に引き戻されました。「先輩、何これ? カルタ?」本を取りに彼女の寮に行ったときに、棚に置いてあるものが目に入りました。先輩は「単純なカルタじゃないよ!」と言いながらカルタを見せました。目に映ったのは難解な詩句で、思わず小学生の時に、古詩文に頭を痛めた記憶が浮かびました。つい「古詩暗唱ゲームだっけ? 確か日本の子供が好きでしょ、こんなもの。」とつぶやいてすぐに自分の失礼さに気付きましたが、なぜだか謝りの言葉に詰まっていました。そんな私に「じゃあ、日本の子供みたいに学んだら?」と言った彼女の瞳に、紅葉の紅色がかすかに見えました。
戸惑った私に先輩は丁寧に説明してくれました。
想像の世界に浸っていた私は先輩に呼ばれました。
あの「パン」という一瞬の音が、とても心に響いています。カルタをすることで、多くの子供たちが和歌を覚え、この文学形式を代々受け継いできました。『小倉百人一首』のびっしりと書かれた文字は、山林の中に幾重にも重なった紅葉かのようです。彼女にとって、これはただのカードではなく、カードの歌、文字、それらすべてが日本語の魅力を語っているのではないでしょうか。彼女の日本語に対する丁寧さや情熱も紅葉のような物でしょう。私も彼女に影響されて、いつも何も知らない子供のように好奇心を持ち、日本語の世界を探索しています。身の回りの美しい日本語の物語を掘り下げていきたいです。
劉先輩は彼女の物語に向かって憧れの国に旅立ちました。いつか、また彼女とカルタをしたいです。いつか、私も、この先輩からもらった憧れをもって、自分の「紅葉」と日本に再会したいと思います。
■原題:ちはやぶる――先輩に学び、日本語学習を頑張る
■執筆者:林婧(天津外国語大学)
※本文は、第20回中国人の日本語作文コンクール受賞作品集「AI時代の日中交流」(段躍中編、日本僑報社、2024年)より転載・編集したものです。文中の表現は基本的に原文のまま記載しています。なお、作文は日本僑報社の許可を得て掲載しています。