2月6日、福山雅治の50回目の誕生日当日、横浜アリーナで開催された『福山☆はじめての大誕生祭 其の壱 平成最後の2月6日 やっぱりこの日はステージに立っていたかったんだ! 福山雅治 五十祭!!』を観た。

横浜アリーナの最寄り駅、新横浜に筆者が到着したのが、開演18時30分の少し前。
開演時間に間に合うために、ライブに向かう人たちはみな小走りだ。この日は平日。終日の仕事や主婦業で疲れているはずだが、会場に走らせてしまう魅力が福山雅治の音楽にはある。

ライブのタイトルに「平成最後の2月6日」とある通り、「平成」という時代が終わろうとしている。その平成の日本の音楽界では、グループの活躍が目立った気がする。別にそれが悪いわけではないが、昭和はテレビをつけるとピンの歌手が歌っていた記憶が強い。
そして、歌手の名前と顔と曲が一致した。さらにいうと、その曲は世代を越えて口ずさむことが出来た。理屈っぽく言葉にすると、昭和の時代は、個人が責任をもって、家族や地域の仲間のために何かをした。そして、歌もそういう関係性だった気がする。

でも、平成はそれが逆転した。みんなで何かをし、その分責任は分散する。
その目的は自分が楽しくなること……そんな感じが強い。音楽もそういう関係性が強い気がする。そして、福山の音楽は誤解を恐れず言えば昭和の精神性だ。

一人で何かを背負い、みんなために頑張っている。その腹が座った感じが男性ファンも惹きつける理由なのかもしれない。改めて見ると、会場には男性オーディエンスもたくさんいたし、若い世代のオーディエンスもいた。
そういえば以前インタビューした某ビッグバンドのフロントマンが3ピースバンドへのリスペクトを語り「3ピースになるとバンドマン一人の責任が増える。それを続けるのはとても難しいと思う」と言っていたが、ソロアーティストが一線を走り続けるのは想像を超えるハードさなはずだ。

1曲目はバンドと共に「いってらっしゃい」を演奏。そして、2曲目は、誕生日と言えば……ということで「Happy Birthday To You」を演奏。横浜アリーナ超満員のオーディエンスが大きな声でサビの部分”ハッピーバースデー DEAR MASHA”と歌う景色は、とても温かく、心和んだ。

2曲を披露し、MCを挟んだ。
「会いたかったですよ、横浜! 平成最後の2月6日、50歳になりました!」と福山も本当にうれしそうだ。そして、ここまで、みんなで福山の50回目の誕生日を祝うムードだった。

だが、次の曲から立ち位置が逆転した。”誕生歌(うまれうた)”というテーマで、恋、友情、家族の絆などが生まれた日、始まった日の思い出が呼び起こされる福山の歌を事前に募集して、その結果を10位からランキング形式で発表していった。しかも、福山のギターの弾き語りで。一人で、みんなのために何かをする、昭和の男の姿が重なった気がした。


弾き語りの前に、『魂のラジオ』や『地底人ラジオ』などでおなじみのフリーアナウンサー・荘口彰久が、ファンから寄せられた曲にまつわるエピソードを紹介し、福山が曲を歌うというスタイルで進行した。ちなみに、ファンから寄せられたリクエスト&エピソードは3000を超えたそうである。そんなエピソードと共に弾き語られたのは「はつ恋」「Squall」「Beautiful life」「最愛」「誕生日には真白な百合を」「家族になろうよ」。歌もギターも素晴らしかった。

福山が敬愛するSIONに以前インタビューした際に「福山は、顔はいいし、歌は上手いし、ギターも上手い。どこか欠点はないもんじゃろうか? 困ったもんだ」とうれしそうに笑っていたことを思い出した。
マスコミは福山のルックスを持ち上げるが、あれだけの数のヒット曲の作詞・作曲を手掛け、ギタリストとしても素晴らしい、彼のミュージシャンシップ、プレイヤーシップをルックスにだけ注目し過ぎて見落としてはいけない。

そして、ファンの曲にまつわるエピソードがとても素敵だった。福山自身もMCで「一人一人の人生の中に、音楽という形で寄り添わせていただけることを大変光栄に思います」と言っていたが、福山の歌が、オーディエンス一人一人の人生に寄り添っているのがわかった。実際、筆者も歌を聴きながら”この歌詞、俺の親への気持ちそのままだ”などと思う瞬間が何度もあった。それがとても不思議だった。少し意地悪な書き方をすれば、福山のようなスターが、庶民の気持ちを歌えるのが不思議だった。しかも、歌詞というものはしょせんは最大公約数的なもので、共感はすることがあっても、人の人生に入り込むのは難しい。なのに、福山の歌は、リスナーの人生に入り込み、寄り添っている。その理由の一つがライブの後半に行く前に映しだされた映像によってわかった気がした。

「家族になろうよ」の演奏の後、7分ほどの映像が流れた。それは福山が15歳でアルバイトで稼いだお金でギターを買った時から、50歳までの音楽人生を写真で振り返る内容だった。その映像の中で、福山のかつてのインタビュー音声が流れた。「死を意識することで、何かを生み出している」と。その言葉を聞いてハッとした。

生きることは全然平等じゃない。でも、死は平等だ。どんな人には死は訪れる。そして、誰にとっても、大切な人の死は心が張り裂けるほどつらい。そんな死を頭の片隅に置きながら、私たちは日常を進まないといけない。つまり、「幸せ」は空想・理想の類だが、「死」は現実の生活の中にいつも横たわるリアルだ。

そんなリアルを超えていくパワーを福山の歌は与えてくれる。ただし、それは決して能天気なパワーではない。福山の歌のパワーはどこかに死の悲しみが漂う、でも温かいパワーだ。若い時に父親を亡くしている福山には、死はリアルであり、死や別れを常に抱えながら生きて行かなければいけない、そんな人間の宿命が痛いほどわかるのかもしれない。
だから、バラッドでも、ポップチューンでも、福山の歌は死や別れのリアルが漂うから、多くの人の生活・人生に寄り添えるのかもしれない。

福山という平成を代表するスターが歌う歌は、スターが故に、ファンタジー、絵空事のようなイメージを持つ人がいるかもしれないが、福山の歌は、死、生活というリアルを謳っている。そう思うと、サウンドアプローチは違うが日本のブルースなのかもとさえ思えてしまう。いずれにしても、リアルだから、リアルな生活の場所で響く。

そんなことを感じさせてくれる映像のBGMは「HEART」で、映像明け、バンドと共に「Heart」を演奏し、ライブ後半をスタートさせた。

前半は弾き語りで”情緒”を前面に出した内容だったが、後半は、「Heart」に続き、バンドと共にデビュー曲「追憶の雨の中で」、更にここ最近の曲「Pop star」「ステージの魔物」を披露した。特に「Pop star」「ステージの魔物」の2曲は”グルーヴ”を前面に出した内容で、超満員の横浜アリーナを煽った。

「ステージの魔物」の後は、”誕生歌(うまれうた)”のランキング発表を続けた。後半はファンからのエピソードを福山自身が紹介し、ある曲は弾き語り、別の曲ではバンドと共に歌った。ライブ本編の最後に歌ったのが、ランキング3位の「道標」。そしてアンコールの2曲目に披露したのが、ランキング2位の「桜坂」。さらにダブルアンコールで披露されたのがランキング1位の「Good night」。改めて聴いていて、曲のどこかに、死や別れというリアルをくぐり抜けた寂しさ・悲しさと、それを乗り越える温もりを感じた。

ライブは「Good night」で終了の予定だったが、鳴りやまないアンコールの拍手。トリプルアンコールへの対応が急遽話し合われ、「MELODY」が披露された。そして、会場全員がサビの部分を大合唱で歌った。会場もライトで照らされていたので、オーディエンスも見えたが、老若男女が入り混じり大合唱しているのはとてつもなく、温かい光景だった。それと同時に、こうした光景も、平成の次の時代には、どんどん見られなくなって行くのだろうなぁと思った。

もちろん、ライブでの大合唱が珍しいわけではない。でも、これだけ世代を越えた人達が歌える歌がどんどん減っている。減っているから悪いわけでもない。ただ、そういう歌にしかないパワーがある。

福山の歌にはそのパワーがある。その歌のパワーを知らない人に、福山のライブを体験してほしいと思った。ステージを去る福山が「一生忘れない夜になりました。ありがとうございました!」と少し照れながら言った。むしろ逆だ。福山の歌があったから、忘れることが出来ない大切な想い出、出会い、別れが人生に増えた人が沢山いる。超満員の横浜アリーナがその証明だ。最後、オーディエンス全員で「ましゃ、お誕生日おめでとう!」と叫んだが、本当は「ましゃ、歌をありがとう!」と叫びたかったのだと思う。

改めて、リアルを歌った福山の歌の力を見せつけられた夜だった。

SET LIST
1.いってらっしゃい
2.Happy Birthday To You
3.はつ恋
4.Squall
5.Beautiful life
6.最愛
7.誕生日には真白な百合を
8.家族になろうよ
9.Heart
10.追憶の雨の中
11.Pop star
12.ステージの魔物
13.HELLO
14.零 -ZERO-
15.聖域
16.甲子園
17.道標
アンコール
18.虹
19.桜坂
20.Good night
21.MELODY

福山雅治、歌のパワーの源流にある「死や別れのリアル」

『DOUBLE ENCORE』
福山雅治
ユニバーサルミュージック
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■弾き語りライブアルバム「DOUBLE ENCORE」特設サイト
http://fukuyamamasaharu.com/sp/doubleencore/