操作されたストリーミングによってアーティストが年間3億ドルの被害を受けている可能性があるとの議論が物議を醸している。ストリーミングプラットフォームが成長するにつれて、インディーレーベルは再生回数の操作にさらなる懸念を抱いているという。


2カ月前、カリフォルニアの長寿レーベル、Hopeless Recordsの創業者であるルイス・ポーゼン氏は自社のストリーミング回数の異常さに気づいた。ある曲が1日3000回というまずまずの再生回数を記録していた。それなのに、「突然、3日連続にわたって1日の再生回数が3万5000回になったんです」とポーゼン氏は語った。

これほどの上昇は尋常ではなかった。ポーゼン氏は曲名の公表は控えたものの、ストリーミング回数の調査に乗り出した。「ストリーミングの出所を調べたところ、その100%がSpotifyの6つのプレイリストでした」とポーゼン氏は言った。「明らかに怪しいと思いました。プレイリストは最近作成されたもので、1週間で数多くのフォロワーを獲得しました。でもその後、フォロワーはひとりも増えず、再生されたのもあの3日間だけでした。」

インディーレーベルは、この手の再生回数の操作に対してますます懸念を抱いている。こうした操作は、正攻法よってもたらされる収入がシステムを不正に操作しようとする人々の手にわたってしまうからだ。「私の情報源は(ポーゼン氏は実名の公表を控えた)、グローバルストリーミングの3~4%が違法である、と踏んでいます。これはおよそ3億ドル(およそ320億円)という潜在的な収入が正規ストリーミングから違法ストリーミングに流れているのを示します」とHopeless Recordのトップは語った(独自の調査を行なった結果、ローリングストーン誌は違法ストリーミングの割合を特定できなかった)。


米現地時間6月18日火曜日、ニューヨークで開催されたIndie Weekという独立系音楽コミュニティをとりまく問題に焦点を当てる4日間の会議で行われたストリーミング操作に関するパネルディスカッションでも、ポーゼン氏は3億ドルという数に再び言及した。Napsterでチーフ・コマーシャル・オフィサーを務めるエンジェル・ガンビーノ氏、TIDALのストリーミング操作疑惑を取材した経験を持つノルウェーのDagens Næringsliv紙の新聞記者マーカス・トビアセン氏、音楽業界関連のニュースサイトHypebotを運営するブルース・ホートン氏がディスカッションに参加した。「ストリーミングの収入には限度があります」とホートン氏は聴衆に語った。「その一部がストリーミング操作のせいで違法なソースにわたったとしたら、それは独立系音楽コミュニティのメンバーにとって重大な問題です。」

「大好きな音楽を聴くファンでないものはすべて」とガンビーノ氏はイベント参加者にストリーミング操作の広義の意味を説明した。ガンビーノ氏いわく、もっとも危惧するべきケースは、様々な段階に分けられるそうだ。そのひとつが課金制のストリーミング版のようなもので、ディスカッションでトビアセン氏が「ブレッド&バター操作」と呼ぶものだ。このケースでは、アーティスト、あるいはアーティストのマーケティングチームがストリーミング回数をぐんと伸ばせるようにと金を払ってプレイリストのネットワークに加わる。「プレイリスター(プレイリストを選曲する人)はネットワークをつくっていて、『私は毎月100万人のリスナーにアクセスできます』のような活動をしている」とデジタルデストリビューションに携わるある人物(本人の希望により匿名)は述べた。「アーティストは、そのアクセスのために金を払うのです。」

二つ目はより手が込んでいて、ポーゼン氏のいう「コンピューター化されたクリックファームやボット」を使って効率的にストリーミングサービスをだます方法だ。ボットは、リアルユーザーによるものではない可能性のあるストリーミングを生む。だが、昨今のテクノロジーはあまりに進化した結果、「ユーザーが音楽をストリーミングしていないときに正規アカウントにハッキングしてストリーミングができる」人々が存在する、とポーゼン氏は確信している。よって、あたかも本物のストリーミングのようにみせるのだ。


「技術はますます手の込んだものになっています」とメディアおよび戦略コンサルタント会社、Salt + Vinegarの共同創業者のひとりであるアミール・カシャーニ氏はローリングストーン誌に語った。「好きな再生元を選んだり、テリトリーを買ったりもできます。ブラジルやアルゼンチンを再生元に設定することも可能です。」

三つ目は、なりすまし犯罪のストリーミング版のような操作だ。たとえば、3月に誰かがリアーナの楽曲とデモテープを大量にリークし、『エンジェル』というタイトルのアルバムにまとめてiTunesやApple Musicにアップロードしたとしよう。この場合、リークされた音源、または有名アーティストを自称する楽曲(実際は違う)がストリーミングに採用される。偽アルバムの収入はリアーナではなく、”フェンティ・ファンタジア”というユーザー名の有名人が確立した人気に便乗しようとする誰かにわたってしまう。

これらの操作の結果はすべて同じである。偽ストリーミングは、ストリーミング回数を伸ばそうとして金を払っていない他のアーティストの貴重な意識まで乱してしまうのだ。「共有プール型の利用者は、正規ストリーミングを行なっている人から盗んでいるのも同然です。」とポーゼン氏は述べた。「自分が評価されているのではなく、誰かを傷つけているのです。」

ストリーミング操作の顕著な上昇は、他のテクノロジープラットフォームに対する裏切り行為と同時に行われる。ストリーミングの場合、「私たちは保護措置よりも速いスピードで成長するテクノロジーを相手にしています。FacebookなどのSNSプラットフォームと同じ状況なのです」とポーゼン氏は指摘した。
「ストリーミングサービスは大きくなり過ぎたあまり、ストリーミングプラットフォームを悪用させないための手段を持っていないのです。」

ローリングストーン誌はSpotify、Apple Music、TIDALなどのストリーミングサービス会社の代表者数名にコメントを求めたが、返事は得られなかった。

「市場とパフォーマンス次第で稼げるチャンスがあれば、必ず逸脱行為や操作は発生します。」

さらにいうと、極めて激しい競争がつきまとう音楽ビジネスの性質のせいで、アーティストはデジタル版ステロイド剤に手を出すことで、クズではなくヒットを、あるいは、何も考えずに送る9時~17時の生活ではなくレコード会社との契約を実現できると信じてしまうのだ。「市場とパフォーマンス次第で稼げるチャンスがあれば、必ず逸脱行為や操作は発生します」とカシャーニ氏は語った。「システムをおちょくることは、やや普遍的なのです。」

第三者プレイリスト、あるいはもっと複雑な手段を使ってストリーミング回数を増加させるため、魔法のようなプログラムに金を払うアーティストの話はそれほど珍しくない。「曲を広めようとしているだけなんです」と匿名希望の2人目のマネージャーは言った。「ストリーミングに金を払って成功するなら、それはブースターのようなものです」デジタルデストリビューションの専門家は「曲に勢いと何らかの推進力を与えるのが目的です」と付け加えた。

こうした技術がうまくいくかどうか、そしてコストに見合ったものかどうかについては、音楽業界内でも疑問が持たれている。「ほとんどは、若いマネージャーやアーティストから金をだまし取るためです」と3人目のマネージャーが言った。詐欺に近い複雑なストリーミングブースト技術の場合、「アーティストと、多くの場合はマネージャーが手っ取り早い成功を求めています」とカシャーニ氏は言った。「しかし、アーティストが5万件の閲覧件数を得るため、極めて重要な機密情報を明けわたすことになります。」とはいっても、一部の人々は成功への近道に魅力を感じずにはいられない。

もっとも廃止しやすいストリーミング操作は、偽アルバムというもっともわかりやすいものかもしれない。Orchard、CD Baby、Distrokidなどのディストリビューションプラットフォームはここ最近Audible Magic(「オーディオ&ビジュアルコンテンツにおける自動認証のリーダー」を掲げる)と手を組み、正規のストリーミングサービスに確実に音楽を提供しようとしている。
「システムを愚弄しようとする、ごく少数の悪い奴らがいます」とAudible Magicのヴァンス・アイキゾイCEOは述べた。

しかし、ストリーミング強化手段を見極めるのはますます困難になっている。そこで結局は、「やらないに越したことはない」というIndie Weekでガンビーノ氏が述べた結論に行き着くのだ。

「ストリーミングサービスは大きくなり過ぎたあまり、ストリーミングプラットフォームを悪用させないための手段を持っていないのです。」

音楽業界がますますストリーミングに頼らざるを得ない状況になるなか、一部のストリーミングサービスが実際の市場のニーズを反映していないかもしれない事実は、危惧するべき状況である。SpotifyやYouTubeのストリーミングはチャートパフォーマンスを考慮している。同様に、ストリーミングは市場のシェアを計算する際に使われ、レコード会社の戦略を左右するものだ。

それに加えて、出所の怪しいストリーミングは正規ストリーミングサービスの権威を損なう。Indie Weekのパネルディスカッションでトビアセン氏は偽ストリーミングの「最大の問題」は、それが「音楽業界の信頼」を損なうおそれがあること、と指摘した。ストリーミングサービスを運営する人々は、自分たちのプラットフォームは人々が何を聴きたいかを反映している、と考えたがるものの、ストリーミング操作がこうしたものを歪めている。

「人々に理解してもらうには、まだまだ先は長いのです」とポーゼン氏はローリングストーン誌に言った。「レコード会社やアーティストに教えないといけません。ポケットからどれほどの大金が盗まれているか、彼らはまったく理解していないのですから。」
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