シンガー・ソングライター、住岡梨奈が自身の集大成となるベスト盤『住岡梨奈 2012-2019』を発表した。キューンソニー時代から徳間ジャパン時代までの全楽曲から住岡梨奈自身が収録曲をセレクトし、新曲2曲も追加した。
今年8月で活動を休止する住岡梨奈に、7年間の歩みを振り返ってもらいつつ、その心境をあらためて聞いてみた。

―ベスト盤『住岡梨奈 2012-2019』をリリースして活動をお休みされることをニュースで知って。ご自身の心境としてはどうでしょうか。

今は8月のライブ(住岡梨奈 LIVE tour 2019「笑顔のために」)に向けてすごく前を向いていますね。どうしたら成功させられるか、お客さんとどう向き合おうかということで頭がいっぱいで、寂しさよりも自分が最後に出せるものって何だろう?と、自分自身と向き合っている感じがします。

―目の前にあるものをまずは完璧にこなそう、というスタンスなんですね。
住岡さんのInstagramで、Rihwaさんと山崎あおいさんの3人で写真を撮られていましたね。同じ北海道出身でデビューも2012年?

そうなんです。私が6月デビューでRihwaちゃんが7月、あおいちゃんが8月だったかな。同じ年に1カ月ごとにデビューしているんです。デビューする前に対バンもしていて、お互い知っている仲でみんなが上京したので、定期的に会っています。実はこの後発表になるんだけど……というメールを送って、”近々ご飯に行こうよ”と集まった時に撮ったのがインスタの写真ですね。
同郷で、仲間であり切磋琢磨し合える存在でもあり、お互い人としても尊敬し合っているので、「人生一回きりだもんね」と私が決めた道を応援してくれました。

―同郷でありデビュー年も一緒だから戦友的な意識もあると。

シンガーソングライターなのでフィールドは同じだけど、それぞれ音楽のカラーや性格も違うので、常に注目しているし興味がありますよね。エンターテインメントとして2人を見ていると”勝てないな”とい思う部分もあります。尊敬の方が強いかな。でも、負けたくないとも思います。
2人にすごくパワーをもらっていますね。何でしょうね、どっちの気持ちも常に2人に対してはセットでありたいです。あおいちゃんとは2人でツーマンライブを廻ったことも思い出深いですね。

―その2人がエンターテインメントとしてすごいなと思う一方で、自分にしかない武器は何だと思いますか?

それをいつも考えさせられるんです。2人を見て、私も自分のいいところを伸ばそうとエンターテインメントとして作り込んでやってみるんですけど、作り込めば作り込むほど不自然に見えてしまう……。だから、作り込むのはもうやめて、私は自然体のままでいようって考えるようになりました。
「じゃあ私は本質の部分だけで何ができるんだろう?」ってまた考えるんですけど……何でしょうね? カフェツアー(tour 2016「music wagon ”26”」)を通じてわかったことがあって。目の前のお客さんの表情が見えて、奥のお客さんの反応まではっきりと見えて、ライブが終わってから物販でお客さん一人一人と話したりコミュニケーションを取る中で、「そういうふうに私の音楽を楽しんでくれているんだ」と少しずつわかっていきました。間違えてごめんねするところはごめんねする、そういう自然体の姿まで見てもらうのがお客さんのリラックスに繋がるんじゃないかと。

それと、カフェライブの時は椅子に座ってゆったりとした気分で、音楽を楽しんでもらう時間を提供できるんじゃないかと思っています。デビューしてからバンド編成でのツアーを何回か廻らせてもらう中で、「ずっと立って観るのは大変だな」と思う部分があったんです。ライブハウスいっぱいの人に向けて歌うのももちろん楽しいのだけど、”私はどういうライブがしたいんだっけ”と考えた時に、もっと身近な距離感で、生歌に近い状態の音楽をで届けたいなと思ったんです。
それでその時26歳になるタイミングだったことにかけて、26本を廻るカフェライブツアーを行いました。メンタル的にも鍛えられて、歌とギターで自分がどれだけ出来るのかも見えた気がしました。やりたかったことをやってみて、お客さんが一人でも二人でも三人でも、何人でもいいから歌っていくんだって。お客さんが多ければ多いほどいいものではあるけど、私にとっては一人一人に届けることがすごく大事なんだなって改めて気づかされました。原点に戻るじゃないですけど、そんなことに気づきながら進んできた、かなり充実した7年間だったと思います。

大学卒業を機に上京してデビュー

―大勢で共有するのも音楽の在り方としてある一方で、今おっしゃったように大人数よりも密室感でじっくりと味わうのも音楽の魅力ですよね。
今回収録されている新曲の「Charming bird」も、配信でリリースした「あまのがわ」もそうですけど、住岡さんの曲からは素朴さだったり繊細さをすごく感じるんです。以前の楽曲の華やかさやポップさも魅力としてあると思うんですけど、僕は今の楽曲スタイルが一番等身大でいいと思うんです。

ありがとうございます。デビューしてからこれまでいろんな曲を歌ってきました。ベスト・アルバムに収録する曲を選曲する時に、「住岡梨奈はこの曲だよね」って言われる曲があるとすれば、「言葉にしたいんだ」や『テラスハウス』に出演していた時期にリリースした曲は、たくさんの人に届いた曲だったので、「この曲」と言ってもらえるかなと思いました。ただ、デビューした頃から聴いてくれている方は、主題歌になった『るろうに剣心』のイメージがあると思うので、「feel you」(アニメ映画『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚- 新京都編 後編 光の囀』主題歌)も「この曲」と言ってくれると思います。選曲は悩んだんですけど、やっぱり私は歌うことそのものが好きなので、提供してもらった曲でも、自分で書いた曲でも、カバー曲でも、どの曲でもいいんです。私が歌っているということが一番大事だと思っています。「あまのがわ」は配信だけでなくCDに収めたいという気持ちがあったので今回入れました。今の私の気持ちを書いた新曲と、聴いてくださる皆さんに向けて書いた新曲、今まで書いてきた曲と歌ってきた曲、カバー曲も含めた中から幅広く選んだつもりです。「やさしくなれたら」は、ファンの方達から”すごく勇気づけられる”っていうメッセージをたくさんもらった曲だったので入れました。一曲一曲について考えていくと、全曲を収録しても良かったと思うくらいですね。

―『テラスハウス』に出演したりアニメのタイアップがあったりロックフェスに出たり、その時代の体験は今の自分にとってどういうものですか?

怒濤でしたね。大学卒業を機に上京してデビューして、タイアップが決まったと説明はされるものの「何じゃ?」っていう(笑)。デビューして弾き語りライブをするといってもライブをするにあたっての土台がまだなかったし、土台がないまま進み始めてしまったので右も左もわからずでした。ただ、本当にありがたいと思うのは、事務所の先輩達がいてくれたことですね。いつも見守ってくれていて、私が進んでいこうとする道の先を照らしてくれる先輩達がいるから走り続けられるんだなって感じていました。同世代だけど先輩みたいなOKAMOTOSがいたり、ロックな人達が周りにいたのもあってメンタルも鍛えられました。学園祭ライブを一緒にやらせてもらって、そこで力をもらったりもしました。堂島孝平さんのツアーでオープニングアクトとして一緒にツアーを廻らせてもらったこともあって、恵まれていたんだなって振り返ると感じます。

―当時、まだまだこれからなんだってもがいていた時、周りからの助言との向き合い方や悩みをどう乗り越えてきましたか?

言われたことはやってみる。1回やってみて、違うなと思ったら次に行くみたいな。やらない理由がないし、自分の中で”やりたくない”はナシだなって思っていました。ただ、歌い方やギターの押さえ方に関しては、言われても無視してきたものもあります。自分の中で基準があって、自分がブレないなと思った段階で何でも取り入れます。新しい扉を開いていかないと、人生つまらないと思うから。好きなものを増やして、自分の範囲を広げていくことに夢中で取り組んできました。アコギを弾いて歌うだけだったのが、足でタンバリンを鳴らしたりグロッケンを叩いたり。自分を極めるのが楽しくて、そういう部分を楽しんできましたね。

活動を休止する理由

―シングルをたくさん出して、タイアップを取って大型フェスに出るのがいわゆるメジャーレコード会社の王道のパターンの一つですけど、そういう経験を経て住岡さんは2016年以降、小さい会場でもっとお客さんと近い距離でイベントの回数を増やして、音楽制作も主体的に行うようになりましたよね。さらに映画出演も果たして、表現者として理想的なキャリアを築いてるように見えますが、なぜ活動を休止してしまうのでしょうか?

20代は音楽に全てを注いで、ギターを弾いて、お客さんの前で歌ってきました。たまたまちょうど30歳になるというタイミングではあるけど、新しい夢に向けて「進みたい」って思った時が今だったんです。「これからの人生、他にやりたいと思うことはあるだろうか?」って自分自身に問いかけた時に、やりたいことがパッと浮かんだんです。「二足のわらじになってしまう」と思ったから、活動休止という決断をしました。これからの人生をどうやって生きていくか。アーティストとしての自分と向き合っていたところから一歩引いて、”住岡梨奈”の意識が芽生えた感じなんです。

―30歳を迎えて表現者として脂が乗る時期だと思うんですけど、その時期にあえて休止をしてまでやりたいと思ったんですね?

そうですね。「もし音楽に出会っていなかったら私は何をしたかったのだろう?」と自分自身に問いかけた時に、そもそもそんなこと今まで考えたことがなかったんですよね。25歳を過ぎて「やりたいことはなかったっけ?」と考える中で、「あれ?自分ってこういうことが好きなんじゃない?」とだんだん好きなものがわかってきたというか。高校生の時に初めてギターを持って、「これは真面目に練習しよう」と思った時の感覚と同じ。誰かに押し付けられたわけでもなく、自分の意志がないとできない。次に進む道を見つけた時の感覚がギターを手に取った時の感覚と一緒だったから、これは自分の中で間違いではないなって。20代を与えてもらったものに支えられて進んできたぶん、30代に向けて巣立ちの気分なんですよね。

―そういう経験を経てまたいつか音楽の現場に戻ってくると、変わっている部分もあるんじゃないですかね。

そうですね。もっと簡単にみんながライブに来れるといいなといつも思うんです。カフェツアーを始めた時は、お茶を飲みに来る感覚で来てくださいって話していて、何なら寝たっていいと思っているんです。音楽は気持ちいいと寝ちゃうって私自身が思っているから、リラックスするために来てくれればいいなって。初めてライブに行くって人達のために足を運びやすいライブをしたいなってずっと思っているから、おばあちゃんが小さい子を連れて来てくれたりしたらすごくいいなと思います。もっとライブが身近なものになってもいいじゃないかなって思っているので、そういうところを広めていけたら良いですね。

―もっと音楽に気軽に触れてもらいたいとか、敷居を低く来てもらいたいっていう人は他にもいるけど、住岡さんなら実現できると思うんです。

一番ライブに来られるようになってほしいのは、主婦の方とか家から移動できない人だと私は思っているんですね。ステージ上と客席というの距離感から、ステージから降りて直接手を握ることのできるところに私が行くことで、何かができたらなと思っています。そういう想いもあっての新しい道なんですよね。

―素晴らしいですね、結局、根っこにあるのは音楽なんですね。

歌っていないと生きていけないでしょうね。歌は好きなのでやめないですよ。

Edited by Motomi Mizoguchi

<INFORMATION>

テラハ出演からカフェライブまで、怒涛の7年を過ごした住岡梨奈が音楽活動を休止する理由

『住岡梨奈 2012-2019」
住岡梨奈
徳間ジャパンコミュニケーションズ
発売中

住岡梨奈 LIVE tour 2019
「笑顔のために」 ※バンド編成ツアー
8月23日(金)東京・恵比寿ザ・ガーデンルーム
8月25日(日)大阪・心斎橋Music Club JANUS
8月30日(金)北海道・札幌cube garden
http://www.sumiokarina.com/