the pillowsが10月17日に神奈川・横浜アリーナで、結成30周年記念となるワンマンライブ「the pillows 30th Anniversary Thank you, my highlight vol.05 "LOSTMAN GO TO YOKOHAMA ARENA"」を開催した。Rolling Stone Japanの独自レポートをお届けする。


なんだかあっという間だった。去年9月に22枚目のオリジナルアルバム『REBROADCAST』のリリースでアニバーサリープロジェクト”Thank you, my highlight”が始まってからの日々が。今年の元旦には映画『王様になれ』の制作と横浜アリーナでのワンマン開催が発表となり、the pillowsの結成30周年を彩る祝祭ムードはさらに加速。映画の素晴らしい完成度に圧倒されたり、名曲「Funny Bunny」が突如アクエリアスのCMソング(Uruがカバー)に使用されて驚いたりしているうちに、気付けばアニバーサリー最大のお祭りであるこの日がやって来た感じがする。

20周年の日本武道館公演はメンバーの予想を大きく覆し、発売後わずか10分でチケットがソールドアウトしたため、ライブを観たいのに観られなかった人が数多く存在してしまった。なので、今回は本当に観たいと思ってくれた熱心なファンが必ず目撃できるように、絶対にチケットが売り切れない会場をと考え、バンド史上最大規模の横アリを押さえたという。
しかし、拡大・延長上映が続いている『王様になれ』同様、やはりピロウズの可能性は侮れない。それでもチケットは9月の時点で見事完売となった。

「音楽的に自分たちが30年間やってきたことを証明する」「楽しむ余裕なんかはいらない」「大きい花火を打ち上げるのはこのアニバーサリーが最後」「あの日がピークだったと言えるような最高のライブにしたい」と、山中さわお(Vo,Gt)が各所のインタビューで事前に語っていた、まさに集大成の公演。いったい、どんな夜になるのだろう。

開場時刻の少し前に横アリへ着くと、正面入口前はすでに多くの人で溢れ返っている。物販は終演後に行くことに決め、取り急ぎ入場列へ並ぶ。
程なくしてエントランスを抜けると、1階ロビーには色とりどりのフラワースタンドが! 怒髪天、THE COLLECTORS、Mr.ChildrenGLAYストレイテナーUNISON SQUARE GARDENBUMP OF CHICKEN、山中が主宰するDELICIOUS LABELの所属バンド(noodles、シュリスペイロフ、THE BOHEMIANS)、『王様になれ』で主演を務めた岡山天音、バスターズ(ピロウズファンの愛称)一同、わさお&ちょめ……などなど、挙げ切れないほどのアーティストや関係者からのお祝い花が飾られていて、これだけでも彼らの偉大さが感じられるというもの。そして、さらに奥へ進み、観覧スペースに辿り着いた。

それにしても、横浜アリーナはデカくて広い。スタンディングエリアから辺りを見渡すと、なおさら思う。今まで何度も他のアーティストのライブを観にここへ来たことがあるのに、そんなバカみたいな感想が出てしまうのは自分がバスターズだからだろう。平日の横アリが超満員。
1階のセンターブロックから3階のスタンドまで、びっしり埋まっている。

the pillows、横浜アリーナで見せた30年間の集大成「今日は俺たちにとって特別な日」


the pillows、横浜アリーナで見せた30年間の集大成「今日は俺たちにとって特別な日」


the pillows、横浜アリーナで見せた30年間の集大成「今日は俺たちにとって特別な日」

Photo by 橋本塁<SOUND SHOOTER>、玉井信吾

周りのバスターズも心なしか緊張している独特の高揚感の中、ついに客電が落ちて開演のときが来た。おなじみのSEであるSALON MUSICの「KELLYS DUCK」は鳴らず、ステージ両脇の大型LEDモニターに映像が流れ出す。そこには普段めったに見られないメンバーの姿があった。佐藤シンイチロウ(Dr)、真鍋吉明(Gt)、山中さわおの順に、彼らの幼少期から現在にかけての写真がスライドされ、なんとそれぞれの母親の肉声を通し、3人の過去やピロウズが人生になった経緯が語られていく。場内には時折笑い声も溢れつつ、バンドが30年続いたことについて「すごく努力しただろうなと思う」「いい仲間に出会えたんじゃないですか」「ファンに恵まれてて安心」などと愛のある言葉が多かっただけに、素直に拍手が起こったり、すでに涙を浮かべていたりする観客の姿も。


そんな約10分のオープニングムービーのあと、”聴こえてくるのはキミの声 それ以外はいらなくなってた”——『王様になれ』の冒頭シーンが重なるような山中のアカペラから、「この世の果てまで」でライブがスタート。赤の引き幕が開いて現れたメンバーを、オーディエンスが大歓声で迎える。ステージ上部の輝くバンドロゴも美しいけれど、”行こう”と先導する山中のヴォーカル、それに拳を突き上げて応える12000人の光景はもっと美しい。続いては佐藤の軽快なドラムと有江嘉典(Ba)のベースソロから始まり、山中と真鍋によるツインソロも見ものな「MY FOOT」。会場のボルテージがいっそう高まり、近くで観ていたバスターズの何人かが「Blues Drive Monster」でたまらず前方へと駆け出していった。

「俺たち、30年間ロックバンドを続けてきたんだ。
今夜はその集大成。俺たちの音楽を受け取ってくれよ」。最初のMCで山中がそう話すと、無駄のない流れでそのまま記念日にふさわしい曲でもある「アナザーモーニング」「スケアクロウ」へ。「バビロン天使の詩」「I know you」になれば、スタンド席の観客までもがぴょんぴょんと飛び跳ねている。アリーナ公演とはいえ、ステージセットは至極シンプル。CG映像を用いることがあってもそれに頼ったド派手な演出はなく、ライブハウスと変わらない風通しのよさでいつものかっこいいピロウズで圧倒してくれる。
もう、最高じゃないか。

そう、ライブが始まってからは必要以上に特別感を出すことなく、”キミたちが聴きたいであろう曲をしっかり考えてきたよ”と言わんばかりの精悍なパフォーマンス。山中が思い描いた世界を、彼自身のドキュメンタリーの如き楽曲の数々を、真鍋と佐藤、そして有江が想いに応えるように具現化していく。そこには「行けんのか!?」「もっと来いよッ!」なんて煽りが要るわけもない。30年で積み上げてきたものをギミックなしでまっすぐ届けるのみ。その姿はとんでもなくクールだった。

サイケなCGが映し出される中で鳴り響いたピロウズ第1期の人気曲「サリバンになりたい」、佐藤の「ワン、ツー、スリー、フォー」カウントから歓喜してしまう「LAST DINOSAUR」、同名アルバムのジャケットに描かれている”痩せた枯木”をバックに奏でた「Please Mr.Lostman」、”生き延びて又会おう”という言葉に勇気をもらえる「No Surrender」。瑞々しいパワーあふれる楽曲で、ピロウズはバンドの強靭さや歴史をも体現していく。今さら言うまでもないことだが、シングル曲/アルバム曲などは関係なしにどの曲も素晴らしく、ほぼ全曲に真鍋が弾く絶品のギターソロが存在するのもたまらない。また、膨大な持ち曲があるにも関わらず、情熱を持って楽曲を理解しているファンもすごい。バスターズそれぞれの愛が横アリ全体を包み込むような、本当に奇跡みたいな温かい空間が生まれていた。

the pillows、横浜アリーナで見せた30年間の集大成「今日は俺たちにとって特別な日」


the pillows、横浜アリーナで見せた30年間の集大成「今日は俺たちにとって特別な日」


the pillows、横浜アリーナで見せた30年間の集大成「今日は俺たちにとって特別な日」

Photo by 橋本塁<SOUND SHOOTER>、玉井信吾

「1989年9月に結成して30年が過ぎた。ハタチだった俺が50歳になってしまった」「今日は30年間でいちばん人気があるな。もしかしたら売れるかもしれない」などと山中が笑いを取りながらも、ライブはなおキリッと進む。「永遠のオルタナティブクイーンに想いを馳せて」と前置きした「Kim deal」でさらに会場はヒートアップ! 11thアルバム『ペナルティーライフ』のシークレットトラックでセルフカバーした「ぼくは かけら」では、”うまくいかない事が続いて 気が狂いそうだよ 僕のやり方じゃ 誰も認めないのさ”のラインで、まだエゴのコントロールができていない、何者にもなれていないジレンマを抱えている若者=『王様になれ』の主人公・祐介を思い出したりもする。

30年間の全キャリアが伝わる、行き届いた選曲になっていることにも気付く。ピロウズにはセットリストに入り切らないほどの名曲があって、そのすべてを一晩に集約するのは到底無理な話だけれど、それでもバンドの第1期から第4期に至るまで、レコード会社で言えばポニーキャニオン期、キングレコード期、エイベックス期。なるべくどの時代の楽曲もバランスよく配し、大切に聴かせようとしてくれていたのだと思う。のちのMCで真鍋が語ったように、いろんなタイミングで出会ったバスターズを考えてのことだろう。また、渾身のミディアム曲ばかりが際立つわけでもなく、アップナンバーもいい感じで入ってくる。公演タイトルどおり、まさにハイライトなライブ。目の当たりにできるのがただただ嬉しい。

the pillows、横浜アリーナで見せた30年間の集大成「今日は俺たちにとって特別な日」


the pillows、横浜アリーナで見せた30年間の集大成「今日は俺たちにとって特別な日」


the pillows、横浜アリーナで見せた30年間の集大成「今日は俺たちにとって特別な日」

Photo by 橋本塁<SOUND SHOOTER>、玉井信吾

”僕はずっと孤独だった 会いたかった 誰かに””必要とされたい”——山中さわおが心の奥底に秘めた本当の声が聞こえる感じがする、演奏されることの少ないレア曲「1989」は中盤でとりわけ印象深く響いた。歌にやさしく寄り添うように、真鍋が鍵盤のフレーズもギターで弾く。そして、魂を揺さぶる最後のシャウトに感服。その次が最新アルバム『REBROADCAST』からの「ニンゲンドモ」なのもよかった。ロストマンの閉じていた心がゆっくりと開いていくみたいな、そんなリアリティーがあったから。

10年ぶりに歌うという「雨上がりに見た幻」の前、会場を見渡しながら冗談交じりに、なおかつ少し感極まったような声で山中はこう尋ねる。「みんなもしかして、無職? 俺の言いつけを守って仕事辞めてきた? どうしたんだ、平日にこんなにたくさん……」。なんとも彼らしいユーモラスなMCに、大きな喝采と拍手を返す12000人の観客。ここにいる人たちはみんなピロウズの30周年を祝うため、万難を排して全国から駆けつけたのだ。

次に何が来るのかと思ったら、”雨上がりのブルー”の歌詞で幕を開ける「サード アイ」という粋な計らい。「ニンゲンドモ」のみならず、トリッキーなギターリフの楽曲がもうひとつ投下されたことにも驚いたし、ステージバックには第3の目、3つの剣からなるシンボルマーク、演奏するメンバーの姿がドドンと映し出されて、またまた気分が高まる! そのままグランジ熱全開の「Advice」へと突入。真鍋のギターソロがいつも以上にキレキレで歪みまくっていて、まるで動物の鳴き声みたいに轟く。そんな中、おそらくもうライブは後半だろうけど、まだ本編ラストの曲ではないことを祈っている自分もいた。

ここでようやくメンバー紹介タイム。サポートベーシストの有江はこの特別な日を体験させてもらっていることに感謝し、「お祝いの気持ちを込めて演奏してます」と胸の内を明かした。佐藤は大きい舞台でも変わらずマイペース。自分の母親が横浜アリーナ(奇遇にも今年で開業30周年)と横浜スタジアムを勘違いしていたという話で場を盛り上げた。アニバーサリーっぽさが強かったのは真鍋のMC。「夢を共にしたメンバーはもちろん、スタッフや関係者の方々、そしてバスターズのみなさま。(出会った)時期はいろいろあると思いますけど、30年間付き合ってくれてありがとう!」といつになく熱く語っていたのがとてもグッときた。

しかし、その直後。「Swanky Street」のイントロを佐藤がミスってしまい、演奏がストップするというまさかの事態に! 引き締まっていた空気が緩み、温かい大歓声が場内を包む。山中も半ば投げやりに「やっぱり、横浜アリーナでやるようなバンドじゃねえんだよ」と笑い、真鍋に対して「お前がガラにもなく感動的なこと言うから、こっちはいろいろ喰らってんだよ!」とおどけてみせた。笑ったり泣いたり、感情が忙しい。けど、そんな瞬間にこそ、決して仲良しバンドではないピロウズの不思議な絆が垣間見られたし、すぐさまライブを立て直す精神力もさすがだった。

その後も「About A RocknRoll Band」を閃光の如く聴かせ、「LITTLE BUSTERS」で横アリをハッピーに揺らし、「Ready Steady Go!」はピロウズではめったにない銀テープ発射(”THANK YOU, MY HIGHLIGHT, WITH BUSTERS”の文字)! あっという間、大盛況のうちに本編は終了した。

the pillows、横浜アリーナで見せた30年間の集大成「今日は俺たちにとって特別な日」

Photo by 橋本塁<SOUND SHOOTER>、玉井信吾

アンコールでは30年の歴史の中でもターニングポイントとなった、バンドにとって欠かせない名曲「ストレンジ カメレオン」「ハイブリッド レインボウ」を立て続けに演奏。この2曲は特に何も語ることなく、もったいつけずにスッと披露されたのが潔くてよかった。ここまで来たら、もはや余計な言葉は必要ない。

ピロウズ第3期の幕開けとなった「ストレンジ カメレオン」はなんて寂しく、同時になんて強い覚悟のある曲なんだろうと、あらためて思いながらじっくり噛み締めた。「ハイブリッド レインボウ」もやはり未だに色あせない、いつ聴いても不屈の闘志を蘇らせてくれる、オルタナティブロック史に輝く名曲だ。”きっとまだ 限界なんてこんなもんじゃない””ここは途中なんだって信じたい”——この曲のおかげで明日を変えられた人はおそらく山ほどいる。どちらもひたすら痺れる、バンドの生きざまが鮮やかに伝わる時間だった。

「今日は俺たちにとっては特別な日。会いに来てくれてありがとう。俺たちみたいな偏屈なバンドが横浜アリーナで、こんなにたくさんの人に祝ってもらえるなんて不思議だ。俺は音楽業界を信用してない。けど、キミたちのことは信じたいよ」と山中が心情を吐露し、メンバーはステージを去った。こういう嘘偽りない言葉もまた、ピロウズが深く愛される理由。場内には「Thank you, my twilight」が流れ、”奇跡は起こらなくても充分だぜ 今日が最後の日でも”の歌詞が無性にハマるシチュエーションで泣ける。アンコールを求めて、大合唱するオーディエンス。出来すぎなくらい出来すぎな夜でしかない。

the pillows、横浜アリーナで見せた30年間の集大成「今日は俺たちにとって特別な日」

Photo by 橋本塁<SOUND SHOOTER>、玉井信吾

ダブルアンコールに応えて戻ってきた4人の手には缶ビール(ツアーではもはや恒例の画)。ステージの下手から上手へと移動しながら、横アリの観客にあらためて感謝を伝える。乾杯して緊張が解けたのか、「あんなに練習したのにねー」と先程のミスを早速ネタにして笑う山中。さらに、缶ビールを指さして「こう見えて中身はアクエリアスです(笑)」とも。

いつものピロウズらしさ全開の中、OVAシリーズ『フリクリ』の主題歌「Ride on shooting star」をおなじみの動きできりりと決め、ファンが代表曲に押し上げたと言ってもいい「Funny Bunny」もここでついに披露。待ちわびたように”キミの夢が叶うのは 誰かのおかげじゃないぜ 風の強い日を選んで 走ってきた”の大合唱が巻き起こった。CMなどでもこのサビがフィーチャーされがちだが、Bメロの”世界は今日も簡単そうにまわる そのスピードで涙も乾くけど”でわかるとおり、もともとは大衆に向けた応援歌ではなかった「Funny Bunny」。どちらかといえば、もうダメになってしまいそうなとき、独りで聴いていて最後の救いになるような曲だと思う。しかし、それが結果としてたくさんの人の心を射抜く名曲となったのは、やっぱり奇跡みたいにすごい。

観客のほとんどが帰ろうとせず、拍手が鳴り止まない会場。トリプルアンコールは「若者だった自分を救ってくれたもの、50代になったバンドを今でも救ってくれるもの、新しいも古いもない世界、それがロックンロールだ!」という山中の高らかな宣言で、「Locomotion, more! more!」へとなだれ込んだ。間断なき陶酔が続いたステージをゴキゲンなナンバーでパシッと締め、ロックミュージックからは逃れられないのだと自分たちに今一度言い聞かせるような完璧なエンディング。仰々しい発表ごとや浮かれた写真撮影タイムも当然なし。ここはまだ物語の途中で、到達点ではない。そう感じさせるメンバーの去り方も凛としたものだった。

終演後、モニターには”DONT FORGET TODAY”の文字。ピロウズ30周年の集大成をバスターズがそれぞれしっかりと目に焼き付けた、忘れられないライブになったのは間違いない。『王様になれ』のユカリの言葉を借りるなら、”もしかしたら必然かも、ピロウズと出会ったの”。あの場に居られた人は誰もがそう思えるような、胸いっぱいの最高な夜だった。

the pillows、横浜アリーナで見せた30年間の集大成「今日は俺たちにとって特別な日」

Photo by 橋本塁<SOUND SHOOTER>、玉井信吾

〈セットリスト〉
01.この世の果てまで
02.MY FOOT
03.Blues Drive Monster
04.アナザーモーニング
05.スケアクロウ
06.バビロン天使の詩
07.I know you
08.サリバンになりたい
09.LAST DINOSAUR
10.Please Mr.Lostman
11.No Surrender
12.Kim deal
13.ぼくは かけら
14.1989
15.ニンゲンドモ
16.雨上がりに見た幻
17.サード アイ
18.Advice
19.Swanky Street
20.About A RocknRoll Band
21.LITTLE BUSTERS
22.Ready Steady Go!

アンコール1
01.ストレンジ カメレオン
02.ハイブリッド レインボウ

アンコール2
01.Ride on shooting star
02.Funny Bunny

アンコール3
01.Locomotion, more! more!

プレイリスト:
https://lnk.to/pillows-30th_anniversary_setlist