2019年9月に書籍『なぜアーティストは壊れやすいのか?』を出版した、音楽学校教師で産業カウンセラーの手島将彦。同書では、自身でもアーティスト活動・マネージメント経験のある手島が、ミュージシャンたちのエピソードをもとに、カウンセリングやメンタルヘルスの基本を語り、アーティストや周りのスタッフが活動しやすい環境を作るためのヒントを記している。
人が生きていく中で何らかの苦境に立たされた時、最も悲劇的なことは"自殺"という手段を選んでしまうことかもしれません。
アメリカでは10代の自殺率が過去10年で急増、事故死に次いで死因の2位が自殺というデータが発表されました。また、日本では10歳~39歳までの死因は自殺が1位という、深刻な事態になっています。
アーティストたちに関しても、これまでに数多くの同様の悲劇が起きてしまっているのが現状です。
そうした状況に対して、ミュージシャンたちが声をあげ始めています。第60回グラミー賞で年間最優秀楽曲を含む2部門にノミネートされたlogicは、全米の自殺予防防止対策ホットラインの番号をタイトルにした「1-800-273-8255」という曲を発表して話題となりました。
また2017年には、世界自殺予防デーである9月10日に、アメリカのブロードキャスティング会社がメンタルヘルスへの認識向上と自殺防止を願い「Im Listening」キャンペーンを立ち上げ、先述のlogicも含め、メタリカやアリス・イン・チェインズのウィリアム・デュヴァールら、多数のミュージシャンが自身の経験や意見を語る特別番組を生放送しています。
ところで、自殺については、よくある誤解があります。東京都福祉保険局の「自殺についての5つの誤解」を参照して、この誤解について説明します。
「自殺についての5つの誤解」
1.「死ぬ・死ぬ」という人は本当は自殺しない
これはかなり広く信じられている誤解ですが、実際には自殺した人の8~9割は実際に行動に及ぶ前にその意思を誰かに伝えています。
2. 自殺の危険度が高い人は死ぬ覚悟が確固としている
実際には、自殺の前にまったく平静な人はほとんどいません。むしろ、自殺の危険の高い人は「生きたい」「死んでしまいたい」の間で激しく動揺しています。
3. 未遂に終わった人は死ぬつもりなどなかった
前述の2のように、「生きたい・助けて欲しい」と「死にたい」の間で揺れ動いていますので行為にもその気持ちが反映されています。未遂に終わってもその後同様の行為を繰返して命を落としてしまう可能性が高いのです。
4. 自殺について話をすることは危険だ
自殺を話題にすることが自殺の考えを植え付けることにはなりません。自殺したいという絶望的な気持ちを打ち明けることのできる信頼関係のある人がいて、その人がその叫びを真剣に取り上げるならば、自殺について率直に語り合うことは自殺の危険を減らすことになりますし、言葉にすることで、ある程度距離を置いて冷静に観ることが可能になります。
5. 自殺は突然起き、予測は不可能である
自殺は突然のように見えても、それに至る長い苦悩の道程があり、一見最近の事件が原因のようでも、それは引き金にすぎないことが多いのです。
もし「死にたい」と打ち明けられたら、話をそらしたり、批判的な態度をとったり、常識を押しつけたり、すぐ何らかの助言を与えようとしたり、安易に励ましたりしてはなりません。まずは、ひたすら誠実に相手の言葉に耳を傾け、感情を理解するように務めることが大切です。もし相手が沈黙してしまったら、無理に話をせず、じっくりと待ちます。そして相談機関や医療機関の力も借りましょう。
アメリカにしても、日本にしても、若い世代の自殺が増えている原因ははっきりと特定されていません。
メンタル面で起きてしまう問題の多くは、その当事者ではなく環境の方に問題があるかもしれない、と考えてみることが大切です。そしてできることなら、そもそもメンタルの問題が生じないように、誰もが生きやすい社会を目指すべきなのだと思います。
ミュージシャンに限らず、多くのアーティストたちは「狂った世界」が少しでも良くなるように表現してきた歴史があります。私は、その歴史と力を信じたいと思いますし、そうしたアーティストたちの犠牲をこれ以上増やしたくないとも思います。
参照
アメリカで10代の自殺率が激増
Rolling Stone 2019.10.26 11:40 EJ Dickson
https://rollingstonejapan.com/articles/detail/32260
メタリカ、ボブ・エズリンら、自殺防止キャンペーンの生放送に出演
BARKS 2017.9.6 12:34
https://www.barks.jp/news/?id=1000146540
音楽が若者を自殺から救っている 米ラッパーLogicの曲『1-800-273-8255』
J-CASTニュース 2017/9/ 1 17:39
https://www.j-cast.com/2017/09/01307436.html?p=all
東京都福祉保険局 自殺予防コーナー
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/smph/chusou/jouhou/jisatsu/index.html
RADWIMPS野田さん「こんな狂った世界、苦しいのは自然」「一生は続かない」…STOP自殺 #しんどい君へ
讀賣新聞オンライン 2019/08/29 08:40
https://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/kyoiku/stop01/interview/20190827-OYT1T50249/
<書籍情報>
手島将彦
『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』
発売元:SW
発売日:2019年9月20日(金)
224ページ ソフトカバー並製
本体定価:1500円(税抜)
https://www.amazon.co.jp/dp/4909877029
本田秀夫(精神科医)コメント
個性的であることが評価される一方で、産業として成立することも求められるアーティストたち。すぐれた作品を出す一方で、私生活ではさまざまな苦悩を経験する人も多い。この本は、個性を生かしながら生活上の問題の解決をはかるためのカウンセリングについて書かれている。アーティスト/音楽学校教師/産業カウンセラーの顔をもつ手島将彦氏による、説得力のある論考である。
手島将彦
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライブを観て、自らマンスリー・ライヴ・イベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。Amazonの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり、産業カウンセラーでもある。
Official HP
https://teshimamasahiko.com/
そんな手島が、日本に限らず世界の音楽業界を中心にメンタルヘルスや世の中への捉え方を一考する連載「世界の方が狂っている ~アーティストを通して考える社会とメンタルヘルス~」をスタート。第1回は、昨今アメリカでも日本でも増え続けている"自殺"をテーマに、産業カウンセラーの視点から考察する。
人が生きていく中で何らかの苦境に立たされた時、最も悲劇的なことは"自殺"という手段を選んでしまうことかもしれません。
アメリカでは10代の自殺率が過去10年で急増、事故死に次いで死因の2位が自殺というデータが発表されました。また、日本では10歳~39歳までの死因は自殺が1位という、深刻な事態になっています。
アーティストたちに関しても、これまでに数多くの同様の悲劇が起きてしまっているのが現状です。
そうした状況に対して、ミュージシャンたちが声をあげ始めています。第60回グラミー賞で年間最優秀楽曲を含む2部門にノミネートされたlogicは、全米の自殺予防防止対策ホットラインの番号をタイトルにした「1-800-273-8255」という曲を発表して話題となりました。
また2017年には、世界自殺予防デーである9月10日に、アメリカのブロードキャスティング会社がメンタルヘルスへの認識向上と自殺防止を願い「Im Listening」キャンペーンを立ち上げ、先述のlogicも含め、メタリカやアリス・イン・チェインズのウィリアム・デュヴァールら、多数のミュージシャンが自身の経験や意見を語る特別番組を生放送しています。
ところで、自殺については、よくある誤解があります。東京都福祉保険局の「自殺についての5つの誤解」を参照して、この誤解について説明します。
「自殺についての5つの誤解」
1.「死ぬ・死ぬ」という人は本当は自殺しない
これはかなり広く信じられている誤解ですが、実際には自殺した人の8~9割は実際に行動に及ぶ前にその意思を誰かに伝えています。
2. 自殺の危険度が高い人は死ぬ覚悟が確固としている
実際には、自殺の前にまったく平静な人はほとんどいません。むしろ、自殺の危険の高い人は「生きたい」「死んでしまいたい」の間で激しく動揺しています。
3. 未遂に終わった人は死ぬつもりなどなかった
前述の2のように、「生きたい・助けて欲しい」と「死にたい」の間で揺れ動いていますので行為にもその気持ちが反映されています。未遂に終わってもその後同様の行為を繰返して命を落としてしまう可能性が高いのです。
4. 自殺について話をすることは危険だ
自殺を話題にすることが自殺の考えを植え付けることにはなりません。自殺したいという絶望的な気持ちを打ち明けることのできる信頼関係のある人がいて、その人がその叫びを真剣に取り上げるならば、自殺について率直に語り合うことは自殺の危険を減らすことになりますし、言葉にすることで、ある程度距離を置いて冷静に観ることが可能になります。
5. 自殺は突然起き、予測は不可能である
自殺は突然のように見えても、それに至る長い苦悩の道程があり、一見最近の事件が原因のようでも、それは引き金にすぎないことが多いのです。
もし「死にたい」と打ち明けられたら、話をそらしたり、批判的な態度をとったり、常識を押しつけたり、すぐ何らかの助言を与えようとしたり、安易に励ましたりしてはなりません。まずは、ひたすら誠実に相手の言葉に耳を傾け、感情を理解するように務めることが大切です。もし相手が沈黙してしまったら、無理に話をせず、じっくりと待ちます。そして相談機関や医療機関の力も借りましょう。
アメリカにしても、日本にしても、若い世代の自殺が増えている原因ははっきりと特定されていません。
しかし、人を取り巻く社会や環境が影響を与えていることは間違いないのです。そしてそれは、その渦中にいて苦しんでいる人のせいではありません。讀賣新聞のシリーズ・インタビュー「STOP自殺 #しんどい君へ」に掲載されたRADWIMPSの野田洋二郎さんの言葉を借りるなら「こんな狂った世界なんだから、君が苦しかったり、悲しかったり、違和感を覚えるほうが自然だ。逃げ出したくなるのが当たり前」なのです。
メンタル面で起きてしまう問題の多くは、その当事者ではなく環境の方に問題があるかもしれない、と考えてみることが大切です。そしてできることなら、そもそもメンタルの問題が生じないように、誰もが生きやすい社会を目指すべきなのだと思います。
ミュージシャンに限らず、多くのアーティストたちは「狂った世界」が少しでも良くなるように表現してきた歴史があります。私は、その歴史と力を信じたいと思いますし、そうしたアーティストたちの犠牲をこれ以上増やしたくないとも思います。
参照
アメリカで10代の自殺率が激増
Rolling Stone 2019.10.26 11:40 EJ Dickson
https://rollingstonejapan.com/articles/detail/32260
メタリカ、ボブ・エズリンら、自殺防止キャンペーンの生放送に出演
BARKS 2017.9.6 12:34
https://www.barks.jp/news/?id=1000146540
音楽が若者を自殺から救っている 米ラッパーLogicの曲『1-800-273-8255』
J-CASTニュース 2017/9/ 1 17:39
https://www.j-cast.com/2017/09/01307436.html?p=all
東京都福祉保険局 自殺予防コーナー
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/smph/chusou/jouhou/jisatsu/index.html
RADWIMPS野田さん「こんな狂った世界、苦しいのは自然」「一生は続かない」…STOP自殺 #しんどい君へ
讀賣新聞オンライン 2019/08/29 08:40
https://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/kyoiku/stop01/interview/20190827-OYT1T50249/
<書籍情報>

手島将彦
『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』
発売元:SW
発売日:2019年9月20日(金)
224ページ ソフトカバー並製
本体定価:1500円(税抜)
https://www.amazon.co.jp/dp/4909877029
本田秀夫(精神科医)コメント
個性的であることが評価される一方で、産業として成立することも求められるアーティストたち。すぐれた作品を出す一方で、私生活ではさまざまな苦悩を経験する人も多い。この本は、個性を生かしながら生活上の問題の解決をはかるためのカウンセリングについて書かれている。アーティスト/音楽学校教師/産業カウンセラーの顔をもつ手島将彦氏による、説得力のある論考である。
手島将彦
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライブを観て、自らマンスリー・ライヴ・イベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。Amazonの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり、産業カウンセラーでもある。
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