今や、名実ともに日本一のラップ・グループとなったBAD HOP。これまで特定の事務所やレーベルに所属することなく、全てセルフメイドでそのキャリアを駆け上ってきた。


メンバー8名の平均年齢は約24歳という若さがながら、2018年には日本武道館での単独自主公演を成功させ、今年行った5都市を廻るZEPPツアーのステージーではメンバーのT-Pablowが自ら、「来年はアリーナのステージに立つ」と宣言してみせた。人気、実力ともに申し分のないBAD HOPだが、次のステップへと進むためにメンバーそれぞれが共通して掲げていた目標こそが、<世界を目指すこと>であった。

今回、その目標へ向かうステップとして彼らが定めた目的地はアメリカの西海岸・ロサンゼルスの地だ。メンバーそれぞれ、個々に海外経験があるメンバーも多いが、BAD HOP全員でアメリカの地を踏むのは初めてのこと。レコーディングを行ったのは、ハリウッド付近に位置するChalice Recording Studios。これまでにジェイ・Zやエイサップ・ロッキー、ニプシー・ハッスルら、名だたるラッパーたちの名盤を生み出してきた名門スタジオだ。
そして今回、エンジニアとしてBAD HOPの新たなサウンドを作り上げたのも、ケンドリック・ラマー『Good Kid, M.A.A.D City』でグラミー賞に輝いたという名うての音職人である。

海外基準のサウンドを目指すBAD HOPには、もちろんそのクオリティに適合するビートが必要だ。BAD HOPのエネルギーと可能性に魅せられ、全6曲入りのEP『Lift Off』(Apple Music・iTunes限定リリース)に参加したプロデューサーは以下の通りである。

まず、EPの冒頭を飾る「JET」を手掛けたのはマーダー・ビーツ。ドレイクと同じカナダはオンタリオ州出身で、2018年にはミーゴス「MotorSport」、ドレイク「Nice For What」、シックスナイン「Fefe」と、プロデュースを手掛けたシングルが立て続けにミリオン・ヒットを記録。2019年のグラミー賞では合計6部門にてノミネートされるという快挙を成し遂げ、一躍、稀代のヒットメイカーとして名を上げている存在だ。
ちなみにマーダー・ビーツ本人もBAD HOPのエネルギーに大いに感銘を受けたらしく、人気ポッドキャスト番組「No Jumper」でもBAD HOPの名前を挙げたり、InstagramのストーリーにBAD HOPから贈られた服をアップしたりと、インタラクティヴな交流が続いていることを明らかにしている。

そして「Double Up」のビートは、メトロ・ブーミンの手によるもの。アトランタを中心とする現代のトラップ・ブームの立役者としても知られる存在であり、フューチャー「Mask Off」やミーゴス「Bad and Boujee」といった特大ヒット曲を多数手がけている。カニエ・ウェストやザ・ウィークエンドらのプロデュースも担当しており、また、トラヴィス・スコットやドレイクのサウンドにも欠かせない存在でだ。

大御所的存在から新鋭まで、名だたるプロデューサーが参加

エキゾチックな魅力を感じさせる「Ichimanyen」のプロデュースを担当したのは、もはや大御所の貫禄すら漂わせるマイク・ウィル・メイド・イット。BAD HOPのメンバーが待つスタジオに登場するや否や、未発表の自分のビートを聴かせその場でメンバーたちにフリースタイルを要求したマイク。
その姿には、BAD HOPの可能性を本気で探っている様子が伺えた。マイクと言えばビヨンセ「Formation」やケンドリック・ラマー「HUMBLE.」、「DNA.」など、その時代を反映したヒット・チューンの多さでも知られる。加えて、今やワールドワイドな人気を誇る兄弟ラップ・デュオ、レイ・シュリマーを世に送り出したのも彼だ。ヒット曲とは何かを知り抜いたマイクのビートを乗りこなすBAD HOPのメンバーそれぞれのフロウにも注目していただきたい。

BAD HOP、米LAで制作したEPを発表「ずっと探していた入り口のドアがやっと見えた」

Courtesy of BAD HOP

BAD HOP、米LAで制作したEPを発表「ずっと探していた入り口のドアがやっと見えた」

Courtesy of BAD HOP

続いて、疾走感溢れる扇情的な「Poppin」は、昨今の西海岸ヒップホップのサウンド・イメージを塗り替えてきたDJマスタードがビートを提供した楽曲。彼が今年発表したアルバム『Perfect Ten』にも共通するヴァイブスを感じさせるトラックだ。
これまでにYGやタイガ、タイ・ダラー・サインといったロサンゼルスを代表するアーティストのプロデュースを手がけ、常にビルボード・チャートにその楽曲を送り込んできたマスタード。昨今では「Bood Up」で一躍大スターとなったR&Bシンガーのエラ・メイを発掘し、トータル・プロデュースを手がけたことも記憶に新しい。

「Dead Coaster」、そして「Foreign」を手がけているのは、ウィージーとターボの二人。「Dead Coaster」はウィージー単体によるビートだが、二人ともアトランタを拠点とし、ヤング・サグやリル・ベイビー、ガンナといったアトランタ産の最先端トラップ・サウンドを共同でプロデュースする機会も多いビートメイカーだ。2018年、ウィージーはリル・ベイビー「Yes Indeed」がトップ10ヒットに輝き、ターボはトラヴィス・スコットの最新アルバム『ASTROWORLD』に収録された「YOSEMITE」のプロデュースを担当するなど、着実に、そしてスピーディーにそのキャリアを更新している新鋭プロデューサーだ。また、言い換えれば、まさにBAD HOPのメンバーたちが普段心酔しているサウンドこそがターボ&ウィージーのビートであり、この二組のビートの上でラップするということは、そのままBAD HOPがロールモデルとしているUSの最前線を牽引する若手ラッパーらと肩を並べるということでもある。


「向こうに行って一番くらったのが、”包み隠さなくてでいいんだな”ということ」(YZERR)

実際に、一つのスタジオで名だたるプロデューサーと制作を共にしたBAD HOPのメンバー。「一緒にスタジオに入ったプロデューサー全員に通じていたのは、みんなガチというか、”男同士、目を見たら分かる”みたいな真剣さ。音楽に対しての本気度みたいなものが溢れ出ていて、”そりゃみんな成功するよな”と納得したんです。みんな、InstagramやMVを見ていると、ファニーな一面を見せていることもあるじゃないですか。でも実際に会うとみんな共通して、ゾーンに入っているような雰囲気があった」と、BAD HOPのスポークスマン的な立場でもあるYZERRが振り返る。

BAD HOP、米LAで制作したEPを発表「ずっと探していた入り口のドアがやっと見えた」

Courtesy of BAD HOP

加えて、YZERRは渡米までに抱えていた気持ちをこう表現した。
「日本にいて日本で音楽を作っていると、やっぱり日本風な方向に合わせてしまうようなところもあって、自分としてはそれが一番気持ち悪いところだったんです。胸につっかえている部分というか。あと、これまで日本でラッパーとしてやってきて、(世界のヒップホップ・シーンに通じる)”入り口に立った”と実感することがなかった。いくら日本で武道館の公演を成功させたり、いいライブだったと言われたりしても、自分の中ではそれとこれとは全く別の話というか」

しかし、今作の制作を経たことで、本人、そしてメンバーの中では確実に意識改革が起こったという。「向こうに行って一番くらったのが、”包み隠さなくてでいいんだな”ということ。BAD HOPがこのプロジェクトを実現させる、そしてこれだけのプロデューサーたちが応援してくれるってことは、”(BAD HOPとして)何をやってもOKなんだ。これからも、やりたいことを全部やって、全員でぶち壊してやるわ”という気持ちにさせてくれたんです。そして、これからのモチベーションにも繋がったんです」と語る。「海外で成功する壁はデカいと思う。でも、自分としては、今までずっと探していた”入り口”へのドアの場所がやっと見えたという感じ。どこにあるか分からなかったけど、やっとその場所が確認できた。それが一番デカいことでしたね」

これまで、明確なヴィジョンを打ち立て、常に有言実行のスタイルを貫いてきたBAD HOP。新たなドアを開く準備はすでに整ったようだ。

<INFORMATION>

『Lift Off』
BAD HOP
BAD HOP
Apple Music・iTunes限定リリース