フー・ファイターズのドラマー、テイラー・ホーキンスによるサイド・プロジェクト=テイラー・ホーキンズ&ザ・コートテイル・ライダーズの3rdアルバム『ゲット・ザ・マネー』がリリースされた。本作にはデイヴ・グロールなどバンドの仲間たちのほか、ロジャー・テイラー、ダフ・マッケイガン、ジョー・ウォルシュ、ペリー・ファレル、クリッシー・ハインドなど超豪華ゲストが集結している。
夢のロックンロール・アルバムを隅々まで楽しむべく、音楽ライターの鈴木喜之が全曲解説。

フー・ファイターズのドラマーとして知られるテイラーが、自らのリーダー・バンドであるコートテイル・ライダーズをスタートさせたのは、2004年のこと。これまでにセルフタイトルを冠したデビュー・アルバムと、2nd『レッド・ライト・フィーヴァー』を発表しており、伝説のウドー・フェスティバルと、フジロック2010に出演する形で来日も果たした。その後テイラーは、フー・ファイターズの一員としてさらに活躍していく一方、チェヴィ・メタル/バーズ・オブ・サタンといったプロジェクトを展開し、3年前には初の個人名義で『KOTA』というEPも発表している。そして今回、9年半ぶりの復活となったコートテイル・ライダーズは、ともにアラニス・モリセットのバック・バンドを務めて以来の仲良しリズム隊コンビであるクリス・チェイニー(ジェーンズ・アディクション)に加え、オリジナル・メンバーのガニン・アーノルドに代わり、ブレント・ウッズというギタリストが新たに加入したラインナップとなった。

最新作で注目なのは、まずその超豪華なゲスト陣だ。
前作にもクイーンのブライアン・メイとロジャー・テイラー、カーズのエリオット・イーストンが参加していたが、この10年間でテイラーが交友範囲を広げたことを反映してか、『ゲット・ザ・マネー』のクレジットには、ちょっとビックリしてしまうほど多彩な顔ぶれのスーパースターたちが名前を連ねている。以下、その面々に触れながら作品全体を解説していってみたい。

1. 「Crossed The Line」(featuring Dave Grohl, Jon Davison)
冒頭を飾るナンバーでは、現イエスのシンガーであるジョン・デイヴィソンがバック・ボーカルで参加。もともとは、スカイ・クライズ・メアリーというシアトルを拠点に活動していたバンドのベーシストだったジョンは、テイラーの幼なじみでもあった。実は、プログレ界を代表する偉大なバンドが活動を現在まで継続させるため、ジョン・アンダーソンという不世出のシンガーの後継者という大役を任される新メンバーを選ぶにあたって、デイヴィソンを推薦したのは、他ならぬテイラーだったそうだ。

2.「Dont Look At Me That Way」(featuring Duff McKagan, Nancy Wilson)
2曲目に登場するのは、ガンズ・アンド・ローゼズのダフ・マッケイガンと、ハートのナンシー・ウィルソン。
ガンズとニルヴァーナの間に確執があったりしたことも今は昔、2016年にアクセル・ローズが足を骨折した際、前年に同じく足を骨折していたデイヴ・グロールがツアーを続行させるため作成した可動式の玉座をアクセルに貸し出すなど、フー・ファイターズとの関係性は非常に良い。もともとシアトル出身のダフはグランジ/オルタナティヴ・ロックへのシンパシーも強かったようで、今作では2曲でベースを弾いている。また、ウィルソン姉妹の妹ナンシーは、ハートでのパートはギタリストだが、ここではボーカルを担当。ちなみに偶然なのか、何かの意図があってか、ハートもシアトルを拠点とするバンドだ。なお、この曲でテイラーはピアノにも挑戦している。

3.「Youre No Good At Life No More」(featuring Dave Grohl)
テイラー・ホーキンスのことを弟のように可愛がり続けているデイヴ・グロールだけに、この曲だけでなく1、4、8曲目と合計4トラックに参加。
全面的なバックアップをしているが、「テイラーがフロントなんだから、こっちでは俺がドラムを叩こうか」というようなことにはならず、あくまでバック・ボーカルかギターでの協力に徹しているのが興味深い。この3曲目では、ブレントが参加していないのでギターを全面的に引き受けており、さらにサビでのテイラーとデイヴのツイン・ボーカルはフー・ファイターズでもほとんど無い、新鮮な魅力を感じさせるものになっている。

4.「I Really Blew It」(featuring Dave Grohl, Perry Farrell)
デイヴがスクリームを聴かせる4曲目では、ジェーンズ・アディクションのペリー・ファレルも一緒に歌ってあげている。アルバム発売に合わせて公開されたビデオクリップも存在し、そこにも妻のエティ・ラウ・ファレルまで伴って出演。ペリーは2019年6月に18年ぶりのソロ・アルバム『Kind Heaven』を発表しており、そちらにテイラーも参加しているので、お返しにということかもしれない。再結成後のジェーンズ・アディクションで、オリジナル・メンバーのエリック・エイヴァリーに代わるベーシストとして、すっかり定着したクリス・チェイニーが繋いだ縁ということなのだろう。


5.「Queen Of The Clowns」 (featuring Mark King)
5曲目にベースとボーカルで参加しているのは、レベル42の中心メンバーであるマーク・キング。なんでも、マークの友人がギリシャかトルコでフー・ファイターズのショウを見に行った際、ライヴ途中でデイヴがテイラーに「伝説的な人物とプレイできるとしたら、誰を選ぶ?」と質問し、そこでテイラーが「マーク・キングだよ!」と答えたらしい。そこで友人はバックステージを訪ね、連絡先をテイラーに伝えた。翌日にはもう、マークへ「あなたにベースを弾いて、歌ってみてほしい曲があるんです」とメールが送られてきたという。ちなみにマークは、テイラーが尊敬するスチュワート・コープランド(ポリス)やエイドリアン・ブリュー(キング・クリムゾン)らとともに、ギズモドロームというスーパーバンドもやっている。

6.「Get The Money」 (featuring Joe Walsh, Chrissie Hynde, Duff McKagan)
続くタイトル・ナンバーには、ジョー・ウォルシュが参加。
テイラーはどちらかというと、イーグルスよりもジェームス・ギャングの方が好きなようで、コートテイル・ライダーズの1stアルバムのジャケット・デザインは、ジェームス・ギャングの2ndアルバムに対するオマージュだったりした。フー・ファイターズのドキュメンタリーTVシリーズ『ソニック・ハイウェイズ』の第5話「ロサンゼルス編」では、レコーディングでジョーのギター・プレイを目の当たりにし、身をよじって感動してたテイラーだけに、今回の共演の中でも特に、夢が叶ったような体験だったことだろう。この曲では再びダフがベースを弾き、さらにプリテンダーズのクリッシー・ハインドまで歌声を聴かせてくれている。

7.「C U In Hell」 (featuring LeAnn Rimes)
なんと、テイラー・スウィフトにも影響を与えたカントリー界のスーパースター、リアン・ライムスがデュエットしている。今回、ナンシーやクリッシーなど女性アーティストの参加が、どうも野郎くさくなりがちなテイラーの世界に新しい空気を吹き込んでいるように思う。そういえば、本作のミキシングを担当したのも、デイヴ・グロールがドキュメンタリー映画の題材にしたサウンド・シティ・スタジオの元スタッフで、トゥールの初期作品をプロデュースしたり、リック・ルービンの元でシステム・オブ・ア・ダウンやジョニー・キャッシュなどのアルバムを手がけた才媛シルヴィア・マッシーだ。
この曲は、クリスとブレントが弾いたキーボードなども活かされ、アレンジ面でも格段の進化を感じる。

8.「Middle Child」 (featuring Dave Grohl)
デイヴ・グロールについては、もういいと思うので、本作のプロデューサーを務め、ほぼ全曲のライティングにも携わっているジョン・ロストウについて触れておこう。フー・ファイターズの作品には2006年の『スキン・アンド・ボーンズ』あたりから関わり続けているロストウは、近年のテイラーのプロジェクトであるバーズ・オブ・サタンや『KOTA』EPも手がけるなど親交を深めており、ライアン・リチャードソン・プラットによるジャケットのイラストレーションにこそ描かれていないものの、ほとんど第4のメンバーと言っていいくらい存在だ。ドリュー・へスターがプロデュースした過去2タイトルから、間を開けた本作での進化の鍵は、おそらくロストウが握っている部分も大きいのではないだろうか。この8曲目のボーカルは、どことなくシン・リジィのフィル・ライノットっぽさを混ぜているように聞こえたりもして面白い。

9.「Kiss The Ring」
9曲目には、特に外部ゲストは参加していないが、冒頭のエレクトロニックなサウンドが新鮮だ。この曲でキーボードを担当しているのは、ガニン・アーノルドに代わってギタリストを務めることになった新メンバーのブレント・ウッズ。セバスチャン・バック(スキッド・ロウ)やヴィンス・ニール(モトリー・クルー)といった人たちのバックも務めてきたブレントは、90年代初め頃にはワイルドサイドというバンドをやっていたこともある。この人もまた才能豊かなミュージシャンのようで、今回ロストウとともに果たした貢献は大きそうだ。

10.「Shapes Of Things」(featuring Roger Taylor, Pat Smear, Steve Jones)
最終曲は、ヤードバーズのカバー。ゲイリー・ムーアによるバージョンもそうだったが、ここで聴けるのも、第1期ジェフ・ベック・グループのアレンジを踏襲している。テイラーのハスキーな声は、ロッド・スチュワートの持ち歌をこなすのにぴったりだ。また、この曲のみガニン・アーノルドがギターを弾いているので、もしかしたら時期的には少し前の録音なのかもしれない。カバーであることも含め、ボーナス・トラック的な位置付けを意識してラストに収録したのだろうか。しかし、ガニンに加え、フー・ファイターズの同僚であるパット・スメア(ジャームス)、およびセックス・ピストルズのスティーヴ・ジョーンズによるトリプル・ギター体制で、大先輩ロジャー・テイラーも再び登場するなど、ボーナスには贅沢すぎる豪華さでアルバムはエンディングを迎える。

デイヴ・グロールは、このところ「時代を代表する音楽表現」としては中心的な役割から後退しつつあるロック・ミュージックを、まだまだ燃え上がらせ続けるべく、様々な思慮を巡らせ、幾つもの計画を実行してきた。フー・ファイターズの最新アルバム『コンクリート・アンド・ゴールド』では、ベックやシーアを手がけたポップ畑のプロデューサーであるグレッグ・カースティンを起用してみたり、若い子たちが楽器を学ぶことを奨励する目的で、自ら全パートを演奏した20分の大曲を発表したりした。ドキュメンタリー映画を撮ったこともそうだし、最近では遂にニルヴァーナの楽曲をライヴで演奏したことも、「やれることはなんだってやってやる」という強い意志を感じる。

その一方で、弟分のテイラー・ホーキンスは、そうしたデイヴの行動に触発されながらも、あくまでテイラーらしく無邪気に、自分が大好きなロックを鳴らすことの喜びを全身で体現することで、それをサポートする役割を自然に引き受けているように思えてくるのだ。

テイラーのファン、フー・ファイターズのファンだけでなく、今作のゲストの面々に興味を惹かれたような人も、ぜひテイラーのロック・エンジョイっぷりを分かち合ってほしい。

フーファイのテイラー・ホーキンス、スーパースター軍団と描いたロック・ドリーム

テイラー・ホーキンス&ザ・コートテイル・ライダーズ
『ゲット・ザ・マネー』
発売中

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日本公式サイト:
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