Airbnbが所有するアルゴリズムは、「信頼できない」と判断されたユーザーをプラットフォーム上から削除することが可能。セックスワーカーは、これは新手の差別だと発言。


2016年2月、セックスワーカーのラモーナ・フラワー氏はパートナーと一緒にニューヨークへ週末旅行に出かけた。ニューヨークを訪れる多くの旅行者同様、彼女もほぼ観光三昧だった。旅の様子を収めた彼女のInstagramには、アメリカ自然史博物館で恐竜とポーズを取る写真がアップされている。宿泊先には、今回初めてAirbnbを利用した。数週間後Airbnbにログインしようとすると、アクセスが禁じられています、というメッセージが表示された。彼女がローリングストーン誌に提供したスクリーンショット画像によると、彼女のアカウントは「弊社の利用規約およびコミュニティ規則を遵守しなかったため」だという。
彼女はカスタマーサービスに2度問い合わせたが、無駄骨に終わった。

何カ月間もフラワー氏は首をひねった。大手IT企業によるセックスワーカーの差別が珍しくないことは彼女も承知していた。だが今回彼女はアカウント登録にあたり、仕事上の名前や住所ではなく、戸籍上の名前と私用のメールアドレスを使っていた(大半のセックスワーカーは本名をおおっぴらには使わない。安全上の理由と、職業について回る偏見のせいだ)。さらに言えば、彼女は今回仕事で旅行したわけではない。
ホストの部屋でアダルトコンテンツを撮影したわけでもない。そもそもAirbnbはどうやって彼女が売春していることを知ったのか、彼女には皆目見当もつかなかった。

「この数年、ずっとそのことを考えていました。彼らがどうやって知ったのか、突き止めようともしました。もしかしたら部屋のホストかも?とも思いました」と彼女はローリングストーン誌に語った。「でもまさか、データマイニングが答えだったなんて思いもしませんでした。
おかしな話じゃありませんか、彼らがわざわざこんな手間をかけて、私たちの業界の人々のアカウントを削除したり、サービスの利用をブロックするなんて」

イブニングスタンダード紙が報じたところでは、Airbnbは「ISP、公民データベース、ソーシャルネットワーク、ブログ」および「その他」クラウド上の個人データをもとにユーザーをふるいわけるAIソフトウェアの特許を所有しているという。ソフトウェアの特許はもともと経歴チェックを専門とするスタートアップ会社Troolyが所有していたが、この会社は2017年にAirbnbに吸収された。このソフトウェアは前述の情報をもとに「神経質、犯罪歴、自己中心的、策略家、サイコパスといった特性」を評価する。そうした特性がある潜在的Airbnbユーザーは、「信用に値しない」と見なされるのだ。こうした不信用度の指標には、ヘイトスピーチ関連のサイトと関係しているとか、「詐欺師、またはペテン師として認識されている」とか、納得できるものもある。だが、他はわりと主観的だ。
人格特性でスコアが低い項目には「悪人」「神経質」のように抽象的なものもあれば、行動特性でスコアが低い項目には「麻薬またはアルコールと関与」「ネット上にネガティブな文章を書いている」といったものもある(最後の記述は、基本的にこれまでブログをやったことがある人全員に当てはまるだろう)。

風俗業界のニュースサイトX-bizがのちに報じたように、先の特許取得済みソフトウェアはユーザーが「売春」と関係していたり「ポルノに関与」しているユーザーには、低いスコアをつける。Airbnbの標的にされたというアダルト業界の人間はフラワー氏だけではない。アダルトパフォーマーのサラ・ジェイ氏は昨年ニュースサイトDaily Beastに対し、何の予告も説明もなしにいきなりアカウントが停止された、と語った。彼女が停止の理由を尋ねたところ、Airbnbの法務部は彼女が「性的サービスを宣伝している」証拠を見つけたからだと述べ、例として、彼女のサイトに誘導するリンクやパナマで運営されているエスコートサービスのサイトを挙げた(ジェイが言うには、エスコートサービスのサイトは無断で彼女の写真を転用していた)。そもそもAirbnbがどうやってジェイがセックスワーカーであることを突き止めたか、その点は記事では説明されていないが、ユーザーのデジタルフットプリントの中から無作為に「信頼できない」特徴を洗い出すソフトウェアのようなものが絡んでいる可能性はある。


Airbnbの声明

Airbnbはローリングストーン誌に宛てた声明の中で、イブニングスタンダード紙の記事で「取り上げられている特許内容の手法の使用」を否定した。「他の企業同様、弊社も検索結果のリスト表示や予約状況の自動表示など数々の特許を登録していますが、だからと言って必ずしも、それらのすべて、あるいは一部を実行しているわけではありません」と、広報担当者は言っている。だが、Airbnbが特許内容の手法、あるいはそれに似た手法を利用していない、とは言ったわけではない。フラワー氏のアクセスが禁止された理由に限定して尋ねたところ、フラワー氏の「アカウントが削除されたのは、AirbnbがTrooly、ひいては特許を取得する1年以上も前だった」とAirbnb広報担当者は答えた。もっとも、吸収を報じたSkiftの記事によると、Troolyは「2015年以降、Airbnbのユーザーの身元認証をサポート」していた。

同社が行なっているふるい分け手法に限っていえば、広報担当者いわく、Airbnbは「法規制やテロリスト、制裁リストと照らし合わせて、世界中の全てのホストとゲストをチェック」しており、「ある一定の重犯罪、性犯罪、あるいは重度の軽犯罪がないか経歴チェック」を行なっている、という。
こうした徹底的な選別プロセスは、Airbnbが性的暴行の苦情をスルーした過去や、パーティハウスで銃撃が起きて人が死んだ最近の事件を考えれば、当然あってしかるべきだ。だが彼らはフラワー氏のような女性が、単純に職業だけで利用を禁じられた理由については説明していない。将来的にアルゴリズムが、ソーシャルメディアのプロフィールといった外部情報をもとにユーザーの信頼性を判断する可能性についても触れていない。

セックスワーカーに特化したAirbnbの具体的な方針について尋ねたところ、広報担当者はこう答えた。「我々はAirbnbで扱う物件に関して一切売春は認めていませんし、このルールを実行するためのポリシーも設定しています」。さらに、それらポリシーは特許取得前に設定されたとも語った。だがポリシーの具体的な内容や、セックスワーカーの利用を判断する仕組みについては言及を拒んだ。だが2018年、Airbnbの信用リスク管理部門グローバル担当者のニック・シャピロ氏がMediumにあげた投稿に、いくらかヒントが見つかりそうだ。投稿の中でシャピロ氏は、Airbnbが反人身売買組織ポラリス社と協力し、Airbnbユーザーの「固有のデジタルフットプリント」をPolaris社のバックエンドデータと分析結果に紐づけ、「人身売買の兆候をリアルタイムで取り出す」予定だと発表した。だが、人身売買と同意の上の売春は別物だし、セックスワーカーであるからといってAirbnbを売春に利用しているわけではない。Airbnbが行っているスクリーニングが何であれ、両者をきちんと区別できるほど洗練されてはいないようだ。

アクセス禁止の理由について、フラワー氏のもとにAirbnbからの返答はない。閉め出されてから4年、もはや彼女も返事がくるとは思っていない。だが彼女にとってショックだったのは、理由もなくアクセスを禁じられたことではなく、その数カ月後にAirbnbからメールが届き、ユーザーに「偏見と闘う」旨の利用誓約書にサインするよう求められたことだ。

「彼らは私のサポートメールには返事をよこさなかったのに」と彼女は言う。「私にはスパムメールを送り付けて、自分たちは差別反対です、なんて言うんですよ」