「配信ライブは生のライブの代替品にはなり得ない」「新しいコンテンツとしてのライブショウを見せたい」「キャリアを賭ける」。事前に公開されたYouTubeの映像で並々ならぬ決意を語ったSKY-HIの配信ライブ『SKY-HI Round A Ground 2020 -RESTART-』が、7月19日に開催された。


5月の自宅ワンマン『SKY-HI自宅ワンマン』、6月の無観客ライブ『We Still In The LAB』がどちらも無料だったのに対し、初めて有料での配信ライブを行うということは、常に「物事の価値と、その対価」について意識的なSKY-HIにとって、まさに覚悟と自信の表れ。「テクノロジーによる空間アート」と予告されていた今回のライブでは、間違いなくSKY-HIにしか作り得ない、ワンアンドオンリーな空間が生まれていた。

ライブの開催がままならず、制限を設けた有観客も含む配信ライブが毎日のように行われるようになって、僕自身も「配信ライブは生のライブの代替品にはなり得ない」ことを痛感している。言うまでもなく、同じ空間を共有できない配信ライブは一方向からの発信でしかなく、「ともに作り上げる」というライブの醍醐味は生まれえない。だからこそ、生のライブとは違った価値を持った「作り込んだ」ライブが目立ち、僕が見た中で言えば、最新のAR技術を駆使してSUPER DOMMUNEで行われたフィッシュマンズのライブや、広大なスペースと大掛かりなセットで魅せた欅坂46のライブなどが印象に残っている。

この日の前日には、SKY-HIとの共演も多いJP THE WAVYがワンマンライブを配信で行い、それもARやリモートでのゲスト出演を交えたライブだった。
だからこそ、SKY-HIもまた普段とは違った「空間アート」としてのライブを選択したわけだが、そこはファン=FLYERSとの強いつながりを常に言葉と行動で示してきたSKY-HI。作り込んだライブでありながら、ファンとの一体感が確かに感じられるライブだったことは強調しておきたい。

スタート予定時刻から少し押して、オープニングでレーザーが投影された白い衣装が一瞬映し出されると、1曲目は先日公開されたばかりの新曲「Skys The Limit」。曲の前半ではSKY-HIのシルエットの周りをVJとレーザーが囲み、早速SF的なサイバー空間が展開される。また、この日はステージ前方に紗幕が下ろされ、そこにも映像が映し出されていて、「Persona」では炎が燃え上がり、「Run Ya」では画面にひびが入ったりと、様々な視覚効果で「空間アート」としてのライブを作り出していった。

もちろん、その一方では生々しいライブ感も十分で、この日はギター、ドラム、DJによるTHE SUPER FLYERSのスクワッド編成がバックを務め、「Doppelganger」や「何様」ではエモーショナルなラップとのスリリングな絡みを見せる。
ジャンルを越えて「バンド編成」のあり方が見つめ直される中での、ミニマルにしてライブ感とプログラミング双方の良さを兼ね備えたこの編成は、新たな提示になっていたと言える。

【画像】配信の枠に収まらない生々しいライブを披露したSKY-HI(写真11点)

生きることの尊さを伝えるメッセージ

ブラックライト加工が施された衣装が暗闇の中に浮かび上がった「F-3」では、コーラスパートに合わせて、「おーおーおー」というコメントがチャット上を勢いよく流れ、SKY-HIとFLYERSとの結束の強さを感じさせる。さらに、曲終わりには両腕を大きく広げて背面からフロアへダイブをし、息をつかせぬ展開が続く。

アコギが映し出され、「Limo」が始まると、いつのまにかステージ上に戻り、椅子に座ってラップをするSKY-HIの姿が。「画面の向こうとか関係ねえぞ! 騒げる準備できてるやつら、飛ぶぞー!」と呼びかけた「Tumbler」を終えると、グル―ヴィーな「Chit-Chit-Chat」や「愛ブルーム」では、ステップを踏むSKY-HIをカメラが近距離から臨場感たっぷりに捉え、額にはじんわりと汗が滲む。さらには、「スマイルドロップ」でドラムを叩きながらラップをし、「ナナイロホリデー」でギターを弾きながら歌ったりと、ミュージシャンとしての幅の広さもしっかりと見せつけていった。


続くMCでは「今エンターテインメント業界が受けてる何となくの肩身の狭さとか、迫害とかは、ちょうど俺が音楽やってて、ラップやってて、あいつアイドルなのにラップ?みたいな……そういうの長いこと受け続けてきたよ。おかげで強く育ちました。全部利子付けて返してやるぜ」と話し、「Name Tag」でラップを叩きつけると、「SS」では三味線のリフを入れたり、「As A Sugar」でオートチューンを使ったりと、ライブならではのアレンジで楽しませる。シアトリカルかつ壮大な世界観を作り出した「フリージア」では、曲中で再びカメラに向かって熱く語りかけ、「君の人生を肯定しよう。君が生きる意味も価値も、この音楽で証明しよう」と締め括る。この熱量の高さ、まさにSKY-HIの真骨頂だ。


透明スクリーンにCGで映し出された街の中で歌う「Young, Gifted and Yellow」を終え、キーボードの前に座り、友人の死について書かれた「LUCE」で切々と言葉を届けると、チャット上には「生きよう」という言葉が連なる。SKY-HIは先日引退を宣言したLogicのビートジャックによる「0570-064-556」でも自殺について言及していたが、SNSにおける誹謗中傷とメンタルヘルスの問題がここ日本でも顕在化する中、「LUCE」は改めて響く一曲だと言える。

光の粒子が雪のように舞い落ちる中で歌われた「そこにいた」から「Over The Moon」への流れはとても優しく、月明かりのようなスポットライトに照らされる中でピアノを弾き語る前半から、途中でバンドが入り、徐々に大きくなる満月の映像の下で飛び跳ねながら歌うSKY-HIは、その曲調も合わせてさながらミュージカルアクターのよう。「愛をこめて歌います」と言って届けられた「アイリスライト」に続いては、「#Homesession」の歌詞を「Stay Home」から「Stay Alive」に変えて歌い、再び生きることの尊さを伝える。

配信ライブならではの距離を超えた一体感

MCでメンバーやスタッフへの感謝を伝え、「画面の向こうにはいろんな人がいるわけでしょ? オンラインは想像力を掻き立てられるのが好きだな。東京の人、大阪の人、宮城の人もいれば、アメリカの人、ブラジルの人、いろんな人種の人、いろんな性別の人も見てると思う。
それが俺のライブで一回繋がるわけでしょ? なんか夢見ちゃうよね」と話すと、チャット上ではファンがそれぞれの今いる場所をコメントし合う。これは通常のライブでは起こり得ない、配信ライブならではの距離を超えた一体感であり、美しい光景だった。

さらに「新型コロナウイルスの感染拡大は分断と差別を加速させるのがホントに怖かった。もう一回だけ原点に戻って、自分の周りにいる人を、自分の隣にいる人を、自分と考えが違う人を、少しだけ愛する気持ちを持ってあげられたら、それが何よりだと思う。あとそれと同じくらい、もしくはそれ以上に、自分のことも愛してあげてほしい」と呼びかけた後に届けられた「Marble」もまた、ジョージ・フロイドの死に伴い、Black Lives Matterがアメリカだけではなく世界中に広がる現在において、改めて響くべき楽曲だと言える。

「韓国の友達、中国の友達、タイの友達、みんな愛してるぜ」と伝えた「I Think, I Sing, I Say」ではフリースタイルを挟んで盛り上げ、「何回でもマイナスな気持ちを抱きしめて、生まれ直せる」と話してからの「New Verse」はひざまづいて熱唱。
「声を聴かせてくれ!」と呼びかけて、「カミツレベルベット」が始まると、チャットでは「おーおーおー」のコーラスが超スピードで流れていく。この双方の熱量の高さは、同じ場所を共有しているような感覚を確かに感じさせるものだった。最後に「リインカーネーション」を届けると、この時点ですでに2時間弱が経過。配信ライブは90分くらいが多いように思うが、SKY-HIの有料配信ライブは一味違う。とことんまでやり切らないと気が済まないのだ。

アンコールを求めるコメントがこれまで以上の超スピードで流れていく中、Tシャツに着替えたSKY-HIが楽屋でコメントを読む遊び心のあるシーンを挟み、「Blanket」のイントロで再びステージに駆け出すと、ここからは余計な演出を加えず、曲を畳み掛けていく。2時間をかけて距離が縮まり、すでにSKY-HIとFLYERSは同じ空間を共有しているのだから。TikTokでもヒットした「Dont Worry Baby Be Happy」から、「Seaside Bound」、「Double Down」と定番曲を続け、ラストは「飛べー!」と呼びかけての「Snatchaway」。曲の終わりと同時に画面が暗転し、「またね」が流れる中、「ありがとう」の言葉がチャットを流れていく様子は、まるで映画のエンドロールを見ているかのようだった。