10月11日に開催された「ONE OK ROCK 2020 "Field of Wonder" at Stadium Live Streaming supported by au 5G LIVE」。この配信ライブの最中、Taka(Vo)は何度も「お前ら!」「聴こえてるか?」「歌ってくれ」と叫び、終始視線をカメラから逸らさず画面越しの人々へと語りかけ、歌い続けた。


1月の半ばにアジアツアーの延期を決定し、北米・南米、ヨーロッパ、アジアを巡る予定だった「EYE OF THE STORM」ツアーはオーストラリアを最後に一旦途切れてしまった。そのツアーで訪れた国、あるいは訪れる予定だった世界各国に向けて配信されたライブであるから、ツアー中断の無念とファンへの想いをすべて注ぎ込んで、無観客だとしても一人ひとりに歌いたい気持ちが強かっただろう。

しかし何より、このライブ一発で、これまでONE OK ROCKが歌い続け体現し続けてきたことの本質を伝え切ろうという気概が、徹頭徹尾「お前ら!」と叫び続けるアクトに直結していたのだと思う。バーチャル空間でのインタラクティヴな体験性を交えた配信ライブ、全編を壮大なMVのように構築していく映像作品としてのライブ、人物自体をアバター化して完全な仮想空間を作り出してのライブ--コロナ禍における配信ライブ、映像配信のバリエーションは一旦出切った昨今だが、そのなかにあってONE OK ROCKが選んだのは、真っ向から歌い、鳴らし、届くと信じて言葉を放ち続けるライブだった。

【画像】ONE OK ROCKにとって初オンラインライブとなった 「ONE OK ROCK 2020 "Field of Wonder" at Stadium Live Streaming supported by au 5G LIVE」(写真13点)

新曲「Wonder」を披露する直前にインサートされた英語のアナウンス。「2020年ありとあらゆるものが変わってしまった/既存のシステムは目に見える形で崩壊し始め/もう無関心に毎日を過ごすことはできない/これからは僕らの時代/ロックバンドとして ロックで世界をこの手の中に掴み取って 全く新しい時代を作っていこうと思う/さあ僕らを見ていてくれ/驚くようなワクワクする世界へと/キミを連れていくから」という言葉に続いて鳴らされたのは、バンド4人でドンと鳴らすイントロに始まりリズミカルなヴァースと大きなコーラスがシンプルにリフレインしていく、クラシックロックの現代解釈とも言えるサウンドだった。
Ryota(Ba)とToru(Gt)とともにステップを揃えながら、Tomoya(Dr)のビートに乗って4音が束になってかかってくる。シンプルであるが故に骨太なアンサンブルが際立って聴こえてくる楽曲である。

ONE OK ROCK初の配信ライブを考察、新曲「Wonder」で伝えたかった4人の信念


歌も音も何もかもが一瞬たりとも内側を向かなかった空間

たとえば直近作『EYE OF THE STORM』に至るまでONE OK ROCKが表現し続けてきたのは、ロックバンドとは従来のロックサウンドをアイデンティティにしている生命体ではなく、従来のものを食い破り続けることこそがロックバンドの矜持であるということだ。それが冒頭に記したONE OK ROCKの本質であり、同時に、ロックバンド本来のロマンとアイデンティティなのだ。線を守るためにロックがあるのではなく、線を超えるためにロックはある。価値観を守るためではなく、価値観をひっくり返すことにこそロックは宿る。
そのことに誰よりも夢を見て、実際に国境すら超えていくアクションを起こしてきたのがONE OK ROCKであり、Takaが叫び続ける「生きてくれ」「前を向いてくれ」「一歩踏み出してくれ」という言葉はそのまま、彼らが体現し続けてきたことなのだ。

目の前に観客がいなくとも、歓声や歌声が跳ね返って来ずとも、ONE OK ROCKが放ち続けたメッセージは変わらない。だからこそ彼は執拗に「お前ら!」と叫び続けたのだ。これまでの配信ライブの数多くが「自分自身との対峙」から生まれるエモーションによって高揚や快感を生んできたのに対し、このライブでは歌も音も何もかもが一瞬たりとも内側を向かなかった。それこそが、空撮やスタジアム全体を覆ったLEDよりも凄まじかった。

ONE OK ROCK初の配信ライブを考察、新曲「Wonder」で伝えたかった4人の信念


Takaの孤独と内省とプライドを叫ぶ音楽としてポストハードコア~スクリーモに共鳴していった初期があり、海外進出を果たした『35xxxv』(2015年)では音楽性・歌唱ともにより一層バリエーション豊かに変化。
さらに『Ambitions』(2017年)では、ヒップホップ、R&Bソウルが席巻するポップミュージックを(歌唱の面でもサウンドプロダクションの面でも)真っ向から食らい、それをあくまでロックバンドのダイナミズムの中で響かせた。特に『Ambitions』は、当時の世界的なロックシーンを見ても、特筆すべきポップミュージックの消化を見せた大傑作だった。

さらに『Ambitions』を作り上げるタイミングで、ポップパンク側からR&Bやヒップホップを食ってスケールを広げていったフォール・アウト・ボーイの系譜にあるFueled By Ramenに移籍したことも、ロックバンドがポップミュージックの真ん中で勝つための、そして日本や世界といった線の一切を飛び越えて行くための道を本気で切り開こうとしてきたことの表れである。その上で放った『Eye of the Storm』は、EDMやトラップ、オルタナR&Bをより一層深く消化してビートとメロディを際立たせた作品だった。本作に先んじてリリースされていた「Change」の名の通り、作品ごとの変化とスケールアップを経て「ポップミュージックをロックバンドとして食う」というよりも「ポップミュージックのど真ん中に飛び込む」という抜本的な構造変化が多分に感じられたのが『Eye of the Storm』だったのである。

ONE OK ROCKは、線を超えて行く

今さら改めて彼らの足跡を振り返ったのは何故か? 「Wonder」に窺えたロックの原点回帰と「僕らが新時代のリーダーだ」というステイトメントはつまり、ここまでの長い道のりで表してきたことを凝縮し結晶化させたものだと感じたからだ。
「ロックバンドとして」という言葉が重用された英語のアナウンスにも表れていた通り、従来の価値観も従来の距離感も従来の社会も機能しなくなった今において、あらゆる線を超えるために鳴らされてきたロックの力を改めて信じたいのだと。そして、それを本気で信じ続けて動き続けてきたのが僕らなのだと。「Wonder」、そして「Field of Wonder」と名付けられたこのライブに込められていたのはそんな想いだったのだと思う。

ONE OK ROCKは、何にも線を引かない。線を超えて行く。だからこそ執拗なほど「お前ら」に歩み寄って、ともに歌おうとするのだ。
自粛期間中にTakaが清水翔太と立ち上げた[ re: ] projectの面々--絢香、Aimer阿部真央三浦大知、KENTA(WANIMA)も顔を揃え、今やリリース当時とは異なる意味合いで聴こえてくるようになった「Change」ではダンサーチーム・プランチャイムを引き連れて巨大な人民祭のようなステージ見せ、「performed in memory of Haruma Miura」という言葉のもと宮本笑里(Violin)、GAKUSHI(Key)を迎えた「C.h.a.o.s.m.y.t.h.」では悲痛なほどの絶唱を空に放つ。どうしたって救えない人がいること、今はどうしたって縮められない距離感があることを受け入れながら、手の届く範囲の仲間と全力で前を向く。その姿を見せ続けることが何よりのメッセージになるはずだと信じる、信念の塊みたいなライブだった。

「いろんなものを失ったよね。だけどその分、俺らも皆さんも、これから新しいものを手に入れて行けると思います。どうか諦めずに。
今まで僕らが言っているメッセージとまったく同じだけど、でも少しだけ意味合いの違う『前を向いて頑張ってください』をラスト2曲にぶち込みます」

そうして放たれた「We Are」と「Wasted Nights」では、タガが外れたように叫びスレスレの歌を響かせたTaka。ZOZOマリンスタジアムの広大なピットが空撮で映し出されると、そこはカラフルな荒野に見えた。そのど真ん中で「僕らはここにいる」と歌い続ける姿は、これまでと何も変わらず道なき道を拓き続ける意志そのものに見えた。

ONE OK ROCK初の配信ライブを考察、新曲「Wonder」で伝えたかった4人の信念


「ONE OK ROCK 2020 ”Field of Wonder” at Stadium Live Streaming supported by au 5G LIVE」
2020年10月11日(日)千葉・ZOZOマリンスタジアム
01. The Beginning
02. Taking Off
03. Change
04. I was King
05. 未完成交響曲
06. キミシダイ列車
07. One Way Ticket
08. Clock Strikes
09. The Last Time
10. Start Again
11. 欲望に満ちた青年団
12. C.h.a.o.s.m.y.t.h.
13. Wherever you are
14. もう一度
15. Wonder
16. Stand Out Fit In
17. We are
18. Wasted Nights