音楽かいとが、2021年2月17日に最新EP『君は音楽で泣いた』を発表した。

リリース当時は大阪在住の高校3年生。
作詞作曲/トラックメイク/プロデュース/ミックスなど、作品の全てを一人で手掛けるダンスポップが身上のSSW、トラックメーカー。EP『君は音楽で泣いた』は、彼の高校生活最後となる作品で、彼の高校の卒業式でも流れた楽曲「春の前に」や学生時代の恋愛模様を題材にした「傘の下」など、高校生当時だからこそリアリティのある曲が収録されている。サウンド面では彼自身が常日頃から意識している海外の音・トラック作りに影響を受けた音が作り込まれている。

シンセの音色から曲の長さまで、時代性を意識し、世界を見据えた彼にインタビューを敢行。生い立ちから収録曲、音楽観まで幅広く話を訊いた。

ー音楽を始めたきっかけを教えてください。


音楽かいと(以下、かいと):最初は、中学生の頃に岡崎体育さんのドキュメンタリーを見たことがキッカケです。ドキュメンタリーの中で曲をパソコン一台で作ってると説明されていて、そんな風に作れるんだというのが衝撃で、それをきっかけに始めました。単純に音楽が好きだったし、ゲームも普段からしないので、皆がゲームをやる時間分の音楽を聴いている感じですね。音楽かいとという名前も、岡崎体育さんが石野卓球さんを超える名前として、卓球を超えるもの=体育にしたと聞いたので、ぼくはそれを超えるには音楽だと思って、なんとなく響きだけで決めたんです。

ー小さい頃から楽器を習ったり、御両親が音楽好きだったりしたんですか?

かいと:楽器を習ったことはないんですけど、両親が音楽が好きなので常に音楽が流れている環境ではありました。お父さんは中田ヤスタカさんとか角松敏生さんが好きで、お母さんは岡村靖幸さん、RADWIMPSさんなど幅広く流れていました。
そのときは気づいていなかったんですけど、今のスタイルに近い音楽を聴いていたなと思います。

ー中学生になってから音楽を始められて。最初からオリジナル曲を作ってたんですか?

かいと:最初はPCがなかったので、お母さんのスマホのアプリで作っていました。その時から何かを作るというより音を鳴らすのが楽しくてやっていたので、知らない間に曲という形まではいかないかもしれないですけど、フレーズを作ったりしてました。

ー曲を作るときはどんなアプローチをするんですか?

かいと:最近はとりあえずトラックを先に作って、良いトラックができたら歌を入れるようにしていて。とにかくトラックができたら、即興で適当に歌ってメロディを決めていることが多いですね。
それとは別に、普段から歌詞も書き溜めていて、メロディに合いそうな歌詞をもっていきます。

ー作詞はどういうものに影響されることがあるんですか?

かいと:僕が中学生のとき、星野源さんの歌詞に救われたことがあって。歌詞の書き方とかすごく参考にさせていただいていたときがあります。

ー作詞のテーマになるものって、ご自身の考えや経験したことがメインになるんですか? それともひとつの物語を作るんですか?

かいと:普段から思っていることが溜まってできる歌詞と、物語を作ろうと思って書く歌詞の両方があって。後者は物語が基本で、その中に自分の気持ちが少し入っていることが多いんですけど、気持ちをぶつける曲はそのままの気持ちを書いてます。EP『君は音楽で泣いた』だと、ちょうど半々かなという気がしていて。
全部自分の気持ちが入っている曲になったと思います。

ーEPのタイトルは『君は音楽で泣いた』ですが、前作のタイトルとも関係があるんですよね?

かいと:前作のタイトルが『僕は音楽に照らされて』だったんですけど、照らされて"、"と後ろに読点があるイメージがあったんです。それに続く一文として「君は音楽で泣いた」にしました。

ー作品全体のテーマは決まっているんですか?

かいと:自分の中では涙を題材にしようと思っていて、涙から広げて今回の題名にしました。自分でもなんでかな?と思うんですけど、作っていったら涙とか水のようなものに関係しているなと。最後の曲「春の前に」も卒業の曲なので、卒業で泣いたのと繋がるなと思って。
なんで涙にしたかと言われたら難しいんですけど、全体から涙というのが出てきました。

ーEPリリース時のツイートには「ほんの少しでも、あなたの力になれたら嬉しいです」と書いてあったのが印象的で。ご自身の作品を通して、リスナーや世間を救いたいという思いがあるんでしょうか?

かいと:皆に伝わってほしいっていう強い意志はないんですけど、僕自身が小中学校で歌詞に助けられたことが多いので、個人の中でちょっとでも響いてくれたら嬉しいという思いがあります。

ー「希望」は、歌詞の冒頭から私の心に触れないで、と周りをはねのけながら、最後には「叩く心臓 まだこの希望が 生き続けている限り 力強く叩き続けていて」と力強さを感じる曲ですね。

かいと:この曲は自分の中でもびっくりするくらいスムーズにできた曲で。メロディが最初にできた時に、同時に歌詞もできたんです。
自分の中で音楽で生きていきたいと思っていた時期があって。果たして音楽でやっていけるのかどうかが詰まっている。最初の「私の心に触れないで」というのは特に考えることもなく完成したんですけど、そこからもっと前に進んでいけるようにしたくて。"触れないで!"と縮こまっているところから、最後は前向きになるようにしました。コロナ禍でも、皆ちょっとは何かしらの希望を持っていると思うので、それが大きくなるイメージです。

ー「Love myself」を始め、今回の収録曲は自分自身に対して前向きな曲が多い作品かなと思いました。そういう心境の変化ってありましたか?

かいと:周りに、自分のことより周りに気をつかっている人たちが多いなと思っていて。気を使うのはいいことなんですけど、そういう人たちにもっと自分自身に対しても色々な考えを持ってほしい。周りのことよりまず自分のことからじゃないかな? という思いがありました。

ーかいとさん自身もそういうタイプなんですか?

かいと:僕はこれまで何回か転校を経験したんですけど、自分がどう見られているか気にしちゃうことが多くて。でも途中から気づいたんですけど、あまり周りの人はそこまで自分を見ていない。そこからまず自分がどういうメンタルを持っていったほうがいいかを考え始めたんです。そういう意識が広く出たのが今作かなと思います。

ー「春の前に」はいかがでしょう? 卒業をテーマにした曲で、他の曲に比べてボコーダーなど声のエフェクトもほとんどかかってないですね。

かいと:最初は皆で歌える合唱曲として卒業式で歌おうがテーマだったんです。実は高校が、僕が初めて入学から卒業までいた学校なので、何か残したくて。自分から先生に卒業の曲を作っていいですか? って頼みましたね。

ー先生も快諾してくれたんですか?

かいと:それが、僕が言い出したのがかなりギリギリだったので、そんなん今から変えれるか! って言われたんです(笑)。でも、そう言ってくれて嬉しいから一緒に頑張ろうって先生たちが言ってくれたんです。なんとか式までに間に合わせることができました。でも、コロナの時期なので、式で実際に歌うことができなくて。それでも皆練習してくれたので、教室を借りて事前にクラスごとに録音して、それを最後に僕がまとめて合唱にしたんです。皆からの反響はたくさんあったんですけど、あんなん(歌うの)難しいわ! って言われました(笑)。卒業式に流して聞くという形になりました。難しいと言いながら歌ってくれたので嬉しかったです。

ー高校では、同じく音楽好きな友達もいたんですか?

かいと:作曲する友達はいなかったんですけど、最初にできたのが軽音部の友達で、そこからの繋がりでできた友達は多いですね。音楽が好きなのは共通しています。高校2、3年は同じクラスで大体4人組で集まってたんですけど、皆音楽が好きでした。でも、不思議なことに、それぞれ好きなジャンルや曲が違ったりしていたので、皆で共有したりはしなかったですね。

ー他の曲は全体的にEDM的なアプローチが多い中でも、「Love myself」はちょっとR&B感もあって少しアプローチが違うのかなと思いました。

かいと:高校2年生のまだCDを出す前くらいの時期に、サカナクションの山口一郎さんと藤原ヒロシさんがやっている番組で僕を紹介していただいたことがあって。その時に、もっとR&Bに影響された曲も聴いてみたいなというコメントをいただいたんです。その時からいつかこういう曲を作りたいなと思って作って。他には、最近特にK-POPが海外に評価されている中で、日本の曲ももっと世界で聞かれてほしいと思っているんですけど、タイトルもはじめて英語の題名をつけてみました。

ー世界の中の日本の音楽の立ち位置も意識されているんですね。K-POPはよく聴きますか?

かいと:聴きます。BTSももちろん、売れてきているK-POPアーティストの曲は全部チェックするようにしています。

ーそういう世界の流行の音楽を研究していく中で、どういうアプローチがいいか考えたりするんですね。

かいと:毎回海外のチャートなんかもすごく研究するんですけど、色々な音が流行っているし、次はどの音が流行るんだと思うと余計わからなくなって。それでも日本の音楽も知ってほしいとは思っているので、海外のサウンドを取り入れるのは大事だけど、日本らしさも取り入れるように心がけています。

ー日本のミュージシャンが世界でK-POPほどの認知度を獲得するには何が足りないんでしょうね?

かいと:最近思うのは、K-POPのアーティストってアーティスト自身に魅力があるというか。日本人もあるんですけど、K-POPは曲だけじゃなくて、その人たち自身にも魅力がある。あとパフォーマンスかなと。メンバー全員でダンスするっていうのも、欧米などにはなかった形態だと思うので、様々な要因が重なっていったと思います。日本の音楽に関して、僕もずっと日本にいてこれが当たり前の基準になっているので。世界から見た時にどう映っているのか逆に気になるところですね。

ー「Love myself」、「傘の下」もそうですが、トラックの中でキックドラムのアタックが強くて際立って聞こえるなと思ったんですが、そこも意識しましたか?

かいと:この2曲は特に最初からドラムに拘って作って、ドラムだけ聴いていい音だと思ってほしかったので、そう言っていただけるのはすごく嬉しいです。トラック作りのアプローチはいつも決まってなくて。ドラムから作りたい時はドラムから作るし、コードから作りたい時はコードから作るのでバラバラです。「傘の下」はドラムの音から、こういう音を作りたいと思って作りました。この曲を作った時期は僕がちょうど高校三年生だったので、学生も終わりだなと思ったら、学生の恋愛を描きたくなって。これは物語を書くイメージで作りました。

ー4曲目「逆転」は歌詞もそうですけど、トラックの楽器も一つのフレーズを軸に音が増えたりして展開していく曲は、EDM感が強いと思いました。

かいと:トラックは海外っぽいものにしたくて。でも、そこに英語で歌詞をつけて海外らしいメロディをつけるのではなく、日本語の歌詞で日本のメロディをつけたらどうなるかなと思ったのがこの曲作りの始まりで。歌詞の内容自体はお母さんが新しいことに挑戦しようとしている時期だったので、お母さんに向けて書きました。

ーだから「もう遅いなんて 何で今から自分で決めたりしたの」という歌詞なんですね。海外っぽいトラックに日本らしいフレーズを乗せているということですが、かいとさん自身もこれから活動が広がっていく中で、どんどん海外に出て行きたいですか?

かいと:行きたいです。でも、今の状況や能力じゃまだまだ無理だと思うので、どうやったら伸びていけるのかなというのはすごく悩みどころですね。あとは、もっと英語を勉強しなあかんなと思っていて。でも僕は英語が一番苦手なんです。今になって英語の必要性が出てくるとは思ってなかったです(笑)。

ー5曲目「Tears」は、他の曲に比べると音数も少なめでアルバムの中でも一つのアクセントになってるのかなと思ったんですが、この曲についてはアプローチを?

かいと:次はサビに歌がある海外っぽいものを作りたいなと思って。どちらかというと歌詞よりサウンド中心で作った曲です。後ろのシンセの音を1番頑張って作ったなと思います。この曲のシンセは音色を参考にする曲を決めて、それに近づけるようにというのを意識してますね。

ー楽器単位で意識してるんですね。「Tears」は、特に影響受けた作品があるんですか?

かいと:マックス・シュナイダーさんっていうシンガー・ソングライターの曲のベースがすごい好きだったので、聴きまくって参考にしました。彼は最近だとBTSのSugaさんとか韓国のアーティストと一緒に曲を作っていたりしています。

ーマックス・シュナイダーもBTSなどその時期に聴かれているミュージシャンをキッカケに広げて知っていったんですか?

かいと:マックス・シュナイダーさんに関しては、たまたまYouTubeで見つけたんです。誰かから広げていくというよりは、YouTubeとかSpotify、Sound Cloudは常に聴き漁ってますね。海外の音楽について言うと、高校に進学した頃から海外のアーティストも聴くようになったんです。それまでは日本のミュージシャンばかり聴いていたんですけど、海外の曲を聴いて言葉がわからないのに好きっていうのが不思議で。それが音楽の力なのかなって思ったきっかけでした。

ー今作は全部4分以内で尺が短い曲が多いなと思いました。これも今の時代の音楽の聴き方を意識されての試みなんですか?

かいと:サブスクの時代の音楽の聴き方として、早い展開が大事かなと思って必然的に短くなっていったのと、最近自分が好んで聴いてるものが短いものが多かったので、そっちの方が聴きやすいのかなと思ったんです。僕自身も、昔からイマイチな曲だと思ったらすぐ次の曲に飛ばしていたので。やはり音楽を作っていなかったら、聴き込む前に曲を飛ばす聴き方にもなると思うので、そこをどうにかしたいと思って短くしているのもありますね。

ー今年の3月に高校を卒業されて、かいとさんは今年の4月から大学に入学されたんですよね。大学では何を専攻されているんですか?

かいと:大学では主に写真と映像を勉強しています。自分の曲に自分の映像をつけたいなと思って、将来的にはアートワークとかも自分で手掛けたいなと思ってます。それでも、音楽が軸にあるのはブレずに、音楽をもっと聴かせるために周りの部分も自分でできたらと思って勉強を始めたんです。K-POPだと、ダンスとパフォーマンス力がすごいと思うので、それとは違う武器を自分で身につけたくて。そのためにも、もっと創作にフォーカスを当てて、アートワーク面も勉強してますね。

ーやはりK-POPが世界で注目されているのは、意識されているんですね。

かいと:そうです。アジアからあんなに世界に出れるんやという衝撃があったので。

ーかいとさん自身の目標はなんでしょう?

かいと:米ビルボードの10位以内に入れたらすごく嬉しいですね。それは音楽かいととしても入りたいんですけど、将来的にはプロデュースもしてみたいので、どちらの形であれ米ビルボード10位に入ることを目指したいですね。

<リリース情報>

若きクリエイター音楽かいとが見据える、世界に日本の音楽を届ける目標


音楽かいと
EP『君は音楽で泣いた』
配信リンク:https://jvcmusic.lnk.to/Ongakukaito_KWODN 
=収録曲=
1. 希望
2. Love Myself
3. 傘の下
4. 逆転
5. Tears
6. 春の前に