indigo la endが今年2月に発表したアルバム『夜行秘密』以来となる新曲「ラブ feat.pH-1」を完成させた。

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indigo la Endの楽曲に初めてフィーチャリングとして参加したのは、韓国のH1GHR MUSICを代表する人気ラッパーpH-1。
「フュージョン」をキーワードとしたバンドのアンサンブルに乗せて、pH-1が韓英日のトリリンガルラップを披露するエポックな楽曲であり、川谷の歌との掛け合いによって、コミュニケーションの複雑さを表現したリリックも素晴らしい。今回の取材では川谷に楽曲の制作過程をじっくり語ってもらうとともに、pH-1にもメールインタビューを行い、コラボレーションの成果について聞いた。

―pH-1とのコラボレーションはどのような経緯で実現したのでしょうか?

川谷:2019年の12月に中国ツアーに行って、「海外のアーティストとコラボしたいね」みたいな話になったんです。ワーナーの人の提案でpH-1にオファーをしたら引き受けてくれて、少し時間はかかりつつ、やっと完成したっていう。今回のコラボでいろいろ知ることができました。

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―インディゴが誰かをフィーチャリングすること自体初めてですよね。


川谷:もともとインディゴでフィーチャリングをするビジョンはなかったんですけど、海外アーティストとやるのは面白いかなって。そう思ったのも、やっぱり海外でライブをしたのが大きかったですね。実際に現地に行って、自分たちの音楽を聴いてくれてる人たちに会って、それでやってみようと思えたっていうのはあります。

―最近はジェニーハイで積極的にフィーチャリングを迎えてますけど、インディゴはむしろやりたくないというか、自分たちだけで完結させたい意識もあったりしたのかなって。

川谷:というよりは、フィーチャリングする人が見つからなかったというか、それで本当に曲がよくなるのかなっていうのがあって。それこそジェニーハイの場合はちゃんとキャッチーな方向で融合するし、それを拒む人もいないんですけど、インディゴは4人で世界がしっかり作られている分、ファンの人もそこに誰かが入るのを期待していないというか、「そういうバンドじゃない」って、自分たちで勝手に思っちゃってた部分もあって。


―でも海外アーティストだったら、面白いんじゃないかと。

川谷:そうですね。pH-1は韓国語も英語もできるから、それに日本語を加えた3か国語の歌詞が入る曲は面白そうだなって。メンバー的にも、pH-1とのコラボはやりたいっていう感じがあったので。

―pH-1は韓国のヒップホップ・アーティストですが、ここ数年K-POPや韓国の音楽からの刺激は川谷さんにとって大きなものだったと言えますか?

川谷:でかかったですね。ジェニーハイの曲(「BABY LADY」)でK-POP風のフロウを入れたりもしてるし。
あと、サウンドがどんどんかっこよくなってるじゃないですか?  BLACKPINKの東洋風のメロディとかも、耳馴染みが出てきてるし、もういわゆるK-POP独自のものが出来上がってきているというか。

―独自に進化していると。

川谷:最近だとNCT 127の「Sticker」がめちゃめちゃかっこよかったですね。(オカモト)レイジくんがTwitterで「ヴォーカルの処理がヤバい」ってつぶやいてて、聴いてみたらホントにすごくて。民族楽器風の音から始まるトラックも新鮮で、ビリー・アイリッシュとかにも通ずる音数の少ないトラックの進化形っぽい感じがして。「これいいな」くらいはいっぱいいるけど、「こういうのやってみたい」とまで思う人は多くなくて、最近はそう思うのがK-POPだったりするんですよね。
ただ、今回の曲がK-POPかって言われたら、全然違うんですが。

「フュージョンってなんだっけ?」というところからスタートした。

―2020年に結成10周年を迎えて、今年2月に『夜行秘密』が出ているわけですけど、あのアルバムも作っていたのは2020年だと考えると、今回の曲が11年目の新たなスタートで、だからこそ新しいチャレンジをしたという側面もあったりするのでしょうか?

川谷:うーん……今また新しい曲をいろいろ作ってるんですけど、その中ではこの曲だけちょっと毛色が違っていて。今回はもともと別のデモを作ってたんです。ラップを入れやすいように、循環コードで、ミドルテンポの4つ打ちで、僕もループのギターフレーズを弾いて、そこにラップを入れてもらってから、またアレンジを考えようと思っていて。その方がコラボっぽいじゃないですか? でも、一回ZoomでpH-1と話したら、もともとドラマーで、日本のフュージョンが好きで、インディゴの曲だと「夜行」が好きだって言われて、「そっちか」と思って。
それでフュージョン色強めの曲に変更したので、この曲が新しいインディゴのモードを示してるのかというと、そういうわけでもないんですよね。

―なるほど。

川谷:なので、「フュージョンってなんだっけ?」というところからスタートして……結局できた曲がフュージョンなのかと言われるとそれもわからないですけど、バンドとしては特に何かを考えて作ったわけではなくて、最後の変拍子とかも、僕たち的には結構思い切りが必要だったんですよ。今のindigoのファンのみんなからは必要とされてないアレンジなんだろうなと思ってたんで……。

―ははは。でも仕上がりの完成度は流石ですけどね。
「夜行」よりもアッパーで、その中にコライトの美味しい展開がギュッと詰まってるし、グリッドミュージック的な良さもありつつ、あくまでバンドの生演奏によるグルーヴがはっきり伝わってくるし。

川谷:いつもの曲作りだと僕らだけで完結するから、途中でゴールが見えるんですけど、今回はラップを入れてもらうまで全くゴールが見えなかったんですよね。でも、ラップを入れてもらったら、自分たちでも予想してなかったかっこいい仕上がりになって、それはよかったなって。もしかすると、昔の曲作りに近いかもしれない。最近はわりとゴールが見えてる状態で作ってて、一回目のスタジオから構成ができたりしてたけど、今回は「フュージョン」というワンワードで作ってたので、誰もゴールが見えてなくて……言ってみれば、『PULSATE』くらいまでのインディゴの作り方に近かったかもしれないですね。『濡れゆく私小説』のときは考え過ぎたから、そういうのからは一回離れよう、みたいな感じもあって。

―そういうタイミングだからこそ、フィーチャリングを入れてみようと思えたのかもしれないですね。ゴールを見て作るときは、他の人が入るとずれちゃうわけで。

川谷:今回はちゃんとしたフィーチャリングにしたいと思って、普通ラッパーが入ってくるのって2番からが多いじゃないですか? でも僕ああいうのを聴くと、「まだ出てこないのかな?」と思っちゃうんですよ。ライブだったら2番から出てくる「満を持して感」もいいと思うけど、音源だと曲の雰囲気がわかった時点で飛ばしちゃったりするから、そういうのにはしたくなくて、ずっと掛け合いにしようって。それは最初から決めてました。

―まさに、この曲は川谷さんとpH-1の掛け合いが一番の魅力ですよね。そのうえで、後半の盛り上がりの部分でがっつり3か国語のラップが入るのもかっこいいし。

川谷:もともとギターソロのパートだったんですけど、ここにラップが入るのが一番かっこいいなって。そもそもチルなトラックにはしたくなくて……だから、やっぱりトレンドとかは意識していない。でも、もともと「夏夜のマジック」を作ったときも、あれは実際にカップリングだったし、何も考えずに作った曲だったので、そういうときの方がいい結果になることもあるから、どっちがいいとかは何とも言えないですけどね。

―「夏夜のマジック」は特にリズムに関してかなり遊んだ曲だったわけですもんね。

川谷:今回のリズムで言うと、最初はバンドであまり攻めない方が、ラップでリズムが作れてかっこいいかなと思ったんです。ただ、どういうラップが乗るのか全然わからなかったので、リズミカルに作っておかないと怖いというか、インディゴっぽさがなくなるかもしれないと思って、結局やり過ぎなくらいやりましたね。こういう速いテンポのラップは最近あんまりないし、それも新鮮でいいのかなって。

今までインディゴで書いてきた「ラブ」とは少し違う。

―歌詞では川谷さんとpH-1がそれぞれの筆致で「ラブ」を描いているのが面白いなと。

川谷:まずは自分の歌詞を書いて送って、それにpH-1がラップを入れて返してくれたんですけど、僕の歌詞が”古びた形のラリー 終わらない”で終わっているのに対して、pH-1はもうちょっと前向きな歌詞を書いてきて。そこで僕ももっと前向きな歌詞に変えることはできたんですけど、この曲では文化の違いによるお互いの微妙なすれ違いを表現したいと思っていたので、そのままにした方がリアルなすれ違いを表現できるから、あえて合わせずに、そのままにしたんです。

―pH-1は日本語で”愛は難しいものではないでしょう”と言ってますもんね。お互いがリスペクトをもってひとつの作品を作りつつ、でも微妙にすれ違ってもいる。

川谷:そこが面白いと思いました。一人二役ですれ違いを表現するのは難しいけど、ツインボーカルならそれがやりやすいので。タイトルに関しては、最後の最後に「ラブ」にしたんです。これしかなかったというか、これくらいシンプルな方がわかりやすいかなって。

―2021年は多くのアーティストが「ラブ/ラブソング」に向き合っている印象があって。星野源さんと米津玄師さんが同時期にラブソングを書いていたり、川谷さんが楽曲提供をしたMISIAさんの新しいアルバムのタイトルも『HELLO LOVE』だったり。コロナ禍で価値観が大きく変化する中、「ラブ/ラブソング」をもう一度捉え直そうとしているようにも見えて、だからインディゴの新曲が「ラブ」だったのも、個人的には「おっ!」と思って。

川谷:僕らはもともとラブソングばっかり書いてましたからね。でも大衆的な位置にいる人が書くラブソングと、僕が書くラブソングは全然違うというか、そもそも影響力が違うから、僕は広い視野では書いてなくて、もっと狭いんです。ホントに自分のちっちゃなことというか、誰に聴いてほしいわけでもないラブソングなんですよ。誰かに届けたいラブソングなんて一曲もないんです。でも、それを聴いてくれる人がいて、それはありがたいなっていう感覚でしかなくて。

―なるほど。

川谷:ただ今回の曲に関しては、韓国のpH-1と一緒に曲を作ったことで、いつもよりちょっと広い意味になったとは思います。だからこそ、あえて「ラブ」というタイトルにしたというか、今までインディゴで書いてきた「ラブ」とは少し違うっていう、そういうニュアンスもありますね。

―中国ツアーで海外にも目が向いたように、今回のコラボレーションはさらに視野を広げるきっかけにもなったのではないかと思いますが、バンドの展望としてはいかがですか?

川谷:pH-1と一緒に曲を作れたことはすごくよかったです。ラップもめちゃめちゃかっこいいし、こういうかっこいい曲を録音できたこと自体が嬉しいですね。それにこういうコラボレーションを一回やったことによって、もし今後海外を視野に入れたときに、前よりもやりやすくなるとは思うんです。映画の一作目はなかなか出演者が決まらないけど、二作目だと実績があるから出てくれる、みたいなのと一緒で。

―今回のコラボレーションそのものからは、どんな発見がありましたか?

川谷:これまではずっと4人で作ってきたけど、そこに他の人が入っても大丈夫というか、誰が入ってもインディゴはインディゴだなって、そう思えたのは大きかったですね。もちろん、今回の曲が作れたこと自体もバンドの歴史としては大事なことで、コロナで一回視野が狭くなってた部分もあったと思うけど、海外でも広く聴かれて欲しい気持ちは前よりも大きくなりました。あと、韓国っていう国はやっぱりすごいと思いましたね。

―それはどういう部分で?

川谷:やっぱり音楽の筋力があるというか、鍛え上げられたものがあるなって。今や韓国の音楽は世界中で聞かれているし、でも、日本のシティ・ポップもそうだったりするわけで、自分たちとしてもいずれはそういうものを生み出さないといけないという想いも強くなりました。

pH-1メールインタビュー

―indigo la Endに対する印象を教えてください。

pH-1:初めて彼らの楽曲を聴いて、その音楽性に驚きました。バンドとヴォーカルの全体的なバランスが素晴らしかったです。私は生の楽器で制作された音楽が好きなので、そういう意味では多少偏った感覚を持っているかもしれませんが、indigo la End は今よりももっと脚光を浴びて良いバンドだと思っています。いつか彼らのライブを観てみたいです。

―バンドとのミーティングでは「フュージョン」がキーワードになったそうですが、もともとどういったアーティストがお好きだったのでしょうか?

pH-1:私はいろいろなタイプの音楽を聴きます。ヒップホップ、R&B、オルタナティブ、インディなど。特に好きなのは、ジョン・メイヤー、マック・ミラー、フランク・オーシャン、アミーネ、ザ・インターネットです(正直、たくさんあり過ぎて書き切れません)。

―バンドから送られてきたトラックを聴いて、どんな印象でしたか? また、そのトラックにラップを乗せるにあたっては、どんなことを意識しましたか?

pH-1:送られてきたトラックは、私が絵音とバンドに求めていたものそのものでした。インディのヴァイブスとファンキーなフィーリングを感じるトラック。聴いたときからグルーヴしていたので、私にとってラップを乗せる作業は簡単でした。それぞれのパートがはっきり分かれているのではなく、曲の中でキャッチボールになっているところが気に入っています。私がただフィーチャリングされているだけではない、しっかりとしたコラボレーションだなと感じました。

―リリックについて、どんなことを意識して書かれましたか?

pH-1:Zoomで何度かミーティングをした際に、絵音からリリックに関するアイデアが出ました。ネットを通じたミーティングでは、多少の時差が生まれますが、それ以上に我々には言葉の壁もありました。ミーティングの際は、日本語と英語の通訳を介して会話をしていました。そんな中、最後の方のミーティング時に、絵音が「コミュニケーションは難しく、お互いの意図を間違って理解してしまうことがよくあるけれど、人はもっと愛情と理解に溢れた関係を築けるように努力するべきだ」というテーマで歌詞を書くのはどうかと提案してくれました。私もそれは素晴らしいテーマだと感じたので、英語、韓国語、日本語を自分の歌詞に取り入れました。歌詞の制作過程は決して簡単ではありませんでしたが、終わってみたら、とても貴重な経験になったと思っています。

―今回のコラボレーションを通じてどんな可能性を感じましたか? またコラボレーションの機会があれば、「今度はこんなことをやってみたい」というアイデアはありますか?

pH-1:先ほどの答えの延長になってしまいますが、ヴァースにいくつもの違う言語を入れるのは私にとって挑戦でした。今後また海外のアーティストとコラボするときには、彼らの言語や文化的ニュアンスを自分の歌詞に組み込んでみたいと思っています。きっと私にとっても、私のリスナーの方たちにとっても、新鮮なものにできると思います。

川谷絵音とpH-1が語る、indigo la Endで両者がコラボレーションした意味

pH-1

川谷絵音とpH-1が語る、indigo la Endで両者がコラボレーションした意味

「ラブ feat.pH-1」
indigo la End
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