PERSONZ
35th ANNIVERSARY SPECIAL
PERSONAL MODE ACT LOFT20190621
2019年6月21日(金)新宿ロフト
さる6月21日(金)、PERSONZが記念すべき結成35周年スタートの日に、揺籃期を過ごした新宿ロフトで凱旋ライブを敢行した。
彼らは藤田勉(ds)が加入して初めて新宿ロフトでライブを行なった1984年6月21日を結成日と定めており、結成日当日に記念ライブをやるのは意外にも今回が初めてだったという。
今回のイベント・タイトルである『PERSONAL MODE ACT』は、1984年12月14日に新宿ロフトで初めてワンマン・ライブを行なった時のタイトルであり、第一部で披露されたメンバー各自による四者四様のパーソナル・ライブは、通称〈PERSONZ祭り〉と呼ばれる『C'MON 2 NIGHT ~PERSONZ 2DAYS 3STAGE~』(1987年8月27日~28日、新宿ロフト)の深夜の3ステージ目で実演されたことがある。
結成35周年を迎えるにあたり、メジャー・デビュー前の蒼の時代を思わせる趣向を凝らすことで自分たちの原点を改めて見つめ直しつつ、小滝橋通りから歌舞伎町へと場所は変われど特別なホームグラウンドだった新宿ロフトで特別なメニューをオーディエンスと共に楽しみたいというバンドの特別な思いが窺えた。
事実、当日のライブはオーディエンスを飽きさせないエンターテイメント精神と遊び心が徹頭徹尾施されたもので、年輪を重ねたバンドならではの技量と存在感をまざまざと見せつけた〈PERSONZ祭り〉の鮮やかなアップデート版だったと言える。

4人のバンド加入の経緯を小粋に唄うオープニングから始まり、「よさこい節」にスライ&ザ・ファミリー・ストーンのエッセンスを、「木遣りくずし」にストレイ・キャッツのエッセンスを加えて聴かせるという離れわざには驚いたが、日本の伝統芸能とロックを融合させる大胆な試みは意外にも相性が良く、理屈抜きで楽しめた。この三味線ユニットに石垣愛(ex.マッド・カプセル・マーケッツ)のアコースティック・ギターを迎えて披露されたPERSONZの「MAYBE CRAZEE」も、選曲の意外さとは裏腹に楽曲のお色直しの面白さが際立っていた。
伊吹と七重がステージを去り、JILLと石垣だけで披露されたのは、川村カオリの「バタフライ~あの晴れた空の向こうへ~」。2009年3月に発表された川村の生前最後のシングル曲で、JILLも大好きな曲であり、石垣がかつて川村のサポート・メンバーだったこと、川村の命日が近かったことからセレクトされたという。川村とJILLは直接の面識はなかったそうだが(『MOVE』のレコーディング中にスタジオのトイレですれ違ったことはあったらしい)、こうして遺された歌を唄い継ぐことで故人の思いと残像は生き続けていく。信じることの尊さを巧みに唄いあげるJILLの熟達したボーカルを聴きながら、そんな歌の力を再認識した。

「ジーザスサンデー」を筆頭に披露された4曲はどれもルーディーズのレパートリーで固められ、合間のMCは当然、新宿ロフト時代の話になる。当時の新宿ロフトは敷居が高く、昼の部から昇格して夜の部のレギュラーになれたことの喜び。昇格の理由のひとつとして本田のギター・プレイが当時から優れていたこと、また当時の店長がギタリストだったので贔屓目もあったのではないかということ。そしてお互いに兄弟でバンドを今もずっとやり続けていること。
ロフト出身であることを今も誇りに感じている両者ならではのトークを挟みながら披露される楽曲は、秋村の力強い歌と本田の緩急のついた鮮やかなギターが織りなす武骨な手触りの硬派なロック。いつかルーディーズがロフトで凱旋ライブを行なう時はまたこうした本田との共演を期待したいところだ。

この日が初ライブということで多少固さも見られたが、オートモッドというカルト・バンドを出自とする渡邉がこうしたクラブ・シーンを意識したアプローチをすること自体が新鮮で、無機質なプログラミングと有機的なベースが一体化することで生まれるクールで熱いサウンドを志向していることがよく理解できたし、ポテンシャルの高さを感じさせる初陣だったのではないか。


この日MCを務めた、PERSONZと縁の深い俳優・大野哲生が藤田のユニットのネーミングに触れて「ハートビーツならぬハート“ベン”ズでどうでしょう?」と笑わせていたが、確かにこの日限りのユニットで終わらせるには惜しく、折に触れてまたハートウォーミングなライブを魅せてほしいものだ。

代表曲のひとつである「MODERN BOOGIE」の最新バージョンで幕を開け、同曲のオリジナル・バージョンで幕を閉じることでバンドの原形と最新形を対比して魅せる構成が見事で、「TIME TRAVELER」のような12インチ・シングル収録のレア曲、「IT'S TOO LATE」のようなメジャー・デビュー前の未発表曲をさり気なく挟むなど、ファン歴の長いオーディエンスほど深く堪能できる絶妙なセットリストだったと言えるだろう。
バンドの揺籃期にフォーカスを当てた特別なライブだったこともあり、『NO MORE TEARS』、『DREAMERS ONLY』、『PRECIOUS?』といったPERSONZの土台となっている作品の楽曲は披露されなかったが、それらの楽曲をやらずともオーディエンスはしゃにむに盛り上がる。それはつまりごく初期の楽曲だけでもPERSONZをPERSONZたらしめる要素が十二分にあったことの証左であり、PERSONZらしい楽曲やパフォーマンス、四者四様のキャラクター・バランスが結成当初からすでに確立されていたことを如実に物語っている。

だが、〈昔の名前で出ています〉といった佇まいがPERSONZには皆無であることをこの35周年記念ライブは教えてくれた。新旧の「MODERN BOOGIE」でバンドの進化をわかりやすく伝えるまでもなく、初期の優れたナンバーはどれも最新形のPERSONZの手によって最新鋭のグレードに更新されていたのだ。
傑出した七色の歌声を巧みに使い分けるJILLのボーカルは艶とパワフルさを増し、エフェクターを多用した本田のギターの流麗さとキレの鋭さはいま最も脂が乗っているように思えた。
オーディエンスが求める楽曲を出し惜しみすることなく堂々と披露し、その演奏力は当時より格段に進化したもので、なおかつ演奏しているのは誰一人欠けることなく当時と同じ不動の4人である──それこそがPERSONZの強みであり、これだけ長きにわたり第一線で活躍する現役のロック・バンドは日本では指折り数えるほどしか存在せず、彼らがロック・バンドのひとつの理想形であることは間違いない。

バンドという唯一無二の集合体であることに徹底してこだわり続け、バンドでなければ表現しきれない何かを今なお追い求めるPERSONZは、伝説などという窮屈な鋳型には目もくれず、この先にまた何か面白いことがあるのではないかと夢や好奇心を糧に新たなドアを開けていく。
この35年間、夢中でバンドに打ち込んできた彼らだからこそ、今もこうして音楽で人を夢中にさせることができるのだ。(text:椎名宗之 / photo:moo)

<JILL&伊吹清寿&七重>
01. 三味線 OPENING
02. 三味線 よさこいHIGHER
03. 三味線 木遣りくずし STRAYCATS
04. 三味線 MAYBE CRAZEE(with 石垣愛)
05. バタフライ~あの晴れた空の向こうへ~(JILL&石垣愛)
<本田毅&秋村惠丈>
01. ジーザスサンデー
02. ひまわり
03. リトルソウル
04. ブランニューヒストリー
<MATA-HARI(渡邉貢&岸利至)>
01. Plastic Answer
02. Black & Blue
03. Tumbling Dice
04. Silence Me
<藤田勉&SHY&hideru>
01. 明るい未来
02. 君にファンキーミュージック君とファンキータイム
03. MARRY ME(with JILL)
04. 青い月の笑う夜
<PERSONZ>
01. MODERN BOOGIE 2019
02. REMEMBER(Eyes Of Children)
03. TIME TRAVELER
04. HOLLYWOOD MOVIE STAR
05. IT'S TOO LATE
06. FREEDOM WORLD
07. LOVE IN THE DARKNESS
08. MODERN BOOGIE(Original Ver.)