最初はすべて一人でやることに重きを置いた
──4月から11月にかけて27本ものライブを敢行した『TAKESHI HONDA solo act Effectric Guitar scape10 TOUR 2019』の手応えは如何でしたか。
本田:6月15日の『scape ZERO Band style』の前と後では少し感触が変わりましたね。やっぱりバンド形態でライブをやったことは大きな節目だったと思います。
──『Effectric Guitar』をレコーディングした横浜の濱書房で千秋楽を迎えるというのは、レコ発ツアーの締めに相応しい粋な終わり方でしたね。
本田:濱書房は基本的にライブハウスでありながら、レコーディングもできるんですよね。ステージの上にドラムセットを置いて録音できるので。アルバムを録った場所だし、せっかくだから最後はそこでライブをやろうと思って。
──今回、ライブDVDとして発売される『scape ZERO Band style』ですが、ソロ・プロジェクトを始動させて3年を経て初めて披露されたバンド形態でのライブでした。それまでバンド・スタイルのライブをやらなかったのは、まずは一人でやれるだけのことをやってからにしようという考えがあったからですか。
本田:そうですね。スタートはミニマムにやりたかったので。事前にトラックの打ち込みを作って、ライブもすべて一人でやることに最初は重きを置きました。当初はオケがないことも多くて、エフェクターを鳴らしながらその場で弾く即興性の高い曲もあったんです。そんなふうに最初からバンドに頼るのではなく、すべて一人でやれることをまずはやってみたかった。それから2、3年経って、やっとバンドでやってみようかという発想が生まれました。
──ベースに佐々木謙さん、ドラムにKAZIさんを起用したのはどんな意図があったんですか。
本田:2人ともレコーディングの印象がすごく良かったんです。謙さんとはいつも一緒にライブをやることがなかったので新鮮だったし、どんなプレイをしてくれるんだろうという期待感もありました。音もすごく良いし、僕が欲しいロー感をしっかり持っていて、常に太い音のまま弾く方なんですよね。ベーシストらしいベーシストと言うか、音も佇まいも素敵だなと思って、ライブも一緒にやってみたくてお願いしました。KAZIくんも同じ理由ですね。レコーディングでも彼が一番個性的な音を鳴らしていて、安定したドラム・サウンドよりもちょっと変わった音を鳴らすドラマーと一緒にやってみたかった。それがKAZIくんを選んだ理由です。
──KAZIさんによると、頭から煙が出るほど練習に打ち込んだそうですが(笑)。
本田:彼はあまり多くを語らない男で、「変拍子とかもやれる?」と聞くと「やれます、大丈夫です!」と言うので楽勝なのかと思ったら、実はあまり変拍子をやったことがなかったみたいで(笑)。
──佐々木さんは打ち込みのシンセベースとの共存も上手くこなしていたそうですね。
本田:もともと入っている音を鳴らして、謙さんには弾かないでもらうか、もしくは違うプレイをしてもらうという選択肢があったんですが、謙さんのあの太い音は打ち込みよりも強い印象を残すんです。じゃあここは謙さんのアイディアで弾いてくださいとお願いしたら、とても面白いプレイを入れてくれたんです。それで打ち込みのベースのほうをただのアタックにするという調整をしました。
──あと、マニピュレーターの大井雅之さんも欠かせない存在でしたよね。
本田:そうですね。大井くんとはPERSONZの活動を通じて知り合ったんですけど、長い付き合いなのに今まで彼の実力をよく理解していなかったんです。今回の『scape ZERO Band style』で初めて仕事を依頼したんですが、彼がこの世界で引く手あまたなのが準備段階からよく分かりました。こっちが言わなくてもやって欲しいことをちゃんとやってくれるんですよ。たとえばこの部分はキックのローをもっと減らしたほうがいいなとか、ここの鳴らし物はすごく大事なので大きくしたいとか、僕が特にリクエストしなくてもすでにそうなっているんです。おみそれいたしました、という感じでしたね。
期待を超えることをやってくれた腕利きのメンバー
──バンド・スタイルでライブをやるなら、同期はさせつつも基本はシンプルな3ピースにしようと考えていたんですか。
本田:まず同期ありきで作った曲が多かったし、打ち込みの音を鳴らさないとその曲のイメージが再現できないので同期は必須だったんですが、『Effectric Guitar』に入れなかった曲に関しては打ち込みでも生音でもどっちでもいいと思って。生っぽい感じで打ち込みにした曲もあったし、今回のライブ・テイクのほうがオリジナルよりもいいという曲がたくさんあります。
──ライブ当日は緩急のついた選曲も素晴らしかったし、基本はバンド・スタイルだけど本田さんのソロ・パートやメンバーのソロを挟んだりするなど非常によく練られた構成でしたね。
本田:ありがとうございます。楽曲のことで言えば、自分の求めていること以上のことをメンバーはやってくれたので、それがバンドの醍醐味であり最大の魅力であることを再確認しました。自分も今までいろんな方々のサポートをしてきて、ライブではちょっとこんなことをしてみようとかいろんなトライをしてみるので、彼らの立場も分かるんです。今回、彼らに譜面を渡して、この楽曲はこんなふうにしたいと伝えると、彼らは僕の期待を超えてくることをやってくれる。それが純粋に嬉しかったし、今回のDVDでもそういう場面で僕が嬉しい表情をしているのが分かると思いますよ。
──ライブをやるまでに相当な準備が必要で大変だったとFacebookに書かれていましたが、採譜やリハーサルの面でご苦労されたということですか。
本田:いや、それは音楽以外の交渉事ですね。音楽面は至ってスムーズに進んでトラブルになることも特になかったんですが、ソロとしてバンドのライブをやるにあたっての段取り的なことは今回が初めてだったので、いろいろと大変でした。だけど終わってみればすべてがクリアで、良い経験ができたと思います。部分的にメンバーに捌けてもらって一人だけで演奏して、そこからまたメンバーに入ってもらうといった流れを自分なりに考えたり、舞台監督のように指示を出したりするのは得難い経験でした。
──当日のギターは〈P-PROJECT NA-TH-5〉をメインにしつつ、〈NA-TH-4〉と〈Kz One セミホロウ〉を曲によって使い分けていましたね。
本田:その3本でしたね。いろんなギターを取っ替え引っ替え使うのではなく、数本のギターで弾くのが昔からのスタイルなんです。
──「Pray under rays」や「ETHNIC」、「FREEZE DRIVE」や「SEQUENCE QUEEN」といったアルバム未収録曲も本作の見所の一つですね。
本田:ライブではずっとやっていて、アルバムに入れることもできたけどあえて入れなかった曲もけっこうあるんですよ。
──なかでも「GOHAN DESUYO」というパンチのあるタイトルが目を引く曲がありますが(笑)、これは花鳥風月という言葉を想起させる雅な雰囲気のメロディだからそう命名されたのでしょうか。
本田:特に何も考えず、シンプルに日本っぽい言葉がないかと思って(笑)。もともと桃屋の〈ごはんですよ!〉が好きなんですよ。あの瓶がふと目に入って、日本人はやっぱりこれだなと(笑)。エフェクターを使っていわゆる和スケールを弾いて、ディレイをすごくかけたらこんなことになるよという実験的な曲だし、タイトルも実験的でいいんじゃないかということで。
──このライブDVDを一通り見た後に改めて『Effectric Guitar』を聴くと、より理解が深まるところがあると思うんです。たとえばライブでの「Ruins of factory」は凄まじいノイズ一辺倒ですが、アルバムではもっとコンパクトかつマイルドに聴かせようとする意図があったんだな、とか。作品とライブを分けて考えて、作品はあくまで万人に楽しんでもらうべく趣向が凝らされていたと言うか。
本田:うん、その通りです。
──かと言ってライブで冗長なソロを弾くこともないですよね。そこが16小節以上のソロを要求されるのが苦手な本田さんらしさと言いますか(笑)。
本田:何と言うか、その曲でやれることが終わったなと思うとそろそろやめたくなるんですよ(笑)。たとえば「Ruins of factory」でもこんな風景やあんな風景を見せたいと思いながら、出たとこ勝負でいろんな音を出してみる。それで面白い音が出ればもう終わろうかと思うんですね。
──だからなのか、もうちょっと聴いていたいところで終わってしまう曲が多いですよね。
本田:横で白塗りの人たちが踊っているとか、視覚効果があればもうちょっと長くやれるかもしれませんけどね(笑)。
自分の好きな感じの曲が理性に勝る
──ライブ映像を見ることによってこういうギミックが施されていたんだなと分かる曲もありますね。「Ruins of factory」では一旦ギターを置いてテルミンを操るように演奏していたり、「NOISE DNB」の冒頭では自らエフェクターのツマミを調整してノイズを発していたり。
本田:「NOISE DNB」は実際のレコーディングでもああやってノイズを出したんです。そういうのをライブで見せたら面白いんじゃないかと思って。もっとスマートにやるならああいう種明かしを見せずに足で操作することもやれなくはないんですが、あれはノイズを出すだけの能力に特化したアナログなエフェクターだし、それをいじっているところを実際に見せてしまおう、そこにカメラも置いてしまおうと思ったんです。
──先日の濱書房のライブでも、ステージの後方に足元のボードを映し出しながら演奏したそうですし、何と言うか出し惜しみをされませんよね。
本田:実はこんなことをやっているんですよという種明かしは嫌いじゃないし、それで喜んでもらえるならどうぞ見ていただいて構いませんよ、というスタンスですから。
──ライブの序盤は若干硬さも見受けられましたが、中盤以降、「TECHFXX」や「FREEZE DRIVE」では跳ね回ったり、アクションを交えながらプレイしたりと本田さん自身もライブを楽しんでいるのが窺えました。
本田:ステージがあれだけ広いので、何かをしなきゃいけないという使命感もありました(笑)。それにパフォーマンスは見ている人も楽しいだろうし、なるべくやりたいと思っているんです。前半はさすがに緊張していたのか、あまり動けませんでしたけど。
──百戦錬磨の本田さんでも緊張するものなんですか。
本田:もちろん緊張はしますよ。バンドとは言えソロ名義のライブですから。それに尽きますね。失敗したらしたですべて自分の責任だし、良い意味でプレッシャーはあったでしょうね。
──アルバムでは随所で活躍していたボコーダーですが、ライブでももう一つの楽器として上手く溶け込んでいましたね。
本田:そう言われると嬉しいです。ボコーダー・エフェクターを手に入れてライブでも使うことにしたんですが、一つの要素として歌っぽい部分があるのはすごく助かるんです。ボコーダーが入ることでライブのアクセントになったり、見ている人に「ここがサビなんだな」と思ってもらえるので。それで「BLOOM」のようにボコーダーをフィーチャーした曲が増えていったんです。
──本田さんのギターはもともと歌を唄うように雄弁ですが、ボコーダーという歌モノ的要素が加味されることでポップさが増しますよね。
本田:たとえばコードや分散和音を弾いて、その中でメロディ感を出す時があるんですけど、ボコーダーを使うとそこにまた別のリズムで言葉を乗せられるんです。そうすると僕の中ではもう一つ楽器が増えたような感覚になるし、もう一つメロディを足せるんですね。それが自分の鳴らしたいメロディを強調するのに役立っている気がします。ボコーダーがなくてもメロディは聴こえてくれるとは思うけど、それをなぞったり、違う雰囲気で入れたりすることでより面白くなると言うか。
──それにしても、『Effectric Guitar』を聴いた時も感じましたが、本田さんの楽曲は実に多彩で振り幅が大きいですよね。王道のロックは元より、ノイズ、ファンク、プログレ、ニュー・ウェイヴ、エスニック、ハードロック…と、ありとあらゆる音楽的要素が各楽曲に注入されていて。
本田:もっと振り幅の大きい人はいるし、自分ではそこまでではないと思うんです。自分の作る曲はだいたいその範疇の中で収まっている気がするし、またこのパターンをやっちゃったか…と思うことも多いんです。でも好きだからいいか、って感じですね。ライブをやるたびに新曲を増やしてきて、本当はもっと練り上げてから披露したいところなんですが、結局のところ自分の好きな感じの曲が理性に勝るんです。曲作りの入口としてはちょっと違うことをやってみたいと頑張って探ってみるものの、結局サビは自分の好きな、いつもと同じような感じになってしまう。
──だけどリスナーにとっては、それこそが安定と信頼の本田印でしょうしね。
本田:そう思ってもらえると嬉しいです。自分の好きなポイントはどうしても外せませんから。
「BUG IN THE HEAD」はソロの原点であり雛型
──曲を追うごとに一体感を増していく素晴らしい3ピース・バンドだったので、できればこの形態でのライブをもう何カ所かで見たかったですけれども…。
本田:スペース・ゼロという大きい会場を押さえることができたから、そこで今やれるベストなことをやろうと思っただけで、先のことは何も考えなかったんですよ。ライブが成功するかどうかも正直その時点では分からなかったし。でもライブを終えて自分でもすごく手応えがあったし、今回のDVDの編集作業でもとても良いライブだったと再確認できたので、いつかまたバンド・スタイルのライブはやりたいです。
──アンコールの最後は「BUG IN THE HEAD」という曲でしたが、これはfringe tritoneの所属レーベルのネーミングというだけではなく、『GIGS』(1998年6月号)の付録CDに収録されていたインスト・ナンバーだそうですね。
本田:そうなんです。ZOOMというエフェクターの企画で、インストを作って欲しいという依頼が来たんです。ちゃんとしたレコーディング・スタジオで録った曲で、自分が今ソロでやっていることとほぼ一緒のことをやっていたんですよね。エフェクターを使いながらいろんなシーンを次々と変えていくような曲だったので。
──ソロ名義で発表した事実上最初の楽曲だったというわけですか。
本田:一人で打ち込みで作った曲という意味ではそうなりますね。昔から僕を応援してくれている人はこの「BUG IN THE HEAD」を本田毅のレア音源としてずっと聴いてくれていたんじゃないかと思って、バンド・スタイルでのライブでもやることにしたんです。ソロを始めて何回目かのライブでもやったことがあって、それを喜んでくれた人がけっこういたのもあって。自分としてはここぞという大事な時にだけやる曲ですね。20年以上前の曲だから本田毅の最新型ではないんだけど、感謝の気持ちを込めてやることにしています。
──ソロの原点と言うか、今の本田さんの雛型ではありますよね。
本田:そうですね。当時からヘンなことをやっていたなと思います(笑)。
──本田さんはそんなふうにファンのことをとても大事にされているし、ファンの方々も「SEQUENCE QUEEN」でタオルをガンガン振り回してライブを盛り上げようとするし、その相思相愛ぶりが微笑ましいライブでもあったように思います。
本田:「SEQUENCE QUEEN」は4つ打ちだから、最初にライブでやった時に「ディスコっぽい感じでノッてくれ!」と言ったんです。それがいつしかお客さんがタオルを振り回すようになったんですよね。最初に率先してタオルを振り回した人がいて、それを見て他の人も真似をするようになって。そういう広まり方は嬉しいですね。
──最初はお客さんもソロでどんなことをやるのか身構えて見ていたり?
本田:僕もそうだったけど、お互い緊張していましたよね。「自由にしていいよ」と言っても、先生の前で身構える生徒みたいな感じで(笑)。僕も最初はギター・クリニックみたいなイメージでやっていたのもありますけどね。でも最近は一つのショーとして楽しんでもらえるようになってきたし、そこでお客さんがどうノッてくれるかが自分ではすごく大事なんです。最初は手拍子をしてくれる人もいなかったんですよ。何せ変拍子が多いので(笑)。
──変拍子も多いし、ツアーの度に新曲も増えるし(笑)。レパートリーはまた着々と増えているんですか。
本田:バンド・スタイルのライブの後のツアーでも新しい曲をセットリストに入れて試したりして、いい感じに仕上がってきた曲もあります。2月からまた新たなツアーが始まるし、今はまた新しいことに臨む準備をしているところですね。『scape10』から『scape11』へとナンバリングが変わるのは、自分の中では一つの節目なんです。OSのバージョンが変わるように、また違ったフェーズへ進む感覚があるんです。
シンプルだけど実は奥が深い各人のプレイ
──今回のバンド・スタイルのライブは『scape ZERO Band style』で、スペース・ゼロという会場の呼称に掛けた部分もあると思いますが、自身の原点はバンドだという意味で“ZERO”にしたところもありますか。
本田:うん、そこも掛けました。バンドは自分にとってのゼロ地点ですから。
──このソロ・アクトを自分のライフワークとしてやっていくべきものだと実感したのは、“scape”で言えばどの辺りなのでしょう?
本田:『scape8』くらいかな。その辺から急にライブの本数が増えたので。それまでは数本のライブで一つの“scape”が終わっていたんですけど、『scape8』辺りからツアーを組んで10本くらいのライブをやるようになったんです。と同時に、それくらいからアルバムを作りたいと考えるようになりました。だから『Effectric Guitar』に入っているのはその時期に作った曲が多いんです。
──常に一貫してバンド活動を優先してきた本田さんが、この短期間でソロ・アルバムとソロDVDを作ることになるとは、ご自身でも意外だったのでは?
本田:やっぱり『Effectric Guitar』というアルバムを作れたことが大きいですね。それまでできなかった、盤を持って回るツアーを今回やれて、それがまた良かったんですよ。お客さんのリアクションもそれまでとは全然違って、自分でも大きな手応えがあって。自分のソロ・アルバムを聴いた上でライブを観に来てくれる人たちがいるんだというのを、この間のツアーでやっと自覚できたんです。そうなると、ライブでもっと良いパフォーマンスを見せたい、アーティストとして少しでも長くやり続けたいという発想になりますよね。ソロを始めた頃は試しにやってみるかという感じだったし、エフェクターを使ってこんな面白いことができるのを自慢したいところもあったし(笑)。そういう遊び心は今でもあるけど、こうしてアルバムを作ったことで、アルバムの世界観を求めてライブに来てくれる人たちが誇らしいと思えるパフォーマンスをやりたいと思うようになりました。
──『Effectric Guitar』の収録曲がこの先どう進化を遂げるのかも見ものですよね。たとえば「7th edges」などはバンド・スタイルのライブの時点ですでにだいぶパワーアップしていたのを個人的に感じましたが。
本田:「7th edges」もそうだし、「NOISE DNB」や、アルバムには入れなかった「FREEZE DRIVE」もそうですね。いま一人でやっているライブは、あの日のライブのイメージのままやっているところがあるんです。打ち込みのオケは揺らぎがないから、ギターであの時のライブの揺らぎをイメージとして入れています。それで前に行ったり後ろに行ったり、突っ走ったりゆっくりしたりしている。「TECHFXX」も本来はカチッとした曲だったけど、ライブならではのダイナミックスとグルーヴが生まれています。
──それだけあのバンド・スタイルでのライブが本田さんの中でも一つの基準であり指針になっていると。
本田:そうですね。シンプルなことをやっているけど実は奥が深いというところを見て欲しいです。メンバーのプレイもそうですからね。「MOROCCAN BLUE」の前にインターミッションとしてメンバーのソロを入れたのも、各自のプレイの奥深さを改めて見て欲しいからなんです。
クリーントーン=本田毅らしい音を活かす
──去年はGITANEの復活ライブもありましたし、常に複数のバンドを並行してやっているとソロ・アクトに時間を割くのが年々難しくなってきたんじゃないですか。
本田:昔はもっといろいろ被っていて大変な年もありましたが、昨年はそれぞれの大事なライブに参加できたし、特に個人的には初めてのソロ・アルバムをリリースする年だったので、できるだけ『Effectric Guitar』を多くやろうと思いました。
──簡易的な音源を出しながらライブをやる選択肢もあったと思うのですが、あえて3年の助走期間を経てからアルバムを出したのは吉と出ましたか。
本田:良かったと思います。見切り発車で事を進めるよりも、まずベースとなる楽曲たちをじっくり育てたのは良かったですね。結果的にですけど、アルバムに入れなかった曲を振り返ると一考の余地があるなとか、もう少し練れば別の曲になるかもしれないという気づきがありますし。あと、機材がどんどん変わっていくのもありますね。極端な話、その時は面白いと思っていた機材がもう古かったりすることもあるので。その一音は欲しいけどシステム的に古くて入れにくいのなら、潔くその曲はやめることにしているんです。最新型でいろいろと面白い音が出せる、なおかつバカみたいに大きくない機材が一番です(笑)。
──こうして話を伺っていると、今回のライブDVDはアルバムとの補完作用があるように思えますね。本田さんが『Effectric Guitar』というソロ・アクトで体現しようとしていることが、2作品合わせて体感するとその全貌を窺い知ることができると言うか。
本田:ああ、なるほど。画を見せながら、良い意味で種明かしをしているところもありますからね。
──教則ビデオを除けば本田さんのプレイを全面にフィーチャーした映像作品が出るのは今回が初めてなわけで、ギターを弾く人は必見ですよね。クリーンから歪み系、複雑なディレイ・サウンドまで、多彩なギター・サウンドを奏でる本田さんの音作りの秘密が垣間見られますし。
本田:たとえばピッチ・シフターやディレイ、コーラスが掛かったPERSONZの特徴的なクリーントーンの音は決して目新しいものではないけれど、それを本田毅らしさと捉えてくれている人は多いと思うんです。だからそういう音を入れてみよう、それを主軸に曲を作ってみようといつも心掛けています。クリーントーンの音を求められる以上、そのもっと煌びやかな音を入れてみようとか。『Effectric Guitar』に入れた曲の半分くらいはそういうトーンですね。それ以外は趣味的に歪ませたノイズを入れてみたり、ブライアン・メイみたいなギター・オーケストレーションだったり、キング・クリムゾンみたいなサウンドだったり好きな要素を入れましたが、自分の音の個性を活かした曲はこれからも作り続けると思います。基本にあるのは好きな音色を入れるということだと思いますけど。
──今後、自身のソロ・アクトにおいて追求していきたいのはどんなことですか。
本田:技術的にこれ以上大きな進化を遂げるとは思いませんけど、自分なりに練ったフレーズがより新しいものであればいいかなと。歌がなくてもメロディが聴こえるような音楽を作りたいし、結果的にそれはポップなものになると思うんだけど、どこかひねくれたところも欲しい。僕は天邪鬼だけど幕の内的なんですよ。いろんなジャンルの音楽が好きだから。ソロ・アーティストは全責任を負うけど、そのぶん自由なんです。またバンド・スタイルでライブをやるにも違うメンバーでやってもいいし、同じメンバーで極めてもいい。もっとセッション的な形でいろんな人たちを呼び込んでもいいし、逆にデュオで何かやってみるのもいい。せっかくソロとしてフットワーク軽くやれているので、これからもソロならではの自由さを楽しみたいですね。