夢のようなひと夏の逃避行が終わり、日常に戻った主人公は自分が生きてきた意味を知る
『燦燦-さんさん-』(2003年)で長編デビューした外山文治監督の最新作『ソワレ』。外山監督の短編映画『此の岸のこと』(2010年)を観て感銘を受けた小泉今日子と豊原功補が、外山監督と共に設立した「新世界合同会社」のプロデュースの第1回作品が、この『ソワレ』である。 人生で一度しか起こらない、あまりに強烈な夏の日々。主人公の若い男女を演じるのは村上虹郎と芋生悠。ほとんどの場面をたった2人で進んでいくのだが、この2人が素晴らしい。



物語は走り出す。タカラが父親から凄惨な暴力、性的暴行を受けている現場を見てしまう翔太。そして起きた事件。タカラの腕を掴む翔太。走り出す2人。ひと夏の逃避行が始まった。 思ったことを口に出し行動していく翔太。思いを抱え込むタカラ。翔太はタカラをグイグイ引っ張っていく。だが、ふと気づくと引っ張っているのはタカラなのだ。2人の心の機微、近づきは離れ、重なり合う。反発、共感、ケミストリー。ちょっとした表情や仕草で心の動きが伝わってくる。特にタカラを演じた芋生悠。無表情のようで瞬きだけでも何かを伝えているような、とても豊かな表情なのだ。後半、絶望の淵に立たされた後、前を見つめる、その表情の瑞々しさと凄み。