自分で書いた曲は自分で唄うもんだ!

──3人揃ってのインタビューは今回が初ですか?

満園:初めてじゃないですか?

五十嵐:やったことあったっけ?

加納:今までやってないかもしれないな。

満園:なんせ今までアマチュア・バンドだったから(笑)。

加納:52年音楽をやってきて、途中でアマチュア・バンドをやってたなんて知らなかったよ(笑)。

満園:ATOMIC POODLEはもう12年?

──結成は2007年9月だそうですが。

満園:最初は僕はいなくて、翌年加入したんです。あるとき加納さんから電話があって、「お前、俺とロックやろう!」と突然言われて。加納さんに声をかけてもらったのはもちろん嬉しいけど何のことだかさっぱり分からなくて、「エッ、どういうことですか!?」って訊いたら「細かいことはいいから!」って言われて。いや、細かいことが大事なんじゃないですか? と思いましたけど(笑)。

加納:その前にジョニー吉長と一緒にやってたJFKがレコ発で解散しちゃって、それで作ったのがATOMIC POODLEなんですよ。いきなり公太に電話して「タイコはお前に決まった!」と告げて(笑)。

五十嵐:加納さんは高校の大先輩なので、誘われたら断りようがなかったんですよ(笑)。もちろん光栄なことですしね。

──現編成になって12年を経て晴れてメジャー・デビューを果たすわけですね。

満園:これまで、僕がいない時期にミニ・アルバムを2枚(2008年5月発表の『ATOMIC POODLE』、2008年8月発表の『ATOMIC POODLE 2』)、アルバムを1枚(2013年9月発表の『弾丸ベイベー』)出しました。

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加納:庄太郎が入るくらいまでは北海道から沖縄まで全国津々浦々をだいぶまわったね。

満園:最初のミニ・アルバムのレコ発で前のベースがいなくなっちゃって、それで僕が呼ばれたんですよ。JFKがレコ発で解散して呼ばれた公太さんと同じように(笑)。

五十嵐:僕はJFKのライブを客として観に行ってたんですよ。ジョニーさんのプレイがとにかく大好きだったから、「ジョニーがやめるからお前が叩け」と加納さんに言われて最初はすごいプレッシャーだったんです。エッ、ジョニーさんの後釜が俺ですか!?って感じで。

──加納さんの中では外道とどう棲み分けをしているんですか。

加納:僕は衣装が変わると人間が変わるし、外道とそれ以外のバンドの違いとして衣装はでかいですね。着物、獅子の被り物、鳥居の三拍子が揃うと自ずとスイッチが入って外道になる。それ以外のバンドやソロはその縛りが取れて自由な感じ。音楽性も自由だし。実は外道をやってた頃からジャズやクラシックの人たちとセッションをしたり、今で言うフュージョンの先駆けみたいなことをやってたんだけど、フュージョンが世界的にブームになるちょっと前に飽きてやめちゃったんですよ。

満園:10年早かったんですね(笑)。

──外道のイメージでロックンロール一辺倒と思われがちだけど、実は音楽的には多彩であると。

加納:僕はとにかくいろんなタイプの曲を作るし、ありとあらゆるジャンルをやってきましたからね。多彩というかジャンルレスなのかな。

五十嵐:ATOMIC POODLEに関しては、最初から加納さんに「好きにやっていい」と言われたんです。みんなで曲を出し合って、JFKとは全く違うスタイルでバンドを一から作ろうと言ってもらえて。それで当時のベーシストも僕も加納さんに唄ってもらうつもりで曲を書いたら、「自分で書いた曲は自分で唄うもんだ!」って加納さんに言われたんですよ(笑)。それで全員がリードボーカルを取るスタイルになったんです。

リードボーカルが3人いるのはバンドの強み

──今の外道は加納さんのワンマンバンドっぽいところがありますけど、ATOMIC POODLEはメンバーとの関係性がイーブンのように感じますね。今回発表される『MONSTAR』も全14曲中、加納さんが作詞・作曲した曲は7曲と半分ですし。

加納:そうそう。ただね、僕は外道時代からベースやドラムにも唄わせてたんです。

──ああ、「悪魔のベイビー」とか。

加納:うん。

最初に僕がレコーディングで唄って、僕の歌を抜いてドラムに唄わせたりとかやってたんですよ。楽器をやってたら唄うべきだと当時から思ってたし、それはATOMIC POODLEでも変わらないので、公太と庄太郎にも唄ってもらうことにしてるんです。

満園:公太さんは最初のミニ・アルバムでリードボーカルの洗礼を受けて、僕は7年前に出した『弾丸ベイベー』で初めてリードボーカルを取ったんです。結構ツアーをまわったからそろそろアルバムを作ろうぜってことで僕も何曲か持っていったんですよ。加納さんが唄ってくれるものだと思って歌詞もそれとなく書いたんですけど、頑として唄わないんです(笑)。公太さんが言われたように、「作ったやつが唄うもんだ!」って。

五十嵐:それでも1曲だけ唄ってもらったけどね。

満園:そう、僕が唄ってもいまいちだし、加納さんが「こうやって唄うんだよ」ってずっと言うから「じゃあ一度唄ってみてくださいよ」とお願いしたんです。それが今回のアルバムにも入ってる「愛の花束」なんですよ。最初は駄々をこねるように唄ってくれなかったんですから(笑)。「弾丸ベイベー」も最初は「お前が唄え」って言われたし。

──「弾丸ベイベー」は満園さんと加納さんの共作で、2人でボーカルを分け合っていますよね。

満園:曲を持っていったら、加納さんがサビの部分だけ残して曲を作り直してくれたんです。歌詞も加納さんが書いてくれて。それで「サビのところはお前が唄え」って言われたんですよ。

加納:作り直したら曲としてすごく良くなったんだよね。庄太郎が書いてきた「愛の花束」はレコーディングでしか唄ったことがなくて、ライブでは一度もやったことがない。

満園:「愛の花束」は実はドラムパターンが全然違うところがあって、違う日に録ったサビを差し込んであるんですよ。テンポやキーの違う2つのバージョンをつなぎ合わせたビートルズの「Strawberry Fields Forever」みたいに。そういう面白い曲でファンのあいだでも好評なんだけど、加納さんは一回もやってくれないんです。公太さんと一緒に考えたセットリストの中に組み込んでも「身体に入らないと無理!」とか言われて(笑)。

──満園さん作詞・作曲の「ONE TWO STEP UP」も平歌のリードボーカルを分け合っていますよね。

満園:あれはKISSやビートルズみたいに3人で唄おうぜと公太さんが言ってくれたんです。

五十嵐:それでリードボーカルをかわるがわる取ることにして。

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──リードボーカルが3人いるのはATOMIC POODLEの強みと言えますよね。

加納:絶対そうなんですよ。ビートルズもメンバーは全員唄わなきゃいけないってことを教えてくれたし、ストーンズはベースとドラムが唄わないからつまらないと思ったし、全員唄えたほうが絶対に面白いんです。

──そうした加納さんの狙いが功を奏したのか、今回収録された曲は3人のソングライティングの方向性も歌の持ち味も全然違うので、結果的にバラエティに富んだアルバムとなっていますね。

加納:そうでしょ? でもその指向性は昔からなんですよ。外道の曲を聴いてもらえば分かるように、ジャンルなんてなくてめちゃくちゃなんです。エッジの効いた曲もあればブルージーな曲もあり、ハードロックもあればパンクもあり、フォークもあればポップなものもある。ロックンロールやカントリーっぽい曲もあるし、演歌まで書いたことがありますよ。それはドラムに唄わせたけど。そんなふうに僕のやる音楽はジャンルレスで、聴けば聴くほど訳が分からなくなることをやるのが自分のポリシーなんです。

──「連れてかれちまうぜ?」は1995年に発表された『疾風伝説 特攻の拓』のイメージアルバムに収録された加納秀人with外道名義の曲ですが、ATOMIC POODLE向きということでレパートリーに取り入れているんですか。

加納:僕の50周年記念ソロ・アルバム(2018年発表の『Thank You』)にも入れた曲なんだけど、ライブでやると盛り上がるし、ハモってくれていい感じにやれるのでATOMIC POODLEのライブでもずっとやってきたんですよ。

大人だって言いたいことを言おうよ

──満園さんが書く曲は端正で二の線といった感じですが、それとは対照的に五十嵐さんが書く曲は起爆剤的というか、やんちゃなタイプが多いですよね。ポップでキャッチーなメロディだけど歌詞は社会風刺にも取れるところがあって。

満園:そうですね。公太さんはどちらかといえば品行方正なタイプで紳士的に見えるのに、書く曲は毒っ気が強いというか。

加納:3人の中では僕が一番悪そうで毒っ気の強い曲を書きそうなんだけど、実際はそうじゃないんですよ。

満園:だって公太さんの書いた「残酷な現実」も「NO WAY OUT」も放送禁止のピー音が入ってますからね(笑)。

五十嵐:意図してピー音が入るような曲を書いたわけじゃないんですけどね。加納さんも歌の中で言いたいことを言うタイプだし、ATOMIC POODLEはメジャーでアルバムを出す意思もあまりなかったので、「大人だって言いたいことを言おうよ」みたいな曲を書こうとしたんです。社会的に納得のいかないことはどんどん言っていこうよ、というコンセプトはもともとあったんですよね。

──なるほど。「SUPER NICE DAYS」にも「オトナは泣いちゃいけない!? 泣き言は言わない?」という反語的な歌詞がありますしね。

加納:そんなこと言ったら、外道の最初のシングルは「にっぽん讃歌」ですからね。「馬鹿が何人集まっても 御国のためになりやしない」だから。政治家にケンカを売るみたいな曲を最初からメジャーで出してるんだから、言いたいことを言う性格はそう簡単に治りませんよ(笑)。

──加納さんのそうした諧謔精神は「不良侍」にも健在ですね。

加納:健在ですよね。今はちょっとオブラートに包みながら、それなりに大人の言い方をしてますけど。

──五十嵐さんの書いた「残酷な現実」は情報量が多いというか、1曲の中に豊富なアイディアが詰め込まれていますよね。ミッシェル・ポルナレフの「シェリーに口づけ」のオマージュ的要素あり、自主規制音あり、「なあお前 人生はそんなに辛いもんじゃあらへんで/もっと気楽にやりいや」という天の声ありで。

五十嵐:まだまだやりたいことがいっぱいあるってことですかね(笑)。

満園:公太さんが作る曲はいつもカラフルな印象がありますね。加納さんの曲はドーンとストレートに来るものが多いですけど。

加納:そうやってみんな違うのが面白いんですよ。似たようなタイプのメンバーを集めるバンドもあるけど、僕は性格も相性もバンドじゃないと絶対に合わないだろうなと思う人と一緒にやりたいんです。タイプが一緒だとすぐに飽きちゃうし、バンドをやってなければ一生会う機会もなかっただろうなという人とやるから面白い。性格も話も全然噛み合わなくていいし、一緒に音を出した瞬間に面白ければいいんです。音を出した途端に面白くなくなるバンドがいっぱいいるけど、そういうのは一番避けたいんですよ。

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──その点、ATOMIC POODLEの場合は加納さんが2人にボールを投げると予想外の返球が来ると?

加納:来ますよ。まだ若い分、返しが強烈なんです。

満園:若いかなあ?(笑) 最初は僕が30代、公太さんが40代、加納さんが50代だったけど、今や僕も50になりましたからね。こう見えて僕も世の中的にはベテランなんですけど(笑)。

加納:僕からすると、(そうる)透はいまだに子どもに見えるんだよ。あいつももう60を過ぎてるけど(笑)。最初に会ったのは透が中学生の頃で、当時と印象が変わらない。

満園:その関係性が変わらないなら僕なんて一生若手ですよ(笑)。

──今回のアルバムはバンドのこれまでの歩みを俯瞰できる“ヒストリーアルバム”なので既発曲が多いなか、「ATEUMA」という五十嵐さんによる新曲も収録されていますが、これは歌詞の内容云々よりも語感や言葉遊びに重きを置いた曲ですね。

五十嵐:最近、若手のミュージシャンの作品を聴いたり見たりすると説明が過剰だなと感じることが多いんです。一から十まで説明するように言葉を詰め込むから余白がないし、イメージさせるものが少ないというか。そういう昨今の風潮はそれはそれで良しとして、自分が若い頃に聴いていた音楽みたいにまるで意味の通じないことを歌にしてもいいんじゃないかと思って。

満園:歌詞の意味はよく分からないけど格好いい曲って昔はよくありましたよね。外道もそうだし、頭脳警察やRCサクセションとかにもそういう曲があったし。

五十嵐:そういう時代の曲へのオマージュじゃないですけど、英語っぽく聴こえる歌詞を散りばめてみたんですよ。

──「TURNED it teen not Higher」が「飛んでいきてえな」だったり、「We'll SAY THEY GUYER」が「うるせえぜ外野」だったり、空耳アワー的な面白さを狙ったというか。

五十嵐:そういうことをやってみたかったんですよ。たとえばシン・リジィとかディープ・パープルとか、ロックを聴き始めた頃の洋楽はサウンドが格好いいなと思いながら、何を唄ってるか分からなかったじゃないですか。でもなんかよく分からないけど格好いいなという感覚があったし、自分でもそういう曲を作ってみたかったんです。

曲は書くものではなく降りてくるもの

──「ATEUMA」は今年の8月にレコーディングされたそうですが、自粛期間中に作られた曲なんですか。

満園:コロナの感染拡大が広がってきた頃に作ってたのかな。年末から曲作りをしていたら、気づくと世界中が大変なことになってしまって。最初はメジャーからアルバムを出せるなんて思ってもいなかったので、ピー音が入るような曲ばかり作っていたんです(笑)。

五十嵐:たとえば「残酷な現実」で言うと、歌詞が伏せてあるのはキチ○イという言葉なんです。去年、多摩川が氾濫して溢れた河川の水を「キ○ガイ水」と書いたらその言葉はダメだと。ただそれだけですよ? そんなことに自主規制をかけるなんてしょうもないなあと思うんですけど。

満園:それでNGなら加納さんの昔の曲は全滅ですよね?(笑)

加納:僕はあるアルバムに詞を書いて発売になった後、ロフトに警察が何十人も来たことがありましたよ。日本のバンドで機動隊から検問を受けたのは外道くらいじゃないですか?(笑)

──スタジオレコーディングの曲ももちろんいいんですけど、今回収録された加納さんの音楽生活50周年&外道45周年記念ライブ(2018年6月17日、こくみん共済coopホール/スペース・ゼロ)の音源を聴くとATOMIC POODLEはライブでこそ本領を発揮することが如実に窺えますね。

加納:あのライブテイク、いいでしょ? ATOMIC POODLEはやっぱり生粋のライブバンドなんですよ。

満園:アルバムを出すことになって他に何か音源がないかと思って、スペース・ゼロの音源が残ってることを思い出して。それを僕がデータに起こしてバランスを整えたんです。2人に送ったら「いい感じだね」ということで、収録することにしたんですよ。

加納:ライブの前半の曲が残ってなかったんだよね。それが残っていればもっと違う感じにしたかったんだけど。でも個人的にも思い出深いライブなので残しておきたかったんです。

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満園:加納さんのソロ、ATOMIC POODLE、外道と3時間くらいやったライブですよね。

加納:もう大変でしたよ。リハーサルを3時間やって本番も3時間、6時間ずっと唄いっぱなしなんだから。60半ばでずっと立ちっぱなしで6時間ですよ?(笑)

満園:まあ、こうしてパッケージできて良かったじゃないですか(笑)。

──晴れて収録された5曲のライブ音源を聴いただけでもATOMIC POODLEの音楽性にどれだけ振り幅があるかが分かりますよね。ライブ映えするノリの良い「SUPER NICE DAYS」を受けて披露される「Love is just a Memory」が一転してメロディアスなバラッドだったり。

五十嵐:最初のミニ・アルバムに入ってる「SUPER NICE DAYS」は僕が書いた曲で、「Love is just a Memory」はそのアンサーソングとして加納さんが書いた曲で2枚目のミニ・アルバムに入ってるんです。メロディの雰囲気やモチーフを加納さんが合わせてくれたからメドレーになってるんですよ。

加納:「SUPER NICE DAYS」はもともと全然違う曲だったんです。タンタン、タンタタン…っていうドアーズみたいなノリの曲で、それを僕がいきなりハードロックに変えて「これで唄ってくれる?」ってお願いして。後半はガラッと変えて、「Love is just a Memory」みたいなパートを後ろに付けてギターも入れて、それを次のアルバムにつなげたんですよ。それはね、そういうふうにやれと上から指令が降りてくるんです。ツアー帰りで高速を走っていたら曲が降りてきたこともありましたから。あれは何の曲だったっけ?

満園:「君の瞳に映る世界、僕の心に映る世界」です。確か静岡辺りでしたよね。

加納:そうだ。「いま曲が降りてきてるんだよ!」と騒いでもみんな訳が分からなくて(笑)。時には3曲同時に降りてくることもあるんですよ。帰宅して1曲ずつ書き起こさないとすぐに忘れちゃうから大変なんです。今まで忘れてしまった曲がいっぱいありますよ。

満園:そういうときは加納さん、録らなきゃ。ボイスレコーダーの使い方を教えたじゃないですか。7年前に出したアルバムも「みんなで4曲ずつ作ればできるじゃん」と最初に話し合って曲作りを始めたんですけど、加納さんはちょうどその頃外道が始まりそうになったので「俺は4曲作るの無理だから」とか言い出したんですよ。曲を覚えられないと言うのでボイスレコーダーの使い方を教えて、それで何とか「ねむれない」とかいろんな曲を作ってきてくれたんです。

加納:それ以来、外道で「こんな感じで」と指示を出すときもボイスレコーダーを活用してますよ。

満園:加納さんにはひらめきで動いてほしいし、ボイスレコーダーならそのひらめきを残せるんです。譜面とペンとギターと歌、あとはひらめきで曲作りをしていただきたいので。

加納:僕は最初からずっとひらめきなんです。松本(慎二)なんて笑ってますよ、「それじゃイタコじゃないですか」って(笑)。外道のレコーディングの1週間前にマネージャーから「そろそろ曲は降りましたか?」と訊かれたときはまだ降りてこなかったんだけど、スタジオに入る3日前くらいに十何曲降りてきたんです。もう大変ですよ。そこで庄太郎に教わったボイスレコーダーが役に立つんです。

歌も楽器と同じく最強のパート

──曲作りがひらめきなら、バンドによるアレンジもひらめき重視なんですか。

加納:全部そうです。僕の場合、計算なんてないんです。パッと聴こえる、見えるものがあるんですよ。

満園:前のアルバムのときも加納さんはレコーディング当日までに「何してる」「ねむれない」「プレイブルース」「淋しすぎる夜」と一気に仕上げてきたんですよ。前日まで曲が足りなくてどうしよう? という話だったのに「できたから。2時間も寝てないけど」って譜面とボイスレコーダーを渡されて。それを僕も公太さんも2、3テイクでキメちゃったんです。曲の骨格は8割方できてるから、数回合わせればできちゃうんですよ。

加納:それはやっぱりバンドだからこそですよね。

満園:他のバンドでもいろんな曲作りに参加しましたけど、家で全部の音を打ち込んでくるケースが多いんですよ。でもATOMIC POODLEは曲の余白をある程度残して、その場で3人が「せーの!」で合わせるのがいいんです。

──ATOMIC POODLEも外道と同様、定期的なリハーサルには入らないんですか。

加納:僕は基本、やりませんね。余程のことがない限りは。

満園:さすがに2年くらいライブが空くとやりますけどね。それこそスペース・ゼロでのライブはすごく久しぶりのライブだったんですよ。外道が本調子で動いていた時期だったので。だからと言ってリハをやったわけでもないんですけど(笑)。

──リハをやらずともあれだけ熱量の高いライブをやれるものなんですね。

満園:それまで結構やってたから、覚えてることを思い出した感じですね。

加納:外道だってリハはおろかレコーディングだってぶっつけ本番ですから。「はい、これで!」って譜面を渡していきなり録っちゃう。それでイメージが膨らむようないい演奏をしてくれない人とは一緒にやりませんよ。その点、公太も庄太郎もバッチリなんです。

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──しかもATOMIC POODLEは3人しか演奏していないのにしっかりと音に厚みがあるんですよね。

満園:それはダビングで加納さんに弾いてもらったり、コーラスをかなり重視してるのもありますね。自分もちゃんとコーラスできるように仕込まれたし(笑)。

加納:無理やり唄わせてるうちにできるようになったんだな(笑)。

満園:でもね、唄えるとものすごく表現の幅が広がるし、ステージも楽しくなるんですよ。ギターとドラムとベースが最強のパートだと思うけど、歌もそれと同じく最強のパートなんです。

五十嵐:うん、最強だよね。

満園:どれだけドラムがすごくても歌が聴こえてきて初めて耳の中で成立するし、歌を除外して聴けないじゃないですか。僕は加納さんの昔の曲、たとえば「乞食のパーティー」や「ビュンビュン」とかが大好きなんだけど、ATOMIC POODLEでもそれと似た感じの曲を自分たちで作りたかったんですよ。最初の頃は曲数が足りなくて外道の曲をやらざるを得なかったので、余計にそう思いましたね。

加納:そういえば、(忌野)清志郎も「乞食のパーティー」が好きだったな。外道のトリビュート盤(2003年に発表された『外道TRIBUTE~ゲゲゲの外道讃歌~』)でもカバーしてくれてたし。

満園:加納さん、今日は外道じゃなくてATOMIC POODLEのPRをしましょうよ(笑)。

加納:ああ、そうか。話がどんどんズレちゃうからな(笑)。

満園:「乞食のパーティー」はホーンセクションが聴こえてくるような曲なんです。だからソウルやR&Bを好きだった清志郎さんが選んだのも納得なんですよ。

──ATOMIC POODLEにもホーンを入れたらまた違った面白さが出る曲がありそうですけど。

五十嵐:僕はミュージックスクールを主宰していて、そこの講師たちと一緒に庄太郎の書いた「ONE TWO STEP UP」を自粛期間中にリモートセッションしたんですよ。うちの講師を中心に総勢26人のミュージシャンに参加してもらって。

満園:錚々たる顔ぶれでしたよね。加納さんを始め、LOUDNESSの二井原実さんや野村義男さんもゲストで参加してくれて。hideさんのバンドやGLAYのサポートをやっていたことでも知られるDIEさんのシンセが入るのを聴いて、ああ、こういうのもアリだな! と思いましたよ。

五十嵐:曲の良さがすごい増したよね。そんなふうに他の楽器が入ると世界観の広がる曲がATOMIC POODLEにはあると思います。

満園:骨格で曲を作ってるし、余計なことをしてませんからね。

加納:僕は日本で一番長く3ピースのバンドをやってるし、ギターとベースとドラムでいかに音を作るかはたぶん僕が一番熟知してると思う。それも50年以上ずっとライブで闘ってきてるから、どうやったら大人数のバンドに負けないでやれるかを知り尽くしてるんですよ。

ペットのプードルが今の日本人の姿と重なった

──たとえば「I'm standing in the rain」なら情感溢れるスライドギター、「NO WAY OUT」ならスリリングなギターソロなど、本作はギタリストに徹したときの加納さんの凄みを随所で楽しめる作品でもありますよね。

加納:そう、僕はギタリストだったんですよね(笑)。でもここ3、4年かな、自分はボーカリストだったんだなと意識したんです。というのも、周りの人から「加納さんはボーカリストだよ」って言われたことがあってね。それまではどこへ行っても「『ビョンビュン』と『香り』をやってください」と言われて拗ねてた部分もあったんだけど(笑)、自分はギタリストではなくボーカリストだと意識してからは過去のイメージなんてどうでもいいや、ちゃんと普通に唄おうと思い直したんです。それまではうまく唄う必要なんてないと思ってたんですけど。

──「連れてかれちまうぜ?」の最後、テンポがスローになるところのビブラートもお世辞抜きでお上手ですしね。

加納:そういうのは昔もできたんだけど、やらないほうがいいと思ってたんです。レコーディングも歌のテイクの悪いのをあえて選んでたんですから。うまく唄うと「ちょっとうますぎですよ」なんて言われて。あり得ないでしょ? ギターもそうで、うますぎるとバックがヘタに聴こえるからってフレーズの出来の悪いのが使われてたんですよ。

──ATOMIC POODLEはどんな感じなんですか。レコーディングにおけるOKテイクの基準というのは。

満園:歌に関して言うと、僕はキャリアが浅いから一生懸命唄うんですよ。でも「一生懸命じゃつまんない!」って言われるのがオチで(笑)。「ピッチも大事だけど、絵でも音楽でも表現として面白くなきゃいけないんだ!」って加納さんにはよく言われます。その感覚はメジャーのレコード会社ではなかなか難しいものがありますね。

五十嵐:今のレコーディングは全部整理しちゃうじゃないですか。いくらでも加工してキレイにできるし。加納さんは一度しか唄わないけど、その一度きりの勢いをパッケージしたい気持ちはすごくよく分かります。

加納:僕はギターもそんなに弾かないんですよ。ギターと歌は一番新鮮なうちに録るのがいいんです。刺身だって何十回も切り直したらまずくなるでしょ? 音を録るのもやっぱり一発目じゃないと。そこが職人のなせる業なんですよ。

──加納さんが五十嵐さんのボーカルに対して注文をつけたりはしないんですか。

加納:僕は公太の歌が好きなんですよ。だけどこんなに唄えるとは思わなかった。自分とは違うタイプのボーカリストなので面白いんです。僕が一緒にやってきたタイコ、ジョニー吉長もつのだ☆ひろもみんな唄うから、公太にも唄わせようと思って。

満園:唄うドラマーって結構いますよね。アイ高野さんもそうだったし。

加納:アイ高野も友達だったし、僕の友達のタイコはみんな唄うんです。だからドラムもベースも唄ったほうがいいんだよ。ポール・マッカートニーが歌を唄わなかったらつまんないでしょ?

──ところで、アルバムの冒頭を飾る「モンスター イン マイ ハウス」は加納さんの愛犬を唄った曲ですよね。これはATOMIC POODLEというバンド名とリンクしているのかなと思ったのですが。

加納:ある日、うちにビルボっていう新しい犬がやってきたんですよ。プードルとビションフリーゼのミックスでね。それが“モンスター”だったんです。その前にチャッピーっていうプードルを飼ってたんだけど、そいつが亡くなって3、4年経った頃かな。犬が好きだから恋しくなってきて、家族がビルボを見つけてきたんですよ。家に連れて帰ってきたら、体はすごくちっちゃいのにパワーがすごくてね。家じゅうをグショグショにされて、足が速くて誰も捕まえられない。最初の3日間はとにかく強力で、こっちが倒れそうでしたよ(笑)。そこから「モンスター イン マイ ハウス」の歌詞が生まれたんです。アルバムのジャケットにあるイラストもビルボのシルエットなんですよ。

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五十嵐:ATOMIC POODLEという名前をつけたときは加納さんの飼ってたチャッピーというプードルをモチーフにしたんです。ちょっと斜に構えて社会風刺をするプードルをイメージキャラクターにして。

──ATOMIC POODLEと命名したのは五十嵐さんなんですか。

満園:加納さんですよね?

加納:名づけたのは僕です。当時飼ってたプードルを見ていて、「ああ、今の犬ってこんな感じなんだな」と思って。要するに今の若い子たち、今の日本人と一緒だなと。

──すっかり飼い慣らされて骨抜きになっているという意味ですか。

加納:長いものには巻かれっぱなしで、原子爆弾(atomic bomb)を落とされた後の日本人とまるで一緒だなと思ったんですよ。

満園:なるほど、それでATOMIC POODLEになったのか。いま初めてちゃんと知った(笑)。飼い慣らされた戦後世代。皮肉なんですね。

五十嵐:もともと社会風刺的なスタンスでいこうとしてたからね。

──今回は歌に比重を置いたポップな曲が多いので社会風刺的側面が全面に出た印象は受けないものの、バランスとしてはちょうどいい気もしますけどね。

加納:この3人がいることによって音楽的にすごく広がるんですよ。僕が書かないような曲や詞を公太と庄太郎が書いてくれるから面白いし、それが3人しかいないところを5倍、10倍とエネルギーを増す要因にもなってる。1+1+1=3じゃなく、+αがいっぱいついてくるんです。

更地に戻ってもいくらでもロックをやり続ける

──このコロナ禍をものともせず、年末は東名阪のツアーを精力的にまわりますね。

五十嵐:ライブに関しては3人でやるかやらないかの話し合いをしてきたんですけど、加納さんは「やるぞ!」としか言わなかったんです。基本的に人の話を聞かないので(笑)。

満園:「ここで進めないとしょうがないだろ!」ってね。まだ今ほど配信が盛んじゃなかった頃、ATOMIC POODLEは3月29日に二子玉川のジェミニシアターでiPhoneを使った無観客のライブ配信をやったんですよ。投げ銭の半分をライブハウスに納めることにして。まだ配信が珍しかったから、たくさんの人が観てくれたんです。

加納:そこから始めたもんね。まだこの事態が何事かよく分かってない時期に。

満園:よく分かってなかったけど、とにかくやってみようとしたんです。この3人はコロナ禍のなかATOMIC POODLE以外でもよくライブをやってるので、秋口になって「やっとライブができるね」なんて声を聞くと、こっちは3月からやってるけど? って言いたくなりますね(笑)。

加納:僕も自粛期間中にクロコダイルでお客さんを入れないで配信をやったり、7月には自粛を解禁して外道でツアーをやったり、ライブは結構やってましたよ。

五十嵐:僕もライブは多かったけど、配信がメインでしたね。

満園:今やライブハウスは抗菌対策を徹底してるから、むしろ安全な場所じゃないかと思いますけどね。東京ナンバーの車が地方で敬遠されてた時期に名古屋、大阪へ行ってた加納さんは「今ライブハウスへ行かないと潰れちゃうぞ!」「ライブをやる場所がなくなっちゃうぞ!」とよく言ってたんです。とはいえライブハウスもその気持ちは嬉しいだろうけどどう受け入れたらいいのか分からないし、みんないろいろと葛藤があったと思うんですよ。だから今回のコロナのことは誰も責められないんだけど、酒を飲みながら生のライブを楽しめる娯楽空間を根絶やしにするわけにはいかないし、先陣を切ってライブをやっていくしかないと思ったんですよ。われわれのような不良おじさんがね(笑)。

──無観客ライブは単純にやりづらくなかったですか。

満園:全然。テレビの収録みたいなものだし、音が出たら楽しかったですよね?

加納:うん。僕はその時々の状況を見て自分なりに考えて、実際に世の中で何が起こってるのかを分析した上で行動したんです。今の社会はだいぶ情報操作されてるからね。自分の出した結論としては、ライブの自粛は経済をダメにしてまでやることじゃないし、このままだと自殺する人がものすごく増えてしまうし、もう黙っていられなかったんですよ。このままミュージシャンが自粛を続けたらイベンターもPAも照明も舞台もみんな潰れちゃうし、そうなると僕らがライブをやりたくてもやれる所がなくなっちゃう。それでいいのか? と僕は言いたい。コロナで一儲けするような奴らのためにそんな状況を許していいわけがないし、命を懸けてライブを続けるべきだと僕は思う。

ATOMIC POODLE - 飼い慣らされた現代の日本人に本物のロックを捧ぐ!

──今こそ初期のATOMIC POODLEのように現代社会を風刺したり浄化する曲が必要なのかもしれませんね。

加納:その通りだし、今はただ行動あるのみですよ。ライブハウスを救う気持ちでATOMIC POODLEや外道、ソロでもライブをどんどんやっていきますけど、ライブハウスだけじゃなく、そこに関わって生きてる人たちがいっぱいいるんです。それも全国規模で言えばかなりの人数になるし、そういう人たちの生活やライブハウスの文化を見殺しにしていいのか? ってことですよ。日本で誰もロックに興味がなかった頃、まだ風も吹いてなかった頃からロックをやってきた自分としては、この状況を黙って見てられないんです。ホントは僕がロックの礎を築いた後に売れた裕福なミュージシャンが一緒に動いてくれりゃいいんだけど、なかなかそうはなりませんね。

五十嵐:「不良侍」という13年前に発表した曲がまさに今の時代を反映してるんですよね。

加納:「にっぽん讃歌」もそうだよ。今の時代そのまんまでしょ?

満園:「不良侍」の「馬鹿な政治に馴染んでも 世の中 駄目さ/テレビも新聞も みんな目を覚ませ」という中指を突き立てるような歌詞はホント今の時代を言い当ててますよね。

加納:それも自分で考えた歌詞じゃなくて、向こうから降りてくるんだよ。だから言ってることが間違いじゃない。それと同じように音も間違いじゃないのは、僕のギターやフィーリングが全部向こうからやってくるものだから。だけど行動するのは自分からですよ? ATOMIC POODLEだって今回のアルバムがあるのとないのじゃ大違いだし、行動を起こせば状況が変わるんですよ。単純に持ち曲が増えるし、自分たちの気持ちも気分もいろんなものが変わる。今みたいな八方塞がりの状況では余計に行動を起こすことが大事なんです。

満園:今は変革期だから、石橋を叩いて叩いて渡らないよりも渡ったほうがいい気がしますね。叩かれて叩かれて引っ込むような時代になっちゃったから人の目を気にしたり、何をやるにも及び腰になりがちだけど、変化を恐れない精神はあったほうがいいと思います。以前の常識が変わっちゃったわけだから。ある意味、ロックの在り方が問われる時代になったとも言えるんじゃないかな。

加納:今は何をやるにもある程度レールが敷かれていて、黙ってその上を走っていれば誰かが何かを与えてくれそうな雰囲気がありますよね。僕はレールも何もない、風が全く吹いてなかった時期にロックを始めたから、どうすればロックが世に浸透できるかいろいろと試行錯誤してきたんです。警察署の横にやぐらを組んでライブをやったり、プロレスの興行で入場曲を生演奏したりね。その結果、日本でもロックが市民権を得たし、そうやってちゃんと行動を起こしていけばいろんなことが実現するんです。これからの時代だって同じですよ。これでもし音楽の世界が壊滅的な状況になってライブができなくなったとしても、それはそれで風の吹かなかった時代のようにやり直せばいいんです。更地の状態からロックを始めた僕からすれば何も変わらないし、また更地に戻ったっていくらでもロックをやり続けるだけですからね。

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