――『黒烏龍茶』のメリットを中国の方々にも

 上海のソフトドリンク市場において、圧倒的な存在感を示しているサントリー。とくに烏龍茶カテゴリーでは、約9割のシェアを占めているという。
このサントリーが4月17日、日本で大人気の『黒烏龍茶』を上海で発売した。これまでの烏龍茶の販売経緯とこれからの戦略について、『三得利(上海)食品貿易有限公司』の福山泰広董事長兼総経理に話を聞いた。

――上海における烏龍茶市場発展の要因は?

 当社は、95年に上海の食品メーカーと合弁会社を設立、96年に工場を建設し、97年に烏龍茶とオレンジジュースをペットボトル飲料として発売しました。当時、中国では缶入り飲料が中心で、ペットボトル入りの茶飲料を発売したのはサントリーが初めて。新しいタイプの飲み物ということで、「新世代飲料」をテーマとして上海の消費者に訴えていきました。これが、当社の原点となっています。


 烏龍茶は日本では無糖しかありませんが、中国では消費者の方々の嗜好に合わせ、無糖と低糖の2種類を発売しました。とはいえ、以前から中国に砂糖入りの烏龍茶があったわけではなく、これもサントリーが初めてです。当時は中国でソフトドリンクといえばコーラやジュースがほとんどで、飲み物から甘味を摂るということもソフトドリンクを飲む目的の1つでした。そのため、発売前の市場調査の段階で、甘さを加えた方が良いという声があることも分かり、低糖の烏龍茶も販売することにしました。

 発売に際しての宣伝については、飛行船によるインパクトのあるPR方法や、テレビCMを数多く流したりと、他社がやらないことを積極的にやり続けました。その結果、上海は、中国の中で一番コンビニの店舗数が多く、また、急成長していたこともあり、コンビニを中心に販売数量を伸ばしました。


 おかげさまで、今ではコンビニ、スーパーに加え、多くの雑貨店、レストランでも烏龍茶を置いていただいており、若者からお年寄りまで皆様から飲用される商品となりました。

――上海での販売戦略の変化については?

 私は上海赴任前、アメリカの支社におりました。アメリカの食品は、シュガーフリー、オイルフリー、ファット(脂肪)フリーなど、いわゆる引き算のマーケティングが主流で、一方の中国は、砂糖入りとか、1個買うともう1個付いてくるとか、オマケに別の商品が付いてくるとか、足し算のマーケティングが主流となっています。

 それが最近では、中国でも健康への関心の高まりを受け、砂糖や油の摂り過ぎを気にする人が増えてきました。健康志向の高まりは、飲み物の種類や効能についての関心に必ず繋がっていきます。そのため、これからは中国でもアメリカ同様に、引き算のマーケティングが増えてくると思います。


 事実、以前に較べると無糖の烏龍茶の販売数量が増えています。これは、砂糖を摂り過ぎることがないというだけではなく、無糖なら茶葉本来のおいしさが楽しめるということを上海の方々にもご理解いただけるようになったからだと思います。

 現在、多くの飲料メーカーが烏龍茶を含む非炭酸飲料カテゴリーに進出しています。緑茶や紅茶など、各社それぞれが自分たちの強いカテゴリーを作り、そこでブランドを立ち上げています。

 今後は、他社が作り上げた人気のあるカテゴリーに飛び込んでいくか、または、自社のブランドにさらに付加価値をつけていくか、その2つの戦略が考えられると思います。当社は、烏龍茶に付加価値を付けていく方向を目指し、黒烏龍茶の発売を行なうこととしました。


――『黒烏龍茶』の上海発売の経緯は?

 06年5月に、当社は日本の厚生労働省から「特保(特定保健用食品)」として認可された『黒烏龍茶』を発売しました。独自の製法によって強化されたウーロン茶重合ポリフェノールの働きにより、食事と一緒に黒烏龍茶を飲むと、その食事の脂肪吸収を抑制し、食後の中性脂肪の上昇を20%抑えるという効能が評判を呼び、大きな成功を収めています。烏龍茶のこの新しい価値を中国の消費者の方々にもご提案したいという想いが、上海での黒烏龍茶の発売につながりました。

 日本で成功したからということもありますが、先ほども申し上げた通り、上海では健康ブームとなっています。健康に関する雑誌やジムに通う人が増えるなど、食べ物や飲み物、身体、メンタルに至るまで、健康に関して総合的に関心が高まっています。

 中国の料理は油っこい物が多いですが、油分もおいしさの1つの要素であり、全く食べないわけにもいきません。
そこで、油っこい料理でも安心してたくさん食べていただくために、料理の脇には黒烏龍茶。こんな新しい食事の楽しみ方を上海の方々にご提案していきたいと考えております。

 食べ物と飲み物の相性というのは非常に重要ですが、この黒烏龍茶は中華料理にはもちろん、日本料理にも合います。

 発売後のPR展開としては、この黒烏龍茶の効果・効能を上海の消費者の方々に知っていただくことと、まず実際に飲んでいただくことから始めます。そのために、体内での脂肪吸収を抑える効果を媒体を通じてアピールし、イベントを開催して多くの方々に実際に飲んでいただきます。

 発売後のPR展開としては、黒烏龍茶の効果・効能を消費者の方々に知っていただくことと実際に飲んでいただくことから始める予定です。
そのために、体内での脂肪吸収を抑える効果を媒体を通じ訴求し、また、イベントを通じて、多くの方々に黒烏龍茶を実際に飲んでいただきたいと考えています。まずは、スーパーやコンビニを中心に販売を行なっていきます。

 ただ、黒烏龍茶は、食事との結びつきが強い飲料ですので、レストランに置いていただくためのご提案も積極的にしていきたいと考えています。

――これからの御社の事業展開は?

 我々は、安全で美味しいものを提供していくことを基本方針としています。昨年から食の安全が叫ばれ、健康に加え安全に対する関心も高まてきました。当社は商品の安全について、浦東地区に設立した品質保証センターにて、最新鋭の分析装置を用い、烏龍茶葉の残留農薬等の品質管理を行なっています。

 皆様に安心して飲用いただける商品を提供していくことは我々の使命であり、決して妥協してはいけないことだと考えています。その上で、短期的には『烏龍茶』『黒烏龍茶』を中心に、烏龍茶カテゴリーそのものを活性化させ、上海を中心に事業基盤をしっかりと確立させていきたい。そして、中長期的には、上海エリア以外への展開も図っていきたいと考えています。

 中国で開発したミルク飲料の『利趣(リッチ)』は、販売を開始して1年になりますが、お陰さまで、ミルク飲料全体の売り上げ以上の伸びを記録し、上海で売り上げナンバーワンのミルク飲料となっています。この利趣や黒烏龍茶、烏龍茶を上海以外のエリアにも展開していくということが中長期的な目標です。(情報提供:China Concierge)

福山泰広(ふくやま やすひろ)
三得利(上海)食品貿易有限公司 董事長兼総経理
1955年鹿児島市生まれ。慶應義塾大学卒業後、78年サントリー入社。人事部の後、ニューヨーク、アトランタでマーケティングとM&Aを担当。帰国後、ハーゲンダッツジャパン、経営企画本部を経て、再び01年よりニューヨークでM&Aを担当。05年秋より上海にて中国・台湾の飲料事業総責任者。

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