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大谷のエンゼルスでかぶとパフォーマンスが定着したように、レッドソックスでは吉田の代名詞であるマッチョダンベルがベンチをにぎわせている

オリックスの看板打者だったマッチョマンは、ボストンでもあっという間にチームの中心に。その適応力、存在感のスゴさを現地からお届け!

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■〝ゴロキング〟にならなかった理由

「数字は最終的なところでしか......。もちろん、そこ(シーズン終了時)まで変動もあると思うので」

現地時間(以下同)7月22日、メッツ戦で3安打を放ったボストン・レッドソックスの吉田正尚の打率は、試合終了時点で.319。

ヤンディ・ディアス(レイズ)、大谷翔平(エンゼルス)ら強打者たちを上回り、MLB1年目でア・リーグのトップに立った。

それでも本人は平然としていたが、2001、04年のイチロー(当時マリナーズ)以来の日本人首位打者誕生へ、いやが上にも期待は高まっている。

この日はサイ・ヤング賞3度、通算209勝の大投手マックス・シャーザーのボールもきれいにとらえた。第1打席ではフォーシームを左前打、第2打席はチェンジアップをピッチャー強襲。どんな球種を投げられても反応し、引きつけた上で逆らわずにはじき返す。ここまで、そんな質の高い打撃をキープしてきた。

「MLBを代表する投手から1打席目でヒットが出た。2打席目もチェンジアップだったんですけど、うまくヘッドが残って、飛んだコースがよかったかな。初見なのでポイントを前に出すとやられてしまう確率が高いから、『なるべく(ボールを)長く見るように』とは思っています」

試合後の吉田は、その日の打撃のポイントを丁寧に説明してくれる。そこでの言葉を聞けば、ここまでの好調は単なる幸運や勢いではなく、しっかりとした裏づけがあることが伝わってくる。

もちろん、吉田にも厳しい時期はあった。特に4月11日のレイズ戦からは4試合連続無安打で、打率は一時、.167まで降下。

その頃は高めの速球の〝上っ面〟を叩いての内野ゴロが目立った。

元ニューヨーク・ヤンキースの松井秀喜が、MLB1年目に〝ゴロキング〟という不名誉なニックネームをつけられたことを思い出した野球ファンも多かっただろう。

しかし吉田は、そこで打撃コーチのアドバイスを聞き入れ、スタンスやバットの位置を修正することで上昇気流に乗る。適応能力、コーチの言葉に耳を傾ける柔軟性、変化を恐れない姿勢を証明してみせた。

大谷の陰に隠れていなければ今頃は日本も"マッチョマンフィーバー"!? 今こそ吉田正尚の話をしよう!!
強打者の指標であるOPS(出塁率+長打率)は現時点でイチローのMLB1年目を上回る。なお吉田が打率トップに立った、レッドソックスのシーズン99試合目終了時点での成績をフルシーズン=162試合に換算したのが2列目の数字

強打者の指標であるOPS(出塁率+長打率)は現時点でイチローのMLB1年目を上回る。なお吉田が打率トップに立った、レッドソックスのシーズン99試合目終了時点での成績をフルシーズン=162試合に換算したのが2列目の数字

以降、コンスタントにヒットを重ねてきた30歳の〝ヒッティングマシン〟の活躍ぶりは、オールスターに選ばれなかったのが不思議なほど。

辣腕(らつわん)で知られる吉田の代理人、スコット・ボラス氏も次のように語る。

「吉田は間違いなくオールスターレベルの成績を残してきた。ただ、メジャーで3、4ヵ月プレーしただけで、ファンにまだなじみのない1年目の選手がオールスターチームに入るのは難しかったのだろう。それでも彼は、すでに大規模マーケットのチームにおけるスター級の選手、という信頼を勝ち取ったと思う」

■〝マッチョ〟がチーム内に浸透

オールスターへの出場は果たせずとも、吉田への注目度は確実に上がっている。

6月中旬、ニューヨークで行なわれたヤンキースとの3連戦の際には、ESPN、FOXといった米テレビ局が重点的に吉田を紹介した。

全米にファンを持つレッドソックスに所属していることもあるが、今春、アメリカの球界関係者も注目したワールド・ベースボール・クラシックWBC)で活躍したことも、知名度アップという点で大きな意味があったのだろう。

今季のレッドソックスにはスーパースターと呼べるレベルの選手が少なく、全国区といえるのは、投手陣ではクリス・セールとケンリー・ジャンセン、野手陣ではラファエル・ディバースくらい。そんな背景もあって、MLB1年目から実力を発揮してきた吉田に大きな関心が集まっているのだ。

そんな喧騒(けんそう)の中でも、吉田はレッドソックスのクラブハウスで快適そうに日々を過ごしている。ボストン・グローブ紙のアレックス・スピアーズ記者は「吉田はチームメイトから愛されているよ」と語るが、物静かで黙々とプレーし、確実に結果を残す背番号7が好かれているのは当然のことだと思える。

打線の中軸として活躍を続けるのと同時に、オリックス時代に吉田の公式グッズだった〝マッチョダンベル〟もチーム内にすっかり浸透している。誰かが本塁打を放つと、ビニール製のダンベルを〝ドヤ顔〟で振り回すのが恒例になった。

吉田自身も、

「他チームはかぶり物(のパフォーマンス)をやっているから、(新鮮で)いいのかも」

と、照れながらもまんざらではない様子。また、ヒットを打った選手が塁上で力こぶをつくる〝マッチョポーズ〟も、「チームで決めたセレブレーションみたいです」と定着しているようだ。

シーズン開幕前から吉田のキャッチボール相手だった外野手のアダム・デュバルは、

「吉田の存在はこのチームにとって、さまざまな意味で大きい」

と話していたが、実際に今のレッドソックスは吉田を中心に動いている印象すらある。

最終的に首位打者になろうがなるまいが、吉田がMLBで素晴らしい1年目を過ごしていることは間違いない。それに呼応するように、開幕前は苦戦が予想されたレッドソックスも貯金7(7月25日時点)と大健闘。ワイルドカードの最終枠ラインまで2ゲーム差と射程内につけており、夏場以降の戦いぶりが楽しみになってきた。

振り返れば吉田は昨年の秋、オリックスの一員として日本一になり、今春のWBCも主力打者として制し、〝勝利の使者〟ぶりを発揮してきた。それに加え、前評判の低かったレッドソックスをもプレーオフに導き、そこで勝ち進むようなことがあれば......。

「今年(MLBに)行くって決めた時点で、『日米の両方で世界一』というところを大きな目標としていました。その一員になれたらいいな、というのは前から言っていたことです」

私たちも、大谷の話題ばかりに集中すべきではないのかもしれない。〝二刀流〟の活躍の陰に隠れる形になっているかもしれないが、吉田も見事な活躍を続けている。その豊かなメジャーリーグでのキャリアはまだ始まったばかりだ。

取材・文/杉浦大介 写真/時事通信社