5兆円をバラまいても、8割は貯蓄に回る!? 岸田「所得税減税...の画像はこちら >>

10月7日に税収の還元案を発表して以来、異例のスピード感で実現に向かっている。岸田首相の掲げる成果は果たして見込めるのか?

選挙対策」「高齢者へのバラマキ」などの批判も噴出する中、所得税減税が実現に向けて本格的に動き出した。

多額の財政赤字を抱える中、5兆円もの予算を投じて得られるリターンは果たしてどのくらいなの? 経済学者にフラットな目線で答えてもらった!

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■独身者には効果が薄い

岸田首相肝いりの所得税減税・給付金の全貌が、今月に入って明らかになってきた。

まず、所得税や住民税の納税者やその扶養家族にはひとり当たり4万円の定額減税が行なわれ、所得制限はない。所得税と住民税の納税額が4万円に満たない人にも、一定額の給付が行なわれる見込みだ。

これに加えて、住民税非課税世帯への7万円給付がある。減税は来年6月以降を予定しており、給付は年内に行なうよう手続きを急いでいるところだ。

ところがこの政策が猛批判を浴びている。1回限り4万円、実施は来年というグズグズさもさることながら、岸田首相が突如ぶち上げたことから、「増税イメージの払拭のため」「バラマキによる人気取り」との見方も根強いのだ。

減税・給付の総額は5兆円超と、2日に閣議決定された一連の経済対策予算の3割弱を占める。そうした支出は主に国債や将来的な増税によって賄われるのだから、最終的には現役世代や将来世代にも跳ね返ってくる。「もらえるだけマシ」というわけにはいかない。

そこで、投じた予算に対して減税・給付は割に合っているのか、そのコスパを検証する!

岸田首相は、減税・給付の狙いを主に「物価高の生活支援」と「デフレ脱却」だと説明している。そこで、まずは生活支援にどれだけ寄与するか考えたい。

手始めに、昨今の物価高で支出がいくら増えたか確認しよう。

国税庁の「令和3年分 民間給与実態統計調査結果」によると、サラリーマン全体の平均給与は約443万円。所得税・住民税や社会保険料を差し引いた手取りでは約350万円となる。ここから約2割を貯蓄に回すとして、年間280万円で生活していると仮定する。

そして、物価の上昇率を表す消費者物価指数を見ると、2020年から今年9月までで物価は6.2%も上昇していた。280万円にこれをかけると、3年弱で年間の生活費が約17万円上がっていることになる。

夫婦共働きで子供ふたりの子育て家庭なら、合計16万円の減税になる。

物価上昇分の全額とまではいかないが、そこそこ足しになる金額だ。

一方、単身世帯の場合、17万円の生活費上昇のうち4万円しか補助が得られない。結局のところ、低所得者と子育て世帯にとってはまあまあのコスパだが、それ以外の人は割を食うということだ。

と、若干不平等な部分はあるものの、駒澤大学経済学部准教授の江口允崇氏は「評価できる面もある」と言う。

「前提として、約40年ぶりの物価上昇を受け、驚きと不安の強い国民を放っておくわけにはいきません。何かしら対策を打たないわけにはいかない時期ではあります。

好景気による物価上昇となれば景気の引き締めで対処するのが基本ですが、今起こっているのはコスト上昇によるインフレ。そのため経済引き締めに走れば、物価が下がる一方で景気はより悪化します。

そこで、特に負担感の強い低所得者と子育て家庭に手厚く、1回きりの支援を行なうことにしたわけです。その方向性は間違っていないと思います」

SNSやメディアを見ると、物価高はいつまで続くかわからないのに、1回きりの補助であることに対する批判が強い。複数回の給付や消費税減税のほうが効果的では?

「ここで浮上するのが、コスト面の問題です。というのも、日本は現在1000兆円以上の借金(普通国債の発行残高)があります。

財政規律に配慮して、1回限りとせざるをえなかったのでしょう。

ただでさえ円安が進んでいる今、あまりに野放図な財政出動をするとさらなる下落を招き、いっそう物価高を助長する恐れもありますからね」

■5兆円給付の経済効果は?

ただ、「パフォーマンス」の視点はもうひとつある。それが、減税・給付が生み出す経済効果だ。一般に、政府が給付を行なえば景気が上向いたり、あるいは賃金上昇につながる可能性がある。では今回の政策は、日本経済にどれくらいのインパクトをもたらすのか?

「増えた所得のうち、貯蓄されず消費に使われる割合を『限界消費性向』といいます。例えば、万馬券を取ったからパッと使おう!という人は限界消費性向が高く、貯金しておこうと考える人は低くなります。

国によって違いはありますが、複数の調査の結果、日本の限界消費性向は平均すると0.2、つまり増えた所得のうち2割しか使われないようです」

米国の限界消費性向は0.25と、海外と比べても日本はやや低め。長年のデフレ不景気に慣れてしまい、貯蓄傾向が大きくなってしまったのかもしれない。

「もちろん、使われる2割のお金は別の誰かの収入になり、また使われて別の誰かの......と波及効果が生まれます。ただ、限界消費性向が2割しかないことを踏まえると、政府支出の効果はそこまで大きくないでしょう」

詳細な計算は省くが、限界消費性向が0.2だと仮定すると、政府支出がGDPを増やす効果は、支出額の1.25倍程度となるという。今回の5兆円減税・給付の場合は、GDPが6.25兆円増加するという試算が成り立つわけだ。

リターンが+25%も出るなら、悪くない気もするが......?

「とはいえ、この試算はかなり単純化したもので、実際には海外経済からの影響など、考慮すべき要因はいくつもありますから、より低くなる可能性も十分あります。残念ながら政府がお金を配れば天井知らずで景気が良くなるわけではないのです」

また、サラリーマンだと税金は給与から天引きされるので、減税は現金給付ほどの実感がない可能性がある。とすると、2割が消費に回るという前提すら楽観的すぎる可能性もありそうだ。

結論! 「やらないほうがマシ」とまでは言わないが、その中身については拙速の感が否めず、岸田首相が強調するような効果は見込めなさそう。その場の思いつきで政策を決められても、最終的にツケを払うのは国民だ。

取材・文/日野秀規 写真/共同通信社