包丁を並べられ脅しも...「経営者は堂々と『カス客』を切るべ...の画像はこちら >>

近年問題になっている「カスハラ」から従業員を守るには、「お客様は神様」一辺倒からの脱却が必要
あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。
得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「カスハラ」について。

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「カスハラっていうのは、つまりカス野郎のハラスメントですよ」。

先日、テレビ番組の出演前の打ち合わせで、カスハラについてどう思うか訊(き)かれたのでそう答えた。「面白すぎるので、いわないでください」とやんわりと止められた。もちろん本当の言葉はカスタマーハラスメント。

しかし、おそらくカス野郎たちが不満をぶつける状態には違いない。

お客が店員に暴言を吐く機会は増えているのだろうか。統計はさまざまあるが、何がカスハラかという定義が時代により不透明であるため、あくまで肌感覚で述べる。

おそらく二つの理由からカスハラの発覚が増えている。一つ目はお客からのハラスメントに対して声を上げやすい時代になったこと。二つ目は、時代が経済的に厳しくなれば他者にあたる人が増えることだ。

考えてみれば経済・精神的にハッピーならば他者を責める必要はある?

私が思い出すのは、サウスウエスト航空の創業者であるハーブ・ケレハー氏の卓見だ。企業のサービスを一から見直した経営哲学者として知られ、お客様は神様ではなく、間違っている場合もあるという当然の事実を指摘した。そして、上司は不条理なお客から部下を守れと伝えた。

短期的な売上は失ったとしても、中長期的には従業員の定着や労使交渉を考えれば、むしろ非礼なお客を切ったほうがいい。実際にケレハー氏が指揮した当時のサウスウエスト航空では、部門の垣根を越えた社員間の協力体制が実現していた。そしてそれは同社の伝統になった。

ところで、店よりも介護の現場ではもっとひどいらしい。私が関係者と話した限りでは、被介護者が介護者のお尻を触るのは日常茶飯事。殴られたり、暴言を吐かれたり。部屋に入ると包丁が並べられ「今度、ふざけたことしたら覚えとけよ」と意味不明な脅しをされたとの話もある。

これらはハラスメントではなく単なる犯罪行為(脅迫、暴力、不同意わいせつ)といえる。普通に警察が取り締まってほしい。

交通加害者として被疑者の顔と名前を出すメディアは、ぜひともこうした問題を取り上げる報道でも実録VTRにモザイクをかけるのではなく、顔と名前を晒(さら)してほしいものだ。おそらく、最大の抑止力となるだろう。

同時に、経営者もハラスメントの場から従業員を逃亡させてほしいと思う。前述のケレハー氏ではないが、非礼なお客を切る、あるいは従業員の代わりに対峙(たいじ)するのが経営者のノブレス・オブリージュ(=高貴なるものの義務)ではないだろうか。

現在は高圧経済(人材不足かつ設備稼働率が高くなり、需要が高まっている状態)であり、従業員を守る意識が出てきたのはいい傾向だと私は思う。ホームページでSDGsとか人権意識とかを語っているくせに、従業員が酷(ひど)い目にあっても人手不足になるまでは何もしなかったからね。

そこで提案。

お客は大切だ。ただ不条理な行為をする人たちはお客ではない。これを全社で意思統一しよう。私は会社の仲間に「失礼な人は断ろう。可哀想(かわいそう)な人たちから受注すべきなら廃業しようじゃないか」と伝えている。

非礼な相手に堂々と仕事を断る文化を作ろう。「お客様は神様だ」と言ったこの国は、30年も不況で実質賃金も上がっていないのだから。