『キン肉マン』大好き漫画家のおぎぬまXが、コミックス35巻を熱く語る
キン肉マンとネプチューンマン、かつて死闘を演じたふたりによる"巌流島コンビ"が、この巻でついに爆誕!
その先に用意された思わぬエクストラ・マッチも超必見です!!
●キン肉マン35巻
レビュー投稿者名 おぎぬまX
★★★★★ 星5つ中の5●熱さと寂しさの入り混じるネプチューン・メッセージ
キン肉星の王位争奪戦もいよいよ佳境ということで、僕がこの巻でまず注目したいのはカバーに描かれたキン肉マン。長きにわたる闘いを象徴するかのような満身創痍の様相で、全巻を通しても非常に珍しいパターンです。折しもちょうどこの巻の中で"キン肉星王位争奪編"は開始から100話目を迎えるということもあり、あらためてこのシリーズがいかに過酷な死闘続きであったか、という凄まじさをのっけから感じずにはいられません!
そして本編は、前巻ラストでザ・サムライの予言の書のページが燃え尽き、そこから新たにまっさらな別のページが現れるという演出そのままに、あのネプチューンマンが、しかもかつてのままの姿で復活するところからスタートします。
キン肉マン・チームの最後の助っ人が誰になるのかというのは、僕も前巻までのレビューで散々触れてきたようにずっと揺れ動いてきた経緯がありまして......、たとえばテリーマン、あの男が不在のままこのシリーズが終わるはずないだろうと思っていた読者も実際かなりいたんじゃないでしょうか?
しかしゆでたまご先生は、あえて大本命のネプチューンマンをここに当ててきた。何せネプチューンマンといえば前シリーズ"夢の超人タッグ編"のラスボスなわけで、最強の敵だった男が主人公と組むというこの展開には、テリー好きの僕も思わず大歓喜してしまいました。
これで勝利も確定かと思いきや、そうは問屋が卸さないのが『キン肉マン』という作品です。キン肉マンは、先の試合でザ・サムライがジェロニモを見殺しにしたことを非難し始めます。"武蔵と小次郎"――組むはずのないふたりが組んだ夢の巌流島コンビは結成早々にして空中分解の危機に晒(さら)されてしまいました。しかしそんなキン肉マンの非難の言葉に対し、なんとネプチューンマンが贖罪の涙を流したのです。一切の感情を捨て去った完璧超人であるはずのネプチューンマンが流したこの涙には、さすがにキン肉マンも動揺を隠せません。
聖書には様々な奇跡が記されていますが、思うに『キン肉マン』という漫画も友情が起こす"奇跡"を記した書物といえるのではないでしょうか。
表面だけをサラリとすくって『キン肉マン』は穴だらけだと言い張るのは簡単です。でも、あえてゆで先生が貫かれている神話的な演出やド迫力展開の素晴らしさを見つめ直していただきたいと僕は常々、思っている次第であります!
そんな勢いあふれる死闘の中で、ネプチューンマンの口から飛び出した"ネプチューン・メッセージ"。己のみを絶対視して周りの弱者を見下していたあのネプチューンマンが、未来の超人界を担う子供たちのため我々は捨て石になるべきだというこの宣言、熱いことこの上ないですよね。
そして、このメッセージに胸を打たれた全世界に散らばる正義超人たちが、いよいよ試合の行なわれているここ大阪城に一斉に駆けつけてくるのです。感動的な流れの一方で、まさに作品のフィナーレに向けてのお膳立ても着々と進んでいっている感もあり...寂しさも同時に押し寄せてくる、ここまでずっと本作を追ってきたファンとしてここは、複雑な感情が入り混じる演出でもありました。
●『キン肉マン』はテキトーな作品などではまったくない!!
それでも、試合は続いていきます。巌流島コンビはやはり強い! キン肉マンのタッグといえば、やはりテリーマンとのザ・マシンガンズが最強だと僕も断言したいのですが......。
このネプチューンマンとのコンビはそれすら凌ぐ勢いのコンビネーションを次々と繰り出し、僕が33巻のレビューで語りまくった規格外の強キャラであるオメガマンでさえ、かすみ始める有様です。ラスボスのフェニックスですら巌流島コンビに翻弄され、与えられたその役目を果たせなくなってきました。
このままでは敗北へ一直線。そこで知性の神以外の邪悪神たちまで結託して、邪悪五神のすべてがフェニックスに加担。
普通、こういう覚醒イベントは主人公側に起こるのがバトル漫画のセオリーです。しかし、あまりに主人公側が強すぎて、ラスボス側が強化されるとという異常事態が発生しました。それでもまだ、パワーアップを果たしたフェニックスの肩を抱く隣のジ・オメガマンの額には脂汗が滲んでいます...どんだけ強いんだ巌流島コンビ!!
しかしそんな不安を一掃する奥の手を彼らは隠し持っていました。それがΩメタモルフォーゼのラストを飾る"変身プリンス・カメハメ"だったのです!
見返すとこの35巻、正確に言うと34巻のラストからなんですが、各話の扉ページでキン肉マンの連載開始からの名勝負が描きおろしで順番に紹介されていくという試みがなされています。そのなかで、キン肉マン対プリンス・カメハメの試合も紹介されていたのですが、まさかこれがこの衝撃の展開の伏線にもなっていたのは驚きです。
キン肉マンの思い描いた最強の相手にオメガマンが変身する。これが、バッファローマンでも悪魔将軍でもなく、プリンス・カメハメだったというのがまた面白いし、演出的にも神がかっていますよね。
戦力外通告寸前だったオメガマンをこう生かすのかという驚きに加え、追加選手をメンバーが固定されている団体戦で、こういう手段で連れてくるのかという恐るべき発想力。キン肉マンとプリンス・カメハメの師弟対決という誰も予想だにしなかった展開へとこうして物語は突き進んでいきました。
しかも、ここでキン肉マンがカメハメとあらためて闘うことにはもうひとつ大きな意味があります。
思えば『キン肉マン』は多くの読者に愛されている一方で、破天荒な作風を斜に構えた視点で語られがちです。ただ、僕に言わせると「こんなに綺麗に風呂敷を畳んだ作品は珍しいほどだ」と思えるくらいの緻密さがあると思うのです。
第一巻からこの作品の魅力を語らせていただきましたが、『ジャンプ』時代の最終巻となる次巻を前にそこは改めて声を大にして強調しておきたいと、このレビューシリーズを通じて僕は強く思っています!!
こうして52の関節技まで会得したキン肉マン。カメハメが退場したあとにのこったオメガマンは、もはやキン肉マンの敵ではありませんでした。カメハメとの死闘のうちにネプチューンマンを失い、その果てにオメガマンも消えて、とうとう1対1の最終決戦を迎えることとなったキン肉マンとフェニックス。
彼らふたりに祈りを捧げるビビンバとの一幕もありつつ、ふたりの対決はファーストシーズンの最終巻ともいえる36巻へと続いていきます!
●『キン肉マン』4コマ
●こんな見どころにも注目!
キン肉星王位争奪編も終盤戦というこのタイミングで発表された超人たちは、これまでだと次の新シリーズで大活躍していくというのがお決まりの流れでしたが...読者のみんなも薄々感じているように、この時点では『キン肉マン』にもう次のシリーズはありません。じゃあ彼らはどうなるのか。しかし道はありました。ここから10数年後、ここで発表された超人たちは『キン肉マンⅡ世』の初期を彩るメンバーとなって再び世に出ることになったのです。
●おぎぬまX(OGINUMA X)
1988年生まれ、東京都町田市出身。漫画家、小説家。2019年第91回赤塚賞にて同賞29年ぶりとなる最高賞「入選」を獲得。21年『ジャンプSQ.』2月号より『謎尾解美の爆裂推理!!』を連載。小説家としての顔も持ち、『地下芸人』(集英社)が好評発売中。『キン肉マン』に関しては超人募集への応募超人が採用(JC67巻収録第263話)された経験も持つ筋金入りのファン。ミステリ小説シリーズ『キン肉マン 四次元殺法殺人事件』、『キン肉マン 悪魔超人熱海旅行殺人事件』が好評発売中
漫画/おぎぬまX 構成/山下貴弘 ©ゆでたまご/集英社