ロサンゼルス五輪の新種目「フラッグフットボール」とは?
2028年ロサンゼルス五輪の新種目は「フラッグフットボール」だ。これは、どんなスポーツなのか? どんな魅力があるのか? フラッグに詳しい専門家とふたりの日本代表選手に語ってもらった。
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■アメフトから派生し、パス攻撃を重視した競技
パリ五輪の新種目「ブレイキン」では、日本の湯浅亜実選手が金メダルを獲得して世界中から注目された。
そして、4年後のロス五輪では「フラッグフットボール」(以下、フラッグ)が新種目として採用され、世界中から関心を集めることになる。
では、フラッグとはどんなスポーツなのか。日本アメリカンフットボール(以下、アメフト)協会オリンピック準備委員会副委員長の藪田 学氏に聞いた。
――フラッグはいつ頃生まれたスポーツなんですか?
藪田 ハッキリとはわかっていませんが、第2次世界大戦中にアメリカ軍の兵士たちが、娯楽としてアメフトを始めたことが発祥といわれています。アメフトはタックルなどの激しいぶつかり合いがありますが、ぶつかると兵士がケガをする可能性があります。
そこで、タックルなど体の接触がないアメフトを考え出しました。それがフラッグです。ですから、フラッグはアメフトからの派生スポーツといっていいでしょう。
――体の接触がないということは、どうやって相手の攻撃を止めるんですか?
藪田 腰の両脇に「フラッグ」と呼ばれるヒラヒラしたベルトを着けており、それを引き抜かれるとその時点で攻撃をストップしなければなりません。なお、攻撃側も守備側も相手の体に接触すると反則になります。
ですから、攻撃側は守備側の選手に囲まれたら、そこで止まらなくてはなりません。ちなみに、体の接触がないのでアメフトのようにヘルメットやショルダーパッドなどの防具を着けません。
――それ以外にアメフトとの違いはありますか?
藪田 ルール的なことでは、まず人数が違います。アメフトは11人対11人でやりますが、フラッグは5人対5人です。それから、人数に合わせてフィールドもアメフトの約4分の1です。試合時間もアメフトは15分クオーターの合計60分ですが、フラッグは20分ハーフの40分です。
アメフトは4回の攻撃で10ヤード(約9.1m)進むと新たな攻撃権を得られるので、エンドゾーン(得点ゾーン)まで細かく攻撃を進めることができます。
一方、フラッグは、4回の攻撃で敵陣に入れなければ攻守が交代し、敵陣に入れた場合は、さらに4回の攻撃でエンドゾーンまでボールを運ばなければなりません。そのため、フラッグはひとつのプレーで距離を稼げる作戦が重要です。
前方へのパスはアメフトもフラッグも1回しかできませんが、フラッグはアメフトのパス攻撃を重視したルール作りになっているので、パスを投げる人と受ける人のスキルが高ければ、点がポンポン入ります。
もともと攻撃側は自分たちがやるプレーがわかっているけれども、守備側はそのリアクションになるので、攻撃側の優位性がさらに高まっているというわけです。
たとえるならフットサルやバスケットボールの3×3のようにとてもテンポが速い競技です。
――パスを通すための作戦とかもあるんですか?
藪田 フラッグは作戦がとても重要です。「チェスマッチ」と呼ばれるような攻撃と守備の駆け引きが試合の醍醐味かもしれません。
例えば、足の速い選手がエンドゾーンに向かって真っすぐ走るばかりではなく、途中で味方にパスをしたり、パスをするふりをして相手をだましたりもします。そうした作戦を100個以上持っているチームもあります。
選手は作戦リストを記載したリストバンドを腕に着けていて、攻撃のたびにみんなで次の作戦を確認します。この作戦タイム(ハドル)は25秒以内です。
特に国際大会になると日本人選手は、欧米の国の選手と体格の差が出てくるので、それを補うための作戦が必要になってきます。
フラッグフットボールは攻撃の前に毎回25秒の作戦タイムが取れる。腕に着けた作戦リストを見ながら、みんなで次の攻撃を確認し合う
――作戦以外に、例えばフラッグを取られないテクニックとかもあるんですか?
藪田 これはアメフトにはないフラッグ独特の動きですが、走っていて急に腰を沈めて前に進む「ディップ」というテクニックがあります。また、腰をローリングして相手をかわすという方法もあります。フラッグを取ろうとする相手の手を払いのけると反則になるので、こうした動きをするわけです。
それから、相手にフラッグを取られそうになったときに持っているボールを手前に大きく差し出す動きをすることがあります。次の攻撃は、フラッグが取られた体の位置からではなく、ボールの位置からスタートするので少しでも前から攻撃しようという意思の表れです。
――フラッグの最大の魅力はなんですか?
藪田 まず、体の接触がないので女性やお子さんも楽しめるスポーツということです。
――ちなみに今、日本の競技人口はどれくらいなのでしょうか。
藪田 残念ながら正確な数は把握していません。大会に参加する選手は3000人ほどですが、今は小学校の授業でも取り入れていたり、小さなクラブチームもあるので、実際はもっと多いと思います。
――世界だと?
藪田 約2000万人です。特に女性の競技人口が男性の2倍くらいのペースで増えています。
――世界の中で日本はどれくらいの実力なんですか?
藪田 現在の世界ランキングは、男子が9位で女子が3位です。4年後のロス五輪でメダルを狙える位置にいるので、われわれはそれを目指して取り組んでいます。そして、8月27日から30日までフィンランドで世界選手権が行なわれるので、まずはそこでメダルを目指します。
■日本代表選手が語るフラッグの魅力とは?
では、その世界選手権に出場する選手はどう思っているのか。まずは元アメフト選手で〝日本最高のレシーバー〟と呼ばれた現在41歳の木下典明選手に聞いた。
木下典明 1982年生まれ、大阪府出身。
――フラッグを始めようとしたきっかけは?
木下 自分は35年間アメフトをやってきて2020年にケガをして昨年引退しました。そのときにフラッグが五輪種目になるかもしれないと聞いたので、自分がこれまで培ってきた技術や経験を発揮できるのではないかと思ったんです。
スポーツをやってきた人間にとって五輪出場はひとつの大きな目標なので、今は28年のロス五輪を目指して頑張っています。
――アメフトはタックルなどがありますが、フラッグは体に接触すると反則になります。
木下 そこは大きな違いではあるのですが、アメフトも練習中はチームメイトにケガをさせないようになるべく接触しないようにしています。ですから、それほど問題ではありません。
それよりも、フラッグはパスキャッチやボールを持って走ることに特化した競技です。そこはアメフトをやっていた人間のほうが技術がある分、有利だと思います。
――8月27日から世界選手権が始まりますが。
木下 アメフトの世界選手権は何度か出たことがあるのですが、フラッグは今年初めてです。ですから、どれくらい自分が通用するのか。日本がどれくらいのレベルにあるのかを見てきたいと思っています。個人的には自分の持ち味はスピードと敏捷性なので、スピードで相手を抜く様子を見てほしいです。
――日本代表男子は今、世界9位ですが、世界選手権での目標は?
木下 もちろんメダルを獲りにいきます。それがロス五輪にもつながっていくと思いますから。
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そして、女子チームのキャプテンを務めている近江佑璃夏選手。
近江佑璃夏 1999年生まれ、大阪府出身。Blue Roses所属。幼少期、両親が所属していたフラッグフットボールチームでフラッグに触れ、その後、母が立ち上げたフラッグチームに所属。
――フラッグの魅力は?
近江 戦術・戦略性が一番の魅力です。毎回セットプレーから始まり、作戦タイムが設けられているので、そこでどんなプレーをするのかが面白いと思います。
日本チームには特有の作戦があって、例えば攻撃のときはボールをセットしているセンターが、ボールを投げるクオーターバックにボールをスナップ(パス)して、クオーターバックが前に走っているレシーバーに投げるというのが普通ですが、日本チームはセンターのスナップをレシーバーが受けることもあります。
そして、レシーバーがクオーターバックに投げて、クオーターバックが走って得点をするという攻撃がある。レシーバーがクオーターバックになり、相手を混乱させる作戦などを使っていきます。
また、他国のチームはパスプレーが多いのですが、日本はパスプレーにランプレーを交ぜているところも特徴です。ランがあると相手の守備陣が上がってくるので、その分、ロングパスが通りやすくなるからです。
――近江選手自身の持ち味は?
近江 私は足の速さを生かしたスピードです。日本代表には肩の強いクオーターバックがいるので、ロングパス1本で得点するところが見どころかなと思います。
――日本代表女子は今、世界3位ですが、世界選手権での目標は?
近江 チームとしての目標は決勝進出です。世界大会は3年ぶりで、日本も他国もメンバーがたくさん入れ替わっていますが、まずは、ここで結果を出したいと思っています。それがロス五輪で金メダルを獲るという自分の目標にもつながっていきますから。
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8月27日から世界選手権が始まるロス五輪の新種目「フラッグフットボール」。これからは、この競技に注目していきたい。
写真提供/JAFA 東京ヴェルディフットボールクラブ(木下選手) クロス・ビー(近江選手)
取材・文/村上隆保