ひろゆき&武井壮の百獣の王vs論破王⑪ 武井壮が陸上十種競技...の画像はこちら >>

武井壮が言うには「十種競技は陸上のほとんどの要素を含んでいる。引退後も指導者の需要が高い」とのこと

ひろゆきがゲストとディープ討論する『週刊プレイボーイ』の連載「この件について」。

〝百獣の王〟武井壮さんとの対談11回目は、決してメジャーとはいえない「陸上十種競技」という種目を武井さんがなぜ選んだのか?そして、日本一になるためにどんな努力をしたのか?についてお聞きします。するとまさかの作戦が......。

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ひろゆき(以下、ひろ) 武井さんは日本陸上競技選手権大会の十種競技(100m走、走り幅跳び、砲丸投げ、走り高跳び、400m走、110mハードル、円盤投げ、棒高跳び、やり投げ、1500m走)で優勝経験がありますよね。十種競技は決してメジャーな競技ではないと思うんですが、この種目を選んだ理由はなんだったんですか?

武井壮(以下、武井) 大学に入って最初は短距離走をやっていたんですよ。で、陸上を始めて半年くらいで兵庫県代表として国体に出場して、そこで朝原宣治選手と同じ部屋になったの。

ひろ 北京五輪の4×100mリレーで銀メダルを獲った、あの朝原選手ですか?

武井 そう。朝原選手はもともと走り幅跳びの選手だったけど、100m走に転向して、いきなりその国体で10秒19の日本記録を出した。それで「ん?」と思ったんだよね。

ひろ その違和感の正体は?

武井 同じ部屋だったから朝原選手といろいろと話をしたら、彼も走りの内容をとにかく繊細に感じて練習していることがわかった。で、彼は俺より早く競技を始めていて、タイムも0.6秒くらい速かった。しかも体格もいいから、俺がこのまま100m走を続けてもすぐには勝てないし、結果タイトルも獲れない可能性が高いと思ったんだよね。

ひろ それで十種競技に転向するんだ。

でも、なぜ?

武井 子供の頃から、いろんな競技の動きをまねしてトレーニングをしてたの。それで、100m走を続けようか悩んでいるときに十種競技を知って、これは自分に有利だと思った。あと、将来性も考えた。十種競技は陸上競技のほとんどの要素を含んでいるので、引退後も指導者としての需要が高い。要は、潰しが利くんだよね。

ひろ 実際はどうでした?

武井 日本陸連の幹部には十種競技出身者が多いんだよ。プロスポーツの世界でも十種競技出身のコーチはけっこういる。それに10種目もやっていたから、いろいろな道具の使い方がわかる。それで、大会委員長とか役員にも選ばれやすいというのはある。

ひろ でも、陸連の偉い人をたくさん輩出しているにもかかわらず、十種競技の人気はあまり高くないですよね。

武井 そうね。十種競技は大会の運営が大変で、別会場で行なわれることも多いんだよ。

例えば、今年の日本選手権は新潟が主会場だったのに、十種競技は岐阜で行なわれた。

ひろ 離れすぎっすね(笑)。

武井 だから、なかなか盛り上がらない。あと、十種競技は2日間かけて行なうので、メディアに取り上げられにくいのも弱点。

ひろ 確かに100m走のように一瞬で決着がつく競技と比べると、メディアは扱いにくいですよね。

武井 100m走は10秒で決着がついてゴールシーンも派手でしょ。一方で、十種競技は最初の種目が終わっても決着がつくまで二十数時間ある。

ひろ スポーツとしての面白さとは別に、メディア露出の面で不利なんですね。

武井 あと10種類の技術を鍛えなきゃいけないのでコスパが悪い。しかも、各競技に専念している選手よりも少し能力が劣るから、ひとつひとつの競技に専門種目ほど迫力がない。

ひろ とはいえ、武井さんは十種競技で日本一になったじゃないですか。何が強みだったんですか? 足が速いのはもちろんですけど、それだけじゃ勝てないですよね。

武井 心理戦を制したことだね。

ひろ というと?

武井 ほかの選手にめちゃめちゃプレッシャーをかけるんだよ。例えば、1500m走が十種競技の最後の種目だから、みんなすでに疲弊しきっているの。それでスタートの前にライバル選手のところに行って「あれ? 俺、今日全然疲れてねーわ。これならめっちゃいいペースで1周目入れそうだ」とボソッとしゃべる。

ひろ 揺さぶるわけですね。

武井 もっと直接的にも言ってた(笑)。「そういえば、おまえと俺って今、何点差だっけ? あ、200点差か。じゃあ、おまえを30秒離したら俺の勝ちだな」「俺は1周目60秒で入るから、そのペースで行くと、おまえがこれまでのベストを出しても50秒は差が開くな。ということは、おまえは自己ベストより10秒速くないと俺に勝てないのか。じゃあな!」って言って戻る。

ひろ うわ(笑)。

でも、競技の合間の心理戦って、超重要ですよね。

武井 めちゃくちゃ重要。あと、俺の得意の100m走で大幅にリードすることで、テクニカル系の種目の練習をいっぱいやってきた選手にプレッシャーを与えるの。すると「やべえ、武井にすごいリードされている。次の種目で記録を伸ばしておかないと負けるな」と焦るでしょ。で、走り幅跳びや砲丸、棒高跳びという種目のときに本来の力が出なかったり、ファウルをしたりする。

ひろ 力んだり、無理しちゃったりするんですね。

武井 そう。で、そういうやつのところに行って「今、惜しかったな。7m30cmも跳べてたのに。でも、ファウルしたら0点だから。次、頑張れよ!」とか言って帰るわけ。

ひろ めっちゃ嫌なやつ(笑)。

武井 めっちゃ嫌なやつだったと思う(笑)。で、1日目の最後の種目は400m走なんだけど、みんな疲れてるから、そこで「おまえ、なんか疲れた顔してるな。大丈夫か? 俺はさっき300mを走ってきたけどすごい調子いい。今日ベスト出るわ」みたいなことを言ってさらにプレッシャーをかける。

ひろ うわわ。

武井 あと、疲労を軽減する作戦も取ってた。

ひろ どんな作戦なんですか?

武井 最終種目の1500m走は距離的にも体力的にも、そしてメンタル的にもめちゃめちゃしんどいの。だから第1、第2、第3、第4コーナーにそれぞれ俺のタイプの女のコに座ってもらって、しかも「武井さん、ファイト!」って言って応援してもらって、疲労を感じなくする(笑)。

ひろ 気持ちいいくらいに単純ですけど、効果あるんですか(笑)。

武井 すごい効果あるよ。しかも、フォームも安定する。

好きなタイプのコにカッコいいところを見せようと思うから顔が引き締まるでしょ。そうするとフォームが不思議と安定するんだよ。

ひろ そうやって限界を突破していたわけですね。

武井 しかも、トップで走っている選手は競技場のビジョンに映されるのよ。で、俺は意識的に精悍な顔で走っているから「あいつ全然疲れてねえじゃん」「こりゃ勝てねーわ」ってほかの選手の心が折れる。

ひろ そっか、そこで勝負から降りちゃうんだ。

武井 俺が日本選手権で優勝したときは、1500m走が始まるまで4位だったの。で、上位の3人全員を30秒以上離さないと勝てなかったけど、全員に50秒以上の大差をつけて大逆転勝利したんだよ。

ひろ 見えないところでの戦いも含めて十種競技の奥深さがわかりました。ありがとうございました。

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■西村博之(Hiroyuki NISHIMURA) 
元『2ちゃんねる』管理人。近著に『生か、死か、お金か』(共著、集英社インターナショナル)など 

■武井 壮(So TAKEI) 
1973年5月6日生まれ。東京都出身。タレント、元陸上十種競技日本チャンピオン。格闘技、野球、ゴルフなど様々なスポーツの経験を持つ。公式Webサイトは【https://gogotakei.com】、公式Xは【@sosotakei】

構成/加藤純平(ミドルマン) 撮影/五十嵐和博 ヘア&メイク/奥野誠

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