「西麻布のバーで『ミルクをロックで』なんて注文するから、鼻で笑われたりもした」と語る武井壮
ひろゆきがゲストとディープ討論する『週刊プレイボーイ』の連載「この件について」。武井壮さんとの対談13回目は、〝百獣の王〟として芸能界で大活躍している武井壮さんに「どのようにして芸能界に入ったのか?」を聞いてみます。
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ひろゆき(以下、ひろ) 今やメディアに引っ張りだこの武井さんですけど、芸能界で成功した理由を自分なりに分析するとどうなりますか?
武井壮(以下、武井) 芸能界で活躍したいという目標は昔からあって、最初に考えたのは「芸能人と知り合いになる」こと。そのためにまず「変わったヤツ」になろうと思った。で、家を借りるのをやめて車で暮らすようにして「なんか車で生活している、変わったヤツがいる」という噂を西麻布に広めようとしたの。それで西麻布のバーに行ったんだけど、知り合いはいないし、しかもバーに来てるのにお酒を飲まないから、変な空気になっちゃう。
ひろ 同じ「変わったヤツ」でも、「近寄るとヤバいヤツ」になっちゃったんですね。
武井 そう。「ミルクをロックでください」なんて注文するから鼻で笑われたりもした。誰かに話しかけたいんだけど、当時はトークスキルもない。それで「いきなり西麻布はハードルが高すぎる」と思って、これまでの経験が生かせるスポーツを突破口にしようと思ったんだよ。
ひろ 具体的には?
武井 「スポーツ」「トライアウト」で検索したら萩本欽一さんの野球チーム「茨城ゴールデンゴールズ」がトライアウトをすることがわかって、すぐに応募した。
ひろ 欽ちゃん球団ですね。
武井 そう。俺は中学まで野球をやっていたから、当時でも時速130キロくらいの速球を投げられたし、走りも一番速かった。だから、入団テストでものすごく目立てた。
ひろ おお~。
武井 それで元巨人の鹿取義隆コーチはじめ元プロのコーチが推してくれて、なんとか入団することができた。
ひろ 欽ちゃん球団は世間でも注目度が高かったですから、そこからトントン拍子で?
武井 むしろ、その逆。宮崎でポンカンの箱詰めのお手伝いをする地域貢献イベントがあって、メディアも多く駆けつけていたから、とにかく目立とうとしてポンカンを爆速で箱詰めしたんだよ。そうしたら「ポンカンを雑に扱うんじゃない!」と怒られた(笑)。それで印象が悪くなって試合にあまり出させてもらえず、最後は萩本さんに「顔が嫌い」って言われてクビになったんだよ(笑)。
ひろ じゃあ、活躍する機会がなかったんですね。
武井 でも、その経験から「出すぎちゃいけない」ということを学んだ。自分が目指している芸能の世界は、テレビ番組だとMCがいるしゲストも来る。
ひろ というのは?
武井 また西麻布に繰り出すようになったんだけど、今度は目立たないようにバーの一番端の席に座るようになった。でも、ちょっと違和感を出すようにした。例えば、相変わらずロックでミルクを飲んでるんだけど、小型犬用の骨のおやつをかじる。それから、しっぽりとミルクを飲んでいると思ったらスッと立ち上がって店を出て、外で黙々とダッシュを繰り返す。
ひろ 相変わらず「変わったヤツ」ですけど、今度は「何してるの?」と声をかけたくなりますね(笑)。
武井 そのとおりで、声をかけられるのを待っていた。前は自分から積極的に話しかけていたけど、今度は質問されたときだけ答えるようにした。そしたら少しずつ、かわいがってもらえるようになった。
ひろ 少しずつ関係を築いていったんですね。
武井 そして、とんねるずの石橋貴明さんやマッコイ斉藤さんが俺を面白がってくれて、番組にも出させてもらえた。芸能人や業界関係者をつかまえて「俺、芸能界で活躍したいんです!」みたいに一方的に言ってくる人って、ぶっちゃけ話が面白くなかったりする。でも、ふと気になって声をかけてみたら話が面白かったりすると、かわいげもあるじゃない。そういうことを学んだんだよね。
ひろ でも、それだけで芸能界デビューできませんよね?
武井 もちろん。エピソードトークも必要だから、例えば腕だけで高尾山を登ったりもした。
ひろ えっ!?
武井 あのときは7時間くらいかかったかな。めちゃめちゃキツくて、途中で3回くらい泣いたよ。でも、腕を動かし続けていると途中でアドレナリンがバンバン出て、突然、疲労感がなくなるときが来る。
ひろ ランナーズハイみたいな現象が起きたんですね。いや、この場合はクライマーズハイ?(笑)
武井 そこからスイスイ進み出して、後半はすごいペースで登ることができた。そんな感じで、とにかくネタになるエピソードをどんどん増やしていった。
ひろ バーで話しかけた相手が、そんなヤベーヤツだと面白がってくれますよね。
武井 あとはそういうエピソードを話して、トークスキルも学んだ。タレントさんや芸人さんというプロを相手に話をして、笑ってもらえる言葉選びを訓練した。すると、普段から芸人さんが練習相手だから、初めて出演したテレビ番組でも絶対に失敗しないという自信にもつながった。
ひろ なるほど。普段から準備と実践を重ねてきたわけですね。
武井 「こいつトークできるな」という信頼を獲得できたし、制作会社や広告代理店の人と知り合って、芸能で仕事をする上で注意しなきゃいけないことも勉強した。すると、声をかけてもらえることが多くなって、番組で磨き切ったネタを放出できるようになったんだよ。「武井壮」という商品を買ってくれる番組がたくさん増えたんだよね。
ひろ めちゃめちゃ考えてますね。
武井 と思う。とにかく「ゼロイチ」をまず作らないとダメだよね。俺の芸能界デビューのゼロイチ、つまり最初の一歩は、やはり芸能界の人たちが多く集まる場所での経験だった。
ひろ 武井さんの場合は、それが西麻布だったと。
武井 そう。で、芸能界はテレビやラジオでトークやパフォーマンスをすることが商品なの。
ひろ だから、その商品をうまくアピールしたと。
武井 そして、新商品も増やしていかないと、お客さんにはすぐに飽きられちゃう。俺がいまだにトレーニングしたり、人から「なんで?」と言われるようなことに挑戦しているのは、自分の中の商品を増やしているからなの。するとテレビやラジオ、それこそ、こういう対談の場でも話せるでしょ。
ひろ 武井さんは成功すべくして成功したんですね。
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■西村博之(Hiroyuki NISHIMURA)
元『2ちゃんねる』管理人。近著に『生か、死か、お金か』(共著、集英社インターナショナル)など
■武井 壮(So TAKEI)
1973年5月6日生まれ。東京都出身。タレント、元陸上十種競技日本チャンピオン。格闘技、野球、ゴルフなど様々なスポーツの経験を持つ。公式Webサイトは【https://gogotakei.com】、公式Xは【@sosotakei】
構成/加藤純平(ミドルマン) 撮影/五十嵐和博 ヘア&メイク/奥野誠