最有力候補と予想される小泉進次郎(元環境大臣・43歳・無派閥)
9月27日投開票の自民党総裁選挙。この選挙で選ばれた人が日本の首相になる。
■総裁選の決選投票は小泉vs石破になる!
自民党総裁選挙が迫っている(9月27日投開票)。この選挙は、実質的に日本の首相を決める選挙だ。
これまでに立候補を表明しているのは次の9人(9月11日時点。敬称略)。石破茂(元幹事長)、加藤勝信(かつのぶ/元官房長官)、上川陽子(現外務大臣)、小泉進次郎(元環境大臣)、河野太郎(現デジタル大臣)、小林鷹之(たかゆき/元経済安全保障大臣)、高市早苗(現経済安全保障大臣)、林芳正(よしまさ/現官房長官)、茂木敏充(もてぎ・としみつ/現幹事長)。
この中から自民党総裁になるのは誰なのか? 元厚生労働大臣で国際政治学者の舛添要一(ますぞえ・よういち)氏が解説する。
「自民党の総裁選挙は、党員(367票)と国会議員(367票)の投票によって行なわれ、過半数を獲得した候補者が当選者となります。もし、過半数を獲得した候補者がいない場合は、得票数の上位ふたりによる決選投票を行ないます。
過去最多の立候補者数となるであろう今回は、普通に考えれば1回目の投票で過半数に達する得票を獲得する候補者が出ることは難しいでしょう。すると、上位ふたりの決選投票になるはずです。
そのときに誰と誰の戦いになるのかというと、多くの世論調査では1位が小泉氏で、2位が石破氏か高市氏だと伝えています。
決選投票は国会議員票(367票)と地方票(都道府県支部連合会の47票)で行なうため、国会議員票が重みを増します。すると、国会議員からの受けが良い小泉氏が選ばれるのではないでしょうか」
選挙に詳しいフリーランスライターの畠山理仁(はたけやま・みちよし)氏も同意見だ。
「小泉氏と石破氏、もしくは高市氏で決選投票になったとしたら誰が勝つのか。次の総選挙で自民党の顔として戦って、裏金問題を吹き飛ばし、自民党の議席数を極力減らさないのは小泉氏だと思います。選挙において『知名度』は力。自民党は総選挙で勝つことに貪欲ですから、小泉氏を総裁に選ぶのではないでしょうか」
一方でジャーナリストの鈴木哲夫氏は、もうひとつの可能性も指摘する。
「日本テレビによる自民党員・党友を対象にした最新の世論調査では、誰を支持するかという質問で、1位が石破氏の28%、2位が小泉氏の18%、3位が高市氏の17%という結果でした。また、ほかにも選挙関係のシンクタンクや選挙プランナーなどの世論調査でも"党員・党友"に限ったものでは、石破氏が1位なんです。
今、下馬評では小泉氏の人気が高いけれども、自民党の党員・党友はもっと冷静に見ています。といっても、石破氏が1回目で過半数を獲るかというと、候補乱立で票が割れて、そこまでは難しいでしょう。
そして、小泉氏と石破氏の決選投票になった場合にどうなるか。小泉氏のバックには菅義偉前首相がついています。
すると、小泉氏が首相になったら菅氏が力を持つので、『菅が力を持つのだけは勘弁してくれ』という人たちがいます。例えば、岸田文雄首相や麻生太郎副総理、財務省に近い族議員など。こうした人たちが石破氏に入れる可能性がささやかれています。
国民を対象とした世論調査でも石破氏が1位という結果もありますし、政策など討論させたら石破氏が一枚上手です。ですから、石破茂首相誕生という可能性もなきにしもあらずです」
決選投票は小泉氏と石破氏でほぼ決まりのようだ。そして、選挙の顔や刷新感などから、小泉氏が選ばれる可能性は高いかもしれない。
小泉進次郎首相が誕生すると、自民党内で菅氏の影響力が強くなり、岸田氏と麻生氏は窮地に立たされるかもしれない
■小泉進次郎内閣はオールスター内閣!
では、小泉進次郎首相が誕生した場合、どんな内閣になるのだろうか。
「もし、小泉進次郎内閣となり、これを命名するならば『自民党オールスター内閣』になるでしょう。小泉氏は『総裁選が終われば敵も味方もない。ノーサイドだ』などと言って、今回の総裁選の顔ぶれを全員要職に就けることになると思います」と言うのは鈴木氏だ。
「決選投票で戦った石破氏には、党の人事や資金の配分、選挙の公認権など強い権力を持つ党ナンバー2の幹事長を任せる。小泉首相と一緒に選挙の顔になります。
一方で、小泉氏の年齢と経験では、党の重鎮や霞が関の官僚などにやり込められてしまう可能性がある。そこで、そうした人たちににらみを利かせる役目として、菅氏を副総理として置く。
高市氏は保守派をしっかりつかんでいますが、一方で安全保障関係を任せると先鋭化する可能性もあるので経済閣僚あたりでしょうか。
茂木氏は事前に菅氏と会談していることもあり、財務大臣や外務大臣の重要閣僚が担保されているという話もあります。ここで難しいのは河野氏です。
麻生派にいることから菅氏と麻生氏の対立を考えると本来は入閣なしですが、"小石河連合"でやってきたことや同じ"チーム神奈川"を考えれば、そのままデジタル大臣再任や選挙対策委員長など党の要職に就けるかもしれません。
世代交代というアピールを考えると"コバホーク"こと小林鷹之氏も入閣するはず。彼はこれまで経済安保大臣をやっていましたが、少しランクが上がって経済産業大臣に大抜擢されるかもしれません」
ジャーナリストの安積明子(あづみ・あきこ)氏も石破幹事長の可能性があるという。
「総選挙を控えて、まずは票を集められる布陣を敷かないといけないわけです。そういう意味で最も重視すべきは党内の融和を保つことで、まずは総裁選で票を多く獲った候補を優遇しなくてはいけません。
もし、小泉氏が勝利し、2位が石破氏だったら、党務を担当する幹事長に抜擢すると思います。2012年の自民党総裁選のときもそうでした。
また、組閣や党人事も、今回の総裁選に出馬した人たちを中心にして選抜すると思います。彼らは20人の推薦人を集めることができた実力者で、いずれも入閣経験があります。だから、わざわざ未経験者を抜擢し、新たに身体検査(金銭や異性関係などで問題を抱えていないか調べること)をする必要もありません。
そして、小泉氏は総選挙の顔として表に出るでしょうが、その後ろで菅氏が小泉氏を操る『菅パペット内閣』になると思います」
舛添氏も菅氏の影響力は大きいと言う。
「第2次安倍内閣では、首相経験のある麻生氏を副総理兼財務大臣にしました。岸田文雄首相も麻生氏を副総理にしています。そのパターンをまねれば、菅副総理兼総務大臣は十分にありえます。
菅氏の影響力が強いとなると官房長官は梶山弘志氏。菅氏は梶山氏の父である梶山静六元官房長官(当時)を師と仰いでいましたから。
そして、茂木氏を財務大臣という要職に就けることで茂木派を取り込みます。また、石破派陣営からは岩屋毅(いわや・たけし)氏を法務大臣に任命します。
最近は河野氏の人気が下がっているということで、デジタル大臣にはデジタルに詳しい若手の小林史明(ふみあき)氏。また、小林鷹之氏は経済安保担当再任です。
女性閣僚も増やすでしょう。参議院ですが、小泉氏と同じ神奈川県選出ということで環境大臣に三原じゅん子氏。
特命担当大臣(こども政策、少子化政策、若者活躍、男女共同参画、孤独・孤立対策)に小野田紀美(きみ)氏、特命担当大臣(沖縄及び北方対策担当)に鈴木宗男氏の娘の鈴木貴子氏。これで、女性の入閣は過去最多タイの5人になります。
これは若手と実力者をバランス良く融和させた『選挙勝利のためのバランス融和内閣』です」
畠山氏は大胆な人事があるかもしれないと予想する。
「総裁選に出た人はマスコミなどの露出が多くなり、一般の人も親しみを覚えるようになるので、積極的に登用すると思います。
そして、組閣から解散まであまり日数がないので、基本は留任や再任。『総選挙後はノーサイド』を印象づけるため、林官房長官、上川外務大臣、河野デジタル大臣は留任。石破氏と齋藤氏は経験のある防衛大臣と農水大臣に。小林鷹之氏も経済安保大臣に再任。
さらに刷新感を出すために三原じゅん子氏を環境大臣に。元デジタル副大臣の小林史明氏を経済再生大臣に大抜擢。大穴として、民間から石丸伸二氏を総務大臣に任命します。
裏金や旧統一教会の問題などもあって、国民は今までの政治家に嫌気が差していて『政治家っぽくない人』を求めます。石丸氏は『次の立民代表の選挙区から出る』とも発言しており『敵の敵は味方』です。
それに総務大臣は、増田寛也(ひろや)元岩手県知事や片山善博(よしひろ)元鳥取県知事ら地方の首長経験者がなりやすい。石丸氏は市長でしたが、若さと注目度でカバーします。
これが『選挙に勝つぞ! 自民党オールスター内閣』です」
4人の識者の意見を総合すると、小泉内閣は自民党総裁選に出馬した人を中心に人気のある若手を加えた"自民党オールスター内閣"になるようだ。
では、この内閣は次の解散・総選挙までのワンポイントリリーフなのか?
「それはないと思います。逆に『この内閣でしっかりやっていきます』ということを国民に示さないと総選挙には勝てない。だから、幹部クラスも若手も入れているわけです」(舛添氏)
小泉進次郎自民党総裁によって"自民党オールスター内閣"が誕生する。そして、その後に行なわれる総選挙で国民の審判が下される。
果たして、自民党は生まれ変われるのだろうか。
取材・文/村上隆保 写真/時事通信社