『キン肉マン』大好き作家・燃え殻さんと爪切男さんが9月の連載を激論!
『ボクたちはみんな大人になれなかった』の燃え殻、『死にたい夜にかぎって』の爪切男の意外な共通点、それは『キン肉マン』!!
希代のストーリーテラーのふたりが9月分の『キン肉マン』連載を甘く、そして辛く批評。
―今回の「先月の肉トーク」テーマ―
第464話 額の文字の行方!!の巻(9月2日更新分)
第465話 駆け上がれ! 義足とともに!!の巻(9月9日更新分)
第466話 五大刻と対等に闘う者たち!!の巻(9月17日更新分)
第467話 天の落とし物!!の巻(9月30日更新分)
<あらすじ>
時間超人・ファナティックvsネメシスの一戦に決着が着いた。舞台は変わり、ソ連、パトムスキー・クレーターのウォーズマンは"黄昏(たそがれ)の刻"ぺシミマンと、レバノン・バールベックに到着したネプチューンマンは"燦然(さんぜん)の刻"パピヨンマンと対峙することになった。
●闘いの渋滞が期待させるもの
爪切男(以下、爪) 今回は第464話から第467話までの4回についてなんですが、その前に前回の訂正です。
燃え殻(以下、燃) え? 何?
爪 前回僕ら、ネメシスはこれまでの他の時間超人たちの闘いを見ていないから、"超回復"のことを知らなかったんじゃないか、って話をしましたよね。でも、ケンダマンが超人閻魔(えんま)に報告に来たじゃないですか。「これまで見てきた一部始終をご報告申し上げます!」と。
燃 あ、そうか、あの場にネメシスもいたもんね。誌面上での会話にはその話は出てきていないけど、当然、報告のひとつとして聞いたはずだよね。
ちゃんとセリフもありました。失礼いたしました(JC86巻より)
爪 ということを、出たばかりの86巻を読み直して、思い出しました。だから、"超回復"のことを知っていても勝てなかったんだな、と思うと、余計重いですよね。
燃 うん、そうだねえ......。
爪 で、464話は、ファナティックのアヴァランチ・デスロードをくらったネメシスが、敗北するところから始まりました。
燃 うん。しかし、先週も言ったけど、この試合、全部で連載10回分かかったじゃない?
爪 同時進行のテリーマンの試合とネプチューンマンの試合も、ようやく始まるところまで来ましたけど......。
燃 ネプチューンマンが次の対戦相手、パピヨンマンとフェイスオフするところまで来たよね。
爪 でも、それより全然前に、ウォーズマン、ペシミマンとフェイスオフして、さあこれから闘いだ、というところで止まってるんですよね(笑)。
燃 そう、俺もそれ気になって、ずっと憶えてたの。ウォーズマンが好きだからさ、「あの闘い、まだ始まらないなあ」って。
爪 その3試合が同時進行しているところに、さらに466話から467話で、キン肉マンの闘いが始まる流れになっていったし。いつ描かれるんだろうか、ウォーズマンの闘いは......。
燃 桜が咲く頃には描かれるかなあ(笑)。
爪 キン肉マンの闘いが描かれ始めたことによって、ネプチューンマンとパピヨンマンの闘いも、しばらく始まらなさそうだし。テリーマンとエンデマンは、いつ描かれるかなあ。
燃 この試合の続きがいつ読めるのか、ということに、けっこうヤキモキするよね。
爪 そう、だからほんとにぜいたくな待たせ方しますよね、この作品は。4試合が同時進行している上に、ロビンマスクとアシュラマンはバッファローマンが強くなるための時間を稼ぐためにどこかへいっちゃったし、ラーメンマンもどこかへいっちゃったし。
燃 でも、次にその試合にスポットが当たる時は......下手したら、闘いの経緯は省略されて、ボロボロにやられたテリーがダウンしているシーンかもしれない(笑)。
爪 あと、僕が興味を惹かれたのは、パピヨンマン、これで二戦目だから、今回も続けて勝つ、というのはないと思うんですね。負けると思うんだけど、その相手がネプチューンマンだとは思わなかったから。
燃 ああ、そうだね。
爪 だから、この闘いは楽しみだな。ネプチューンマンが、どういう勝ち方をするのか。でも、テリーマンの試合も観たかったなあ。
燃 もう省略されると決めつけてる(笑)。
爪 キン骨マンが持って来た、テリーの義足の力を見たいなあ。あとネプチューンマンは、パピヨンマンの羽根をむしり取ってほしい。飛び跳ねてるパピヨンマンを叩き落として。
燃 ああ、わかる。それは僕も期待してる。
爪 二戦目で負けるヤツは残酷な負けっぷりを見せないといけないから。ネプチューンマン、やってくれるんじゃないかな、羽根むしり。
燃 あと、ネプチューンマンと言えば、マスク狩りをやってほしいじゃない? でも、パピヨンマンのこの顔、マスクなのか? という心配もある(笑)。
爪 うん、マスクであってほしい。
(JC18巻より)
燃 やっぱりネプチューンマンの物語的には、狩ったマスクがマントにいっぱい付けてあるの、大事じゃん。そのキンケシ、オレ、持ってたもん。だからマスク狩りが見たい。あと、羽根狩りも見たい(笑)。
爪 で、467話からキン肉マンの試合が中心になりましたよね。キン肉マン、自分の目の前で、超人製造機から生まれたザ・ガストマンと闘えと、エクサベーターから命じられる。
燃 いやあ、こんな発想なかったよね? こんな流れも前例がないし、これまでの『キン肉マン』で。
爪 物語のめちゃめちゃ大事なところをキン肉マンに託しましたよね。だって、ここでキン肉マンが勝って超人製造機をつぶさないと、今後、新しい超人が、どんどん生まれてしまうわけでしょ?
現状の説明だと無尽蔵に超人が製造できてしまうが......(第467話より)
燃 そうだよね。でも、ゆでたまご先生的には、キン肉マンにぶつける敵が、いちばん遊べる、っていうのがあるんじゃないかな。キン肉マンだったらどんな敵をぶつけても大丈夫だから、今回みたいな無茶な設定も可能だという。ピークア・ブーもそうだったじゃない? ギャグあり、シリアスありのあのキャラクターを成り立たせるのって、相当難しいと思うから。
爪 確かに、相手がキン肉マンじゃないと無理だったでしょうね。
燃 あと、キン肉マン個人のバックボーンやストーリーは、これまでさんざん掘り下げられてきて、読者はみんな共有しているから、改めて描く必要はないじゃない? だから敵のほうにいろんなストーリーを盛り込める、っていうのもあるんじゃないかな。
時間超人とはなんなのかとか、時間超人はこんなことができます、という説明も、キン肉マンの試合だとスゴくやりやすそう。だから、時間超人の特徴やおもしろさがよくわかる試合が観れそうで、楽しみなんだよね。
爪 なるほど、なるほど。
燃 うん。この試合はキン肉マンの試合だから、敵の時間超人を掘り下げて描くことができる試合。と考えると、いっぺんに4試合同時進行してるけど、それぞれの意味合いやテーマは1試合ずつ全部違う、ゆでたまご先生が描きたいものが表現したいものが違う、ということなんだろうな、と思った。
爪 でもやっぱり、ここに来て、新しい時間超人が、眼の前でガシャポンみたいにポンと生まれるのって、ちょっと絶望しますよね。自分が闘う側だったら。しかもエクサベーター、ザ・ガストマンのことを「最新鋭の時間超人」って紹介しているから、これまでの時間超人が持っていない何かを持っていて、いちばん強いのかもしれないし。
燃 ザ・ガストマンも、もちろん応募超人だしね。
爪 カッコいい超人ですよね。
●ついにそろった「アイドル超人」
燃 で、アニメの方、放送がいったん終わったね。
爪 次は来年1月から同じ「アガルアニメ」枠での放送が決まっていますけどね。
燃 最後の12話で、正義超人の4人が登場したじゃない? ブロッケンJr.、ウォーズマン、ラーメンマン、ロビンマスクが。
爪 あそこテンション上がりましたよね、原作を読んでるから知ってるのに。
燃 僕は銀色のロビンマスクが動いているのを観れて、感動した。僕らが子供の頃のアニメでは、ロビンマスクの色味が紺だったから。そのロビンマスクの色だけじゃなくて、全12回、漫画原作リスペクトのアニメーション化です、というのが、随所に表れていたと思うな。Xで嶋田先生があんなに喜んでいるのもよくわかるというか。
爪 嶋田先生、放送のたびに、Xで実況中継されてましたよね。
燃 テレビで放送があって、リアタイでXで原作者の実況中継があって、その放送が終わると同時に、この週プレNEWSで漫画連載がアップされる、アニメはそのままNetflixに入る。っていう、ものすごく今っぽいことを『キン肉マン』はやっているんだよね。今できるアプローチは全部やっている、原作者がSNSで発信することまで含めて。
爪 確かにそうだ。紙とWebの連載、地上波、配信チャンネル、SNS......あ、あとラジオも。
燃 ああ、そうだそうだ、ニッポン放送の「キン肉マン 超人ラジオ」(毎週月曜18:50~、パーソナリティ:上坂すみれ)。
爪 本当に全方位。すごいな。
●燃え殻(MOEGARA)
1973年生まれ、神奈川県出身。働きながら始めたツイッターでの発言に注目が集まり、作家デビュー。『ボクたちはみんな大人になれなかった』(新潮社)、『すべて忘れてしまうから』(扶桑社)、エッセイ集『それでも日々は続くから』(新潮社)『これはただの夏』(新潮社、8月28日に文庫版発売)、『ブルー ハワイ』(新潮社)など多数の著作がある。最新著は『明けないで夜』(マガジンハウス)。ドラマ『あなたに聴かせたい歌があるんだ』(漫画:おかざき真里/扶桑社)はHuluで配信中。出演中のラジオ番組 『BEFORE DAWN』(J-WAVE、毎週火曜26:00~27:00)もチェック
●爪切男(TSUMEKIRIO)
1979年生まれ、香川県出身。2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)で小説家デビュー。2020年、同作が賀来賢人主演でドラマ化。『きょうも延長ナリ』(扶桑社)が発売中。集英社発のWebサイト『よみタイ』で好評を博した、美容と健康にまつわるエッセイ『午前三時の化粧水』が来春書籍化予定。ドライバーWebで『横顔を眺めながら ~爪 切男の助手席ドライブ漂流~』を連載中。主演:木村昴でのドラマ放送でも話題となった『クラスメイトの女子、全員好きでした』が文庫化
取材・文/兵庫慎司 撮影/鈴木大喜 ©ゆでたまご/集英社