中野信子いわく、「『頭がいい』は『相手の気持ちを察する能力』なども含めて考えるべき」
ひろゆきがゲストとディープ討論する『週刊プレイボーイ』の連載「この件について」。脳科学者の中野信子さんをゲストに迎えての4回目は、「頭がいい」とはどういうことなのかを考えました。
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ひろゆき(以下、ひろ) 中野さんって「MENSA」(高IQ団体)の会員なんですか?
中野信子(以下、中野) 元会員です。メリットを感じなくてやめました。ひろゆきさんも会員になろうと思えばなれますよ。
ひろ マジすか。とはいえ「全人口上位2%のIQを有する者」とかいわれているじゃないですか。
中野 テスト対策をすれば高得点が取れますよ。だから、本当のIQは測れていません(笑)。
ひろ そういえば、メンサ会員が社会的に成功している確率ってあまり高くない気もしますよね。本当に頭がいいなら何か実績を出してほしいです。
中野 そうですよね。能力があるなら活かしてほしいですよね。
ひろ うは(笑)。でも、頭のいい人の話は面白いじゃないですか。知的好奇心が旺盛で、知識も豊富ですよね。
中野 実は、メンサには「学歴のある会員」と「学歴のない会員」がいることに気づいたんです。後者の話はつまらない。これをいうと学歴偏重主義のように聞こえるかもしれませんが、一面の真理はあると思います。
ひろ 確かに。本当に頭がいいならいい大学に行けるから、高い学歴があるはずですよね。ということは〝学歴ロンダリング〟みたいにメンサに入る人たちがいるということですか。
中野 一定数いたと思います。彼らは学歴で結果を出せなかったので、メンサで高IQという証しが欲しかったんじゃないかと。
ひろ そう考えると納得できます。でも、メンサに入るために勉強する人たちがいるのは驚きです。
中野 対策をすれば、ひろゆきさんなら余裕で受かると思います。
ひろ いやいや(笑)。そういう意味でいうと、ヘタなメンサ会員より「おバカタレント」のほうが頭が良かったりするんでしょうね。
中野 そうかもしれません(笑)。
ひろ 例えば『クイズ!ヘキサゴンⅡ』(2005年から11年までフジテレビ系で放送)で一世を風靡したスザンヌさんなんかは、実際に話して「この人、頭いいな」と思いました。理解力や対応力が高いんですよ。
中野 里田まいさんもそうですよね。ここで一度「頭がいい、悪い」の定義をはっきりさせる必要がありそうです。単にテストの点がいいというだけでなく、相手の気持ちを察する能力や適切な言葉を選択する能力なども含めて考えるべきかもしれません。
ひろ テストの点がいいよりも、相手の気持ちを察する能力がある人のほうが頭がいいですよね。
中野 そうですね。本当に頭のいい人は「バカっぽい」行動を戦略的に使うことができるじゃないですか。例えば豊臣秀吉がそうですよね。乱世の時代を生き残ったり、織田信長のような主君に気に入られるために頭が悪いフリをする能力があったはずです。
ひろ おバカタレントとして成功している人たちは、実は周囲の状況を的確に把握し、適切なリアクションができる能力を持っているんでしょうね。
中野 鈴木奈々さんもおバカとは思えません。彼女はめちゃくちゃ戦略的ですよね。学校の成績はわかりませんが、コミュニケーションに関する脳の機能は人並み以上に高いはずです。そうでなければ第一線で活躍し続けるのは、絶対無理だと思います。
ひろ あと、クイズ番組でのお笑い芸人さんの答え方を見ると面白いんですよ。一般的に頭がいいとされる人は、普通に正解を答えようとします。でも、お笑い芸人さんは正解を考えつつ「この場をどう面白くするか」というもうひとつの軸を考えています。
中野 なるほど。
ひろ 例えば「このタイミングなら」「このメンバーなら」「前にこういう答えがあったから、それにかぶせるなら」といった具合に、さまざまな要素を考慮しながら面白い答えを言います。そして、本当は頭がいいはずなのに「頭の悪い人」「天然ボケ」というイメージを作る。
中野 そう考えるとエンターテインメント業界で成功するために、あえて自分の頭の良さを隠すという選択をしている人もいるかもしれませんね。
ひろ んで、頭が悪い人には「救いようがない世の中」になっている気がするんですよ。
中野 というと?
ひろ 最近、お笑い芸人の高学歴化が目立つじゃないですか。例えば、昨年の『M-1グランプリ』で優勝した令和ロマンのおふたりは慶應義塾大学出身です。優秀な人がお笑いに頭を使うとやはり面白いものが作れる。つまり、「優秀な人は何をやっても優秀」というありきたりな結論に至ってしまう気がします。
中野 そのとおりだと思います。
ひろ かつては、勉強ができない人の進む道として「おまえは吉本に行ってお笑い芸人になれ」みたいな風潮があったと思うんですよ。ところが、今や吉本興業が主催するM-1グランプリも慶應義塾大学出身者が優勝してしまう。
中野 確かにそうなってきていますね。
ひろ スポーツの世界でもそうなりつつあるじゃないですか。去年の夏の甲子園大会も慶應義塾高校が勝ちましたよね。スポーツも「こういうトレーニングをしたら、ここに筋肉がつく」「こう投げたほうがボールのコントロールが良くなる」という具合に、結局は学習能力の高い人がうまくなりやすくなっている。
中野 そうですね。
ひろ 多くの人が自分の能力を発揮できる場所があればいいのに、結局、頭のいい人が全部持っていってしまっている。しかも、そういう人たちって時間的な余裕もあるじゃないですか。例えば、家でおばあちゃんの世話をしているようなヤングケアラーは、スポーツをする暇なんてないわけです。
中野 スポーツに限らず、音楽の世界でも同じような現象が起きています。アーティストの中に高学歴の人がすごく増えてきた印象があります。結局、子供の頃から家に楽器があるような環境は、裕福な家庭が多いですから「お金持ちだから音楽ができるんだよね」という話になってしまうんです。
ひろ 昔は「成績はイマイチだったけど、音楽だけはすごい!」みたいな人がチャンスをつかめたはずなのに、そういった領域にまで学歴や経済力の影響が及んできて、もう逃げ場がない状況になっている。
中野 私たちが子供だった頃と比べても、格差は覆しにくくなっていると思います。
ひろ お笑いもスポーツも音楽もそれを証明してしまった。そうなると、学習能力が低くてもやる気だけはある人が状況を覆したり、夢を見られるのって、もしかしたら朝倉未来さんがやってる格闘技大会の「ブレイキングダウン」くらいしかないと思うんですよ。
中野 なるほど(笑)。本当はもっと多様な選択肢があったほうが健全なんですけどね。
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■西村博之(Hiroyuki NISHIMURA)
元『2ちゃんねる』管理人。近著に『生か、死か、お金か』(共著、集英社インターナショナル)など
■中野信子(Nobuko NAKANO)
1975年生まれ。東京都出身。脳科学者、医学博士、認知科学者。東京大学大学院博士課程修了。フランス国立研究所ニューロスピンに勤務後、帰国。主な著書に『人は、なぜ他人を許せないのか』(アスコム)など
構成/加藤純平(ミドルマン) 撮影/村上庄吾