今年1月の東京オートサロン2026に登壇したBYDオートジャパンの東福寺厚樹社長。世界トップのEVメーカーとなったBYDの日本戦略を担うキーパーソン
中国BYDが軽EVラッコを引っさげ、日本市場に攻め込んできた。
まさに宣戦布告だった。
今年1月、幕張メッセ(千葉県千葉市)で開催された「東京オートサロン2026」。BYDオートジャパンの東福寺厚樹社長は、BYDが2025年にEVを226万台販売し、米テスラを抜いて世界首位に立ったことを明らかにした。
その発表の中でも特に注目を集めたのが、軽スーパーハイトワゴンEV・ラッコを今夏、日本市場へ投入すると表明したことだった。ラッコには航続距離200km超と300km超の2仕様が用意される。
7月28日に正式発表・発売予定のBYDの軽スーパーハイトワゴンEV・ラッコ。日本の「軽王国」に挑む切り札として注目を集めている
軽自動車は、日本の新車販売の約4割を占める。その中心にあるのが、スーパーハイトワゴンで、頂点に君臨するのがホンダ自慢のN-BOX。新車販売総合ランキング5年連続首位、軽自動車部門では11年連続トップという無双状態の実績を誇る。
これまで軽自動車市場は外資メーカーの参入がほとんどなく、「ガラパゴス市場」とも呼ばれてきた。一方で、国内メーカー同士が激しく競争を繰り広げる市場でもある。そこへ中国最大の自動車メーカーが本格参入を表明したのだ。
「新国民車」の呼び声も高いホンダの軽スーパーハイトワゴン・N-BOX。圧倒的な人気を誇り、軽自動車だけでなく、国内新車販売総合トップを独走
【サクラの牙城を崩せるか】
BYDの狙いについて、自動車誌編集者はこう語る。
「まず狙うのは、日産サクラが君臨する軽EV市場の王座でしょう」
では、そのサクラとはどのようなモデルなのか。2022年に日産が投入した軽EVであり、日本のEV市場を切り開いたモデルだ。発売以来、国内EV販売首位を維持し、日本のEV販売全体の約4割を占める"絶対王者"だ。
今年4月には初のマイナーチェンジを実施。価格を引き下げるとともに、商品力の向上も図っている。この動きに「ラッコの迎撃が整った」と口にする専門家もいた。
サクラが支持され続けてきた理由は明快だ。扱いやすい軽自動車サイズに加え、EVならではの静粛性と滑らかな加速性能を実現していることだ。
今年4月に初のマイナーチェンジを受けた日産の軽EV・サクラ。国内EV市場をけん引し、普及を支えてきた
その王座に真正面から挑むのがラッコである。7月28日に正式発表・発売される予定で、日本専用設計の軽EVとして投入される。海外メーカーが軽規格車をゼロから開発するのは極めて異例だ。
自動車専門誌の元幹部は次のように分析する。
「BYDは明確にシェア獲得を狙っています。ラッコは日本市場で主流のスライドドアを採用し、航続距離でも差別化を図っている。サクラの最大航続距離は180kmで近距離利用が中心ですが、ラッコは300km超のモデルを用意している。価格次第ではメインカーとして選ばれる可能性があり、その場合の比較対象はサクラではなくN-BOXなどの軽スーパーハイトワゴンになるでしょう」
さらに、こんな見方もある。
「BYDの開発チームには、日本メーカーで軽自動車開発に携わった人材がいます。日本のユーザーニーズは十分理解しているはずです」(前出の自動車誌編集者)
BYDは、日本市場を外から眺めていたわけではない。消費者が何を求めるのかを徹底的に解析したうえで、踏み込んできた。
しかも、持ち込んできた武器が強力だ。世界トップクラスのバッテリー技術と高いコスト競争力を持ち、バッテリーから車体までを一貫して手掛ける垂直統合体制によって、装備を充実させながら価格を抑えることができる。
価格設定が実需に合致すれば、市場の勢力図が変わる可能性もある。日本メーカーが守り続けてきた"聖域"に、現実的な変化が生まれるかもしれない。
もっとも、懸念の声も少なくない。
「日本では中国車に対する心理的ハードルは依然として高い。普及は補助金制度の動向に左右されるでしょう」(前出の自動車専門誌元幹部)
【補助金への逆風とEV普及の課題】その補助金に対する国民の視線は厳しい。
2026年のCEV補助金は約1100億円が計上されているが、「なぜEV購入支援が優先されるのか」という疑問は根強い。原資は税金であり、自動車を所有しない層からは「負担だけを求められ、恩恵がない」との不満も聞かれる。
さらに、物価高と実質賃金の低下が続くなか、特定層に公費を投入する制度への批判も強まっている。「生活に余裕のない層の負担が、比較的余裕のある層への支援に回っている」との見方も広がり、ネット上では不公平感を指摘する声が増えている。
自販連(日本自動車販売協会連合会)と全軽自協(全国軽自動車協会連合会)の集計によると、2025年の国内乗用EV販売台数は6万677台。乗用車販売全体に占める割合は約1.6%にとどまる。巨額の予算を投じながらも、EV普及はなお道半ばというのが現実だ。
EV普及策への賛否が渦巻くなか、軽自動車という"聖域"を舞台に日中EVバトルが勃発した。中国BYDは日本メーカーの牙城を崩せるのか、それとも日本勢が底力を見せるのか。その行方は、日本のEV戦略の未来を占う試金石となる。
取材・文/週プレ自動車班 撮影/宮下豊史
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